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誰しもが  作者: たこみ
7/13

第七話 絡み合う

 津田さんとの出会いは少し変わったものだった。


 同じスポーツジムの会員だった私たちは、共に水泳を選択していた。


 私は平泳ぎは自分でもいける口だと思っているのだが、どうもクロールが上手く泳げない。

 息継ぎの仕方が全くなっていなく、ちょっと横を向けばいいだけなのだろうが、水面に上半身を全部出してしまうものだから恐らくかなりみっともないのだと思う。


 津田さんはそんな私を見て豪快に笑い、初対面の私に溺れているのかと思ったと言ってきたのだった。


 人からバカにされるのが大嫌いな私は、カチンときて失礼なことを言わないでくださいと彼に怒鳴りつけたのを覚えている。


 ジムに通う時間を彼を避けるために変えるのもなんだか負けたような気がして癪に障るので、私はそのまま同じ曜日に通い続けた。



 二度目に言葉を交わしたのはやはり津田さんの方からで、帰りに雨がパラパラと降り始めた日のことだった。


 ジムの出口の辺りで折りたたみ傘をバッグの中からガサゴソと取り出していると、彼が私の隣に並んでやはり折りたたみ傘を開こうとした。


 この人には関わらないでおこうと思った私は、傘の袋から中身を取り出すと、急いで傘を開いた。


 すると私の傘からは何とも言えない、雑巾のようなニオイがふわ~っと臭ってきた。


 その鼻の曲がるようなニオイに津田さんと私は顔を歪め、鼻と口を押さえて二人でむせ込んだ。


「使った後はすぐにしまわないで、干した方がいいですよ」


 正直何も言い返す言葉がなかった私は、彼を無視してジムを後にした。



 それからしばらくの間は何も起こらなかったのだが、ある日ジムの最寄りの駅のプラットホームで電車を待っていると、キオスクのおじさんが中から出てきて、何やら不思議な行動を起こした。


 キオスクの脇に置いてあるゴミ箱をゴソゴソとあさって何冊かの雑誌を取り出した彼は、それらの表紙をパンパンと叩いてからそのまま店頭に並べた。


 目の前で起こったことに驚いた私は、つかつかとキオスクに向って歩き、注意をしようとおじさんに声をかけた。


「ちょっと、おじさん!」


 そのとき私の目の前には背の高いスーツ姿の男の人の背があった。


「おじさん、それはないんじゃないかな」


 私が言おうとしていたことをあっさりと代弁してしまったのは津田さんだった。


 振り返った彼は得意満面の顔をして、僕の勝ちだなと言った。


 なんだコイツと思った私は、初めのうちは腹が立っていたのだが、キオスクのおじさんにあんたには関係ないだろうとぶつぶつ言われている彼を見て、もしこの人が不親切だったなら、私など放っておいて見て見ぬふりをしただろうなと思った。



 津田さんが私にちょくちょくちょっかいを出してきたときからずっと感じていたのだが、彼は私に気があるのだろうなと思った。


 その考えが恐らく間違いではないとわかった途端、彼が心変わりをしないうちに関わらなければならないという思いに駆られ、ある日ジムの帰りに声をかけた。


「どうしてもと言うなら、ご飯でも食べに行ってもいいですけど」


 すると彼は喜ぶどころか腕組みをして困ったなという顔をするので、しまったと思った私は上ずった声で忙しければ別に断ってもいいですよと言った。


 強がっている私を見て、津田さんんはクスッと笑ってから口を開いた。


「断る理由がないな」



 ズルイ人だと思った。


狡猾ですね~

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