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淡々と1日の授業が終わり、さっき担任がホームルームの時に話した言葉が耳から離れない。視線を窓の外に向け思い出す。


「このクラスは、部活をしている人も多いです。総体まで後少しで総体のの事しか考えていない人も少なくないと思いますが、これからの試験は進路を決める大切なものです。特にこのクラスは学校推薦が多いから内申がとても大事になってきます。しっかり勉強して挑むように」


試験に進路、部活。色々な事がぐちゃぐちゃに重なって、考えても分からない。一体、私は何をしたいんだろう。

なんとなく帰る気になれず、窓際で1人、夕焼けになりかけの空に紙飛行機を飛ばす。紙飛行機みたいに空まで簡単に近づけたらなんて思っているとふいに教室のドアが開く音がした。振り返ると、腐れ縁の吉浦菜乃花よしうらなのはが立っていた。


「ゆたちゃん、何してるの?」


そう問い掛けられて、私は、


「菜乃花の0点の小テストを紙飛行機にして飛ばしてるの」


と真面目な声色で答えた。すると、とたんに菜乃花は慌てだし、

「本当に、飛ばしたの」と何度も何度も聞いてくる。私は、そんな菜乃花の様子が可笑しくて笑いが込み上げてきた。


「というか、菜乃花、小テスト0点だったんだ。馬鹿だねぇ」

「う、うるさい」

「飛ばしてないけど、0点はないよ〜。勉強しないと」

「本当にうるさいなぁ、勉強してるよぉ。もう」


と、菜乃花は口を尖らせながら言った。

そして、菜乃花がさっきと違った声色で言う、

「で、どうしたの?」と。

するどいなぁ、さすが幼なじみと思いながら私は声のする方向に向いた。「なんでもないよ。」とそう言いたかったが菜乃花の顔を見ると言えなかった。私は、刻々と変わる空にまた目線を向けて言い始めた。


「なんかさ、やりたくないんだぁ」

「何を」

「全部」


自分の幼い解答に笑ってしまう。そう、全部やりたいのにやりたくないんだ。もどかしい気持ちが広がり体が動かなくなる。言葉にすると、心にストンと落ちた。空に視線を戻すと少しずつ茜色に色が変わろうとしていた。


菜乃花が疑問符だらけの顔で


「どういう事?」


と尋ねる。


「勉強も高跳びも全部やりたいけどやりたくない。何もかも楽しく感じない」

「陸上も?」

「陸上も」

「菜乃花はない?」

「ないよ。私はない。」

「そっかぁ」


少しの沈黙が流れる。やりたいのにやりたくない矛盾する気持ちがあって上手く説明できない。でも、楽しいと感じないのは確か。あんなに毎日、熱中していたものが急に冷めていく。記録も伸びない。成績は落ちる。何がしたいのか、どうしたらいいのか不安で不安で仕方がない。そう思いながら紙飛行機をまた、飛ばした。

菜の花が沈黙を破るように話し始める。


「どうしたらいいのか分からないけどさ。やりたくないのにしても楽しくないじゃない?少しだけ距離とか置いてもいいじゃないかな?ちょうどテスト週間で部活休みだし。さすがに勉強に距離を置いたらなんか言えないけど。間を置いたらまた、楽しくなるよきっと」


菜乃花が言葉を考えながら言ってくれたのが分かった。少し心が軽くなり、菜乃花に声を掛ける。


「帰ろっか」

「私、それを誘いにきたのに。お腹すいたぁ。帰り、コンビニ寄ろうよ」


私の言葉にすかさず返す菜乃花に笑いながら、


「え〜、いいけど。菜乃花、今日、英語の時間寝てたでしょ。隣の野坂君、観察して笑ってたよ。」

と言うと


「えっ。本当に」


と焦った声が聞こえた。

もう一度窓の下を見るとさっき、飛ばした紙飛行機が静かに風に揺れていた。



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