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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

clearance

作者: 英旺

人を殺したい。


あゝ、人を殺したい。


俺はただそれだけなのだ。


ただこの世は難しくも単純でつまらない規則に縛られていて、俺はそれによってそれを実行することが生まれつきできないのだ。

生まれつき普通の人間なのだ。



右にならえ、前を向け、下を向くな、頑張れ、負けるな、ありがとう、ごめんなさい、そうやって生きてきた。



なんて。



なんて。




俺、可哀想。





そんなことを考えながら毎日健常者と偽善者という仮面を被りながら生きる日々。



午後6時55分。

ある日、帰り道になんとなく近所の公園に立ち寄り、寂れたベンチに座りやや猫背気味でため息を吐く。



にゃあー



一匹、、いや何匹だろうか、きっと餌をやっている人がいるのだろう。

結構な数の野良猫たちが木陰に身をひそめじゃれあったり、与えられた餌を食べたり、眠ったりしている。



俺と同じで孤独だな。

可哀想に。

でも可愛いな。とても。あどけなくて愛らしい。うちで飼いたいぐらいだ。そしてなにより、なんて、



美 味 そ う な ん だ ?




俺は思わず両手で口を塞いだ。

いけない。

と同時に悪魔が囁いた。


アレは人間じゃないぞ。人殺しにはならない。しかもあんなに沢山いるんだ。一匹くらい連れて帰ってもバレないさ。

見てて孤独で可哀想なんだろう?なら助けてやれよ。そしたらお前は救世主だ。正義のヒーローだ。飼いたいんだろう?解体んだろう?食べたいんだろう?猫ってどんな味か確かめてみたくない?バラした時、どんな声で鳴くか、骨肉がどんな悲鳴を奏でるか聴いてみたくない?



午後7時過ぎ。

俺はコンビニの弁当の袋に手頃な子猫を詰めた。



かチャッ。

帰宅。

袋をぶちまける。

ドスっ。

鈍い音。


生憎俺は一人暮らしで自炊もめったにしない。調理器具は新生活をはじめて買ったきり、埃がかぶったままだ。


料理、料理ってなんだ?



包丁の握り方も切り方もよくわからないし、肉の部位は焼肉で行くから牛ぐらいしかわからない。

魚の三枚下ろしなんてものもできないので猫の三枚下ろしも不可能なのは明白で。


とりあえず切り分けてみることにした。


首。ぎちぎちぎちぎちぐりゅぐりゅぶしゅあぐにゃぐゅゴトン。

子猫なので案外数秒で終わった。

というか案外鳴き声という鳴き声がなかった。


次、足4本。ゴトン、ゴトン、ゴトン、ゴトン。あまりにも軽快。ゴトンゴトンいいすぎて電車に揺られている気分だ。


あとは胴体を食べやすい大きさに切り分けたいところだが内臓やら骨やらがあってややこしい。



とりあえず骨は食えそうにないなと思った、というのも魚の骨は食べない主義だし、チキンの骨も食べないからだ。


だからまずは縦に割いて、肋骨らしきものを取り除き、腰椎や骨盤等を捨てた。

まあ細かいものは口に入れたときに魚の小骨を口から出す感覚でいいだろう。



とりあえず料理法が思いつかないので鍋に子猫の頭、足、尻尾、内臓、胴体をぶち込み水を張り、冷蔵庫にあったいつのものか分からない赤味噌で20分程煮込んでおいた。



20分後蓋をあける。

今まで嗅いだことのない異臭がした。と、同時になんとも芳しくも香ばしく、懐かしい母の味噌汁の安心する匂いがした。



味。内臓は煮込んでどこがどこかもうわからないが食べてみる。

赤味噌がいい具合に臭みを消している。グニグ二感がくせになり後引くおいしさ。どこの部位かわからないのが残念だ。部位によってはコリコリしたりズルズルしたりトロケタリ、様々で苦くて食べ辛い部分もあったりもした。

足は正直俺は豚足派だったが嫌いではなかった。

尻尾は尾椎があるのでむしゃぶるように食べた。


顔が一番食べづらかった。

なにせ骨が多い。

ただ、目は絶品だ。国宝だ。目だけに目が覚めた。

あとで目のどこが美味しかったのか知りたくてインターネットで調べたぐらいだ。

しかし、硝子体が美味しかったのか、腹側直筋が美味しかったのか、角膜が美味しかったのか、眼瞼筋が美味しかったのかわからなかった。だがもうそんなことはどうでもいい。

ただ明日もあの公園に行こう。



それから毎日あの公園に日が暮れると通い、猫を一匹ビニール袋にぶち込んで連れて帰った。


日に日に俺の料理の腕も上がり、最近ではマリネにしたりチーズフォンデュにしたり、小腸をうどんに見立てて猫肉うどんにしたり、猫耳グラタンなんて可愛いモノを作ったりできるようになった。


ただ、一つ不安がある。


公園から猫の数が減ってきたのだ。


そして俺の今の体は猫しか受け付けなくなってきている。


猫と一緒でなければ普通の食材が喉を通らない。








そして猫がいなくなった。






もう猫以外受け付けなくなった舌、胃袋。



日に日に痩せ細る身体。



なにも受け付けない。



何も飲めない。食べれない。



普通の食材を無理矢理飲み食いするとおぞましい嘔吐に襲われる。



猫の体液や血液が愛おしい。


猫の肉や内臓が愛おしい。



涙が頬を伝う。




、、、、、涙?





そうだ。俺の身体は猫で出来ている。

それならばこの涙も猫の一部かもしれない。


俺は涙を舐めてみた。


しょっぱい。


不思議と吐き気がしなかった。


涙がどんどん溢れた。


俺は。


止まらなかった。



俺の腕をかじり静脈も動脈も歯ですり潰し筋繊維も食いちぎり奥歯で噛み締めもう止まらないおいしいおいしい猫の味がする猫だ猫だ俺は猫なんだにゃあー。

口の届くところはただただ生き絶えるまで俺を食べ尽くしたにゃー。



顔と心臓、膝下、性器だけが部屋に残されていた。













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