第十一話 made-up
守の部屋に忍び込んだときと同じ要領で、今度は崇の部屋に潜入することに私は成功した。
あのときと違って真昼間なので、音を立てないように長い時間をかけてやっとのことで家の中に入ることが出来た。
最初は崇の部屋のバルコニーの窓についている鍵を解錠することができず、守の部屋から入ることにした。
今頃崇は弟と一緒の教室で授業を受けている最中であろう。
息を潜めて部屋を見渡すと、至るところにタバコの吸い殻の入った灰皿が目に付く。
崇の親は何も言わないのだろうかと唖然とした。
机の引き出しを上から順にあさっていくと、活字体で『不幸にしてやる』とプリントされた用紙を見つけた。
よくもあれだけの嫌がらせをしておいてぬくぬくと平気な顔をしていられたものだなと思わず関心してしまった。
しかも厳重に隠してあるわけでもなく、全てのものが見て下さいと言わんばかりに放置されてある。
そのとき、私の目には弟が先日言っていたと思われる白い布の被ったキャンバスが目に入った。
弟の言うことが本当ならば、その中身は崇の自画像であって、見ない方が賢明だという思いが頭を過った。
しかし考えていることとは裏腹に、私の胸は高まり、手の指先や足のつま先は冷たくなってきた。
おぼつかない手で布をめくると、途端に背筋が寒くなった。
私の瞳孔は最大に開かれ、その絵に釘付けになった。
間近で見なくとも、その絵からは何とも言えない不快な感じが伝わってくる。
絵の中の崇はイタズラっぽく笑っているが、その顔の皮膚が皮膚というよりは肉片の塊のように見える。
「・・・・・・」
私は声が全く出なくなり、落ち着くために深呼吸をした。
きっと知っているのだ。
守も、守の両親も。
崇を憤慨させてはいけない類の人間だということを。
「相変わらず向こう見ずだね」
「・・・!!」
首筋に小声で話しかけられた私は、目を大きく開いて恐怖におののいた。
「うちの親には怪しまれないで入れた?」
身をすくめながら恐る恐る振り向くと、崇は冷淡な顔をして笑っていた。
「崇・・・」
手の平が汗ばんでくるのがわかった。
「不意をつかれた人ってそういう顔をするんだ」
崇は私のことを救いようがない人を見るような目つきで見ると、僕が戻ってくるって考えなかったの?と訊いてきた。
擦れた声で学校だと思ったからと言うと、彼は考えが甘いぞと言った。
「そろそろ来る頃だと思ってたんだ」
華の考えることは赤子の手をひねるより簡単にわかるんだと崇は言った。
「どうしてなの・・・」
「どうしてだろうね」
崇はベッドに腰を下ろすと腕を組んで小首をかしげた。
「僕にもよくわからない。強いて言うなら味を覚えたっていうのかな。あと好奇心?最近じゃちょっと自分をコントロールできないんだ」
彼の返答に呆れた私は、崇を蔑みのこもった目で見降ろした。
「あんた・・・、頭おかしいんじゃない?」
恐らくこの家の人間全員がはっきりと分かっているであろうことを言っておかなくてはと思った。
ホント気が強いよねと崇は言うと、それはこっちのセリフだよと反撃してきた。
「華さ、外車の彼とはどうしたの?」
津田さんのことだ。
「・・・・・・。付き合ってるわよ」
「なのになんで兄貴と寝たりするの?」
『出来心で』というセリフが頭の中を過ったが、今はそんなことは言えず、弱ったなと思った。
「気分次第でいろんな男と寝るのは華の勝手だけど、何で兄貴なの?」
仕方なくあのときは酒を飲んで酔っ払っていたからと言うと、崇は酒のせいか、便利な言葉だねと言った。
「華ってホントだったらもう社会人だよね」
昼はファミレス、夜はキャバクラでバイトしている。
「今はフリーターだっけ?」
崇は私に確認すると、僕は以前から華のそういうだらしなくていい加減な生き方が大嫌いだと言った。
「その割にはなんか強運だよね。今の彼だって大企業に勤めてるし、仕事で海外に行ったりするお金持ちじゃん」
腕組みをして偉そうな態度でそう言ってくる崇に、よくそこまで調べたわねと褒めるしかなかった。
少し長くなりそうなので一旦切ります!




