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第一章一部

 




 なぜ・・・こんな事になってしまったのだろうか。


 こんな事になるなら、もっとしっかりとした装備を持ってくればよかった。


「流石に困っちゃうなぁもぅ」っと見事なまでに棒読みでぼやく。


 只今現在進行形で退路を塞がれているからなのだが、いかんせん一本道であまり世間的に知られていない裏道を通っている。


 自分には目の前を堂々と横切るかわいい群れを傷つけるような野蛮な行為をしたくはなかった。


 何時もの装備ではなく、アームアンカーとかで障害物を無視する事が出来るから持ってくればよかったと溜め息混じりに思ってしまう。


 しかし、いくら急いでもどれだけ騒いでもこの状況は変わらない。


 ならば今は横断している可愛いぬいぐるみのような生き物を見て気長に待つことにしよう。


 ・・・と思うのが普通だろうが、今に至ってはそんな悠長な事は言ってもいられなかった・・・。






 ◆◇◆◇◆◇ドゴン◇◆◇◆◇◆





 ゴツゴツした黒い体躯に白い稲妻ライン、背中から骨格がしっかりした翼膜が存在感を見せる。


 顔は俺の全身よりは小さいが月明かりに煌くアギトはどれも鋭い。


 拳には岩のように重量感のある塊があり手はそれに隠れてしまいよく見えない。


 腰は低く脚は跳ねるのに適し足は指先であろう部分に大きな返しが見える。


 全身は鱗よりも綺麗に手入れをされたように艶のある体毛。


 尾は先になるにつれ細くなっていく。


 濃い雲に光は阻まれてはいたが隙間に差す月明かりのおかげで姿は部分的に見るには十分だった。


 そのかげは少し離れていて見ていなくても居るのがわかる。


 それに対して俺は



「なぁ俺の言ってること分かってるぅ?」



 なんて気の抜けた声で相手に問う。まぁ返事ではないにしろ言葉は来るのだが。



「人の子がなぜこのような場所にいる?」


「だから何度も言っているが近道に通ってるだけだ」



 こんな同じやり取りを何回も繰り返しているのだが正直会話にならず逃げるように道を走っていたわけだ。 


 そして道封じ。しっかりと話をさせるためにこんな状況を作られたのでは……とネガティブ思考になりつつ後ろの闇の主に再度問われる。



「人の子がなぜこのような場所にいる?」



「あのなぁ、質問を質問で返すなって親に教えて貰わなかったか?・・・目的地の向かう際こっちの方が近道だからここを通らせて貰っているのですが……」



 質問の意味が全くわからないが踏ん切りをつけて少し気だるげに影の主の問いに答えておく。


 そんな陰の主は重い右腕を地面を小突くように叩きながら寄って来る。


 何度目か数えるのも面倒くさくなり疲れたように言い返す。



「それにしても、ただ通ってるだけなのになんで執拗に付いてくんだ?」



 とずっと思っている疑問を言う。



「人の子よ。貴様がこの森の安寧を脅かす存在か否かを見極めてる……」



 俺が?森?何を言っているのか全くわからない。なにせ今、俺が立っているとこは森とまでいかない林くらいで緩やかな山だ。


 実際に帝都から近道に通っただけだ。あのお客様ゆうしゃの頑張りを、些細なことだけど知らないところに来て見せた勇者おんなのこに最大限答えてあげようとしていただけなのだ。


 一般の街道ではロスが出来るからショートカットして早く届けてあげたかったのだが通った時には確かに草木は茂っていたが森って言うほどではなかった。


 初めて通るから知らないうちに未解読のエリアに来てしまったのかと思ったが近代化したブレスレット型のヴィジョンロケーターで確認したがズレてはいなかった。



「お前が言ってることと俺が今見ている光景と全然嚙み合わないんだがどういう事か説明してくれるかな」



 とは言ったもののちゃんとした説明をもらえるか考えていたところ普通にごく普通に独り言のようにしゃべりだした。



「今、貴様には幻惑を見せられている。何を見せられているかは知らんがな。実際のこの地は高い木が木の葉を生やし緩やかな風になびいている。だが、以前のここはとても綺麗な森だったのだ・・・小さくも輝かしく白銀のケルピーが生息していた程だ。しかし今この森には有毒なガスを吐く自立歩行するキノコが居てな・・・稀にこのガスを利用してこの森に生きるもの達を・・・ただ食料にするでもなく武器の的にしやがる。食べられるのは世の摂理だろう?それならまだ理解はする。どの生物もそうして生きているのだから。」



 そう言って森の影は空を仰ぐ。


 確かに生きる為には食事が必要だ。しかしそうで無い者が居る場合、生態系に以上は出ないだろうがその環境にストレスを感じるのは当然だ。


 こいつは俺がその害する人物かどうかを知りたいって事だろう。



「確かに警戒するのは大切な事だな。だけどなぁこんな分かり切って警戒してされちゃこっちもかなり警戒するぞ。そうだな俺の間合いはあんたは入るなよ?俺はあんたの間合いに入る。これで少しは警戒を解いてくれるかな?」



 なんとも曖昧な内容を投げかけたが相手は数秒の間をおいてさっぱりと。



「いいだろう。だが貴様を信用に値するかは私が決める事だ。まぁ貴様が私に証明してくれるのであれば見せてほしい。」



 そう言って二足歩行の体勢になって月明かりを吸い薄紫ライラックに輝く眼光を俺に降りかける。絶対にこの森を守るという意志を伝えるように。



「証明って程ではないが俺は『心の駅』を設立した者だ。ちゃんとした手続きをしてるから。……あとあんたが俺に依頼をしてくれればこの森を脅かす正体を探すことくらいはやってやるぜ?」



 そう言いながら後ろで行進している小動物達に見つめられて頭を撫でる。少し後ろでドシンと音がしたが気にせずに撫でる。二匹三匹と集まりあっという間に囲まれてしまう。


 羊の弾力ある体毛にアリクイのような顔は細く目はビーズのように小さく潤んでいる。足は短く尻尾は白と黒のまだらで先っぽは細まっている。



「こんなにかわいいのに虐めるのかぁ。お前らは大丈夫か?」



 言葉は通じるとは思っていないがつい話してしまう。ニーと鳴くこのかわいい羊モドキを抱き上げる。


 足元には背中に子供を乗せて俺を見上げる親の羊モドキがいて体毛のせいかよく見えないが浅く焼き切れた様な傷が子供も親もいくつか見えた。


 抱いていたこのマスコットを下ろして傷ついた親子を撫でる。高くもかわいい鳴き声はどこか悲しみを感じる。



「どうした?傷が痛むかのか?少し見てやる」



 まずは子供を診てみる。親は心配そうに俺の隣で子供と俺を交互に見やる。



「大丈夫だ。小さい傷が幾つかあるだけだよ。でも放置はいけないな俺の持ってた救急パックで処置してやるよ。お前は少し無茶してるみたいだからおとなしくしてな」



 親は言葉はわかるのか俺の言う事すべてにしっかりと答えてくれた。子供の傷は刃物などで出来た綺麗な切り傷ではなかった。すぐに消毒を済ませて 傷口に毛が入らないように周りを少しだけ切る。ガーゼを敷いて包帯で傷を抑える。視認できる限りの傷をほとんどをやり終えてから念の為触診する。すると後ろ足付け根の内側にぬめりを触診で感じた。


 その一箇所だけ切れたものではなくめくくぼみ腫れているような傷があった。完全に確定的にこれは火器による傷だ。


 しかし殺傷性が低いものだったのだろう弾頭は深くはなく消毒そして部分麻酔を使い、弾を取り除く。


 止血は苦手な治癒魔法で塞ぎ包帯とガーゼを使い傷口を締める。体に負担が掛からないように木の枝をはさんでその上から紐で着付く固定する。



「すまないな俺は治癒系統は得意じゃないんだ、でも手当ての覚えがある。魔法と違ってすぐに回復ってわけにはいかないが自然治癒が一番体に良いからな。あとは無茶な動きをしない限り大丈夫だよ。当分は走るのは駄目だからな」



 羊モドキの子供は落ち着いて静かに鳴いてくる。鼻を伸ばし手に触れてくれる。とてもひんやりしていて気持ちが良かった。



「お前の親も今すぐ治してやっからな」



 子供は歩きにくい足を運び親とスキンシップをする。



「傷は……大丈夫だな、深い傷はない。残りのガーゼと包帯使うからな。痛かっただろ?静かにしてれば直るからな」



 そんなことを言いながらすぐに使って処理する。それにしても火器を使っているとわかればこちらとしては結構慎重に対応をしなければならない。



 何よりこんな可愛い小動物を的にするなんて心から怒りが込み上げてきた。



「なぁ、あんた名前はなんってんだ……教えてくれ」



 俺は目の前にいる傷だらけの羊モドキを撫で後ろにいた森の影に問う。その時の俺は拳を強く握りギリッとグローブがないていた。



「…おぃ、アンタの……名を教えてくれねぇか」


「グランド・ガーディアン」



 それだけを言われ俺は



「名前というよりは称号とかそっち系だぜ?」


「私には個別証明の名は持っていないのだ」



 それがどうした?、そう思えるようなさっぱりとした言葉が返ってくる。



 俺は何とも言えなくなり安易だが苦肉の策を思いつく。



「あんたには誇るべき物がありと名を持つ資格は十分にある」



 そう言って俺は振り帰り後ろにいた影の主が居るであろう場所を見つめる。暗闇に溶け込んでいるせいで表情は全く把握できない。



「誇るべき象徴を・・・名を私にくれ」



「あんたの名はライラック・シリュスだ・・・目は綺麗な薄紫ライラックで森の暗闇に差す月明かりに輝く鱗。だからまんまの言葉を名前にした」



 なんと安直なのだろうかと思ってしまう。だが、それほどまでに部分的にではあるが見入ってしまうのも事実。



 ストレートに思ったことを言ってしまったがこういうタイプには効率的だろうと感じたのだから。



「・・・ガッハッハッハ、ライラックか・・・それが私の名か・・・」



  ドッ、ドッ、ドッとこちらに歩んでいるのだろう重い音が聞こえる。



 暗い雲の間から月明かりが差し掛かり少しずつ全身が徐々にになる。



 だが全身が見える前に歩む音は止まり、一瞬で全身が黒くなる。



 完全に静まり周囲のざわめきのみになる。








 月明かりに照らされていた影は光となり一つの咆哮が周囲をざわつかせた。






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