失敗1
秋という季節は人間を孤独にさせる。肌を透き通る冷たい風が、体温とともに心の温かさを奪ってゆくようだ。それ故に、ひと肌の温かさが物恋しくなる。
「あなた今年で何年目? なんでこんな過失をしているのですか?」
そして上司にも心を抉られ、俺の心はすり減っていた。
東京本社にある十二階建てビルの八階。そのワンフロアに広がる会議室に俺は立ちすくみ、上司である彼女は脚を組みながら座っていた。
「六年目です……」
「六年目にもなって重要な会議に印刷ミスをした資料を配るだなんて、怒りを通り越して呆れます」
彼女の口調は落ち着いていたが、会議室の机上に荒々しげにミスプリントをたたきつけているあたり相当頭にきているようだ。
「そんなんだから昇格の話どころか、後輩に陰口ばかり言われるのです。それに――」
くどくどとまくし立てるようにダメ出しは続く。
俺の目線は脚組された彼女のふとももに集中していた。灰色のペンシルスカートによってくっきりとボディラインが強調されている。日頃のデスクワークによって日光から遠ざけられた白くもっちりと膨らんだ下肢をじっくりと嘗め回すようにみつめる。ふともも、ふくらはぎ、そして黒のレースによって隠されてしまう足先。秋だというのにストッキングすら履かないのはなぜだろうか?
「ちょっと、聞いているのですか?」
鋭い双眸が俺に向けられていることに気づいた。
「えっ?」
俺の驚いた様子に彼女は嘆息し、立ち上がった。
「もういいです。あと一ヶ月のうちに誠意をみせなければクビです」
そそくさと彼女は会議室を後にした。
彼女が履いていない理由はちゃんとあったり、なかったり。