scene0『怪盗は夜に舞う』
初めまして。黒星 落と申します。面白いって思ってもらえたら良いなぁ。
溜息を一つ吐いて、【怪盗】の少年は夜空を見上げた。
星は見えない。雲が多いのだろう、と彼は思った。薄く広がったそれらは、夜闇をどこか淡いものに見せる。それを演出しているのは、夜空の中でただ一つ光を放つもの。
月――。
星が見えないのに、ぽつりと唐突に、歪な形をした――本来であれば、円形をしているはずの――それが浮かんでいるというのは、どうにも不思議なものだった。
それが生む――正確には反射しているだけの――光は、夜空を照らし、遠くに見える町まで降り注ぎ、薄い影を広げている。人が自ら生み出した光で町を明るく保つことのできる現代においては、その光は、あるいはあってもなくても変わらないのかもしれない。
まるで自分のようだと、彼は思った。
彼は――彼の抱えている【歪み】は、この仕事にはぴったりだった。同時に彼の目的にとっても、【怪盗】稼業は天職と言えた。事実、【怪盗】を始めてからの六年間、一度として捕まったことはないし、盗みに失敗したこともない。しかし……【怪盗】を始めたそもそもの目的を果たすことは、未だに出来ていない。果たせる見込みも、なかった。
自分で決意し、今日までやってきたことだったが。
彼はもう、先の見えない抗いに、疲れきっていた。
「………………」
ほぅ、と息を吐く。
舞台上でスポットライトを当てられるように――郊外にある古びた美術館、その屋上でひっそりと、一人月光を浴びる【怪盗】の少年は、端から一見すれば、首から上だけが浮いているようであった。彼が纏っている漆黒のマントと、烏の濡れ羽のような黒い髪が、辺りを支配する夜闇の中に、彼の姿を溶かしている。
そのマントの内側から――隙間から見える内側の色も、同じように黒い――彼は、何か平べったいものを取り出した。
それは、真ん中から左右を白黒に塗り分けられた、仮面。何の表情も象っていないそれを、彼は同じように無表情な自分の顔に被せた。
「今日を、最後にしよう」
確かめるように、呟いて。
彼はもう一度、深く、深く息を吐く。
「始めるか」
ふっ、と。彼の体が、かき消える。霞のように――一片の存在の残滓も残さずに。
そして歪な月はこの【歪んだ世界】を照らし続ける。
まるで最初から――彼の存在など、なかったかのように。
こんな雰囲気でやって行きます。今日はヒロインが出てくるところまで投稿します。
ここが厨二:怪盗。仮面。