失敗6
彼の車に揺られて約二時間と三十分。俺は海岸の砂浜に座っていた。目の前に広がるのは光のない闇。真っ暗でなにも見えない。おそらく砂浜が広がった先には広大な海が待ち構えているに違いない。潮波の音が俺を襲う。秋の海というものは初めてだった。とても寒い。ジャージ姿のままできたのは失敗だったか。
彼女と来た時のことをぼーっと思い出していた。
「おらよ」
毛布がどこからかとんできた。彼が後ろから投げてきたのだろう。
「なんでこの季節に海なんだよおおおお。さむいだろおおおお」
「んだよ。海で叫べば気分スカッとすんだって」
「時間考えろよおおおお」俺は投げつけられた毛布を身体に巻き付ける。
「うひゃあさみぃ。ちょっと、おれにも毛布くれよ」
彼は俺の隣に座り、毛布を俺の身体から引きはがそうとする。
「やめろ! 俺死ぬぞ! はなせ!」
「うるせぇ! さみぃんだよ!」
そんな風に毛布を奪い合う毛布争奪戦争が勃発したが、奪い合っているうちに二人で包まるという条件で戦争は終結した。
二人で毛布に包まり日の出を待ち続け一時間。空が明るくなりだした。辺りがだんだんと鮮明になり、夜明けを知らせる。まだまだ寒さは続いているが、人の体温というものはなぜこんなにも温かいのだろうか。心の芯まで温かくなるような優しい温度だ。
この一時間、俺はどうかしていた。自分をどうかしているというとまったくわからないが、とりあえず俺は混乱状態でいた。
……なんだこの身体の疼きは。
彼と身体が触れるたびに身体が構えてしまう。脈拍数が上がり、なぜか激しい衝動に駆られる。それをひっこめるのに必死だった。
どういうことだ。このまま激情に身を任せてしまったら俺はもう止まらなくなるかもしれない。
彼女と海に来た時の気持ちと似ている。俺は彼と彼女を重ねてしまっているのか。なにを考えているのだ! 彼は男で、俺も男だぞ! でもこの感情の原因は明らかに隣にいる彼だ。でも彼は男だぞ?
ああ、ダメだ。俺はもうダメかもしれない。
こんな風に悶々と考えているうちに一時間経ってしまった。
理性はあった。でも身体が、心の奥底の何かが、俺を熱く滾らせる。身体がなにかを鮮明に覚えていた。
「うひょぉー。明るくなってきてもさみぃな。ちょっとトイレいってくるわ」
「あっ」
トイレについていったのかそうでないのか、それはあなたの胸の中……。