人間嫌いの自殺願望
青に蒼を絡めとると雲が出来た。
赤に朱を絡めとると血が出た。
緑に碧を絡めとると森が出来た。
水に顔を絡めとると死ぬ事が出来た。
『人間嫌いの自殺願望』
暗い部屋の片隅で僕という一個体は目覚める事になる。
窓の外はまだ暗闇に包まれており、早起きというには些か早い時間だった。
目を擦って部屋を見渡すと相変わらず部屋に脱ぎ捨てたTシャツと刃渡り二十センチの包丁があった。いつ死んでもいいようにと、僕が百円ショップで買ってきた包丁だった。
立ち上がりその包丁を手に取ってみた。
鈍い光が僕の脳に入ってくる。流石に朝のこの時間は死にたくなる。ただ別に死にたい訳じゃない。人間という人種に飽きたのだ。
飽きた
そう、その一言に尽きる。
人間という人種に飽きたのだ。
人間という動物に飽きたのだ。
人間という生命に絶望したのだ。
訳という訳はない。
ただ漠然と……そう思っただけだ。
包丁の先を指先に強く当ててみた。
小さな傷口から赤より少しだけ紅い血が真珠の玉のように指先に乗っている。この中に鉄やら白血球やらビタミンやらが入っているのだと思うと不思議な感じがした。
傷口を少し包丁の先で抉ってみる。
激痛が走ったが、僕という入れ物はそれでも尚、傷口を抉ってみたいのだ。
包丁の先が脂肪を突き破り、筋肉を切り裂いて、爪先まで進む。
血という血が指先から湧き水のように溢れ出ていく。
僕はそれを見ながら生きていると感じた。自分はまだ生きているのだと確信する。
それ故に絶望する。
親のエゴで生み出された、この生命に何の意味があると言うのだろうか?
競争社会に生み出された、この命に何の意義があると言うのだろうか?
行く先の見えないこの道にライト一つなく、手探りで進む意味は? 意義は?
僕という人間は悲観し落胆し絶望する。
生まれ落ちた意味
産まれ落とされた意義
生まれてきた使命
産まれてきた謝罪
生きようと思った人間だけが生きればいいのだ。
僕は些か疲れた。
いや、飽きた。
窓の外は今から動き出そうとしていた。
部屋の空気は沈殿していた。
包丁は僕の腹の中にあった。
世界はまだ……その事に気付いていなかった。
―完―




