第五十七話「名前」
なんて良い娘なんだ……。
私だったら引いてしまうような頼み方をしたのに、この返答。
むしろ私がミオレちゃんを崇めたいですん。
「えっと、お名前ですよね。うーん、少し考えさせてくださいね?」
ミオレちゃんは、ウンウンと頭を悩ませながら私の名前を必死になって考えてくれている。
悩み方がなんとも可愛らしいっ。
そんなことを思いながら、ミオレちゃんを眺めているとはハッとしたような表情を浮かべた後に、ニッコリと笑顔を浮かべながらこちらを向いた。
「もしかして、何か思いついたのですか?」
「はい! その、アテラ……なんて名前はどうでしょう?」
「アテラ……良い響きですね! 何か意味とかあるのでしょうか?」
なんというか綺麗な感じがする。
私にはとても思いつかない名前だ!
このオークの姿を見て、私が客観的に名前を付けたとしたらブラオクちゃんとかそんな感じになっていたと思う。
「はい、アテラというのは夜になると浮かぶ、大きなお星様の名前なんです。こちらの大陸からでは見られないみたいですけど、ソアレ様の御力を蓄えていると言われていて、夜でも外を明るくてらしてくれる存在なんですよ」
ふむん?夜に浮かぶ大きな明るい星……。
地球で言うところのお月様、つまりはこの星の衛星ってことなのかな?
ソアレ様というのは神様と思わしき存在だったっけ。
頭がこんがらがってきたよん。
「そうなんですか! アテラという名前、とても気に入りました! これからはアテラと名乗って生きていきたいと思いますっ」
嬉しくて元気いっぱいに答えてしまったよ。
ちょっと照れくさい。
「えっと、アテラ様はソアレ様のご眷属のお方なんですよね? アテラ様のお名前の由来については、ご存じなかったのでしょうか?」
あっ。
そういうことになっていたんだったっ!
やっぱり、勘違いとはいえ嘘はいけないよねん……。
「その、今更で申し訳ないのですけれど、私はソアレ様の眷属というわけではないのです。気が付いたら、とある洞窟で目を覚ましたという状況で……神様ではなく髪の毛、なんです。ごめんなさい。」
正直に話してしまった……。
ガラにもなくミオレちゃんの反応を見るのが怖い!
「あっ、そうだったんですね! 私が勝手に勘違いしてしまっただけですから。それに、アテラ様が私の命を救ってくださったことには変わりありません」
やっぱりミオレちゃんは良い娘だ……。
感動でオークの目が涙目になっているかも。
「あれ? でも、髪の毛ってどういう意味なんですか?」
「これ、……です」
私はオークの禿げ上がった頭上にある一本の黒い髪の毛、即ち私の本体を指さして本体をクネクネと動かしてみせる。
「か、髪の毛が動いてる!?」
流石のミオレちゃんもこれにはビックリしたようだ。
うん、そうだよね。
動き方からして、虫っぽいしねん……。
「これが、私の本当の身体なんです。こうやって付着した生き物の肉体を操ることができるんです。」
「は、初めて見ました……。ということはアテラ様は魔物さんということなんでしょうか?」
やはり動く髪の毛の魔物というのはメジャーではないらしい。
「分類上はそうなると思います。ただ……信じてもらえないと思いますけれど、私の意識は人間のものなのです」
あえて私が転生した元人間であるということをバラしてみる。
短い会話ではあったけれど、ミオレちゃんは信用に値する人間に思えるし他に”転生”という例があるのかどうかも分かるかもしれない。
「信じないなんてそんな! でも髪の毛の魔物さんなのに意識は人間……、そのようなお話は初めてお聞きしました。どうしてそのようなことになったのですか?」
やっぱり転生なんてそうそうあることじゃないですよねー。
「それは私にも分かりません。気が付いたら私はこの身体になっていました。人間だった頃に死んだ覚えもない上に記憶も曖昧でして……」
こうなってしまった経緯を次々に話しているとミオレちゃんが私を励ますように、安心させるような笑顔を向けてきた。
「それはお困りですよね……、私にできることがあれば何でも言ってください! もうアテラ様は一人じゃありませんからっ」
ミオレちゃん、これ以上されると……本当にあなたに惚れちゃいますよんっ。




