3.
すべての音を吸ってしまうくらい欠片を振りまきましょう。
すべてを白に閉じ込めましょう。
この静けさは好きだわ。
明るい音も好きだけれど、すべてのものが眠りについたかのような、こんな静かな日があってもいいと思うの。
ひとのこどもがいるわ。
あら、もうおうちにいるのが我慢できなくなったみたいね。
でもこれだけわたしの欠片が積もっているのだから、お外に出たらきっと埋れてしまうわ。
欠片を強めに振りまきましょう。
そうそう、お外は危ないから出ては駄目よ。
暖炉にまきを焼べているわね。お鍋をかけているわ。
これからご飯にでもするのかしら?
まきも食べ物も十分あるみたいね。
今日のメニューはシチューのようね。きっと芯まで暖かくなるわ。
ずいぶんと欠片を振りまいたわね。
わたしの纏う欠片もだいぶ少なくなったわ。
あのひとは……ますます良くないみたいだわ。
具合が悪そうなのはかわらないとして、息が荒いし、不自然にほっぺたも赤いわ。
かれがお外を見ていないのは、これがはじめてじゃないかしら?
……今、薄く開けた目こちらを見なかったかしら?
本当に不思議なひとね。
ふわりと窓を越えれば、じんわりとからだに湿った暖かな風が纏わり付いてきて、あまり素敵な気分にはなれないわね。
汗で濡れた額は、びっくりするくらい熱かったわ。
今はまだ大丈夫だけれど、そのうちわたしが溶けてしまいそうね。
あら、また目があったわ。
びっくりしているわ。話そうとしちゃ、駄目よ。
そう、目を閉じて。大丈夫。
苦しくないように、わたしの冷たさをお裾分けするわ。
だから、おやすみなさい。