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秋風スクエア  作者: 夏村 傘
#4 太陽と月の花
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#4 太陽と月の花 2

 商店街の一角にひっそりと立つ空きテナントビルの三階。殺風景な灰色の一室が、エリオと真柴健吾の待ち合わせ場所だった。

 ちょっと暴れるには良い広さだな、と思いつつ、エリオは目前の相手を見咎めた。

「ヘイ。来てやったぜ、アミーゴ」

「あなたに兄弟を名乗られる覚えはありませんね」

 対面早々これである。日本人は実にノリが悪い。

「で、お前の前にいるそこの坊ちゃんは何だ?」

 エリオがここに来て一番気になっていた疑問を、さっそく言葉にして表した。

 あのラブレターの文面から察するに、この部屋にはエリオと健吾しか訪れないものと思っていた。だが、いま健吾の前に引っ立てられている制服姿の小僧は一体何者なのだろうか。まさか、この期に及んで人質を取るつもりもなかろうに。

 健吾は底意地の悪さを顔に出した。

「なぁに、ちょっとした余興ですよ、ミスター・ベルガメリ。私と真剣勝負を行うにあたり、過去の遺恨を解消してみては如何かと思いまして」

「おいおい、お互い初の顔合わせじゃねぇか。特に恨み合う関係でもなかろうに」

「いいえ。あなたと、この少年の、ですよ」

 はあ? と声に出したくなる衝動を抑えて、エリオは少年の人相をまじまじと確認する。だが何秒見つめたところで、エリオの認識は「変な男の前に引っ立たされて怯えているただの未成年」から一切変わらない。

 エリオの反応を見咎めた健吾が肩を竦める。

「まあ、ご存知無いのも無理はない。この少年は小舘昭一といいまして、四季ノ宮高校全日制の二年生。この町の教育委員会教育長の息子で、学校の中ではスクールカースト上位、バイトもせず親の金を貪りつくしては増長するだけの、有り体に言って金の力だけでのし上がったような下らない男です」

「そいつの生い立ちはどうでもいい。与太を続けるならそいつごとお前をぶった斬って頭をゴミ箱に投げ込むまでだ」

 あからさまな脅し文句を伝えたつもりだが、いまの話を聞いて、少々本気でやってしまいたい衝動に駆られそうになった。長年殺しのエキスパートとして生計を立てていたつもりだが、まだまだ心がけが未熟なのかもしれない。

「まあまあ、気を急いても一文の得にもなりはしませんよ」

 健吾が気を取り直すように言ってから二の句を継いだ。

「あなたはかつて、全日制と定時制の間で生まれた闇の掟で弟君を失っていますね」

「それが何だ?」

「単刀直入に言いましょう。この少年はね、何者かがあなたの弟にしたのと同じ事を、今度は一人のいたいけな少女にしようとしたのですよ」

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 ただ黙って怯えているだけだった昭一が、ようやく悲鳴みたいな音を上げる。

 同時に、柩に収まった弟の死に顔がエリオの脳裏を掠めた。もう二度と見たくない、悪夢のような光景だった。

「無論、エミーリオ・ベルガメリの仇は彼ではない。だが、同じ事をしようとしているという点では、ある意味仇の再来と言える存在なのでしょうよ、彼は」

「は、話が違うじゃないっすか! 俺はただ見学してるだけでいいって……!」

 口角から泡を飛ばして喚き散らす昭一の、なんと見苦しい事か。とはいえ、この少年が此度の事件で何らかの形で『三叉槍』に協力していたという事実が、いまのやりとりだけでも充分に伝わってきた。

 昭一の反論を無視して健吾が話を進める。

「秋津あかりと野桜緑子の会話を盗聴、録画して、学校中に音声を広めようとした。内容は、全日制の彼女らと定時制の立風夜市、ユリア・ザハロフとの接触を示唆させるような、決定的証拠とも言える会話ですよ。これだけでも、四季ノ宮の全日制生徒は過剰に反応する。この少年は、自分の知り合いにこの音声記録を流す事で、秋津あかりを追い詰めようとしたのですよ。まあ、そこに至るまでの経緯は下らないの一言ですがね」

「長広舌ご苦労さん。で、お前は俺にどうしろと言いたいんだ?」

 エリオは可能な限り感情を押し殺し、どうにか見かけだけ余裕そうに訊ねた。しかし健吾は本当の意味で万事余裕そうな面持ちで言い放った。

「斬って良いですよ、彼」

「何だと……?」

「ええええええっ!?」

 驚く昭一の声がやかましい。とはいえ、仕方ない事として割り切る事にしよう。

 しかし、いまあの男は何と言った? 俺に、あの小僧を斬れって言ったのか?

「あなたが許せないのは二つ」

 健吾が毅然と告げる。

「一つは、弟君を自殺に思い至らせるような、ある種洗脳的とも言える学校の制度そのもの。二つ目は弟君の安否に対してもう一歩分だけ気を配れなかった自分自身。だが、それはそれで妙な話だ。あなたは何故、弟君を殺害に導いた張本人達を探そうとしなかった? 唐沢一家の力を借りれば、彼への迫害に加担していた生徒を見つけ出して、小指の一本を詰めるだけで復讐を終えられたかもしれないのに」

「俺の稼業は暴力じゃねぇ。一方的な殺しだ。んなチャチな感情の為に俺が動くか? んな事をして、エミーリオが喜んだか?」

「そうでなくても、あなたには彼を斬るに足る理由がある」

 健吾の口調はやはり確信的だった。加えてあの自信、あのポーカーフェイスといい、あれは稼業柄何度も接してきた詐欺師連中のそれと全く同じではないか。

 だったらなおさら、彼の話術に引っかかって思い通りに動いてはならない。

「あなたの弟君のような凄惨な最期を遂げる者を、あなたはこれ以上増やそうとは思わないでしょう? だったら根元を叩くのが手っ取り早い。新種のウィルスに対抗できるのは、既に病のとばっちりを総身に受けたあなたというワクチンのみ。死んだ弟君――エミーリオ・ベルガメリも、こんな死は自分で最後にしたいと天国で願ってる筈でしょうに」

 相手の語り口に徐々に熱がこもり始めてる。これはまずい。まるでお涙頂戴の説得を受けている悪人のような気分になってしまう。

「あなたはもう悲しみから解き放たれるべきなのです。さあ」

「ちょ、嘘でしょ? 本気? ねぇ、本気?」

 昭一が青い顔をして手を振り、逃げ道を探そうと必死に視線を巡らす。だが、エリオが出入り口側の扉を塞いでいる以上、彼に逃れる術は無いに等しかった。あとは背後のガラス窓を突き破って飛び降りるぐらいだろうが、地上三階から飛び降りる度胸が果たして彼に備わっているだろうか。

 いや、もうどうでもいい。いま目の前にいる愚かな男子高校生は悪夢の再来とも言える存在だ。こいつを斬れば、俺は柩で眠る弟の死に顔を、雨の日の葬式を、火葬場で灰と化した弟の遺骨を――恋人の死に嘆く、彼女の泣き顔を夢の中で見ずに済むのだろうか。

 それに、雅と話したではないか。俺の弟とその恋人の再来みたいな二人――立風夜市と秋津あかりを守るのだと。いままさにあかりは、こいつのせいで殺されかかったというのに。

「くっ……ぉおおおお……!」

 湧き上がる感情の怒涛が、理性と拮抗してせめぎ合っている。エリオの手はサーベルの柄へと伸び、いままさに鞘を払おうと力を入れている。そういえば、『三叉槍』の誰かと殺し合いになるとだろうと踏んで持ち出した愛用の得物だというのに、何でいままで腰に吊り提げたこいつの重みを忘れていたのだろう。

 そうだ。抜いてしまえ。そして、暴力的に奴を斬り刻め。形も残らない程に、肉片と骨の欠片を殺風景な一室の床へと撒き散らせ。

 健吾がにやりと笑う。昭一が今度こそ、目をひん剥いて後ろへとすっ転ぶ。

 殺せ、殺せ。いますぐ殺せ。俺の悪夢はもう覚め頃だ――

「駄目っ!」

 エリオの意識を狂気の底から引き戻したのは、出入り口から響き渡った女の金切り声だった。

 さらさらの長い髪。バイト中だったのだろう、花屋の黒いエプロンをつけたままの若い女が、青ざめた形相でこの現場を視界に収めていた。

「優香……何故お前が……!」

 佐々木優香。この町で取り分け有名なフラワーショップの看板娘。

 弟――エミーリオ・ベルガメリの、当時生前まで恋人だった女性だ。

「おや? これはまた見た目麗しゅう女性が……」

「エリオさん、お願いだからやめて下さい!」

 健吾の茶々に付き合わず、優香がまっすぐこちらを見据えて叫んだ。

「配達中にここへ入っていくエリオさんの姿を見て……気になったから追ってきたんです。そしたら、エミーリオの話が出てきて……どういう事なんですか、これは?」

「…………」

 エリオとしては答えに窮するしかなかった。まさかこんなタイミングで、あの悪夢の重要参考人が現れる事になろうとは。そんな彼女にこれはどういう事だと訊かれて、答えられる奴がこの世界の何処にいる?

「なるほど、弟君に想い人がいるというのは存じていましたが、まさかあなたの事だったとは」

 沈黙を破り、健吾が邪に口元を歪めた。

「どうせいままでの流れは盗み聞きしていたのでしょう? だったら、いまここであなたとミスターが何をすべきか、もう既にお分かりでしょうに」

「あなたなんかに関係無い! 黙ってて!」

 嫌悪感をむき出しにして優香が叫ぶ。

 言われてみれば、たしかに目の前のサラリーマン風の男には、エリオと優香の悪夢の行く末を決める権利なんて与えられていない。

 そうだ。あんな奴に何を言われても、俺の心を決めるのは俺自身だ。

「俺が――どうしたいか」

 エリオは呟き、青い顔をして部屋の真ん中で立ち往生する昭一と、出入り口で震える体を必死に意思だけで支えている優香を交互に見て、最後に深い溜息をついた。

「……ああ、クソッ。もう何が何やら」

 ついに腹は決まった。エリオはサーベルの柄をがっちり掴み、抜刀。前方に駆け出し、昭一へと肉薄する。

「ひっ……うわぁああぁ! 来るな、来るなぁ!」

「邪魔だボケナス、はよ退け!」

 とりあえず、視界を塞ぐ高校生型トーテムポールを柄頭で殴って退かし、向こう側への進路を開く。エリオのターゲットは当初と変わらず、真柴健吾ただ一人。

 健吾も腰に提げていた西洋サーベルを抜き、エリオが振るった縦一閃の斬撃を刃で受け止める。

 西洋サーベル同士が鎬を削る中、エリオが健吾に顔を寄せて言った。

「よう、日本人。さっきはよくも退屈な弁舌を繰り広げてくれたな」

「あなたこそ、さっきの茶番は中々楽しませてもらいましたよ」

「こいつが茶番なら、てめぇのは学芸会の出し物か?」

 互いに剣を弾いて距離を置く。健吾は有り体に言ってフェンシングのような構えを作り、剣の先を小刻みに揺らし始める。

「Prets?」

「……フェンシングか」

 相手の構えを見咎めたエリオが、背後の優香へ肩ごしに目を向けた。

「優香。お前はそこにいろ」

「何が始まるんですか?」

「剣客同士の一騎打ちさ。こっからが本番だぜ」

 相手が型に嵌った構えに徹するのとは反対に、エリオはただ片手で保持した西洋サーベルを体の前に置くだけだった。別に、健吾のように一定の競技に精通している訳ではないので、こちらの構えなど自分をしてどうでもいい。

 だが本気である以上、相手の流儀に乗っかっておくのも悪くはない。

「Oui.」

 これが本当のフェンシングなら、自分だけでなく相手も同じように応じてから試合を始めているところだが、こちらの同意を求める人間が主審ではなく対戦相手なので、形式もへったくれもありはしない。

「Allez!」

 試合開始の合図。健吾が踏み込み、いきなりの乱れ突き。

 フェンシングの動作は大きく分けて三つ。一歩前に出る「マルシェ」、一歩後退の「ロンペ」、突きの「ファンデヴ」。他にも様々な技が存在するが、フェンシングという競技がそもそも「ピスト」と呼ばれる細いマットの上で試合を進める競技である為、大抵は前進と後退が移動の基礎となる。

 だが、これは本物の斬り合い、殺し合いだ。型があってもルールは皆無。ただ相手を再起不能にした方が勝ち。健吾もそれをよく心得ているのか、振るわれる剣は乱れ突きだけでなく、横薙ぎや真横への回避なども多様してきた。

 ああ、うざってえ。何が嫌かって、相手の突きがこちらと相手の間合いを阻んでるあたりがもうやってられない。

 と、エリオは剣を投げやりに振って相手の攻撃を捌きながら思うのであった。

「どうしました? さっきから防戦一方ですよ?」

 健吾が攻撃の手を緩めないまま軽口を叩く。

「ほらほら、早くしないといつかグサりですよ? ほれ、ほれほれ」

 言葉で揺さぶり、剣で鎧通しばりの一撃必殺を狙ってくるとは、殺人、詐欺、恐喝、電子犯罪の多重容疑で国際指名手配されているだけはある。

 真柴健吾。ある事が原因でエリート商社マンから詐欺師兼人斬りへと華麗なる転職を遂げた、裏社会でも有望株とされている遣り手の一人。詐術と戦闘能力に長けている分、どの相手からも畏怖されるなり一目置かれるなりで、いま色んなマフィアやテロリスト集団から引っ張りだこらしい。

 だがな、日本人。お前がいくら強かろうと、俺には決して勝てないんだよ。

 そろそろ見せておいてやろう。格の違い、という奴を。

「行くぜ――エミーリオ」

 一閃する剣に、弟に対する弔いの想いを乗せる。横薙ぎの斬り払いを健吾のサーベルに直撃させ、刃に小さなヒビを入れてやった。

「なっ……」

「お前に関して許せない事が二つある」

 剣を振り抜いた姿勢から立ち直り、エリオが駆け出した。

「一つ。俺の弟をタネに俺のトラウマを蘇らせた事」

 豪腕乱舞。嵐のように振るわれた斬撃が、今度は健吾を防戦一方に追い立てる。

「この……!」

「二つ。これが一番許せない」

 西洋サーベルの怒涛を止め、前蹴りを健吾の腹に叩き込む。彼の体は奥の壁へと叩きつけられ、背中と接触したガラス窓が歪な音を立ててひび割れる。

「俺は殺し屋だ。標的が高校生のクソガキだろうが、始末の依頼なら前金の用意が先だろうが。ユーロ紙幣が入ったトランクは何処だ、オラ!」

「え? そっち!?」

 健吾が予想外の発言を受けて仰け反るが、あいにく背後はひび割れたガラス窓で阻まれている。つまり、もう逃げ場はない。

 エリオが一瞬で相手との距離を詰め、剣を振りかぶる。

「や――やめ……っ」

「金の切れ目が縁の切れ目だ。覚えとけ、このド腐れ日本人!」

 全力の水平斬り。血の華を咲かせた健吾の体が背後のガラス窓を突き破って部屋を乗り越え、地上三階から商店街の道路に叩きつけられた。突然の惨事に道行く通行人が騒然となるが、彼らは驚いて慌ててるだけだったので、すぐに警察や救急車にコールする人はまずいなかった。

 先程まで口達者だった男の物言わぬ亡骸を見下ろし、次にエリオは部屋の隅でガタガタと震えて縮こまっていた昭一のもとへ歩み寄り、彼の胸ぐらを掴み上げた。

「一度しか言わないから覚えておけ。今回お前がしでかした事に関しては、たった一回だけの温情で見逃してやる。だがな、似たようなバカをもう一回してみろ? たったいま詐欺師野郎を斬った俺のサーベルでカマ掘って、クソ塗れのサーベルに代わる新たな得物の弁償代をてめぇの保険金から天引きしてやる。いいな? 分かったらハイかイエスで答えろ」

「は……はい……っ」

「オーケー、日本人。俺の気が変わる前に、とっとと失せろ」

 エリオが胸ぐらを離すと、昭一は恐怖に引きつった顔のまま、この部屋から慌ただしく飛び出した。二度と見たくない顔だったので、急いでくれた点に関しては褒めておいてやろう。

「エリオさん」

 事の成り行きを不安げに見守っていた優香が、か細い声で呼びかける。

「すまなかったな。嫌なモン見せちまって」

「いいの。たしかに怖かったですけど、ちょっと安心しましたから」

「何?」

「許したんですよね。過去の事も、いまの事も」

 優香の表情が微かに安らいだ。この場面にあって、気丈な事だと素直に思った。

「一生許せないって思えた事を許せたんです。きっと、エミーリオもあなたを誇りに思ってます」

「どうだかな。死人に口無しって言うしよ」

 もうエミーリオに何を問うても、帰ってくる答えは沈黙だけだ。だから重要なのは、自分が自分の為に、自分自身の答えを導き出す事だ。

 それに、もう俺の悪夢は覚め頃だ。

「優香、お前はすぐにここを離れろ。後始末は俺がする」

「……はい」

 まだ騒ぎはこれで終わりではない。早く雅達の救援に向かう必要がある。優香を送り出したら、とりあえず電話で夜市に状況の確認を――と思った矢先、携帯電話の電子音が甲高くエリオのポケットから鳴り響いた。

 相手は唐沢一家の固定電話からだった。

「どうした?」

『エリオさん? 俺です。立風です』

 意外にも、電話の相手は立風夜市だった。さっき通話したのだから、着信履歴からこちらに掛けてくれば良いものを、何でわざわざ唐沢一家の固定電話から掛けてきたのやら。

 答えは、次の夜市の発言から得られた。

『とりあえずあかりと野桜先輩の様子を見に屋敷に来たんですが、二人共見つからないんです。構成員の人達も生きてはいますが、全員何故か健康的に眠ってます。これは一体どういう事ですか?』

「何だと?」

 たしか雅も屋敷の中にいた筈だ。彼がいる以上、余程の事が無い限りは屋敷が一番の安全圏なのだが、これは一体何の冗談だろうか。

「雅はどうした? 奴はどこへ行った?」

『分からないです。これはあくまで予想ですが、もしかして他に何かヤバい事が起きて、雅さんまで出陣せざるを得なくなったと考えたら?』

「だよな。一応、家は雅が不在でも警備は万全だしよ」

 唐沢一家の構成員はあかりと緑子を護る為に、家の四方を強固に方位している筈だ。だから雅が一人欠けたところで家の防御力には何ら問題は無いのだが、もしその牙城を突き崩したとなると、相手は雅やエリオ以上の手練という事になる。

「何にせよ、お嬢ちゃん二人が消えた理由が気になる」

『俺、ちょっと探してきます』

「待て。たしかさっきお前、組の奴らが――」

 相当慌てているのか、今度はこっちが一方的に通話を切られた。話には聞いていたが、余程あかりの事が心配と見える。

 しかし、これでエリオの今後の行動が決まってしまった。

「……優香。前言撤回だ」

 電話の成り行きを心配そうに見守っていた優香に、エリオは苦々しい顔で告げた。

「悪いが一緒に来て欲しい。お前を一人にもしておけなくなった」

「何かあったんですか?」

「とりあえず、唐沢一家の組員を介抱してやってくれないか?」

 相手が無駄な殺しをしない連中で心底安心した。もし相手がただの殺人狂なら、一家の連中はいまごろ血だるまの刺身だっただろう。雅にこの体たらくが見つかる前に、さっさと一家の屋敷に戻る必要がありそうだ。

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