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第15話「Who are you?」


「アーク、政府から依頼来てただろ。どうするんだ?」

「もちろん、受ける」


アークは持っていたコーヒーカップを皿にことり、と置き資料に目を向けた。今回の仕事は“任務”ではなく“依頼”だ。強制ではない。故にアークとメアが受けずとも、そのうち政府で少々規模の大きな討伐隊が組織され解決されるだろう。


__しかし。アークは祖国を救うためにこの国で働かせてもらっていて、更には副業_いや、実際は刑特が副業なのだが、やっている時間的には祖国を救うためにやっている仕事が副業と言ってしまっても問題はないだろう_までも見て見ぬ振りをしてもらっている身だ。できれば、政府の手を煩わせることなく自分自身の手で終わらせたい。それが、アークなりのこの国に対する恩返しだった。


「でも、今までアクセサリー系の一般の店として紛れてきていて、業績がなかなか良いから用心棒をたくさん雇ってたり店員自体が戦えたりするんだろ?流石に2人だけだと危険じゃ……」

「問題ない。前の組織とは関係のないところなんだろう?書類の調査書にも、目立った強さの者はいないと書いてある」

「だけど……数が」

「……多対一は慣れている」

「……」


昔、祖国の内乱や戦争で散々やった。だが、それをキリィに説明することはできない。どうすれば安心してくれるだろうか。


別の仕事で強さを示す?有りだが、状況が違うためあまり安心させることはできないかもしれない。やはりぼかしつつも過去を話すべきだろうか。


「……そうか、アークは一人で刑特やってきてたんだよな」

「ああ」


キリィが少し納得したような顔になってきた。もう一押しでいけそうだ。


「……少し、俺の学歴を話そう」

「え」

「俺は、士官学校に通っていた。そこで散々戦いについて仕込まれたんだ」

「士官学校……っていうとこの国じゃないよな」

「そうだな。そう珍しいことでもないだろう?メアの母国は鉱石刑吏特務官派遣国、“モルルメッロ”だしな」


ああ、これは口止めされていないことだから喋っても大丈夫だ、と付け足しながらアークはどこか考え込んだ様子のキリィを見た。この国、クレトローネでは刑特を他国から多数受け入れているのだ。優秀であれば他国の者であろうともしっかりとした待遇で受け入れる。それが評価され、他国から派遣されてくる者も多い。


「そっか。……まあ、アークが無茶するのは俺に言えないことに関することだけか。復讐または救うって言ってたやつ。だから、……信じて、いいんだな?」

「あぁ。……怪我するとうるさいやつがキリィ以外にもいるからな」


困ったように、でもどこか柔らかい表情で笑うアークに、キリィは思わず聞いた。


「それって誰だ?」

「刑特のやつなんだけどな。ロンっていう……まあ、そのうち会うだろう」

「ロン……刑特……」

「なになに?ロンママがどうしたの?」

「ママ!?」


キリィが、階段を降りてきながら会話に加わったメアの言ったことに驚嘆して声をあげる。過去を聞く限り、メアのお母さんが刑特なわけはないと思うが、ママとは一体どういうことなのか。


「あー、私のお母さんってわけじゃなくてね。……心配性で過保護だから、みんなのお母さん、みたいな?男性なんだけどね」

「へえー……」


ロン……どこかで聞いた名前だが、そんなお母さんのような人ではなかったはずだ。きっと別人もしくは記憶違いだろうと結論付けて話を進める。


「アークとメアだけで行くのはわかった。二人の強さと経験を信じる。でも、もっと情報は集めるからな」

「わかった。じゃあその間準備を……。……なんだ?」


戦闘の準備をしようと思ったアークだったが、急に鳴り出した携帯の画面を見て驚いたような顔をして動きを止める。


「どうしたの?」

「どうした?」


アークの顔を見てメアとキリィが同時に問いかけるも、その時にはすでにアークはいつも通りの無表情を貫いていた。


「……少し席を外す」


そう言うとアークは階段を上がり、2階のメアの部屋で電話に出た。しかしいくら仲が良いとはいえ、女性の部屋にいつまでもいるわけにもいかず、そのまま3階に上がっていく。


「……何の御用でしょうか」


電話に出ても何の反応もなかったため、アークは仕方なくそう言った。この電話は政府の情報統括部からのものであり、刑特はこの部署から電話で指示されることがたまにある。いつもあらゆるところに電話を繋いでいるため少しだけ騒々しいはずの電話は、今日は何の音もしなかった。


そして、くつくつと笑うような声が聞こえたかと思うと、いきなりこう言ったのだ。


「今から指定するところに来い」

「……誰だ?」


アークは訝しげな表情を浮かべそう言うと、無意識に携帯を持っていない方の手で、親友の遺した鉱石である影鎖≪シャドーレリック≫を握り締めた。


一体、どういうことだ。政府に何かあったのか?


「……さぁな?」

「ではそちらの状況は」

「さぁ?」

「あくまで話すつもりはないと」

「理解が早くて助かるなぁ、アーキルト・クロスハイリ」

「っ!」


こちらの素性は一方的に知られているということか。電話番号だけどこからか手に入れたり、適当に打って当てたりしたわけではなさそうだ。こちらのことをどこまで知っているかはわからないが、おそらく刑特であるということ、そしてメアのことも知られているだろう。それならばもちろん、補佐官のキリィのことも。


「……指定場所は」

「ディスペラート刑務所跡地」


ディスペラート刑務所跡地__そこは、人目につかない街外れにある場所で、跡地のため警備員もいない。あるとすれば瓦礫と草だけだろう。そんなところに呼び出すということは、話し合いだけでは終わらなさそうだな、とアークは心の中で独りごちた。


「わかった」

「そこで用件は全て話す。あと、メアリア・ムーテノルドとキリサリー・メディオールも連れてこい」

「……2人も?」


人質というわけではないだろう。どんなことがあろうとも、アークが付いている限り2人のことをそう易々と敵に取らせる真似はしないし、この電話相手もそれくらいは知っているはずだ。では何故?


「その2人にも用がある。……ああでも、安心しろ。ほとんどの用はお前だ。アーキルト・クロスハイリ」


2人に手出しはしない、と言ってまたくつくつと笑うこの電話相手に、アークは妙な違和感を感じていた。__殺意を感じられないのだ。それに、悪意も。敵意は……なんとなくだが、感じる。だが演技なのか本当のものなのかはわからない。これは、戦場によく出向いていて、常に殺意と悪意と敵意に晒されるような所で丸3日戦ったこともあるアークだからこそわかるのだ。


「……わかった。指定時間は?」

「18時。時間に遅れたら、さてどうなるかな?」


ぶち、そんな不快な音で電話が切れる。死ぬ危険は無さそうだとアークの第六感もアークの3つ目の石も言っているが、政府から電話がかかって来たということは回線をジャックした可能性がある。その場合、相当優秀なハッカーが相手にいるはずだ。目的はわからないが、ただ自分に興味のある情報屋か、中立組織か、はたまたまだ芽が出たばかりの裏組織か、もしくは__。


いや、それはありえないはずだ。アークはそう自分の頭に浮かんだ考えを振り払う。……とにかく、あまり時間がない。メアとキリィに伝えなくては。



「お前は……誰なんだ?」


アークは思わず呟くが、今はそれを気にしている場合ではない。急ぎつつも静かに、階段を降りていった。


〜*〜


__とある建物の一室で。



「坊っちゃん」


新月の夜空よりは少しだけ明るい、藍色で染めたキャンバスに黒色の絵の具を垂らしたようなオールバックの髪に、星の輝きに引けをとらない程綺麗な金色の瞳。それに執事服とスーツを混ぜたような黒の服を着た30代程の青年が、煙草の箱を胸ポケットに仕舞いながら静かに言った。


「ん?……どうした?」


そして“坊っちゃん”と呼ばれたのは、前街で心の鉱石をアクセサリーにして売り捌いている組織に客として勧誘されていた、一つ結びをした長い黒髪に、血のように赤い瞳の少年_もしくは青年かもしれない_だ。


「いや。……随分楽しそうだな、……ですね」

「はは、相変わらず敬語が苦手だなレオは」


30代くらいの青年_レオンハルト・クノフローク、愛称はレオ_は自分の髪をグシャ、と掴んでうるさいですよ、と少年を小突いた。それに少年は冗談で痛い痛いと言いつつも、顔は笑っている。


「いやー、バレてるかもしれないけど気になってる奴と会う約束したから嬉しくて」

「……それ、一方的なんじゃ?」

「あれ、何でバレた?」


呆れたような顔をしたレオだったが、普段は傍若無人な態度であるのにこの少年の前でそんな態度は少しなりを潜めるのだ。楽しそうに笑う少年を見るとあまり強くは言えず、程々にしないと旦那にバレますよ、と注意しておく。レオの言う旦那とは、この美しい少年の父親のことだ。


「大丈夫大丈夫、父さんの許可は取ってるから」

「あのジジイ甘すぎかよ……」

「父さんの前で言うなよそれ……」


お互いに呆れつつも、気を取り直して色々と話をしてから別れて、別の仕事に向かったのだった。


〜*〜

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