表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

第8話「いたいのはなぜ?」

表向きのバーがあった部屋よりももっと奥の地下の部屋__セキュリティロックの向こう側で、ザキエルとその仲間達はわいわいと酒を飲みながら盛り上がっていた。


「おいザキエル!どうだよ俺達が守り切った鉱石は!」


男は愛しいものを見つめるような目で、誰のどんな鉱石かもわからない美しく儚い残骸達ー男達から言わせると金のなる木ーの入った袋を開けながら嬉しそうに叫ぶ。


前回刑特から逃げ切る時に多少鉱石を使ったが、それでもまだ利益の方が多い。


「おう、ほとんど傷ついてないしいい金になりそうだな。俺が命を張った甲斐があるってもんだ」

「あぁ、これもお前のおかげだぜ、ザキエル!」


はは、と笑いながら男は安い酒をビールジョッキに並々と注いでザキエルに渡す。この仲間達は上から大した金を貰っていないため、飲んだ気になるために薄めた安酒をたくさん飲むのが昔からの通例なのだ。


「さんきゅ」

「おうおう、飲め飲め。あとで食べ物も__」


上機嫌で続きを言おうとした男が、ザキエルの後ろを見て凍りついたように動きを止めた。


「おい……あれって、買い出しに出てた二人じゃ……」


__その一言で、賑やかだった倉庫内が一瞬で静かになる。



それも仕方ないだろう。


何故ならその二人が__血塗(まみ)れで倒れていたからだ。


「おいあれ死んで……!」



「__安心しろ。急所は外れてる」


怯えたような男達の声の中に、透き通るような綺麗な低い声が混ざる。


「ッ__!?誰だ!!!」



__コツン。黒いブーツで心地良い音を鳴らしながら、影を身に纏わせている美しい銀髪の男が姿を現した。


そしてその後を追うは、綺麗なブロンドの髪の少女と顔に傷のある茶髪の青年。


現実離れした容姿を持つ銀髪の男が近づいて少し離れたところで立ち止まるまで、男達はその様子を惚けるように見ていた。


__その男の全てが、あまりにも綺麗だったからだ。



「……なぁ。それ」


銀髪の男__アークが、男がさっき開けていた鉱石が入った袋をゆっくりと静かに指差す。


それに少しの間の後、男達は正気を取り戻し怒鳴るように答えた。


「こ、これがなんだよ!」

「……心の鉱石だろう」

「ッ……!」


図星を突かれた男達は顔を歪ませる。


「お前ら政府の人間か!?どうやってここに__!」


男が言い切る前に、メアがザキエルに心の中で指示をした。__その男を捕まえろ、と。


その指示を遂行するためにザキエルは素早く男の後ろに回ると、後ろから手を回して首を少し強めに締め上げた。そして男が苦しそうに口を開く。


「っ、ザキエル、お前まさか……っ!」

「裏切ったのかよ!?」

「…………」


男達からの問いかけに、ザキエルは真顔で口を閉じ続けた。メアから喋る許可をもらっていないのだ。


「裏切ったのはあなた達でしょ?今更何被害者ぶってるの?」


ザキエルの代わりに口を開いたメアは、嘲笑うかのように言葉を吐いた。その隣に立つキリィも、メアと同じ考えなのか何も言わずに男達に嘲るような視線を向けている。


「う、裏切ってなんか、な、なぁザキエルそうだろ!?やめてくれよ、なぁ仲間だろ!!?!」

「…………黙れ。もうお前達を仲間だとは思わない」

「……ッ!わ、悪かったって、なぁ、ザキエル!取り分はお前が決めていい!だから、頼むよ……!」


ギリギリと首を締め付けてくるザキエルをどうすることもできず、男は縋るように言葉を吐き出す。周りの仲間達もなんとかやめさせようとするが、ザキエルは男をだんだん移動させていきついにアークの前まで辿り着いてしまった。


「メア、もうそこでいいと伝えてくれ」

「おっけーわかった!」


アークの言う通り、メアが心の中でザキエルにアークの前で止まるよう指示する。するとザキエルはその通りに従った。__これが“操作”の力であり、メアの実力である。


普通ならばこう簡単に細かいことを指示できるものではない。操作の効果を受けている者がメアに従っても良いと思っているからこそ、こんなに簡単に人を動かせるのである。そう思わせるのは、心理戦を得意するメアにとっては容易いことなのだろう。__ただ、その分精神に負担がかかっている。メアが壊れないのはその精神力と今までの血の滲むような努力と、アークの支えによるものだ。


「少しお前と話をしようか。ああ、周りの奴らは動くなよ。いいな?」

「……」

「理解がはやくて助かる」


アークがほっとしたように微笑を浮かべるが__普通の人間にとって、真後ろに棘のように鋭い影と今にも巻きつきそうな鎖を纏った人間の言葉に逆らおうとは、なかなか思わないだろう。


「お前は自分の仕事についてどう思っている?」

「……大変だが儲かるいい仕事だ。まぁ、大して俺達に金は入ってこないが、食うにも飲むにも困らない、そんでまあまあ遊ぶ金がもらえりゃはみ出し者の俺達には十分だからな」

「なるほど。本当に__罪悪感も何もないんだな」


アークが何の感情も映さない目で、口元だけ笑ったその瞬間。



「……は?」


__ビシャッ。



男は、影に切り裂かれていた。


「なっ!?!おい、やれ!!」

「好きにさせてたまるかっ!!」


後ろに控えていた男達が懐から銃を取り出す。銃を置いてきてしまっていた者は心の鉱石を掴み自分達の近くにばらまく__例え商品が傷つこうとも、捕まってしまったらそこで全て終わるからだ。


そんな行為にアークとメアとキリィは顔を歪めつつ戦闘体制に入った。__戦わずして終わればそれが一番良かったのだが、相手が素直に降伏するわけはなく、どうしてもこの量の鉱石を先に回収して黙らせるのは無理だろうと結論付けたのである。


「来て、__“女司祭の斬首剣”!」


メアの手に迷える子羊の罪を断罪する聖剣__“女司祭の斬首剣”が現れる。その昔__神が絶対とされた宗教の時代に、神に代わって世を支配していた国王へ反旗を翻した女司祭の心の石だ。第一勢力と言われた宗教の大聖堂に勤めていた女司祭であったためか、多くの国民が彼女に付き従い武器を取った。革命とも言われた戦争は多くの犠牲を出しながらも、女司祭が国王の首を討ち取った事により終戦を迎える。


そんな石を、メアは国から譲り受けた。


「はっ!」


メアは飛んでくる銃弾を斬り裂き、跳ね返し、避けて相手の懐に飛び込む。そして敵を斬り裂くと__穢れを知らぬ純白の剣に、相手の血を受けたことによって赤文字が浮き上がった。それは昔の言葉で【断罪せよ】と書かれているらしい__この言葉は、使用者であるメアにしか読めない。



「力を貸せ__“黒斬≪バドール≫”」


そのメアの横で、アークが吸い込まれそうなほど黒く紫色の霧を纏う鎌を召喚する。先程のメアと同じように“召喚”の石によるもので、メアのものとは違い、これはとある理由により誰のものかは明らかにされていない。ただ、扱うには“大罪”が必要らしい__。


「……」


静かに、それでいて素早く銃弾を斬り裂いて弾いていく。戦闘はメアよりアークの方が圧倒的に慣れているため、メアが避けた弾も全てアークが処理して鉱石を守った。ちなみにキリィは、宣言通り銃弾を全て見切って避け続けている。銃は持っているが、アークとメアの邪魔にならないように今回は傍観しているつもりのようだ__アークとメアの実力、そして戦い方をこの機会にきちんと見たいのだろう。


はっきり言って敵は強くないため、問題なのは心の鉱石をいかに傷つけないように守るか__それだけだ。


「アークっ、もう操作の石打ち切っていいよね?」

「ああ、疲れるだろう?もうザキエルに抵抗する気はないからな」

「はーい、っと!」


メアはザキエルを安全なところに移動させてから、操作の接続を切った。そのおかげでメアの負担は一切無くなる。メアの召喚の石は特殊で、剣を使い終わった後に代償を持っていかれるためだ。今は、何の負担もなく好きなように振るえる__まあ、調子に乗っていると女司祭に精神が引っ張られてしまうためほどほどに、だが。


それとは違いアークは特殊と召喚の石を同時に扱っている。同時に扱えるのは誰でも二個までなのだが、普通の人からすれば相当な負担が来ているはずなのに、どちらも使いながら余裕そうな顔で戦うアークは流石だと言える。


「くっそ、なんだよこいつら!」

「強すぎんだろ、銃なんて効かねぇ……っ!」


どんどんと仲間が斬り伏せられていき、残り4人となった時、……それは起こった。


「こうなったら……!」


弾が残り少なくなったのだろう、男達は既に諦めかけていた。だが諦めているからこそ__人間はそういうことをしてしまうものだ。



__パリィン……ッ



「っ!?」

「なっ……!」


アークとメア、そしてキリィの顔が驚きの色に染まる。男は心の鉱石を手に持ち、床に放り投げ__そして足で叩き割ったのだ。


「どうせここで終わるんなら、お前らが守らなきゃいけないものを壊してやるよ!!」


ぱりん。ばり。ぱりぃん。


そんな音が響いて、心の鉱石を男は狂ったように叩き割った。


そんな行為を止めたのは__



「ふざけんなっ!!」


__傍観していたはずの、キリィだった。


「お前!これを何だと思ってんだッ!?」


あの丁寧な喋り方から一転。これがキリィの素の喋り方なのだろう。


キリィが男の胸倉を掴んだとほぼ同時に、その男以外をアークとメアが倒し終わった。


「うるせぇ!こんなもん__!」

「____」


何を言っても無駄だと悟ったのだろう、キリィは怒ったような、悲しんだようなそんな顔で鳩尾を殴り、男の意識を奪った。



「……終わり、ましたね」

「うん……」


あまりのキリィの強い怒りに、メアは自分の怒りが鎮まっていくのを感じた。それほどキリィの怒りは強く、悲しいものだったのだ。


__この人は、きっといい人だ。


メアはそう思って、優しく微笑む。


この人ならば、信頼、できるだろうか。



「……アーキルトさん?」


と、そこで、一言も発しず立ち尽くしているアークに、人の感情の機微に敏感なキリィがメアより先に気づいた。


「……、……」


アークが見つめているのは、血に濡れた床と__先程の男が叩き割った石達。きらきらと光るそれは、もう粉々になってどれがどれだか区別しようがなくなってしまっていた。


__そんなにショックだったのだろうか。


もちろんキリィだってとても怒ったし、メアも怒っていた。しかしアークのそれは、怒っているというよりも……。


「アーキルトさん」

「……」


アークが少しだけ、ほんの少しだけ震えているのに気づいて、キリィはすぐに駆け寄って顔を覗き込んだ。


「アーク!!!」

「…………っ!」



__アーク!行くぞ!



キリィの顔が、親友の姿に被って見えた。__ああ、あいつはもう死んでいるのに。


「大丈夫か……?あ、敬語抜け……すみませ」

「いやいい。……むしろそれでいい」


アークはふんわりと、優しげに微笑んだ。


しかしそれはとても儚くて__悲しい。


「……ありがとう、キリィ」

「__。いやいいよ、アーク。後片付け、するか?」


キリィは言いたい言葉を飲み込んで、素のままアークに話しかけた。


「……あぁ」


そうしてそのあとメアが二人のところに歩み寄って来て、キリィはそのノリでメアのことも呼び捨てで呼んでいいことになり、メアもキリィのことを愛称で呼ぶと話した。


しかしその後、会話はぷつんと途切れた。


鉱石を拾い集めるアークがあまりにも悲しそうで……辛くて、痛かったから。



__そのまま政府が来るまで3人は、無言で心の欠片を拾い集め続けた。




……たす……け、て……


……いたい……


アークさん……ごめんな、さい……


鉱石を拾い集めながら、アークにはそんな幻聴が__ずっと聞こえ続けていたのだった。


〜*〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ