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第11話「信頼と裏切りは紙一重」


「とても仲の良い兄弟だった。二人とも鉱石を使う才能が優れていると分かった時から、ずっと刑特になりたいと思っていたらしい」


キリィは昔を思い出しているのだろう、少し目を細めてどこか遠くを見つめるような目で話している。表情は柔らかいが、何かを思いつめているような、諦めているような顔をしていた。



__「俺達二人でこの国を守ってやろうな!」

__「うんっ!兄さん!」


幼い兄弟が、明るい未来を夢見て笑い合う。



正義感に溢れた少年だった二人は、努力に努力を重ね優秀な成績で学校を卒業した。兄は先に刑特として、同じく卒業を待っているという他の人と期間限定のペアを組みながら弟を待ち、弟が学校を卒業した瞬間にペアを組んだ。


他のペアが一緒に暮らしたり性格が合わなかったりで仲良くなるのに時間がかかる中、二人は兄弟だったため組んですぐに色々な仕事で功績を残していった。そしてそれを支えた新米補佐官が__キリィだった。そして兄が19歳、弟とキリィが18歳という若く新しく、優秀なグループとして少しずつ政府にも認知されるようになっていった__。


しばらくは忙しいが穏やかな日々が続き、3人の仲はどんどん深まっていった。


__「キリィはほんとすごいやつだよなぁ!書類作業すげーはやいし!」


突っ走る癖があるが、それは弟がカバーしてくれると笑って言う元気で明るい兄。


__「しかも正確だもんね……。僕達の補佐官がキリィで、本当に良かったよ」


慎重すぎるところがあるが、それは兄が引っ張っていってくれると微笑んで言う大人しく冷静な弟。


対照的な二人のコンビはとても相性が良く、兄が前衛、弟が後衛というやり方で倒せない敵はいなかった。勿論、新米に来る任務の中で、だが。それでも二人は絶好調だった。国の為に人の為に働いている自分達が誇らしかった。



__しかし、そんな幸せな日々は突然終わりを告げた。弟の病気が……発覚したのだ。


今思えば、この瞬間から歯車が少しずつ狂っていってしまったのだろう。



「病気……」


それを聞いたメアが驚いたような顔でぽつりと呟く。それにキリィは頷いて、悲しそうな顔で続けた。


「あぁ、病気だ。しかも治療法が分かっていない難病……つまり、不治の病だった」



案の定、兄は弟のために一人で無茶な仕事でも危険な仕事でもなんでもやった。怪我が絶えず、過労でいつも顔色が悪かった。それを心配したキリィが、弟と政府に相談して回す仕事を一人でできる、できるだけ安全な仕事に変えてもらったのだ。


しかし、それがダメだった。ギリギリのラインで頑張っていた兄が気づいて、壊れたのだ。



「てめぇっ、ふざけんなよキリィ……!!勝手に仕事変えてんじゃねえよ……!俺がやるって言ってんだからやらせろよ!」

「……ダメだ。お前が無理をする必要なんてない、それ以上やったらお前の体が保たない。だから他の刑特に__」

「ざけんな!!」


兄がキリィを壁際まで追い込み、キリィの横の壁を全力で殴った。


「国の役に立ちたいって始めたのに、俺らが足を引っ張ってちゃ意味ねぇ……!それにお前、弟の治療費がいくらかかるかわかってんのか……!」

「だからそれは、国からの支援が……」

「だからそれじゃダメだっつってんだ!!俺が働けば全部上手くいったんだ!なのにてめぇが全部ぶっ壊しやがって……!」


頭に血が上った兄は、鉱石を使い武器のダガーでキリィの顔を__。


__ザクッ。


血が、舞った。驚きのあまり、キリィは動くことができなかった。


「てめぇの何もかもわかってるって顔が気に入らねえ!ムカつく、イラつく、ああああっ!!!!」


何度も何度も何度も同じところを刺した挙句、兄は偶然病院から外出許可をもらって様子を見に来た弟に止められた。そして兄は__投獄された。精神に異常をきたしていたというのを抜いても、傷害事件を刑特が、しかも自らの補佐官に対して起こした罪は重いと判断されたのだ。


弟はキリィのせいではないと言ってくれて、その言葉で少しだけ救われたキリィはそのまま投獄されている兄と入院している弟の代わりに後処理に奔走した。それもやっと落ち着いて久しぶりに弟のお見舞いに行くと__弟も、狂ってしまっていた。


「あ、キリィ?キリィだっけ?……ああもうよくわかんないや。はは。それでさ、今日の仕事はどこ?兄さん」


キリィは絶句した。どうやら兄のいない生活と、不治の病の闘病生活が耐えられなかったらしい。



「……俺は政府に相談してたこともあって、咎めは何もなかった。それで、書類作業に秀でた補佐官を探してるアークとメアの補佐官に申し込んだんだ。……意外にあっさり了承は降りた。アークお前、すごく信頼されてるんだな」


キリィはアークの方を向いて、ふんわりと笑んだ。自分の友人であるアークが誇らしいのだ。


メアと組むまでの5年間、刑特は基本2人ペアで行動するにも関わらずアークは、人手不足なら一人でいいと政府に申し出てたった一人で普通の刑特と同じくらいの仕事をこなしていたのだ。問題を起こすことは全くなく、むしろ他の刑特が危ないときに手助けに入るくらいの力の持ち主が、政府に信頼されないわけがない。


「まぁそれなりに、信頼は勝ち取ったつもりだ。……ところでキリィ、その兄弟はまさか」

「……やっぱり、アークなら気づくよな。……そうだ、少し前に話題になった、違う場所にいたにも関わらず同じ日に自殺した、……あの兄弟だ」

「……そうか」


悲痛な表情をしているキリィに、アークはそれ以上の言葉を要求しなかった。マスターもメアも、余計な詮索はせずにきちんと耳を傾けている。


「だから、俺は。もう人にあまり深入りはしたくなかった。深入りしたらまたあんなことになってしまうんじゃないかって怖かった。……でも、二人はどこか危うくて、俺はついつい首を突っ込んじまった」


少しおどけて言ったキリィに、アークとメアは明るい笑顔を浮かべて、明るい声で言った。


「そこがお前のいいところだろう」

「うん、そうだよ。キリィのお節介は基本良いことにしか転がらないんだよ?……その兄弟は、きっと、弟さんの病気の時にもう……」

「あぁ……おかしくなったんだろうな……。それでも俺は、自分を責めることはやめられない。絶対にもっと何かできたはずだ……。いや、しないべきだったのかもしれない。……でもな、今は、そう、今は。俺はアークとメア、お前達の補佐官だ」


すっ、と。今までどこか違うところを見ていたキリィの目が、アークとメアをしっかりと映した。これでもうキリィは、過去に囚われすぎることはないだろう。


「……ふふ。いい目になりましたね」

「そうですか?ありがとうございます、マスター。……あなたのおかげで、話す決心がつきました」

「いえいえ」


柔らかく、とても嬉しそうに笑うマスターに、キリィの心は更に救われた。……この人はきっと、他人の幸せを自分の幸せとして感じられる人だ。



「……俺はもう、兄弟のような刑特を増やすつもりはない。あいつらの為にも、自分の為にも、俺は二人を支えていきたい。信用され、信頼される補佐官に__友人に、なりたいんだ」


一度は深入りしないと決めた青年が、本心を全て打ち明けて、相手のことも知りたいと願った。__これが、人間の不思議なところで、おかしなところで、いいところでもあるのだろう。


〜*〜

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