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誰しもが  作者: たこみ
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第十話 double cross

 風邪でも引いたのか鼻水が止まらないので吸引してもらおうかと思い、少し遠いがバイト先の近くにある耳鼻科に足を運んだ。



 久しぶりだったので待合室で問診票を記入していると、底抜けに元気でわんぱくな男の子の声が耳に入り、手を休めた。


 生意気そうだが可愛らしい顔をしたその男の子は、戦隊ヒーローのポーズと口真似をして椅子からジャンプをしている。


 三、四歳ぐらいかなと思っていると、乳飲み子を抱っこしいている母親らしき人に早く帰る用意をしなさいと注意をされている。


 下にも子どもがいるのか、大変だなと他人事のように思っていると、突如私の体中の血が騒いだ。



 顔は動かさずに目だけでその子連れの母親を追ってみると、その先には間違いなく守の彼女がいた。



 どういうこと?



 驚愕した私は自分の椅子を引き寄せて、怪しまれないように何度も彼女をちらちらと盗み見た。



 間違いない。



 左手の薬指に指輪をしているが、何度見てもその人は守の彼女だった。


 ある考えが頭の中によぎった私は、病院を後にした。


 その親子の後を追い、調剤薬局の脇に立って見張ることにした。


 クスリを受け取って薬局を出てきた彼女は、そこに仁王立ちしている私を目にして顔を青くした。



「あ、あの・・・」


「みゆきさん、ですよね」



 守の隣を歩いているときに比べるとだいぶ地味な装いになっているが、間違いなくこの間電車で見かけた女性と同一人物だった。


 呼吸が浅くなってきた彼女はうろたえると、自ら身分を明かした。



「私は、見ての通り子持ちの主婦です」


「ええ、そんなことは見ただけでわかりました」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 それっきり私たちは二人とも無言になってしまった。



「あの・・・、立ち話もなんですから、少し歩きましょうか」


 口を開いたのは彼女の方で、私たちは駅前にある広場の小さな噴水の周りに腰を下ろした。



 彼女の周りをちょろちょろと忙しなく歩き回る男の子は母親の洋服の袖を引っ張ると、近くで売られているたい焼きをせびった。


 その辺りで遊んできなさいと言われた彼は、初めは納得していなかったが、帰りに買ってあげるからと言われると、すぐに屈託のない表情に変わり、通行人の間を縫って駆けていった。



「あなたにお子さんがいることを守はもちろん知らないんですよね」


 黙って頷く彼女を見ていると、どこに怒りをぶつけるべきなのかわからなくなってきた。



 守との関係をご主人は承知しているのか訊ねると、彼女は夫とは死別しましたと言った。


「そうですか・・・。守とは本気で付き合っているんですか?」


 すると彼女はやはり口をつぐんでしまい、自分の足元に目を落としてしまった。


「彼とは・・・、お金のために付き合い始めたんです」



 それを聞くと私は大きな溜め息をついた。


 私も気軽にそういいうことをしてしまうタイプの人間なので、普段ならそういうことってありますよね、と一笑に付してしまうのだが、相手が津田さんのような人ならともかく守なのでそうもいかなかった。


「納得できます。あなたが守と付き合っていることをずっと奇妙だと思っていたので」


「そうですか・・・。彼はすごく真面目でいつも私をほっとさせてくれるいい人です。・・・、私には相応しく無いということはわかっているんです」



「誰かに頼まれたんですか?」


 彼女は頷きはしなかったが、目を見ればそうなのだということが分かった。




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