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迷宮の灯 1  作者: げんこつやま
1/1

遭逢

ある中年男性の日常に明かりが灯される・・・・。

忘れていた記憶と、約束。

このお話は中年男性による人生迷宮脱出の物語である。



肌寒さを感じ、落ち葉が目につく頃、仕事に感けて自分の誕生日を忘れる事が多くなった。

会社に入社するまでの、21歳頃までを振り返ると順風満帆ではないが、人並みに、病気もなく当たり障りのない人生を歩んでいる気がする。

ごく稀に、"天然"と言われるが、人生の中で大きな事件事故につながった事はないので、あまり気にしていない。今年でもう41才になる。男としては照れ臭いことかもしれないが、子供が欲しいと思ったことがある。

母性と言うには大雑把な感じではあるが、ほのかに想像することがある。現在、独身ではあるが、女性とのお付き合いはもちろんあった、長くもなく短くもなく、別れている。仕事が原因で別れることもしばしばあった。

容姿は今の若い人たちの平均身長ほど、中肉中背、まだ白髪は生えていない、まわりの同年代から見るとシワもなく5歳ほど若く見られる。身なりは小綺麗にしているが、無精ひげの肌触りが心地良く、たまに5㎜ほど伸ばす。自分のことを人に話すとき"自分は”と言ってしまう事がある。ただ自分の足の裏が赤ちゃんの足裏みたいに柔らかいのが少し自慢だ。


今日は外回りで先方と契約、新たな案件の見積もりも依頼された。

(帰社してから見積もりまで仕上げなくては・・・)

「タタタンタタンタタン~五番線に電車が参ります。ご注意ください。」駅構内のアナウンスが流れる。

ホームから見える居酒屋のネオンが光りだした。

(朝から何も食べてない、帰りは居酒屋で一杯やりながら何か食ってから帰ろう・・・・)

線路下の方にある晩酌セット1080円税込みの看板の方を見た。

(これかな・・・。)

何の気なくそのビルの上を見ると、

さっきの光りだした電光掲示板とネオンサインの間に手を振る少女がいた。

「うわっ」

思わず声が出た。

ホームにいるサラリーマンやOL、学生が一斉にこちらに顔を向ける。

人がいないはずのしかも立てないような所に少女がいたので、思わず声が出てしまったのだ。

まわりの視線を背中に感じる。声が出たことに対して、肌寒さの中に顔が赤くなっていくのが分かる。

何事もなかったかのように、わざとらしく足元の点字ブロックに目線を動かした。

こちらに向いていた視線が自分の背中からどくのが分かる。

ホームについた電車に足早に乗り、乗り口とは反対側、先ほどのネオンサインの方に目を向けた。

(何もないな・・・)

「タンタンタンッタタタン~ドアが閉まります。ご注意ください」

帰社する方向へ電車が動き出した。

最近、仕事に追われ疲れているのだな・・・・。


昭和に建てられたような雑居ビル多がく、明治時代に建てられたレンガ調の大きなビルなどが混在しているその一角に5階建、エレベーターのない小さなビルがある。

階段を上り、鉄製の扉を開ける。

ギギとを音を立て開く、なぜかこの音で帰ってきた気がする。

セキュリティーボックスにカードキーを差し込む。

警報音のようなピーピーピーという音が止まる。

自分の椅子に向かうと、デスクの上にはスマートホンのワイヤレス充電器と、デスクマットの間には7枚ほどの名刺、収入印紙の金額早見表が乱雑に挟んである。

その上にノートパソコンを置き、膨らんだ鞄をデスク脇に置く。

普段のはデスク下に鞄を置くのだが、金曜日の夜、誰の邪魔にはならない、コピーを取りに行く自分が躓くぐらいだ。今は気兼ねなく置ける。足を延ばせて昼間に扱使った足を延ばした。


景色は路地と雑居ビルの向こう側、大通りから車の音が少なくなっていた。

いわゆるサービス残業、未だにスーパーフライデーには縁遠い仕事をしているのだなと、実感する。

壁掛け時計の秒針が静かに木霊する。

(もうこんな時間かー)

時計を見ると22:12。

(あと少しで提出書類と解約書面の写しは終わるから見積もりは早々に片付けてすぐ帰ろう・・・・。)

(居酒屋はちょっと無理かなー・・・・。)

「駅前の松屋で牛丼でも食べて帰るかー。」

部長デスクに契約書の写し、計画段階の推定される収支、利益率などの添付資料を置き、鍵を閉めて階段を小刻みに駆け下りる。

駅までの道のり、途中に24時間営の業魚介専門居酒屋がある。店頭には潮で汚れた木箱と発泡スチロールの箱があり、その前でサラリーマンのグループがお疲れさまとあいさつと同時に解散している。

発泡スチロールの箱を見ると、最近、ニュースや情報番組で映る秋刀魚があった。氷と氷の間に艶やかな銀色の腹を見せて、綺麗に並んでいる。

涎の出る音が少し聞こえた・・・。

「やっぱり一杯やりながら何か食べるかー」

時間も少し遅いので悩んだが、ガラスの引き戸を開けた。

「ぃらっしゃいっ」

大きい声が店に響く。

カウンターに店員が目線を送ると同時に、まだ片付けてない隣の席に座った。

「生と秋刀魚の塩焼き、それと冷奴と枝豆ください。」

カウンター越しの調理担当に声をかける。

「生一丁それと枝豆ねー」

頻繁には来ないが会社から近く、たまに寄るので誰がアルバイトか正社員か服装でわかる。

アルバイト店員が、泡のたれ落ちているジョッキグラスをカウンターに勢いよく置いた。

「はいお待ちっー」


生ビールを一口で半分ほど飲む。

「あーっ」

これな完全におやじだなと思いつつ、さらに一口。

枝豆を頬張りながら秋刀魚の塩焼きを待つ。

家で焼き魚は煙が出て調理し難いので、まっよた挙句、容易く食べられる牛丼より焼き魚の方が勝っていた部分がある。

「秋刀魚、塩焼き、お待ちどう様です。」

今度は新人アルバイト店員が程よく焦げた秋刀魚と大根おろしが乗っているお皿と、冷奴を運んできた。

秋刀魚を箸でつまみ、ビールを飲みながら今日の出来事を思い出していた・・。

(契約をとれたのはいいけど、新たな見積もりをお願いするなんて、人参ぶら下げられてるような感じだなー)

(そういえば、電車に乗る間際のあれは何だったんだろ・・・)

今まで霊感などというものは縁遠く、ましてや見たことが無い。

(何かに反射してガード下にいる少女の姿が映ったのだろう・・・。)

自分は超常現象的なものは見るわけがないと疑った。


秋の味覚に満足して、居酒屋から出て、駅に急いで向かう。

(ゆっくりし過ぎたー)

(あーこれは秋刀魚塩焼きの代償だなぁ~)と思いつつ。

足を前に出すのをいつもより早くした。


下り方面の最終電車がホームについている。

「最終電車でーす。」

手を振りホームにいる駅員が少し延長しているように感じる。

(やばい。)

階段を駆け上がり、電車のドアが閉まる前に何とか入り込めた。

(何とか乗れたなー・・。)

「タンタンタンッタタタン~ドアが閉まります。ご注意ください」

まわりを見ると、酔ったサラリーマンが窮屈そうに吊皮をつかんでいる。その隣にはスマートホンを顔に近づけているOL、席には大学生のグループが大きな荷物を前に抱え込んで座っている。

鮨詰め状態ではないが、身動きは取りづらい。


家に向かい始めた電車のガラス越しに、いつも流れていく夜の景色を見る・・・。

いつの間にか都心の喧騒の中に誕生日は過ぎていた。


朝起きて気づくと小梅が頭の毛をムシャムシャかじっている。

15歳ほどになる猫だ。

随分前にお付き合いしていた女性の形見というべきか、可愛いので迷惑ではないが置き土産の同居人である。雌猫だからというわけでもないが、女性には警戒心があり、男性はさほど警戒しない、逆に懐くときがある。

(男臭さがすきなのだろうか?・・・)

猫にご飯を用意して、水と別々に皿に盛る。

お腹を空かせたときは、やたらと愛くるしく上目遣いで迫ってくる。

単純に愛くるしいと思う。

それでも食事をしたいが為に髪をムシャムシャしていると思うと、早くご飯を出せと言っているような気がしてならない。

一週間分の洗濯物を乾燥付機き洗濯ドラムに放り込み、ボタンを押す。

足元に小梅が寄ってきた。ありがとうの礼かと思うと、トイレが汚れているようだった。

トイレを掃除した後、小梅はトイレの匂いを嗅ぎに来た。気持ちよさそうに用を足す。

そのあとに、まるで赤の他人になったかのように、すました顔でテレビがある部屋の所定位置に。

(小梅、いつも思うけど、そこかわいくないよ・・・。)

「ふーぅ。」

寝室にある筆記用具をもって 洗濯機の稼働確認をして、テレビの部屋へ。


資格試験が後3か月後に迫っていた。この年になって勉強しようとは・・・。

最近は仕事にかかわる法例整備などあり、細かいものまで、資格がいる。

会社上司のプレッシャーや、必要に迫られて勉強をしているわけだが、年相応に記憶力に少し不安な部分もある。

(やはり20代とは脳内海馬の出来がちがうな・・。)

資格を取ることに対して、デメリット、メリットは並行して存在しているのだが、中間管理職的な位置にいると責任の部分が大きい。

自宅では集中できないので図書館で勉強していると・・・。

勉強中、何の脈絡もなく、幼少時期の恥ずかしかった思い出などを突然思い出すことがある。

(うわーあそこで失敗したなー。)

声を出したくなるが、我慢して少し気分が下がる・・・。

彼女がいた19~20歳頃、タイミングが悪く、そのまま自然消滅した別れがあった。

大昔のことなので、忘れていたが、その子は明るく透明感があり、素直な子だったので結婚するかもなーと、勝手に思っていた。

父親が牧師だった事もあったのか、兎角、出来損ないの自分には優しい女の子であった。

別れた時は男に女々しいという言葉が似合うような落ち込み方をした。

半身を失うとか、心に穴が開くといったような言葉が絵に描いたように当てはまる感じであった。

・・・・・・・・一昨日の電車に乗る時を思い出した。

「そういえば、少し似ていたような・・・。」

(ないない。)

首を振り、頬を軽くたたく。

集中力が途切れた、

(気分転換に買い物にでも行くかー。)

今日、普段は郵便受けに入っていないホームセンターのチラシなどがあり、少々迷惑だなーと思っていたが、人は現金なものでこういう時は良かったなーと思う。

洗剤がなくなり、ソファー裏のネジも取れていたので、丁度よかった。

「ポスティングの仕事は無駄でないな。」

チラシの上の部分をデコピンのように弾いた。


日曜のホームセンターはその名の通り家庭の場所と化していた。

中古の独身男にはまぶしく見える光景だ。

少し違う自分の人生を想像してしまう。


ホームセンターは、目的のものが見つからずさまよう人、店員に聞く人、チラシを地図のように広げ、案内看板と照らし合わせる人、探検する人種はさまざまだ。

色々な人の時間の中で、家族が増えたり、人生の門出、新規一人暮らしの中でも目標が変化し買うものも多種多様。その時代や色々な人種に答えようとしている。

そして今や家電などの電気製品、自然から成り立つ植物、造園、木工用品や、観賞用の淡水魚と鮮魚スーパーなど、性質が真逆と感じるものが混在し、フロアーは違えど、同じ店内にあって何も違和感がない。飲食店や子供の遊び場まで完備していて、人生の縮図と言っては大袈裟かもしれないが、そう見える時もある。いろいろな家庭を勝手に自分に重ね合わせて想像すると、まるでゴールのない迷路に入ったかのような気分になる。


「さっ入るか。」

今日は、そんなに買わないが、いつも買い物カゴと手押しカートを手に取ってしまう。

手押しカートが無く、アニメキャラクターを飾り付けたカートだけ残っている時があった。

その時だけ大量に買い物をする必要があり、時間もなく、どうしようもなかったので"これでいいや"と使った事があった。移動しているときは多少気なる程度であったが、レジに来ると流石に羞恥心が芽生えた。

傍から見ると子供がいないのにあれを使ってますよという目がこちらに向いている。

その時出入口を見ると、入るときはなかった普通のカートが満載になっており、その逆にお子さん乗車専用と言うべきカートが無く、泣いているお子さんを連れてレジ担当に、カートはどこにあるのか?と話している若い夫婦がいた。

それからは事前に買うものをある程度決め、カートは普通のものだけ、使うようにしている。

(自分のこんなところが、まわりから稀に"天然"と言われる所以だろうか・・・。)


「ネジはここだよな~」

ソファー裏のネジ頭がプラスやマイナスのものではない四角の頭であったので少し探すのに時間がかかっていた。

頭を少し傾け、商品棚にぶら下っているネジ入り袋を張り付いて一つひとつ確認しながら、カートを横移動をしていた。

「ガシャガシャダーン。」

脇見は自覚していたので、すぐ横後方を振り向いた。

「すいません。」「すみません。」

ぶつかったというよりは、接触した双方が同時に謝った。

ただ接触しただけなら良いが、相手の女性はネジ棚の対にあるカーテンレール置き場に突っ込んでいて纏まってカーテンレールが倒れていた。

「申し訳ございません。」「申し訳ございません。」

双方また同時に再度謝りを入れた。

よく見ると女性はあのアニメキャラクターの飾りがついたカートを押していたようだった。しかもお子さんを載せていた。

再度謝るときに駆け寄っていたのだが、子供が泣いていないのに気付いた。

少しぞっとしたが、お子さんがぶつかってない様だったので、よく見ると、すぐに気づいた。

ニット帽を被せて洋服で着飾った"くまさん"のぬいぐるみをカートのチャイルドシートに置いていたのだ。

アニメカートの先入観と小さく丸々としたフォルムから一瞬お子さんと見間違えていたのだ。

そういえば、打つかって焦ってはいたが、女性は子供を気にする素振りが無かったような気がする。

それより先に倒したカーテンレールの方を見て慌てているようだった。

(そうだよな普通は子供の方を先に気にするよな・・・。)下手に慌てなくてよかったと思いつつ、女性の方を見た。

「お怪我はないですか?」「お怪我はないですか?」

同時に声を掛け合う。

「あっいえ、こちらは大丈夫です。」

先ほどから息が合ってしまうので、意図的に少しずらして答えた。

「大丈夫です。」

「お怪我が無くてよかったです。」

会話のすぐ後に気が付いた女性店員が小走りで近づいてきた。

「どうされました?」

「お怪我無いですか?」と女性店員が言った。

「大丈夫です。商品壊れてないですか?壊れていましたらお支払いします。」とぶつかった女性が答える。

少し商品を見て女性店員が答える。

「大丈夫そうですね。何も壊れていないようなので。」

打つかった女性も商品を少し見て

「大丈夫ならよかったです。もし壊れているようでしたら、ご連絡先お伝えしますので・・・。」

女性店員が不安そうなカーテンレールを倒した女性の顔をみて答えた。

「今ご確認しましたので、大丈夫ですよ。」


「すいません、私がよそ見していたので、壊れていたら私が払いますので。」

と打つかった女性は女性店員に声をかけた。

女性店員の方は自分を少し睨んだように感じたがすぐさま

「商品は大丈夫でしたので、そちらにお怪我はありませんでしたか?」

と問いかけてきたので、「大丈夫です。」と言いながら頭を下げた。

女性店員が早く商品を片付けたかったのか

「商品はこちらでお戻ししますので、お気をつけて、ごゆっくりご覧ください。」

と二人へ優しく軽い注意と言うような案内をした。


女性店員が商品を再度確認して戻そうとしたので、自分もそれを手伝おうと近づいた、

打つかった女性も同時に近づいた、またぶつかりそうになったので互いに声を出さず苦笑いをした。


その女性の苦笑いをした顔は柔らかく透明感があり、優しさがにじみ出ていた。

打つかったときは、気が付かなかったが、どこかで会ったような懐かしい気がした。

「あっあの、なにかお探しですか?」

女性の顔から目が離せないまま、つい口から出ていた。

純粋と書いてあるような水晶体をこちらに向けて

「あっネジを探していまして・・・・。それで・・・」

「私、"天然"とよく言われるので、ボケボケしてるので・・・ほんとにすみません。」

(自分から"天然"と発言してるし、計算かホントに言われているかだな。どちらにしても"天然"なのか・・・。)

「いえいえ、こちらこそネジ探しに夢中になってボケボケしてたのですみません。」

自分も"天然"と言われるのだが、ここで合わせているような感じになると、おっさんが女性をナンパしている構図になりそうなので、控えた。

「どの様なネジをお探しだったんですか?」

店員のような口調で聞いた。

「ネジ頭の凹みが四角いものを探していたのですが、中々なくて・・・。それで・・・。」

女性が語尾を言い切る前に、

「あーそれ、」

「もしかしてこんな感じのですか?」

自分が手に持っていたネジの袋を見せた。

女性が少しの喜びとワッと驚いたような顔で、

「これです、これです。」

「これ最後の1袋みたいなんでどうぞ、よそ見していて打つかったのも悪いので。」

もっていたネジの袋を渡そうとすると。伸ばした手をこちらに押し戻して、

「いえいえ、打つかったのは、こちらなので・・・。」

どちらもまだ購入していないネジ入りの袋を押しあっていた。

倒れた商品を戻すため助っ人で来ていた男性店員が見かねて、

「そのネジ、在庫あるか確認してきましょうか?」と、あきれる感じの太い声で言ってきた。

「あっお願いします。」

と頭を下げつつお願いをして、そのネジ袋を渡した。

打つかった女性も、慌てて同時に頭を下げた。

男性店員は特殊なネジで倉庫の奥にあるので少し時間が掛かると説明をした後、早歩きでホームセンターの一番広い廊下に台車を押して行った。

そうこうしてる内に倒れていた商品も片付き最初に来ていた女性店員もいなくなっていた。


打つかった女性と自分が取り残されたが、

(ネジはここで待たなければ来ないので動けないよな)と思い。

「自分がここで待ちますので、貴方はどこか座れるところでお待ちください。自分はネジ用の工具も見ないといけないので、同じ棚を探しますから。」

と女性に話した。

女性がハッと何か閃きと驚きの混同したような顔をして、

「工具必要ですよね・・・。」

自分も探しているうちに(待てよ、これ、この専用の工具が必要じゃないか??)と気が付いたので、

その気持ちわかるというように頷いた。

("天然"か・・・・。)

(自分も傍からそう思われているのか・・・。)

相手がまともそうだし危害が及ばないような人間だと、笑うに笑えず、話すのは微妙な気を遣うものだなと思った。

"天然"の流れで思い出したが、なぜ?アニメカートを押していたか?なぜ?クマのぬいぐるみにニット帽を被らせて買い物をしていたのか、疑問に思った。

「どうしてアニメカートを使っていたのですか?」

女性はその質問に、透き通った眼を不器用に下に向け、顔が徐々に赤くなっていった。

「クッションの大きなものを乗せたかったんですが、どうしても普通のカートが無くて、このカートになりました。」

(うん?)と思ったが、もう一つの質問もした。

「どうしてクマのぬいぐるみを?」

女性は言葉早に

「買い物をしている途中、家族連れのお子さんがアレに乗りたいと、こちらを指さしていたのに気づいて・・・・・。その子のお母さんが、"我慢しなさいっ"って叱っていたので、申し訳なくて・・・。」

「カートを渡すに渡せず、それでクマちゃんを・・・。乗せました。」

その話を聞いて自分は笑いたがったが、踏みとどまった。

(自分も同じような経験をしている・・・・。)

この年でクマちゃんまでも行かないとしても・・・・。


気が利かない愚問を女性にしていた時、神の救いか、先ほどの助っ人男性店員が商品の箱をもって戻ってきた。

「すいません。他にありませんでした。このタイプは出しているもので最後でした、お取り寄せもできますが、これ専用の工具も現品限りだけだそうです、どうしますか?」

(店員さんは流石だ工具も必要だろうと気が付いて、それも調べてきてくれたのか・・。)

と思いながら、

「今度きます、今すぐ必要ではないし、次いでだったので。」

と自分が言うと、女性もすぐ、

「私も今度きますので、大丈夫です!!」

と言った。

男性店員はまたもや少しあきれた太い口調で、

「こちらの商品は棚に戻しておきますので・・・。」

と言って自分の担当の売り場にもどっていった。


先ほどの話の中でクマちゃんは最終的に買おうとしていたのか、聞こうと思ったが、やめた。

これ以上話しているとしつこいオヤジだなと思われかねないと、立ち去ろうとした時、女性が

「ネジ何本使う予定ですか?」

と聞いてきた。

「6本必要なので予備入れて8本必要かなと・・・。」

と答えた。すると女性は子供が初めて買い物に行くときなような決心した眼≪まなこ≫で、

こちらを見た。

「ネジを買った後、分けませんか?私は2本あればいいので・・・。」

自分もそれは妙案と、

「なるほどーわかりましたそうしましょう!」

とすぐにネジと専用工具を手押しカートに入れてレジに向かった。その後を純粋と顔に書いてある様な女性がアニメカートを押しながら急いで着いてきた。

(これは支払いに関しても時間が掛かるな・・・。)

と判断した自分は、冷たいように感じるかもしれないが、黙って、すぐ行動に移した。

結局この人は自分が買って持って行ってしまうのでは?と疑わずに、私が料金を払わないと・・・。

と思っているような顔で中年男に一生懸命に付いてきている。故に純粋さが顔に出ている。


アニメ飾りとクマちゃんを乗せたカートで付いてくるその姿を見ると、少し笑いそうになった。

「お会計お願いします。」

レジにて品物をバーコードリーダーに通してもらう、

「っちょっと待ってください。私が払いますよー」

少し息切れした女性の声が自分の左肘のあたりに聞こえた。

レジの女性が、

「¥1868-になります。」

と言うと同時に、財布を出そうとした。

(あれ?・・・あれ??)

(ない・・・ないぞ・・・まずい・・・。)

レジ前にて、40男が顔が赤くなっていくのが分かる・・・。

隣で息切れしていた女性が、レジ打ちの女性に

「私が払うので・・大丈夫です。」

と伝え、少し

「ㇰっス」と嫌味なく笑った。

その後、すぐレジの女性が、

「このぬいぐるみも、ご一緒でよろしいですか?」

と聞いてきた。

財布を出した女性は顔を赤くして頷いた。

自分も、クマちゃん女性も目的の洗剤とクッションが買えなかったが共通の目的、次いでのネジと工具は買えた。


お店を一緒に出て、どうするかという話になるかとは思っていたが、案の定。

クマちゃん女性は

「このネジと工具お渡しします。」

「それは自分が払ったものではないので常識で言えばあなたのものですよ。」

と自分は嫌味なく諭すように優しく伝えた。(財布を忘れたのもあったが)双方の恥ずかしさを打ち消すようにその場は互いに早く離れたほうが良いかと思い、駐車場の方へと振り向いた、その間際クマちゃん女性は、そうなってしまうのかと、"ハッ"という顔をした。

眉間にシワはできないが、できそうな顔をして、

「では、連絡先教えますので、貴方の何か連絡先を教えてください。使い終わりましたらお渡しします。お取り寄せしてもすぐ来るとは思わないし、うちで使い終わったら必要なくなりますし、お支払いのことならば、お渡しする際に半分お支払いしていただければ大丈夫です。」

女性から連絡先を聞かれるとは思っていなかったので、正直戸惑った。

さらに、気を使ったのだろう金額の提示もしてきた。多分、支払いが発生しないと、お断りの話になるからだろうと思った。

自分も気を使い、

「あの、見ず知らずの男性に女性の連絡先を教えるのはー、あれなんで、自分の連絡先だけで教えますので、それでよろしいですか?ご都合がいい時に、ご連絡して頂いて、受け取り場所もそちらのご都合の良いところで構わないですよ。」

気を使ってくれるのは有難いが、クマちゃん女性のお人好しに、少し居た堪れなくなった。

こちらの連絡先は、自分個人の携帯より会社の携帯にしたほうが良いと思った。

その方が公的会社の所有物なので女性にっとっても変な電話も来る確率も低い、ショートメールでやり取りしても変なことに成りにくいと思ったからだ、さらに"自分"にとっても、あとくされもなさそうなので、そうしようと思っていた。

「自分は若尾≪わかお≫と言います。」

「携帯の番号は070の××××の××××です。」とゆっくりと伝えた。

クマちゃん女性は小さいショルダーバックからスマートホンを取り出していて、アドレスホルダーへ保存している。

「すいません苗字だけでいいので教えていただけますか?」

他の電話と混同しないように念のため苗字だけは聞くことにした。

「栗生沢、」

「栗生沢 百合です。」

(下の名前は聞いてないのだけど・・・。)

「くりゅうざー・・・?」

自分には聞きなれない名前なので、聞き直していた。

「くりゅうざわ ゆりです。」

「苗字はどんな漢字書くんですか?」

「木に生える栗と、学生の生、さんずいの尺です。」

わかりました。特徴がある名前なので、覚えられると思い特段メモなどはしなかった。

「番号は070の×××・・・・。」

番号を言い切る前に自分が

「いいですよ、会社の携帯なので、電話は必ず出ますので、その際にお名前を伝えていただければ

わかりますので。」

栗生沢さんは少しだけ強めで

「念のためです、電話番号登録していただけますか?」

こんなオヤジに電話番号を教えるのは普通、嫌だろうと思っていたが、持ち前の人の好さからか、純粋と言わんばかりの目をこちらに向けている。

少し何か違和感を覚えたが・・・。

「わかりました、では。」

会社の携帯をポケットから取り出した。

仕事の電話が日曜祝日も関係なく掛かってくるので、常時、休みの日でも持ち歩いているのだ。

栗生沢さんが

「ではこちらから一回かけますね。」

と言うと自分のスマートホンをタッチした。会社の携帯に着信が出る。

電話を出ずにいると、栗生沢さんが出てくださいと言う目でこちらを見ている。

(念のためにかな・・・出る必要はないように思うけど・・・。)

自分は着信に答えた

「はい、もしもし」

栗生沢さんの声が聞こえる。

「もしもし?大丈夫でしょうか?」

着信を切り自分が

「大丈夫ですね、ではご連絡お待ちしています。」

と話を終わらせようとして軽く会釈をして栗生沢さんをみた。

(私の名前は入れていただけましたか?)というような顔をしていたので。

「あっ失礼しました、今しますね。念のため、登録しますね。」

(自分は"くりゅうざわ"って苗字変わってるから覚えられると思ってたんだけどな・・・。まっ相手がその場で登録くしているのだから逆に失礼だよな・・・。)と思い直し、携帯に"栗生沢"と登録した。

栗生沢さんが

「では若尾さんのご都合もあると思うので、また改めてこちらからお電話します。」

「はい、ありがとうございます。」

「では、また。」「では。」会釈よりは少し深くお辞儀をして、また同じタイミングで挨拶をした。

振り向いて駐車場に向かっている最中になぜか視線を感じていたが、気のせいだろうとそのまま車に乗ってホームセンターを後にした。運転しながら助手席の足元を見ると、申し訳なさそうに財布が落ちていた。






ホームセンターから出た自分≪若尾≫。

その後姿を見送る百合・・・・。

二人の出会いは・・・・。

-記憶-へ続く。

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