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交錯  作者: UMA甘党
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第一話 飢餓

ここ暫く、この辺り一帯に僅かながら飢饉が襲う。

飢饉といってもそれほど酷いものでは無い。

数年単位で降水量が少し減ったぐらいだ。

だが、ここは元々雨が沢山降るという所では無い。

これまでも、水は少しだけ貴重なもの、余計な事にあまり使えない。と、いうのがここら辺りの住人が当たり前とする意識だった。

沢山、水が在るところから少しだけ減ったとしてもあまり気に留めることでは無い。

しかし、少ないところから水が少しでも減ると大問題となる。

正に今の状況だった。

ここら辺りに在る貯水量が実は降水量が少し減ったからといって問題などは無い。

本当に怖いことは水が減ったということでは無く、それを過剰に恐れてしまうということにある。

噂というものはいつの時代にも存在する。

噂話は人間が元々好きな娯楽の一つ。

娯楽などが少ないこの世はより一層噂に執着する人が出て来るのが常だ。

その噂で水が無いということが囁かれてしまったら、結果は想像の通り悲惨な事となる。

まず、第一に人は水を大量に得ようとするだろう。

そうすると供給が少ないのに需要が大幅に増え、水の価値が上がる。それでも水は生活必需品なのだ。多少高くなったとしても諦める訳には行かない。

そして更に需要が増え、価値が大幅に上昇する。

しかし、厄介なことはそれだけでは無い。

例えば、よく地震等が来たとき直接的な被害よりも二次的な被害の方が大きかったりする事もある。

ここの場合、正にこれのこと、とは少し言い難いが二次的な被害も十分に出ているのだった。

水を必要とする農作物の収穫量が減り、食料品の物価が上昇した。

又、基本的な食料品の物価が上昇した事によって宝石、貴金属類の需要が低下し、そういう店等に打撃を与える。

ここ一、二年の間に幾つの宝石店、貴金属店の門が閉じたのだろう。

こういう店の力が弱くなったことによって、金融業

にも大きな打撃を喰らったのである。

噂の厄介な所は完全に否定できない。という事。

何か元がありそこから脚色やら何らが加わって広がる。

それは、ある程度の信憑性があるということ。

そうして被害状況が拡大して行った。

暫くし、水を輸入することによって状況が良くなったが、相変わらず金融業は火の車状態だった。



      

     ---------------------------------------------------------





もう何日目だろう。

喉が干上がり、皮が骨に張り付く。

そういえば、しばらく水さえも口にしていない。

ただ、今はそれよりも深い憂鬱な感情が脳内を支配している。

もう、何も考えたくは無い。

考えれば考える程、希望というものが抜けていく。

今にも壊れてしまいそうなテーブルと椅子に殆ど骨しか無い体をあずける。

ほぼ廃屋である人の帰りを待っている。

今まで拾った見ず知らずの赤ん坊をここまで育ててくれた人だ。

その人はもう五十に差し掛かるおじさん。

毎日毎日、お金を稼いで帰ってくる。

でも、今回は

....まだ帰って来ないよ。

何時になったら帰ってくるのかな。

何時まで待とうかな。いや、待てるかな。

何故か、頬に暖かいものが滴る。

….........止めよう。

もう

一日目を過ぎた頃から薄々気付いていたんだ。

おじさんは多分もう死んだ。

殺されたのだろう。

盗賊というものをやっているのだからいつかはコロッと死ぬ。

盗賊。それはこの世に蔓延る悪とされるもの。

排除の対象。

絶対悪。

でも、それでもおじさんは盗賊になる他無かったのだと思う。

おじさんは凄く優しかった。自分のことよりも他人のことをよく優先するような人。

多分だけど、金品を盗むだけで人の命は一切奪って無いだろう。

別に人を殺して無いからどう、という訳では無い。

ただ、初めておじさんが盗賊になった日の夜の事を覚えている。

家に帰った途端、目を真っ赤にして泣きはらしていた。

そして、こう言う。『ミカ、ごめん ごめんな』

まだ、幼かった自分だがそれは衝撃過ぎてよく覚えている。

そんなおじさんが盗賊になったのはいいが、盗賊というものは稼ぎが不安定で少ない。

しかし他に仕事が無い。あれば幾ら苦しくてもそちらを選んだだろう。

おじさんは元々この辺りで一番の金融業関係の店を営んでいた。

だが、飢饉の影響で経営が苦しくなった。

そこで、僕を拾う。

拾ったのはいいが、男手一つで赤ん坊を育てるのは簡単な事では無い。

当然、お手伝いさんは雇えない。

雇おうとしたら普通に雇えるのだが、無駄なお金をこんな事に使っている位なら、そのお金を使って少しでも店の経営を回復しようと思ったらしい。

だが、やはり子育ては大変だ。

毎日の夜泣き。それが一番応えたらしかった。

殆ど寝る時間も無く、店では異常なまでの労働。

やっと帰って来たと思ったら赤ん坊のお守り。

いつか、過労で何度も倒れたりもした。

そしてついに仕事でミスをする。

ミスと言ってもそこまで酷いものでは無いが、金融業は全体的に火の車だ。

おじさんは一番上の立場的の人だったのだが、下が猛烈に反発した結果、辞めた。

金融業は元々狡猾な奴らが殆ど故、ちょっとした失敗につけ込んで来たのだ。

そいつ等は理解していなかった。誰のお陰でこの大不況の中、曲がりなりにも保てていたのか。

3ヶ月を待たずに店は跡形も無く消えていた。

おじさんは仕事を無くし、途方に暮れていた。

そんな中、まだ幼い僕が残っていた事を自覚し、血の涙を飲んで盗賊となった。

結局、全部悪いのは僕の方だ。

おじさんが殺されたのは僕の所為だ。


どう足掻いたっておじさんは帰ってこない。

別におじさんを殺した人を憎いとは思わない。

殺す人もそれなりの使命やら意識があるから。

そこで恨むのは筋違いだろう。

おじさんは曲がりなりにも盗賊なのだから。

ただ、おじさんが盗賊では無かったらどう思っていたのだろうか。

復讐するのかな。

でも復讐はやりたく無いかな。面倒だし

それでも相手は悪いと思う。

きちんと罰を受けるべきかも。

なんか、猛烈に腹立たしいとは思わないな。

人は遅かれ早かれ死ぬのだ。

それが多少早まっただけのこと。

だけど、おじさんはもう帰って来ないのか。

優しかったな。

貧しかったけれど楽しかったな。

帰って来てくれないかな。

もう、この世にはいないという実感、というものが少し自分でも足りないかもしれない。と思う



木のボロいテーブルに手を付け立ち上がる。

長い間椅子に座っていたから何度も地面へ崩れ落ちる。

そして筋肉などほぼ無い体が悲鳴を上げる。

痛い。

暫く経つとあまり不自由無く歩けた。

歩く度に今度は空腹が襲って来る。

そう言えばどれだけご飯を食べていないのだったか。

お腹が空き過ぎて洒落にならない程にお腹と背中がくっ付きそう。

これは、ヤバい。

とにかく、ボロい家を出た。

外は日差しが強く、肌が痛い程だった。

自分の腕に目をやるとただでさえ真っ白な腕が日差しで透明に見える。

いや、目がぼやけているだけだ。

暫く街を歩く。

はじめに猛烈に視線の行った先は屋台に並んでいる果物達。

余りにお腹が空いているのか、それは商品だと分かってはいるが、勝手に手が伸びてしまう。

しかし、これは、この行為は、盗賊と一緒。

おじさんはこれをして殺された。

伸ばした方の手をもう片方の手で抑える。

理性を最大に働かせ、あの言葉を思い出す。

『ミカ、お前は長く生きろよ。 俺みたいには絶対になるな。』

そこには、おじさんがもうすぐ死ぬという事を密かに暗示していた。

盗賊に死は付きもの。

盗賊とは悪。

理由がなんであれ、盗賊は盗賊。

変えることは出来ない。

人の物を盗んでしまっても同罪。

盗賊に身を落としてしまった者は何をしても盗賊。罪人。

罪を一生背負う人。


僕は罪を一生背負うなんてのは嫌だ。

なら、多少の空腹ぐらいなんとでも....

そう、考えると急に体から力が抜け、地面にへたり込む。

僕は何をしに外へ出たんだ。

相変わらず、日差しは強い。

どんどん体力が奪われて行く。

起き上がろうとするが立ち上がれない。

もう、駄目かな....


やっぱり、イヤだよ。まだ死にたくないよ。

死ぬのが怖い。それと、おじさんと約束したんだ。

まだ死なないって。

誰か助けてよ。

ねぇ お願いだからさ。 助けてよ。


「助けて....」


小さくてか細い声でも、渾身の叫びだった。

周りには道行く人々が常に歩いている。

人はたくさんいる。だが、この町の騒音に呑み込まれて音が響かない。

近くの人は聞こえていたと思う。

だが、僕の様な孤児なんてものはそこら中にはびこっている。

僕の声なんてみんな無視して進む。


とうとう力を無くしてその場にうずくまる。

なにも見えない。だけれど騒音だけはよく聞こえる。

数分間、目を閉じていた。

このまま眠ってもいいかな。眠ることを許して欲しいな。

このお願いはもう、さい...


「君、大丈夫かい?」


声を掛けられた。

肩を揺さぶられた。


いいから もう

助けてくれなくて。


「酷く衰弱している。 君、口を開けて。」


半強制的に口を開けさせられると干し肉を入れられた。

干し肉は硬く、美味しく無い筈なのになぜか、凄く柔らかくて、美味しかった。

顎にあまり力が入らなかったが、ひたすら噛み続けた。

なんか、さっきまで考えていた事がどうでもよくなった。

するとこの食料を与えてくれた人が急に神々しく見えた。

宗教などには興味がこれまで一切無かったが、信じている人の気持ちというものが、少し分かったような気がした。

この人は、神様なの?

優しく微笑むその青年が手を差し伸べて来た。


みんなどのぐらいの時間で書いているのだろうか。

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