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 ガウエンがローエンに師事してから、ちょうど一年が経とうとしていた。


 出会った時も暑い夏真っ盛りの頃であったが、一年経った今も夏のさなか、その茹だるような暑さにガウエンは汗を滴らせて歩いていた。

 直ぐ横を歩くローエンも、容赦なく降り注ぐ陽射しに顔をしかめると、手を翳し残った片方の目を恨めしげに空に向ける。


「ガウエン、少し休憩と致そう」


 そう言うと、ローエンは直ぐ脇に立つ大樹の下、そこにある切り株に腰を下ろした。そして、懐から手拭いを出し、顔や首筋に流れる汗を拭き取る。しかし、たちまち玉のような汗がまた吹き出してくる。


「師よ、先ほど通った近くに川が流れてたのが見えました。そこから水でも汲んで来ましょう」


 ガウエンが声を掛けると、顔を歪めて不快な様子であったローエンは、その表情を僅かに緩めて答える。


「おぉ、そうだな。頼めるか。ついでに、この手拭いも川に浸して来てもらおうか」


 ガウエンは頷くと、軽やかな足取りで今来た道を駆け戻っていく。この一年で見違えるほどに体は引き締まり、すっかりと、一端の大人びた雰囲気を漂わせるガウエンであった。

 走り去るガウエンの背中を眺め、ローエンは目を細めて笑みを浮かべていた。



 ガウエンとローエンの二人の師弟は、既に最初に居を定めた山小屋から離れていた。

 元々、ローエンは一ヶ所に住居を定めぬ流離人。過去に余程の事があったのか、極端に人との交わりを嫌う。だから、近隣の村とある程度の交流が生まれそうになると、ぷいとその地を離れてしまうのだ。

 今は、ガウエンの鍛練を続けながらであるが、二人して辺境の村から村へと渡り歩き、たまに某かの仕事を請け負ったりしている。今回も、立ち寄った村で頼まれ、近くの山中に群れる狼退治に乗り出していたのである。

 その狼だが、主に夕方から動き出し、村の家畜などを夜中に襲うという話であった。だから、昼の間に狼達の行動範囲や、上手くすればねぐらでも分からぬものかと、二人はその痕跡を追っていた。



 ガウエンが歩いて来た道を駆け戻っていると、さらさらと水の流れる涼しげな音が聞こえてくる。立ち止まり周りを見渡すと、少し崖になった場所の下に、せせらぎとなって流れる小さな川が見えた。その崖を躊躇なく駆け降り岸辺に辿り着くと、先ずはと、自分の頭をざぶんと突っ込んだ。


「ふぅ、生き返る!」


 髪の毛に付いた滴を頭を振って払うと、ガウエンも人心地が付き気持ち良さげに表情が緩む。

 手拭いを川の流れに浸し、腰に括り付けていた皮袋も川の中に沈める。その皮袋に水を流し込みぱんぱんに膨らますと、ガウエンの表情にもようやく笑顔がこぼれた。そして、最後にもう一度、喉の渇きを癒そうと川面かわもに顔を近付けていると、何者かの影が水面に映るのが分かった。

 ガウエンはその気配に、ふと顔を上げる。


「……むっ!」


 しかしそれは、人ではなかった。向こう岸に、三頭の狼が物音も立てずに佇むと、静かにこちらを窺っていたのだ。


 どうやら、くだんの狼達もこの暑さに当てられ、川へと涼みに来ていたようであった。

 野性の獣は警戒心が強い。しかし、この暑さで集中力を欠き、周囲への用心を怠っていたようだ。だが、それはガウエンにもいえること。

 そして、向こう岸といっても、一足飛びに越えれるほどの幅しかなく、水深も膝までしかない小さな川。それに、お互いが逃げ出す事も出来ぬ距離。双方の注意力が散漫となっていたために、突然の遭遇戦が始まったのだ。


 ガウエンは、水を掬うために川の中に入れていた両手を、そろりと抜き出し腰の剣に伸ばそうと……。


「ガルゥゥ……」


 その時、背後から唸り声が、それと同時に、背中にぞくりと悪寒が走る。咄嗟に、転がり込むようにして川の中に飛び込んだ。

 さっきまでガウエンの首筋があった場所に、鋭い牙が並ぶ凶悪なあぎとが、「がちん」と音を鳴らして閉じられる。

 前にいる狼に気をとられ、背後から忍び寄る狼に気付かなかったのだ。


 気が付くと、前に三匹、後ろに三匹の総勢六匹の狼に囲まれていた。だが、幸いな事に、ガウエンの立てる水飛沫を、それよりも、川の中に入り水に濡れる事を嫌った狼達が、それ以上の追撃を仕掛けて来なかった。

 しかし、川の中にいるガウエンを挟んで、両岸にいる狼達は唸り声を上げると、逃げ出す事もなく、逆に殺伐とした視線を送ってくる。その様子から、ガウエンを狩りの獲物と認め、見逃す気の無い事が窺えた。


 ――これは……不味い!


 ガウエンは、自分の油断が招いた危機に、ほぞを噛む思いで剣を抜き放ち構える。


 野性の狼の狩りは、ある意味、人が集団となって襲い掛かるよりたちが悪い。その俊敏さもる事ながら、正面からは襲わず常に人の虚を付き、横から、或いは背後からと襲う。時には、正面からと見せかけ背後から襲ったりと、その連携の上手さは人に勝るほどだ。

 ガウエンもこの一年はひたすら鍛練に励み、それなりに剣を扱えるようになったが、何といっても剣を手に取りまだ一年。一匹、二匹ならまだ倒せるが、これが数匹に囲まれてとなると、やはり厳しい。


 じりじりと照り付ける陽射しの中、ねっとりと汗ばむのは暑さのせいばかりではない。


 ――やけに喉が渇く……。


 ガウエンは粘りつく額の汗を手の甲で拭うと、ひりつくような渇きにごくりと喉を鳴らす。


 川の中と両岸に分かれ、双方が動かず睨み合う。


 水嵩は膝下まで、流れもそれほどまで速くない。だが、川底の苔むした石に足を取られそうで、ガウエンは動くに動けないのだ。しかし、狼達もまた、唸り声を上げるだけで川の中に入るのに躊躇いを見せていた。


 ――どうしたものか……。


 こちらはひとり。向こうは六頭の狼。この緊張感の中、このまま時間が経てばガウエンが不利になるのは明らか。どうしても、先に隙を見せてしまうのは自分だと、ガウエンには思えたのだ。

 数回の深呼吸を繰り返し、ガウエンは覚悟を決める。

 狙うのは群れの頭だと思われる、体長が人の大人ほどもあるひときわ大きな一頭。


 ――あいつさえ倒せば……そのためなら、足の一本くれてやる。


 今回は狼退治だということで、膝から下は、竹を短冊状に編んだすね当ての防具を巻いている。

 これは、狼退治に出向く時に「これを巻いておけ」と、ローエンから渡されたもの。ガウエンが朝の鍛練をしてる間に、ローエンが拵えていたようであった。

 このすね当てが、狼相手にどこまで通用するか分からない。だが、わざと隙を見せ、足に噛み付かせたその隙に斬り捨てようと、ガウエンは考えていた。


「うおぉぉぉぉ……!」


 覚悟を決めたガウエンが、雄叫びを上げて岸辺に駆け上がる。すると、三匹の狼はばっと三方に飛び退き、ガウエンを囲むように距離をとる。二匹には目もくれず、狙いを定めた頭とおぼしき狼に、ガウエンは一気に走り寄る。が、そうはさせじと二匹の狼が左右から襲い掛かって来た。


 それを身を捩って躱し、横薙ぎに振るった剣が右の狼の首筋を断ち切る。その隙に、群れの頭と思しき狼が、ガウエンの左足に噛み付いた。

 狼の牙が、すね当ての竹を噛み砕き肌に食い込む。が、その割れた竹に邪魔され牙の尖端が少し足首に突き刺るだけ。途端に痛みが走るが、それはまだ我慢が出来る程度。正にそれは、ガウエンが考えてた通りの展開。


 ――今だ!


 狼の首筋目掛けて、ガウエンは剣を降り下ろそうと……。


 だがそれは、狼の力を見縊ったガウエンの失策。相手は、ガウエンと変わらぬ大きさの狼。その野性の獣が持つ力に、人が抗しきれるはずもない。

 剣を降り下ろす前に、狼が足をくわえたまま軽く首を振るだけで、ガウエンはあっさりと体勢を大きく崩す。


「あっ!」


 そして、そのまま地に引き摺り倒されると、狼がガウエンの体の上にのし掛かってくる。狼の片足が剣を持つ腕を、もう片方の足が胸の上からガウエンを押さえ付ける。


「がっ、があぁぁぁぁ!」


 鋭い爪が胸に食い込み、その苦痛に堪えきれず、ガウエンは思わず呻き声を上げる。


 例え防具を巻いているとはいえ、片足を野性の獣に差し出すとは、甘い考えというほかはない。だがそれは、まだ十八歳の、経験が乏しいガウエンには無理からぬ事であった。


 周りでは、向こう岸にいた三匹の狼もこちら側に渡り、唸り声を上げている。既に、ガウエンに一匹は倒されているのだ、かなり殺気立っていた。


 ガウエンの顔の上に、狼の口腔から溢れる涎が滴り落ちてくる。もはや、ガウエンが抵抗も出来ぬと見てか、狼の口辺が持ち上がり鋭い牙を覗かせていた。


 ――くそっ、こんな所で俺は終わってしまうのか。


 ガウエンの嘆きをよそに、狼の大きく開けた口が喉笛にせまる。


 だがその時……。


 「ヒュン」と、風切り音を響かせ矢が飛来すると、その尖端が狼の首筋にずぶりと突き刺さった。

 その衝撃に狼がよろめき、押さえ付けられていたガウエンの腕が自由となる。咄嗟に剣を立てると、目の前に無防備に晒す狼の真っ白な腹目掛けて、渾身の力を込めぐさりと突き刺した。そして、降り注ぐ血しぶきを浴びるのも構わず、喉元までぐいっと一気に切り裂く。


「ギャン!」


 一声あげてよろめく狼を、ガウエンは下から押し退け、剣を支えによろよろと立ち上がる。ガウエンを押さえ付けていた狼は、あっさりと横倒しに転がっていくと、もはや虫の息となっている。その瞳からは、急速に生気が失われいくのが見えた。


 周囲に目を向けると、スキンヘッドに厳つい顔をした大柄な男が、ちょうどこの場に駆け込んで来るところであった。

 その男は、胸や肩などの要所を薄い金属板に覆われた革鎧を着込み、ぼろ布の服を纏うガウエンとは違って、見るからに戦士然とした男だった。


「坊主、無事か!」


 ガウエンに一声かけると、その男は手に持つクロスボウを投げ捨て剣を抜き、混乱している残りの狼達に襲い掛かる。


 その男の戦い方は、少々強引とも見える力技であったが、左手に持つ丸盾を上手く使い狼をいなしていた。そして、右手に持つ剣を力任せに振り回して、狼達を切り裂くといった感じなのだ。

 だがそれは、実戦で積み上げてきた堅実さを感じさせる戦い方でもあった。


 ローエンが研ぎ澄ました剣であるならば、その男は堅い鈍器といった具合である。


 しかしガウエンも、黙って男の戦いを見ていたわけではない。負けじと、痛む体を引き摺り、狼達に立ち向かう。


 既に、群れを統率していた狼は倒れたのだ、もはや混乱した狼達は二人の敵ではなかった。

 しかし、ガウエンが何とか一匹の狼を倒す間に、その男は残りの三匹を倒していた。


 ――俺もまだまだ、もっと……もっと、力が欲しい。


 己の力量不足を痛感するガウエンであった。



「驚いたな。おい坊主、中々やるじゃないか」


 その厳つい顔からは想像出来ないような人懐っこい笑顔を浮かべ、その男はガウエンに歩み寄る。


「俺の名はガウエン。坊主じゃない」


 危うい所を助けられたのにも係わらず、ガウエンはぶっきら棒に答える。

 弟子は師に似てくるというが、元々、その生い立ちから口数の少ない少年だったガウエンが、この一年、狷介なローエンと共に暮らしていたのだ、少々偏屈な青年となるのは致し方ない事であったろう。

 だが、そんな無愛想な受け答えにも気にする素振りも見せず、その男は片眉を上げ「ほう」と、感心したように息を吐き出す。


 ガウエンはこの一年、過酷な鍛練を繰り返し引き締まった体となっていたが、見ようによっては痩せ衰えているようにも見える。そのぼろ布を纏った身なりと相俟って、貧相にさえ見える。しかし、その眼差しからはぎらぎらとした、精気溢れる輝きを周囲に放っていた。しかも、今は返り血で全身血塗れの姿。

 男は、ガウエンのその異様な姿もさることながら、下手をすれば、いま倒したばかりの狼よりも野性的な、その瞳の輝きに感心したのだ。


「おぉ、そいつは悪かったな。ガウエンか……しっかりと覚えたぜ」


「それで、あんたは誰なんだ」


「あぁ、俺かあ。そういやまだ名乗ってなかったな。俺の名はゴーグ。これでも、護衛士の間では有名なんだぜ」


「護衛士……」


 この国では、護衛士は子供の憧れであり、兵士達や騎士など武人からも特別な存在と見なされていた。何者にも縛られず、ひたすら強さを追い求めた孤高の存在。それが、護衛士なのだ。

 ある意味ローエンも似たような存在なのだが、そこは人嫌いのローエン。護衛士などには無頓着であり、ある理由から旅先の村に立ち寄り、討伐系の依頼を請け負っていただけであった。

 だから、ガウエンは護衛士と聞くと興味を示す。


「ん? 何だ、護衛士に興味が有るのか?」


「出来れば、俺も……」


「まあ、護衛士に成るのは簡単だ。試験や資格も無いからな。だが……」


 そこで言葉を切ったゴーグが、じろりとガウエンを睨み付け話を続ける。


「周りから認められて、初めて一人前の護衛士だ。だからな、お前も護衛士になるつもりなら、そこんところを忘れるんじゃねえぞ」


「……あぁ」


 ゴーグが重々しく言い渡し、ガウエンが緊張して頷く。

 そのガウエンの様子を見たゴーグが、途端に豪快に笑い出す。


「といってもな、護衛士ほど気楽な商売もないけどな。特にこの国では、護衛士が優遇されてるから」


「そ、そうなのか……」


「あぁ、俺も詳しくは知らねえが、先々代の王の治世の頃に、ひとりの護衛士が王家を救った事があったらしくてな。そんな訳で、この国ではある程度、護衛士が好き勝手することが許されてるのさ」


「へぇ、それは知らなかった」


「護衛士の間では有名な話だが、あまり一般には出回ってねえ話だからな。まっ、王家の外聞もあるからだろうさ」


 それは、ガウエンにとっても初めて聞く話。想像してもいなかった世界の話に、護衛士の憧れを強くする。


「まあ、その好き勝手出来る代わりといっちゃなんだが、何者にも縛られねえ護衛士にも、ひとつだけ守らなければいけない約束事がある」


「約束事?」



「あぁ、王家が護衛士を認める代わりに、王から勅命が下されると、護衛士はいの一番に駆け付け依頼をこなさなければいけねえのさ」


「王の勅命……」


 王の勅命という言葉もさることながら、護衛士達が王家に繋がるといった、ある意味その特殊な位置付けとなる職業だということに、ガウエンは驚く。


「まぁ、約束事といっても、護衛士仲間の間で受け継がれる伝統みたいなものだ。今までは、そんな勅命が下されたなんて話も聞かねえし、当の相手である王家も、そんな約束事がある事すら忘れてるんじゃねえのか」


 そう言うと、ゴーグはまた豪快に笑って、ばしばしとガウエンの背中を叩く。

 図らずも、護衛士の話を聞けた事で、ガウエンはますます憧れの思いを強くする。


 ――俺もいつかは……。


 将来、自分が護衛士となり国中を、いや、この国だけでなく、この大陸中を旅して回る姿を、ガウエンは思い描いていたのだ。


「ところで、ガウエン。この辺りにローエン殿がいると聞いたのだが、心当たりはねえか?」


「ローエン……俺の剣の師匠だけど」


 ガウエンはローエンの名前を聞いた事に、少し驚いた表情を浮かべてゴーグを見つめる。


「おぉ、やっぱりそうか。名前が似てるから、もしやと思ったが、ガウエンはローエン殿の身内なのか」


「いや、身内ではない……ガウエンの名前は師匠に付けてもらった……」


 己の過去を思い出し、護衛士の話に顔を輝かせていたガウエンは、一転、暗い相貌となり歯切れ悪く言い淀む。

 その様子に、ゴーグはおやっと怪訝な顔になるが、それ以上の事は突っ込んで聞かず、ただ「案内を頼む」とだけ言った。

 しかし、人嫌いのローエンの事だけに、勝手に連れて行くと、後で何を言われるか分かったものではない。だから、気を取り直したガウエンは、顔をしかめて尋ねる。


「ゴーグは、師の知り合いなのか?」


「うぅん、知り合いといえば知り合いになるかな。前に何度か会った事がある」


 ゴーグの何ともあやふやな答えに、ガウエンは難色を示す。


「そんなことでは、勝手に案内は出来ない。まずは師に聞いてからでないと」


「あぁ、それなら大丈夫だ。こいつがあるからよぉ」


 そう言うと、ゴーグは近くに放り出していた、大きなずだ袋に歩み寄る。それを、ここまで背中に担いで来たようであった。

 ガウエンが見守る中、ゴーグはずだ袋から一抱えもある酒樽を取り出し、にやりと笑う。


「なっ、こいつがあるから大丈夫だろ」


 そう、人嫌いのローエンが村に必ず立ち寄るのは、無類の酒好きだったからである。


 結局、危うい所を助けられた事もあり、ゴーグに押しきられる形で、ガウエンは案内する事になってしまった。

 その道すがら、少し足を引き摺るガウエンを見て、ゴーグが眉をひそめる。


「噛まれたのか。狼自体に毒は無いが、やつらの牙には傷口から入ると、毒となるものが付着してることが多い。手当てをちゃんとしないと、後で化膿して大変な事になるぞ」


 などと話してる間に、ローエンの元へと辿り着いた。

 最初、ローエンはガウエンの酷い有り様や、ゴーグの姿を見て顔を険しくさせていたが、目の前に酒樽が置かれると、途端に、相好(そうごう)を崩す。

 何とも、肩透かしを食らったような気分になったガウエンであった。


 こうしてガウエンは、後に護衛師の世界へと誘う事となる男、護衛士仲間からは、その盾使いの巧みさから『鉄壁』の異名で呼ばれるゴーグと出会ったのだ。

 ローエンが剣の師であるならば、ゴーグは護衛士の心構えや立ち回り方を教えてくれた第二の師、或いは兄貴分とも頼む存在となるのだった。


 そしてその夜、ゴーグが指摘した通り噛まれた足が膿み、高熱を発して寝込んでしまった。

 それを見たローエンが、また何時ものように「ここで命が尽きるなら、それが己れの剣命と諦めよ」とのたまっていたが、その言葉とは裏腹に額の濡れタオルを替えたりと、甲斐甲斐しく看病を行っていた。


 ガウエンはその様子を高熱に浮かされ夢うつつに眺め、久しぶりに安堵感に包まれるの覚えた。

 そして、感謝の気持ちを心に刻み、その夜は眠りについたのだ。


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