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「どこに行くの」
自転車を漕ぎながら並んで自転車を漕ぐ菜乃花に問い掛けた。
少し短くしたスカートが風で揺れてる。
「内緒って言いたいところだけど……中学校に行こうと思って」
「中学校?」
「そうだよ。中学校!しっしんどい。この坂、こんなにきつかったっけ?」
「えっ?菜乃花が運動不足なだけじゃない?」
長い坂道を自転車で登る。母校、南野中学校は長い坂道のちょうど天辺に建ってる。登り始めで菜乃花は、自転車から降り歩き始めた。
「えー。もう、歩くの?」
「だって、しんどいもん」
汗を流しながら菜乃花が答える。
「そう言えば、何しに行くの?」
「楽器を借りにいくの!夏のコンクールで使うんだけどうちの学校になくって」
「そうなんだ」
菜乃花は、前に進んでいる。私は、一歩も進めていないのに。それは、部活に限っての事だけじゃない。菜乃花は、自分ですべてを決める。悩むけど、決めて進んで行く。それが、菜乃花の羨ましく嫌いな所だ。好きと嫌いは合わせ鏡。好きな物にも嫌いな部分が見えてくる。友達にも同じ事が言える。とても好きなのに嫌いな部分がある。
「夏隣ちゃん。聞いてる?」
「えっ?聞いてなかった」
「ひどっ。だから私が楽器を借りに行っている間、どうする?って聞いてるの?」
「連れてきたのに放置!?ひどくない?」
「別に着いてきてもいいけど……面白くないよ」
「そうだけど」
「職員室とか部活に顔出したらいいんじゃない?」
「適当すぎる」
「そんな事はないけど。そろそろ乗ろうか」
長い急な坂が終わりなだらかな登り坂に変わる所で自転車に再び乗り、自転車を漕ぐ。私は、中学校に着いてからの事を考え始める。
「自転車、職員玄関前に置こうか?」
「そうだね。先にどこに行くの?」
「職員室に行くよ。」
「一緒に行く。」
久々に歩く校舎は懐かしいの一言だ。窓からふと覗いた校庭に3年間の思い出がよみがえる。