すれちがい着眼点
日曜日。僕は山部さんの家にいる。
メンバーは山部さん、角野さん、松野さん、そして僕だ。
松野さんから、貸していた本が読み終わったので日曜日に受け渡しをしたいというメールが来たので、どうせならみんなでゆっくり話がしたいと思って、山部さんの家に集まらないかと提案したところ、松野さんが山部さんの承諾をとってくれて、お邪魔することになった。
三人集まるなら、と思い角野さんにも声をかけたら、ちょうど山部さんの家でエアガンをさわってみたいとのことで、四人集まった。
今日も、いつものように楽しく過ごしている。
「松野さんは、調子どうですか?」
僕が訊ねると、
「うーん、まあ普通かな。とりあえず、専門学校のレポート提出が終わったからほっとしてる」
どうやら相変わらず専門学校は忙しいらしい。僕は相変わらず学校にはいっていないので、ちょっとばつが悪い。
「なるほど。専門学校って課題多いんですね」
「うーん、どうなんだろう。まあ、就職率が学校の宣伝になるから、資格を取れっていうのはいつも言われてるけど」
どうやら毎日が日曜日なのは僕だけらしい。ーーいや、そうでもないか。
「山部さんは?」
仲間を探そうと思って、山部さんに訊いてみた。
「うーん。そうやな、二度寝するのが気持ちいいな」
よかった。仲間発見。
「んじゃ、角野さんは?」
仲間を増やそうと、角野さんにも訊いてみる。
「俺?うーん、相変わらずよ。二度寝すると気持ちいいけど、四度寝、五度寝して起きたら夕方だったらちょっと凹むけどね」
「五度寝?どうやったらそんなに眠れるんですか」
僕としてはうらやましい話だ。
「いや、あるって。朝方とかに寝るとたまにある」
毎日が日曜日でも、ここまで来るとあまり憧れないなあ。
「あ、そーいや、病院にはいったの?」
角野さんが訊いてきたので、
「もちろんいきましたよ!そうだ、この前精神科の予約取るのに病院に電話したんですけど、その時角野さんがね……」
おもしろい話を思い出して、松野さんに話しかけたんだけど、
「いや、俺のことはいい。君のこときいてんの」
角野さんに遮られてしまった。まあいいか。
「えっと、ちゃんといきましたよ。こっちの状態を探られないようにガードしながら話をするのがちょっと大変でしたけどね。なんていうのかな、心理戦、みたいな」
「いやいやいや、そこは胸の内をそのまま話すところじゃないのか」
角野さんに突っ込まれたけど、
「いやいや、そんなことないですよ。ガードしてないと心の中読まれちゃうじゃないですか」
僕は反論する。しかし、山部さんと松野さんから同時に
「いやいやいや」
と角野さんの動きに加勢されてしまった。
「なんで隠す必要があるねん」
「お金払って病院にいってるのに、ガードとかしてたらもったいなくない?」
どうやら二人とも、角野さん派のようだ。
「えー、そんな簡単に無防備になれないですよ。カウンセラーに対するガード解いたのも、つい最近なんだし」
「だから、ガードしてたらカウンセリングにならないのでは……」
松野さんがたたみかけてくる。
「なんでみんなそんなに開放的なんですか。無防備すぎますって」
「いや、俺らが無防備なんじゃなくて、君が閉塞的すぎ」
角野さんの言葉に、残りの二人もうんうん、とうなずいている。
僕って閉塞的かな。みんなといるときはむしろ積極的にしゃべってるけどな。
「俺らとおるときみたいにしゃべたらいいねん」
山部さんがいう。どうやら、いつものメンバーといるときに積極的なのは既に伝わっているらしい。
「カウンセラーとはちゃんとしゃべってますよ。リスカのこともちゃんとしゃべったし」
「リスカ?」
山部さんが不思議そうな顔をしたのでわかりやすく説明しようと、
「リストカットの略です。ほら、昨日も……」
左腕のシャツをめくろうとしたら、角野さんに全力で腕をつかまれた。
「わかった。わかったから」
「いやあああ」
山部さんは僕から目をそらしている。見てはいけないものを見てしまったかのようだ。僕はゴーゴンじゃないぞ。
「……んで、病院で精神安定剤は出たん?」
角野さんが続いて訊いてきた。
「それがひどいんですよ。聞いてくださいよー」
「聞いとるがな」
即座に返された。……まあいい。
「えっと、処方された薬に眠剤がなかったんですよ!もうびっくりしますよね。あれだけ不眠を訴えたのに」
「ミンザイ?」
「ああ、睡眠薬のことです。睡眠導入剤の略かな」
どうやら角野さんには聞きなれない言葉だったらしい。
「んで、抗鬱剤がデブロメールなのは納得できるんですけど、坑不安剤がレスミットだったんですよ。しかも、寝る前の薬がリスパダールなんですよ。メジャートランキライザーで眠れるわけないじゃないですか」
「メジャートランキライザー?なんかすごい強そうな武器みたい」
「たぶん剣やで、剣」
角野さんと山部さんの例えが面白くて、めちゃめちゃウケてしまった。
僕が笑っている姿をみて満足したらしく、山部さんと角野さんも笑っている。
薬を飲むようになってあんまり日はたってないけど、一応眠れるようにはなった。二時間か三時間で起きてしまうけど、全然寝れないよりはずっといい。
松野さんは笑っている僕たちを見て、苦笑いみたいな表情を浮かべている。松野さんからしたら、僕たちみたいな男はまだまだ子どもなのだろうか。
「とにかく、処方された薬が弱いんですよ。次はもうちょっと上を狙っていきたいですね」
「それは西田君がガードしてちゃんと伝えていないからでは……」
「まったくその通りや」
松野さんの言葉に、山部さんは同意しているようだ。角野さんもうなずいている。
「いや、不眠っていうのを強く訴えてますよ。こっちから出す情報はちゃんといってますって。余計なことは伝えないように、ガードしてますけどね」
「だから……いや、いい」
角野さんは何かいいたかったみたいだけど、途中でやめてしまったので、僕はそのまま言葉を続ける。
「不眠で困ってるんだから、ファーストチョイスとはいえ、せめてレンドルミンくらいは出してほしいですよね。レンドルミンもラムネらしいですけど。あと、マイナーもレキソタン辺りを出してくれてもいいんじゃないかなあ。レスミットって弱気すぎますよ」
いつの間にか、僕の独演会みたいになっている。みんなも、僕の話がおもしろくなってきたのか、続きが聞きたいのか、静かに僕を見ているだけだ。
「次の診察では、寝つきが悪いことを訴えて、とりあえずリスミーあたりの短期型の眠剤が欲しいですね。その後は、中途覚醒してしまうことをいっていけば、自然とロヒプノールとかが追加されると思うし。抗鬱剤に関してはあんまり不満はないですけど、やっぱり三環系も試してみたいですよね。あとは……」
「わかった、わかったから。うんうん、薬欲しいんやな」
角野さんが僕をなだめるようにいった。なんだか面白かったらしく、山部さんと松野さんにはすごくウケている様子だ。
「精神科の薬なんてまったくいらんけどなあ」
山部さんはどうやら薬に興味がないらしい。
「なんか精神科に通ってるのがすごく楽しそうだよね。西田君がそれでいいなら私はもう何も……」
松野さんから見ると、楽しそうに見えるらしい。うーん、まあ、積極的に病院に通ってはいるけれど。
僕はテーブルに置いてあったアーモンドチョコレートをほお張る。
「おいしい?」
角野さんが訊いてきた。
「はい、おいしいですよ」
そう返すと、
「そうやんな。糖分、糖分って顔がいってる」
その言葉で、山部さんと松野さんがどっと笑った。
どうやら、僕はお菓子好きキャラがすっかり定着したらしい。




