暗闇からの解放 沙耶サイド
ヒロイン初登場です。
勢いで書きました。読んでもらえると嬉しいです。
私の家は裕福な家では無い。それこそ貧しいと言った方が正しいだろう。
父は元々小さな会社を経営していたが、私が中学3年生のとき、不況の煽りを受け多額の借金だけを残し、倒産まで追い込まれてしまった。
生活は一気に苦しくなった。危ない所からお金も借りていたのかそこから逃げる為に夜逃げを繰り返し、今の街に移り住んだ。それでも家族3人で暮らしていけるなら何とかやっていけると思っていた。
だけど、そんな考えはあっさりと覆された。
母が他の男と不倫の末、家から消えたのだ。
正直、最初はかなり憎んでいた。こんな状況から逃げ出したいのはわかる。だけど他の男となんて、汚らわしいとしか思えなかった。
でも今もうは責めたりしていない。ただ母は弱かっただけなのだから・・・。
それよりも見ていられなかったのは父の方だ。
本当に愛していたのがよくわかる。母が出て行ってからはもう抜け殻の様になってしまった。
父は今の状況から脱出する為の気力を失い、あがく事を辞めた。
出て行った母の代わりを私がする決意は最初から出来ていた。高校生活が始まると同時に様々なバイトを掛け持ちしながら生活費を稼ぎ、父の復活を祈った。
だけど、私が高校3年生になった今も父は抜け殻のままだった。
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「おはよー沙耶!」
「ん、おはよ、朱莉」
学校に向かう道で友達の朱莉が、私の肩を叩きながら元気に挨拶をしてくる。愛想も良くない私に明るく話しかけてくれる唯一のクラスメイトだ。
「今日の小テストの勉強とかした??私やったのに既に忘れてるんですけど!」
「あぁ適当にしたけど、バイトが忙しくて私も殆ど頭に残ってないかも」
「とか何とか言って、沙耶って結構良い点取るのが腹立つんだよね」
そんな事を言われてもどうしろと。。。
授業を聞いていれば、それなりに出来てしまうのだから、この子もしっかり聞けばいいのに、寝てたりするのだからどうしようもない。まぁ起こさないけどね。
「そうそうさっきね、ちょっと良い事あったんだよね。」
「しょうがなく聞いてあげよう」
「しょうがなくって何よ。こっちこそ、しょうがなく聞かせてあげよう!」
「あっ、だったら遠慮致します。」
「ごめん、聞いてください。」
大して興味はないけど、聞いてあげないと拗ねるから面倒だ。
「あのさ、さっき電車乗る時に切符買う所で財布忘れちゃったんだけど。」
「ご愁傷様。」
「いやいや、そこまでなら、本当にご愁傷様って感じなんだけど、それが大人な感じの結構タイプなお兄さんに拾ってもらっちゃったんだよね!」
「はぁ・・・」
「いやぁ、結構タイプだったもんで、今世紀一番の笑顔見せたね!」
「それで、なに、アドレスとか交換したわけ?」
「・・・」
「ご愁傷様。」
まぁそんな所だろうと思った。この子は運命の出会いとか本当に信じてるからなぁ。
私からしたらそんなもの小説とかドラマの世界しかあり得ないと思っている。
この子にそれを言っても、熱弁されるだけだから、そんなことは絶対に言いませんけどね。
「でも、その人は何度か見かけたことあるし、チェックは入れてる人だったから、正に運命だったよ!」
ほら、始まった。
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学校が終わり、今日もバイトだ。
ファミリーレストランのバイトも既に慣れたもので、それほど疲れたりしない。むしろ働いている時の方が
色々考え無くていいので気が楽になる。周りの子達が働きたくないと行っている意味がわからない。
でも、そんな時間ももう終わる。10時までしか働けないのが本当に残念だ。
家に帰るのが憂鬱で仕方ない。
いつまで続くのだろう。覚悟を決めたと言っても頑張るのだって限界はある。
・・・やめよう、やっぱり仕事が終わりに近づくといつもこうだ。
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「ただいま。」
父が返してくれる事なんて無いとわかっていても、玄関を開けると必ず出てしまう。
この虚しい行動をいつまで続けなければいけないのだろう。
だけど、今日だけはいつもと違ったのだ。
「おかえり。」
目を見開き、声のする方に自然と視線が吸い寄せられる。
返ってくるはずのない、言葉が返ってきたのだ。この家で、私以外に声を出す人間なんて一人しか居ない。
玄関のすぐそばに父が立ち、こちらを見ながら痩せこけた顔をこちらに向けながら微笑んでいた。
「今日も疲れただろ、今まで悪かったな。。。苦労をかけさせてしまって。」
言葉を返すことが出来ない。父がボヤけて見える。
あぁ私は今泣いているんだ。
私の頬を涙が伝う感覚だけが、私の全てを染めていく。
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長い時間色々な事を話した。
これまでどんなバイトをしてきたか、世の中はたった数年でどれくらい変わったか。
いつもなら既に布団へ入っている時間になっても話をし続けた。
もう時間は12時を軽く超えていた。
話が一段落した頃、父が静かに口を開く。
「僕は明日仕事を探してくるよ。」
「うん。」
「これまで沙耶に頑張ってもらった分、僕が何倍も頑張るから、沙耶はもう頑張らなくてもいいよ。」
「うん。」
まるで夢でも見ているようだ。電池の切れた玩具のようだった父からこんな優しい台詞を笑顔で聞かされるなんて。。。
正直何があったのか聞きたかったが、それよりも父が元気になり、また前を向いてくれたことが心から嬉しかった。
「父さん」
「ん?」
「一人で何倍も頑張る必要なんてないよ。頑張るのを二人で分け合えば、きっと幸せになれるよ。」
「そうかもしれないね。」
微笑む父を、何年振りかわからない笑顔で返す。
今の私はもしかしたら世界で一番幸せかもしれない。
「あ!ご飯まだだったよね!」
「あぁそうだったね。沙耶の話が楽しくて忘れちゃってたよ。」
「時間も時間だから簡単なものを作るね!」
「せっかく頑張るって決めた初日から、胃もたれしてたら幻滅されちゃうからね。」
「何をいまさら。。。」
「ははっ」
「ふふっ」
台所に立つ私をテーブルを挟んで座る父が微笑みながら冗談を言う。
(あぁ幸せだ。。。。)
明日はどんな事をしよう。あ、朱莉の話をもう少し真面目に聞いてあげよう。運命の出会いなんて未だに信じてはいないけど、
今まで素っ気ない返事しかしてなかった分、しっかり聞いてあげよう。
今日話ししてた朝のタイプの人の話をしたらテンションも上がって面倒だけど、今の私ならしっかり話を聞いてあげられる気がする。
明日から新しくスタートするんだ!
「っ!?」
突然、体を貫くような破裂音。聞き覚えのない音。
音が鼓膜に到達すると同時に、一瞬にして体を強張らせてしまう。
自分の後方から聞こえたそれに、振り向くことが出来ない。
破裂音の反響が溶けて消えていくと、静寂が部屋の中を支配する。
ドサッ
そこで初めてゆっくりと振り返る。先程まで椅子に腰掛けていたはずの父が居ない。視線だけで部屋を見渡す。
すると、テーブルの向こう側に足だけが見える。理解が追いつかない。
その答えを導き出す為の判断材料が足りていない。ただ心臓が脈打つ音だけが耳の裏から頭に響く。
少しずつ姿勢を低くしていき、テーブルの向こう側を確認する。
父が倒れている。急にどうして。理解できない。わからない。
さっきまで幸福感だけが心を占めていたのに、一変して不安感や焦燥感だけになっていく。
腰に力が入らない。膝を付き、手のひらと膝だけで少しずつ父の方へ寄っていく。
「ふぁ・・・」
父の目の前に辿り着いた瞬間、理解した。
全てを理解した。
破裂音。
父の今の状態。
あぁ理解出来てしまった。
視界の外側が赤や黒へと明滅していく。
その時、自分の心の中で張っていた糸のような物が切れる音がした。
「わああああああああああああああああっ!」
(止まれっ!止まれっ!止まれっ!止まれっ!お願い!血止まって!)
父の胸から広がる赤の中心に親指サイズのポッカリと開いた穴を必死に手で抑える。
けれども、一向に止まる気配がない。
(止まれっ!止まれっ!止まれっ!止まれっ!)
それでも血は止まらない。沙耶の涙も止まらない。
誰か。誰か助けて。父さんを助けて。私を助けてよぉ。。。
「ありゃりゃ。一発で死んじゃったよ。」
「見事に心臓貫通って感じだったからねぇ」
「人は呆気ないな。」
「・・・えっ?」
台所から玄関へと繋ぐドアが少しだけ開いている。
そこから男達の声が聴こえた。
「おじゃましまーす。」
「あ、お嬢ちゃん発見。」
「聞いてたとおりだな。」
ドアの向こうから3人の男が部屋へと入ってくる。
誰?あ、大人の人だ。助けて。
お父さんが。お父さんが・・・。
「とりあえずさ、このお嬢ちゃんを連れて行けばいいんでしょ?」
「そうなるな」
「じゃあちゃちゃっと済ませちゃおうよぉ!」
「だねぇ。」
「お前ら本当に好きだな。まぁ別にやるなとも言われてないし好きにしろ。」
男達は軽く会話を続けながら、沙耶の方へと近づいてくる。
元々それほど距離はない。男達が横たわる父の隙間に足を入れ、沙耶へと手を伸ばす。
ガッシリとした手が細い沙耶の腕を掴んだ。そこで思考が、少しだけ回復する。
(お父さんを撃ったのは、この人達なんだ。どうして。)
「さぁお嬢ちゃん。お楽しみの時間ですよぉ。」
「大人の階段登っちゃおうねぇ!」
腕を両腕を二人の男が別々に引っ張り、隣の和室へ沙耶を引きずっていく。
(あ。。お父さん。。お父さんの血を止めなきゃ。)
自然と泣き声がこぼれてしまう。
「あぁ泣いちゃったぁ」
「うわぁ萌えるぅ!!」
「あんまり乱暴に扱うなよ。商品にならなくなったら面倒だからな」
言っている意味がわからない。もう全てがわからない。
だけど一つだけ理解できた。この人達は今から私を襲うつもりなんだ。
それを理解した瞬間、耳には何も届かなくなった。目の前にいる男達だけが見えている。
何か怒鳴っている。聞こえない。急に笑い出した。父さんの優しい笑顔とは似ても似つかない汚い笑顔だ。
・・・
もういいや。疲れた。父さんがいないなら、もういいよね。
今まで色々辛かったけど、さっき父さんの笑顔がまた見られて幸せだった。
これでもう頑張る必要は無くなるんだ。我慢しなくて済むんだ。
ごめんね。朱莉。もうあなたの話聞いてあげられそうにないや。
運命の人見つかるといいね。
男が倒れた私に覆いかぶさってくる。
それを力無く見つめながら、瞼をゆっくり閉じようとした時。
男の肩越しに3人とは別の人間が、台所からこちらを見ている。
黒いコートを来た無表情の男。
まるで幽霊のようで、そこに実在しないように感じる男がそこにはいた。
棒のような物を持っている。
(死神・・・?)
(あぁお願いします。この男達に汚される前に、私の命を救ってください。)
心で願いを告げると、死神と目があったような気がした。
(助けて。死神さん。)
沙耶の願いと同時に死神は、棒を私に覆いかぶさる男へと振り下ろした。
設定その1
名前:沙耶
身長:160cm
髪型:黒髪そこそこロング(腰までは無い感じ)基本ポニーテールや、ユルいサイドアップ。
見た目:化粧っ気はなく、目はイキイキしていないので、モテない子
でも、ちゃんとしたら綺麗になれるはず。キリッとしたら、出来る女っぽくなるのに境遇がそうさせなかった、ちょっと残念な子。