第九話 危険分子
「昔の話だよ」
アニメやアイドルのポスターが貼られている部屋で、カップラーメンをずるずると食べている弟は投げ捨てるように言った。
床やベッドの上には部活のユニフォームやトレーニングシャツが散乱していて、洗濯済みのものと汚れているものがごちゃ混ぜになっている。
崇と以前は友達だったらしいじゃんと言うと、俊介はあいつのことなんて知るかと言った後に結局は認めた。
「もう一緒に遊んだりしないの?」
「しねーよ。だって俺にもヤツにも友達がいるし、そもそも種類が違うだろ」
別に崇と一緒に下校したっていいじゃないと言うと、弟は大げさに驚いた後、ありえないという表情をした。
「あいつが放課後真っ直ぐ帰ってんの、俺見たことないよ。校門を出ても家とは逆方向に歩いて行くし・・・、部活にも入ってないみただし、塾だってちゃんと行ってんだかわからないぜ」
「でも成績は優秀なんでしょ?」
弟は知らないけどさ、ヤツのことは本当によくわからないと言った。
「卒業生とつるんでるっていうウワサもあるし、誰か知らない大人の車に乗り込んだのを見たってヤツもいるし、何してるか怪しいもんだよ」
「ふーん」
崇は確かにうちの弟みたいに子どもらしくないなとは私も思うのだが、二人の間になにかあったのだろうかと首を傾げた。
「俺さ・・・」
部屋に戻ろうと弟のベッドから腰を上げたとき、彼は重そうな口を再び開いた。
「中学に入りたての頃、あいつが学校を欠席してたときにプリントか何かを届けに行ったことがあるんだよ」
「うん」
「あいつはぴんぴんしてたんだけど、何か様子がおかしくて、ちょうど親がいないから上がっていけって言われたんだ」
その先を続けるのを躊躇ってしまった弟に、何か不吉な予感がした私は、何かあったのかと促した。
「何ってわけじゃないけど・・・、あいつの部屋に通されて・・・、部屋っていうかあれは作業部屋って感じだったな」
「作業部屋?」
「あいつ、小さい頃から絵が得意っていうのは知ってたけど、部屋中に自分で描いた絵でいっぱいなんだよ」
流血している人や死にかけている動物の絵など、残酷なものばかりだったので気味が悪くなり、プリントを崇に差し出して帰ろうとすると彼は何か飲み物を持ってくると部屋を後にしたという。
「しばらく戻ってこないから仕方なく待ってたら、その中に一つだけ白い布で覆われた絵があったんだ」
イヤな予感がした。
俊介のことだから誘惑に駆られてきっと見てしまったのだろう。
「どんな絵だった?」
「・・・・・・。あいつの自画像」
「何だ。もっと怖いものかと思った」
「俺はあれを見たとき、全身が凍りついたよ。何とも言えないけど、頭から離れない。あいつを敵に回したらダメだと思ったし、いやこれからは関わるべきじゃないって確信した」
短いですが、いったん切ります!