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遅すぎた騎士は、それでも誰かを救いたい  作者: れーと


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第18話「再会、来訪」

 〜*〜


 ……だから。


 まさか、思うわけないだろう。


 確かにまた会おうとは思っていたし、話そうとも思っていたが。



 そんな、次の日に、……会うなんて。


「お!アーク!」


 男女関係無しに落としてしまえそうなイケメンスマイルで、アイトはアークに笑いかけた__そう、歩道の真ん中付近で。しかも、たくさんの女性達に囲まれたまま。


「…………、」


 というわけで、アークはアイトを無視した。アークは目立つのがそこまで好きではないし、アイトのことは気に入っているがタラシであるなら少し認識を改めよう、なんて考えていると、女性達に断りを入れてアイトが早足でアークの横に並んできた。


「おい無視するなってー」

「……はぁ」


 アークは横目で、アイトから名残惜しそうに離れていく女性達をちらりと見てからアイトの顔を見た。まあ確かに、とても整った容姿をしているとは思うので女性達が集まってくるのも納得だろうか。……ちなみにアークもこの街に初めて来た時に囲まれたことは何度もあるが、刑特の仕事を踏まえて説明し丁重にお断りした。それからというもの、理解力のある女性が多かったのか、全くと言っていいほど囲まれなくなってアークとしてはとても有り難かった。


「アイト、どうしてここにいる?」

「……ちょっと用事があってな」

「……目を逸らしたな。まあいい、まだそこまで仲が良いわけでもなんでもないからな。全て話せとは言わないさ」


 アイトの隠し事を暴こうともせずに、アークは大して気にしていないというようにいつも通りの顔を続けた。……自分だって、今の状態ではアイトに対してたくさんの隠し事をしているのだから、お互い様だ。


「……悪い。でもな、そのうち話すから。紹介したい人と一緒にな」

「……そうか」


 その言葉に、何故か少し安心した。アイトには隠し事をされたくないような、そんな感じがする。


 そうなると、アイトにもキリィと同じくらい、自分の過去を話しても良いな、と何故か思った。……絆されているのか、自分が。軽はずみな言動で過去を教えてしまえば、アイトも巻き込んでしまうかもしれないのに。


 アークはアイトが絡むと自制できない思考を、無理矢理抑えつけた。一体なんなんだ、これは。俺とアイトに何の関係があるというんだ。


「アークは一人でどうしたんだ?仕事か?」

「……言えないな」

「……そうか」


 今は副業_祖国関係の_の帰りだ。故に詳細を説明するわけにはいかない。誤魔化しても良かったが、先程逆の立場で自分がアイトの誤魔化しに気づいてしまったように、アイトも気づくと思ったのだ。


「これもまあ、そのうち話せたら話そう」

「ああ。待ってる」


 どことなく嬉しそうなアイトの表情を見て、アークはふ、と笑った。本当に子供のような表情をするやつだ。


「何笑ってんだよ」

「いや、子供みたいだなと思って」

「……俺は見た目より歳いってるぞ?」

「へえ。俺よりは年下だと思うが?」

「……一体何歳なんだ、アーク」

「さあな」


 お前が思っているよりは上だろう、そんな言葉は胸の内にしまい込んだ。これも過去に関係することだからだ。


「で、お前はどこまで着いてくるんだ?アイト」

「邪魔じゃないところまで?」

「暇なのか」

「暇ではないけど、……いや、まあ暇だな」

「……じゃあ家に来るか?メアとキリィもいるが」

「いいのか!?」


 キラキラと顔を輝かせるアイトは、やはり子供のように見える。またしてもアークは笑いながら、いいぞ、とアイトに許可を出した。しかし一応メアとキリィにも連絡を入れておこう、と思いアイトに断って道の隅に避けて携帯を出す。


「返事が返ってくるまで少し話でもするか?」

「ああ、いいよ」

「……特段、話題を持ち合わせているわけでもないから、お前から話してくれ」

「ふっ、はは。アークらしいな」


 雑踏の中、二人は他愛のない話をした。最近寒くなってきたな、とか、美味しいコーヒーの話、オススメのお店の話などなど。そしてメアから返事が返ってきたところで、二人揃って歩き出した。


 〜*〜


「ここだ」

「へえ、なんとなく知ってはいたが……成る程、ここか」


 3階建ての煉瓦造りの家を見て、アイトはあまり馴染みが無いのか、ほう、と息を漏らした。確かに政府の本部周りの家は煉瓦造りではなく、石造りの、見た目に気を遣った絢爛豪華な屋敷のような家が多い。詰まる所、政治家や豪商などのお金持ちが多いのだ。おそらく、いや、確実にアイトはその一員だろう。そしてあまり首都から出ないのだろうか、コーヒー通りの住宅街には来たことが無さそうだ。


「……あまりこういう所には来ないのか?」


 そんな事をアイトに聞きながら、アークはメアに一応着いた、という連絡をしておいた。女性と一年間同棲していた経験上、自分だけならともかく、連絡したとはいえ他の客人を連れて急に家に入るというのは宜しくない、というのはわかっている。


「こういう感じの住宅街はそこまで来ないな、観光するみたいに店が多いところにしか行かねえから」

「それなら、今度お前が行ったことが無さそうな店にでも連れていってやる。……少しいつもの道を外れて、行ったことのない場所に行くのも良いものだぞ」

「ああ、確かにな。喧騒から離れた所、アークは好きそうだしな」

「……」


 アイトの言葉に否定はしなかった。確かに、アークはどちらかといえば静かな所の方が好きだからだ。……職業柄、あまりそういう所ばかりに行く訳にも行かないのだが。そろそろ良いだろう、と考えたアークは、話しながら取り出していた鍵を鍵穴に差し込んでかちゃり、と回す。二重ロックのそれは、簡単には侵入させない為のセキュリティだ。


「ただいま」

「おかえりー!」

「おかえり」


 まずアークがいつものように帰りの挨拶を言い、メアとキリィが立ち上がりながらそれに返した。いつもはそのまま座って書類を続けているのだが、客人が来たのだからそうはいかないのだろう。


「お邪魔します」

「いらっしゃい!待ってたよ〜」

「いらっしゃいアイト」

「おう」


 アークの挨拶が終わるなりアイトは礼儀正しく挨拶をして入って来た。それを見て若干姿勢を正しながら、メアとキリィも答える。そしてアークがアイトにルームシューズに履き替えるよう促して─そのまま外靴で入る家もあるのだろうが、政府から借り受けている物件故に、綺麗に保っておきたいとアークが昔メアに訴えた為─綺麗好きなんだな、とアイトが揶揄うように言いながら客人用のそれに履き替えた。


「それで、急にどうしたの?」

「いや、特に用事がねえからこそ来た。暇だって言ったら家に来るか?ってアークが」

「アークから言ったのか?へえ、随分気に入られたんだなあアイト」

「俺もアークのこと気に入ってるけどな、……なんだ、あんま人来ねえの?此処」

「全然。呼ぶ人もいないしね」


 アイトに聞いたところ、紅茶よりコーヒーの方が好きということで、アークお気に入りのコーヒーをアーク自ら淹れていると、キッチンの向こう側からそんな会話が聞こえてきた。


「……隠していないとはいえ、あまり一般人に住所を明かすのは良く無いだろう」

「まあ確かにな。俺は政府の人間だから構わないって事か」

「ああ。……そういえば、お前は確かに強いが、護衛も付けずに歩いていて良いのか?」

「そうだね。法務大臣の息子っていうなら、いつ襲われてもおかしくないんじゃない?」


 アークが抱いた当然の疑問に、メアも同意して返す。言葉こそ無いが、キリィも同じ事を思ったようでそれに頷いていた。


「いや、そこは大丈夫だ。俺は顔は隠してないが、あんま世間に知られないようにしてる。メディアには一切出ないし出させない。まあ、よく顔出すところだと一般人にも知られてんだけど」

「確かに……。法務大臣に子供がいるって事は知ってたし、政府の重職に就いてるって事も知ってたけど、名前とか役職とかは言われて初めて知ったな」


 キリィが今更だけど、と付け加えつつ若干驚きながらそう言った。キリィはアークが淹れたてのコーヒーをアイトとアーク自身の前に置くのを横目で見ながら─メアとキリィは元から用意されていた─そういえばどうして知られていないのだろう、という疑問を頭に浮かべる。アイトはさんきゅ、とアークにお礼を言って一口コーヒーを飲んでからまた口を開いた。


「今、どうして知られてないのか、って思ったろ?それはな──俺が、情報を操作してるからだ」

「操作?アイト、そんなことできるの?」

「ああ。監査官は報告書を見たり任務の様子を聞いたりして、政府や傘下の人間、企業などがきちんと法や道徳を遵守しているか確認して司法や政府の上に報告する仕事だ。それだけじゃなくて、実際その人物の仕事の様子を抜き打ちで調査しに行ったり、一緒に仕事したりして自分の目で確認する事もある。百聞は一見に如かずっていうだろ?」


 あと、偶に処分を決める時に口出すこともあるな、と付け足す。監査官は良くない行いをしている者だけを見つけ出すのではなく、仕事の効率化や人の相性、良い行いをしている者、あらゆる事に対して調査をしなければならない。監査官はもちろんアイトだけではないが、それを本部でこなしているアイトは、相当に優秀だと言えるだろう。


「成る程。人ひとりを監査するには一側面だけでなく、あらゆる角度からの情報が必要、という事か。だからアイトは情報を集める事もできれば、それの応用で操作する事もできると?」

「流石アーク。その通りだ。昔からこういう事に適性があるって、父さんにも言われたからな。そこから勉強して伸ばした結果が未だ」

「へぇ、凄いね……。素直に尊敬するなあ」

「俺からしたら、メアも凄いと思うけどな」


 アイトからさらりと出てきたその言葉に、メアはああ、監査官なんだし全てとはいかないにしても多少過去を知られていて当然か、と納得する。アイトが凄いと言ったのは、メアがまともな教育を小さい頃に受けてなかったというのに、短期間で高等学校の範囲まで学び切った事だろう。出会ったばかりの人にあまり過去に触れられたくはないが──しかしそれ以上話を広げようとする意思が感じられない辺り、アイトはメアの過去に気を配ってはいるのだろう。


「……そっか」

「おう。……へえ、アークとはコーヒーの趣味が合いそうだな?文句なしで美味い」

「それは光栄だ」


 アイトはコーヒーをブラックで飲むつもりらしく、一応用意された砂糖とミルクには手をつけていない。そのままの味に対する“美味い”に、アークは嬉しそうに応えた。と、そこでアークは何かを思い出したようで、なんとなく自分の手にある揺れるコーヒーの波紋に目線をやってからアイトの顔を見て、また言葉を紡いだ。


「そういえば、アイトに聞きたい事がある」

「ん?なんだ?」

「……お前から見た法務大臣の姿を、教えて欲しい」

「それ、俺も気になるかも!」

「……昨日も思ったが、キリィはもしかして法務大臣に憧れているのか?」


 昨夜、突然の事だというのにアイトの苗字をすぐ法務大臣の名前に紐付けた事と今の反応から、アークはもしかして、と聞いた。


「もちろん!あの堂々とした立ち振る舞い、冷静沈着さ、情報の正確さ、洞察力の高さに丁寧な言葉遣い……俺だけじゃなくてあの人に憧れる人は沢山いるぞ」

「……そうか。まあ、俺もあの人は尊敬しているが」

「凄いもんねー、咄嗟の判断とかさ。その人の本当の性格がわかる緊急事態の時でさえあの人は動じないからねぇ」


 キリィ、アーク、メアからの法務大臣への賛辞の言葉に、如何してかアイトがとても嬉しそうに笑みを浮かべた。余程父親の事を誇りに思っているのだろう。


「だろ。本当に凄いんだぜ父さんは。俺はあの人の仕事を手伝える事を誇りに思ってる。……それで聞きたいのは、父親として、か?それとも上司として?」

「言えるならどちらも、だな。個人的にあの人には興味がある」

「……んー、そうだな。じゃあ上司としてから。指示は的確、間違いは絶対に犯さないし、公私はきっちり分ける。休憩時間の確保から残業時間、人間関係までできる限り気を配ってくれる、上司として理想の人。……ただ部下としては、“貴方こそ休んでくれ”って言いたいかな……。というか何度も言ってるし、俺も協力できるところはしてるってのが現状。もちろん人望が厚いから他の人にも色々仕事を振り分けてるっぽいな」


 そこで一度区切り、コーヒーを一口飲む。そしてアークやキリィほど興味がある訳ではないメアは─だがもちろん過去に、メアの処分について色々と良い方向に持っていってくれたと人伝てに聞いた恩人でもある為きちんと話は聞いてはいるが─少し席を立って、前買って来たマドレーヌをお茶請けとして出しておいた。全員からお礼を言われて、メアは笑顔で応えて席に戻る。


「次に父親として、だな。……そうだな、とても優しくて、少しだけ厳しい人……かな。俺の事を凄く大事にしてくれるし、無茶したらすっごい心配するし少しだけ叱る。基本俺には他の人がびっくりするくらい甘いんだよなぁあの人……」

「甘い……想像つかないんだけど」


 キリィのその言葉にアイトは苦笑して、携帯を取り出すと、ほら、と画面を見せてきた。その内容は──『あまり遅くならないように。遅くなるならまた連絡してくれ、迎えを行かせる。気をつけて帰ってくるんだぞ、大切なお前が危険な目に遭うのは耐えられないからな』、だ。


「……親バカ?」

「……、……」


 メアの呆れたような言葉に、アイトは苦笑するだけで否定しない。ここまで親バカになったのには理由があるのだが、それはまだ語る時ではないだろう。


「ふむ、……ありがとう、色々わかった。やはりいろんな人から話を聞くのは参考になって良いな」

「これくらいならいいさ。こんなの情報漏洩にすらならないし、お前ら政府の人間だしなあ」


 寧ろ父親の事を話せて楽しそうですらあるアイトに、アークはそれなら良かった、と安心したように答えた。何だかんだ急に連れて来てしまって、アイトがつまらなくはないか心配していたのだろう。


「あー、そうそう。また急に話は変わるんだけど、アークとメア、今度最近政府で話題になってる鉱石の違法販売してる店、潰しに行くんだろ?」

「ああ、まあ……そうだが。それがどうした?」

「んー、いやさ、それ二人でやるなんて言うもんだから、昨日俺が前から強いって噂になってたアークの強さをどんなもんかと思って見に来たんだけど……」


 アイトは先程メアが出した食べやすいように一口大にカットされたマドレーヌを口に入れて、咀嚼し飲み込んだ後、にっこり笑って言った。


「それ、俺も行く」


「……は」

「はぁ?!」

「ええ?!」


 〜*〜

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