scene2『夜を想う』
せめてヒロインが出てくるところまでは投稿した方が良いかと思い、急遽投稿することにしました。今日はここまでです。
『あなたは、何を探しているんですか?』
問いかけたのは、幼い自分。
『【世界】。僕は、【世界】を探しているんだ』
仮面を付けた彼が話す言葉は、不思議で。
『この【世界】は、【歪んで】いるから。だから探し出して、直す』
意味はよく分からなかったけれど。静かな声で、淡々と自らの目的……いや、“夢”を語る彼が、大人びて見えて。幼い“私”の心は、ドキドキと高鳴った。
『【世界】は冷たいけれど、僕らは決してこの【世界】を見捨てちゃいけない。【世界】は、何も語りかけてはくれないし、僕らを助けてくれるわけでもない。それでも、』
泣いていた自分に、彼は辿々しく、しかし優しく語りかけてくれた。
『【世界】がここにあるから、僕らはこうして誰かと手を繋げる』
繋いだ手の温もりを、今も覚えている。
◇
「ん……」
少女が目を開けると、見慣れた自室の天井が視界に広がった。暗がりの中に一筋、薄い光の線が走っている。瞳を動かして辿っていくと、それはカーテンの隙間から差し込んでいる月明かりだった。
――まだ夜中なんだ……。
少女はむくりと体をベッドから起き上がらせると、光に吸い込まれるかのように、覚束ない足取りで窓際へと寄っていった。カーテンをきちんと閉めようと手を延ばし、しかしふと思い立って窓を開け、ベランダへと出る。裸足の足裏にコンクリートのひやりとした感触が来て、旋律は身震いした。手摺りまで寄って見上げると、美しい円をした月が淡く、神秘的な光で町を照らしている。日光と違い、直視しても目の傷まないその優しい光を見つめながら、少女――詩涌間旋律は、今見たばかりの夢を思い返した。それは幼い頃の、不思議な少年との出会いの記憶。所々曖昧だけれど、彼と交わした、彼がくれた言葉の一つ一つは、今もはっきりと思い出せる。それらは月のように当たり前に、静かに旋律の胸の内にあり、そこからじんわりと、僅かな熱を与えてくれる。
「あの時も、こんな月の夜だったな……」
旋律の頬が無意識の内に綻ぶ。彼のことを思った時は、いつもそうだった。
今夜もどこかで、何かを探しているんだろうか。探していたものは、果たして見つかったのだろうか。
逢いたい気持ちはいつもある。再会の約束は、彼の手の温もりとともに今でも旋律の支えだ。しかしそれが果たされるのは、きっとまだ先だろうと、旋律は思った。
深く息を吸い込んでみると、ひんやりとした冷たい空気が肺に満ちる。
「明日はなんか、良いことあるかも」
根拠もなくそう思い、月に微笑む。
と、寒さにぶるりと身体が震えた。春も終わりとはいえ、夜はまだ涼しい時がある。風邪を引いたら大変だ、と慌てて部屋に戻る。
「せっかくだから、寝直す前にもう一度だけ、台本を読もうかな」
そう呟くと、カーディガンを羽織って、旋律は机に向かうのだった。
こんな雰囲気でやっていきます。
第一章は出来ているので、毎日投稿予定です。
ここがテンプレ:ヒロインと過去に出会っている