第一話「転生?」
気が付いたら、髪の毛になっていた。
何を言っているのかわからないと思うけど、俺にもわからない。
昨日の夜はいつも通りにゲームをして、眠くなったからベッドで普通に寝たはずだ。
あとは肌寒さを感じて目を覚ましたら、髪の毛?として地面に転がっていたというわけさ。
ハハハッ、自分で事の顛末を思い出しても笑うしかない。
初めは夢だろうなどと思っていたんだけど、それもなさそうだ。
だってもう髪の毛として目を覚ましてから数時間は経った気がする。
何もない洞窟のような場所に転がっているだけだから暇で暇で仕方なく体感時間は遅いかもしれない。
まだ数十分の可能性も微レ存。
その間、何かできることはないのかといろいろと試した。
その結果を報告しようと思う。
まず、人間で例えると死ぬ気でやって僅かに動かせるような数十kgの重量物を持ち上げるくらい頑張れば一応動くことはできるようだ。
クネっと毛先のほうを動かすことができたのである。
次は視覚に関してだ。
これに関してもよくわからないんだけど、毛の部分であるなら自由に目を移動させることができるようだ。
そもそも目として存在しているのかすらも自覚できない。
目が乾くという感覚はないし瞬きもできない。
目(暫定的に)を移動した先から元の場所を見ても艶やかな黒のキューティクルが存在するだけだ。
この髪の毛の本来の持ち主はきっと綺麗なストレートヘアーをしていたのだろうと思う。
なんなんだろう、この状況は。
最近、Web小説で流行りの異世界転生でも果たしたというのだろうか?
それならそれで、チートの一つや二つ用意してくれても構わないんだよ?
とりあえず、テンプレではあるけれど試してみる価値はあるだろう。
そう!皆さんお馴染み、ステータス画面を表示させる事ができるのかどうかを!
どうせやることもないし、誰かが見てるわけでもない。
そもそも髪の毛だし恥も外聞もないだろう。
ならば、高らかに歌おう!テンプレートスペルを!(喋れないから心の中で)
いくぞ! ステータス!!
──────────
種族:アンノウン・ブラックヘアー
LV.1
HP:0.1/0.1
MP:0/0
筋力:0.1
耐久:0
敏捷:0
魔力:0
スキル
なし
──────────
目の前にゲームでよく見るような半透明の画面が表示されたことに喜んだのも束の間。
ある意味、予想通りの能力値に俺は絶望したのだった。
てか、ふざけた数値だけど筋力は一応あるのね……髪の毛なのに。
体感時間にして十分間ほど呆然としていたのだけれど、とある感覚に何とか気を持ち直す。
信じられないことに空腹を感じてきたのだ。
この身体……口とかないんですけど。
それ以前に、胃袋もないですよね?
いや、俺が自覚していないだけであるのかもしれない。
はるか昔の人間だって学校で習う機会もなかったのだ。
胃袋の存在なんて自覚もしていなかっただろう。
それでも、お腹に食べた物が溜まっていくのは自覚できるよな……。
と、まぁ自分を憐れんでいても仕方ない。
俺が人間だった頃だって、もしかしたらその辺に落ちていた髪の毛にも生命が宿っていたのかもしれない。
これが鼻毛や陰毛、鼻くそなどでなかったことを運が良かったと捉えるんだ。
上を見れば果てしなくキリがない……。
下を見て安心感に浸ろう……。
俺は崇高な魂を持つ人g……髪の毛などではないんだから。
ともかく今は空腹対策を取らなければならない。
髪の毛が栄養を取る方法ってなんだろう?
もしかしたら目のように口も自在に出現させることができるのだろうか。
いや、ここはアレだろう。
○ート○イチャーなどでお馴染みの植える手法。
なんらかの生物の毛穴に我が毛根を挿入するしかないのではないだろうか。
前世では叶わなかった、脱・童貞である。
どうせなら美少女相手が良い。
ここで超美少女が通りかかるのを待ち構え、その毛穴目指してダイブする。
それしかない!
それには、まずダイブできるだけの筋力が必要だろう。
改めてステータス画面を表示してみるとしよう。
──────────
種族:アンノウン・ブラックヘアー
LV.1
HP:0.07/0.1
MP:0/0
筋力:0.1
耐久:0
敏捷:0
魔力:0
スキル
なし
──────────
えっ。
知らない間にHPが減っていた。
これは、どういうことだろう。
俺はダメージを受けた記憶はない。
ただ地面に転がっていただけなのだ。
まさか、空腹の影響なのか?
HPが減るような理由といえば、もうそれしか思い浮かばない。
どうやら超絶美少女を待ち構えている余裕などないようだ。
ここは今のところ人間どころか生物すら見かけない。
あるとすれば今の俺からしたら遠く離れたところに生えている雑草くらいなものだ。
ん? 雑草?
そうか!その手があったか!
どうして思い付かなかったのだろうか。
もしかしたら、意味がないかもしれない。
しかし、試してみる価値はあるだろう。
俺は今、母なる大地と一つになる。