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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悪役令嬢のはずだったのにこの世界はどこかおかしい!!

作者: 藤上憶羅
掲載日:2026/10/22

目覚めの鐘が鳴るとはいうが、私の目覚めの鐘は、どうやら自分の頭を階段にゴンゴンゴンと3回打ち付ける音だったらしい。

私は薄れゆく意識の中で思い出した…。

そう、前世というものを。


私は、前世は普通の社会人だった。

乙女ゲームが好きで、最近ハマっていたものは

『ときめけ♡胸キュン学園』だった。

主人公は孤児として教会で拾われた女の子、マリア・マレーナ。

彼女は15歳の誕生日、突如聖女の力に目覚める。

そこからこの世界の貴族や才能を持つものが集う、トゥリメーケ学園に入学することになる。

そこで出会う攻略対象と仲を深め、来たる魔王との戦いに備え、卒業と同時に旅立つ…。

そう、このゲームはどちらかというとRPG要素が多かった作品だ。

恋愛するよりも後の魔王討伐の旅が長かった。

…私はそこが面白いと思ったわけだが。

そして、私は前世を思い出したと言った。

…私はこの世界に転生したのだ。

そして転生したのは主人公であるマリアにではない。

私が転生したのはこのゲームの悪役令嬢、カミーユ・アルフォレート…のはずだったのだが。


「私、男なんですけど――――――!!!!」

「坊ちゃま―――!!お目覚めになられたのですね―――!!」


そう、悪役令嬢であったはずの私、カミーユ・アルフォレートは男であった。

ちなみに前世もバッチリ男だ。

ゲームで一番好きだったのはヒロインのマリア・マレーナだった。

カミーユといえば学園編の最後にはヒロインをいじめた…いや、どちらかというとイジメというより行き過ぎてしまった淑女教育をしてしまったのだが。

まあ聖女への妬みを持っているように見えたのだろう。

そして噂に尾ひれやカミーユへの妬みが乗り、周りから意地悪令嬢のレッテルを貼られ、ついには断罪され、家から追放され、国からも追放され、国外で野垂れ死ぬという。

あれ?私ヤバいな?

そして私が男であるということは…マリアはまさか…!


「いや、何かの間違いだ!カミーユ・アルフォレートは女のはず!そうだな!?セバーヌ!!」

「は!?あ、いいえ坊ちゃま。坊ちゃまはどこからどう見ても、立派な男児にございます」

「嘘だぁああああああ!!」


私は頭を抱えた。

悪役令嬢…だったはずが令息である私。

しかし自分で言うのも何だが、全く悪役らしいことをしていない。

「坊ちゃまお気を確かに!!」なんて執事のセバーヌの声が遠くに聞こえる。

私はアルフォレート家の長男としてしっかりと紳士たる教育を受けてきたし、使用人たちへの振る舞いも横柄にはしていないはずだ。

…それはゲームのカミーユもそうだったはずだが…。

これがどうしてゲームではああなるのだカミーユ・アルフォレート!!


「セバーヌ、私は明日、トゥリメーケ学園へ入学するな?」

「はい、左様でございます坊ちゃま」

「明日からが勝負ということか…」

「いいだろう!私は破滅を回避しようじゃないか!!」


私は明日から始まるゲーム本編に向け、決意を述べたのであった。

その夜セバーヌは父上に私が頭を打ってから少しおかしくなったと報告したようだった。

失礼な!前世の記憶が蘇ったからといって性格は変わっていないぞ!


…


輝けるトゥリメーケ学園の朝が来た。

私は今、入学式が始まろうとしている講堂に大人しく座っている。

そしてさすが、トゥリメーケ学園に入学する選ばれし者たちだ。

まだ入学式は始まっていないというのに、この静かさ…。

貴族は無駄話をしない…いや、そんなことはない。

おかしい、皆が皆引っ込み思案なわけではないはず…。

ここでまず友人を作ろうと話しかけたり…何かしら話すだろう。

しかし、誰も!話さない!

私自身も謎のプレッシャーを感じて、声を出すどころかじっと座っていることしかできない…!

なぜだ!?

そう思っていると「あ、すみません!」と後ろの方でどこかで聞いたことがあるような声が聞こえた。

そうして、謎のプレッシャーはどこかへ消えた。

…何だったのだろう?

そこからはチラホラと話し声や、席を立ち話すものも現れた。

私もそれに倣い、隣にいたどこかのご令息と簡単な挨拶と世間話をした。


…


「では、新入生代表、マリア・マレーナ!」

「はい」


入学式中だが、私は耳を疑った。

ここで代表になるのは入学試験での成績最優秀者のはず。

ということはマリア・マレーナが1位…?

おかしい!ゲームではありえない…いや、『ゲームの2周目』ならあり得たかもしれない話だ!

通常なら、攻略対象でありこの国の王子であるカルロス・ライオール第3王子殿下が挨拶をするはずだ!

そんなことを俯いて考えていた私は、マリア・マレーナの挨拶を聞き逃したのであった。

気付いた時には、優雅なカーテシーをするマリア・マレーナの姿があった。

「(ああ!!!!

マリア・マレーナ!!!

女だ!!!!!!!

やった――――――!!!!

淑女教育をするまでもないような見事なカーテシー!

私の好きだったマリア・マレーナが目の前に…!

どこか神々しさすら感じるお姿…さすが聖女!!

あれ…これなら私、破滅しなくて済むのでは!?)」

これは私がマリア・マレーナを一目見た時瞬時に脳内で駆け巡った思考である。

実際の私はマリア・マレーナを見て固まっていただけだ。

これからの学園生活、破滅恐れることなく過ごせそうだ。

私カミーユ・アルフォレートにゲームとは違う、新しい生活が始まろうとしていた。


…


入学式が終わり、事前にクラス分けされた教室へ行く。

ゲーム内でこのクラス分けは、学園が配慮に配慮を重ねたものだという設定だった。

マリア・マレーナは聖女ということで、平民でありながらもカルロス王子殿下と同じクラス。

またマリアを淑女として教育してくれと先生から依頼されていたという裏設定のあるカミーユも同じクラスであった。

そしてクラス分けはゲームと同じらしい。

私はマリアと王子殿下と同じクラスになった。

とても、気まずい!

チラリとマリアのいる方に目を向けると、私を信じられないものを見るような目で見ていた。

…気のせいだろうか?

いや気のせいではない、こっちにズンズン向かってきている!?

何だ!?すごくオーラが怖い!!


「貴方は…カミーユ・アルフォレート様でしょうか?」


心なしか地を這っているかのような低い声でマリアは私に尋ねてきた。

その姿はまるで歴戦の覇者のような屈強なオーラをまとっている。

私は、まだ彼女に何もしていないはずでは!?

そしてこのプレッシャー…これは入学式と同じ!!

ならあれは彼女だったのか!?

だめだ、うろたえるんじゃないカミーユ・アルフォレート…。


「そうです。聖女様」

「私はアルフォレート家長男。カミーユ・アルフォレートでございます」

「聖女様と同じクラスになれて光栄です。これからよろしくお願いしますね」


歯がガチガチと鳴りそうなのを堪え、精一杯の紳士としてのカミーユ・アルフォレートとして笑顔で振る舞う。

…胃がどうにかなりそう。

そして私の挨拶を聞いたマリアはオーラを引っ込めぼそっと「カミーユ様が…男の子…」と呟いた。

…ん?そこに疑問を持つのか…?


「はい、私は男です。聖女様」

「ゔぉっ!?ぐふぅ!んん!!……これは神様が与えた試練なのでしょうか…」


雄叫びのようなものが出そうになっていたが、口を押さえマリアは聖女のような笑みで取り繕った。

…マリアも、まさか…私と同じ、転生者なのか…?

そんな!私がゲームで一番好きだったマリアは!?どこ!?

私はあまりの衝撃にサラサラと砂になりそうになった。

いやまだそうと決めるのは早い。

本人に確認しなければ。

そう思った矢先、先生がやってきて授業が始まってしまった。


それからというもの、聖女の物珍しさやマリアの可憐な人柄ゆえか。

彼女の周りには常に人がいた。

なんなら攻略対象の王子も積極的に話しかけに行っていた。

そんなこんなで、私は彼女とはもう1か月以上話をする機会もなかった。


そして転機が訪れた。

魔術実習の始まりだった。

ゲーム内では大体卒業までお互いを高めあっていけるよう、属性相性のいいペアを先生が決めていた。

ゲームでは、マリアは王子殿下とペアになる…はずだった。


「カミーユ様、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、聖女様とペアになれるなんて光栄です」


なんとマリアは私のペアになった。

おかしい、マリアは聖女で聖属性が得意で・・・。

聖属性はすべての属性と相性がいいから、王子殿下とペアになるはずじゃ・・・。


「私は水属性が得意なようで、雷属性名門、アルフォレート家のカミーユ様とペアになれて嬉しいですわ」

「聖女様は聖属性だけでなく、水属性も使えるとは…すばらしいですね」

「ウフフ、頑張り…いえ、それほどでもありませんわ」


マリアはにっこりと微笑んでいた。

頑張ったと聞こえたのは気のせいだろうか。


「今日の実習を始めます。まずは基本から、自分の魔力のことを知りましょう」

「この水晶玉をそれぞれのペアに配ります」

「水晶玉にすこし魔力を込め、自分の属性と力の強さを知るのです」


私は手渡された水晶玉を見る。

これは家でもやったことがあるな。

雷魔術は父上と家庭教師に泣かされながら必死でやったものだ。


「ではカミーユ様、お先にどうぞ」

「わかりました。では失礼します」


私は水晶玉に魔力を込めた。

キラキラと黄色に光り輝く水晶玉を、マリアは目を輝かせながら見ていた。


「さすがですわ!カミーユ様!素敵な雷属性の輝きですね!」

「ありがとうございます、では聖女様どうぞ」


そうして、私はマリアに水晶玉を渡そうとした。

渡そうとしたところで、彼女の手に少し触れてしまった。


「あ、すみませ―――」

バリィン!!!!


大きな音と聖属性の白と水属性の青が混じった眩い光を放って水晶玉が砕け、地面に落ちた。

あたりは何事かと騒めいた。

私ははっとなり、マリアの手が怪我をしていないか確認しながら、声をかけた。


「お手を失礼します!聖女様お怪我はありませんか!?」

「…!!は、はい!大丈夫です、ありがとう、ございます」

「あぁ、貴方に怪我がなくて良かったです」


私はマリアの手をそっと離し、砕けた水晶玉を見た。

本当に彼女に怪我がなくてよかった。

しかし、頑丈なはずの水晶玉がなぜ突然砕けたのだろう。


「それにしても、突然驚きましたね」

「私が、魔力を込めすぎてしまったかもしれません…」

「それは…聖女様のお力に水晶玉が耐えられなかったのでしょうか」

「ははは!さすがです、聖女様」


いや、それはすごすぎないかマリア。

ゲームなら少し白く光る程度だったはずなんだが。

この聖女様、とんでもない逸材じゃないか?

そして実習中、私はマリアに、あのことを聞いてみることにした。


「聖女様、つかぬ事をお聞きしますが…乙女ゲーム、というものをご存じですか?」


もし、これでマリアが知らないというなら、この世界がゲームであることを知らない、転生者ではないということだ。

知っていたら、それは、私と同じだといえるだろう。


「乙女ゲーム、ですか…」

「…放課後、図書室へ来ていただけますか」


マリアは、その場では答えなかった。

私は彼女の答えを知るべく、放課後、図書館へ向かったのだった。


…


「来てくださって、ありがとうございます」


図書館には、聖女様以外誰もいなかった。

ゲーム内でも人がいる描写のなかった図書館だ、この世界でもあまり人気のないスポットなのだろう。

微笑むマリアに、私は単刀直入に聞くことにした。


「それで、実習の時の答えをお聞きしても…?」

「ええ…私は乙女ゲームを知っています」

「この世界が、元はゲームであることも」

「カミーユ・アルフォレート様が、ゲームでは本来女性であることも」


やはり、そうだった。

彼女は…彼女も、転生者だった。

だから入学初日、私を見て男の子だと疑問を口にしていたのだった。


「貴方も、転生者なのですか?」


マリアは、今度は私に質問してきた。

私も、答えなければならないだろう。


「そうです。私も転生者です」


それを聞いたマリアは、少し寂しそうな顔をした。


「なら…私が転生前、大好きだったカミーユ様は、この世界にいらっしゃらないんですね」

「私は大好きなカミーユ様の隣に立ちたくて…隣にいても恥ずかしくない聖女になろうとこの世界に生まれてから頑張ってきました」

「…なるほど、実は私も、転生前はマリア・マレーナ嬢のことがゲームで1番好きでした」

「ゲームの彼女も、この世界にはいないんですね…」


それぞれの悲しみを共有するかのように、私たちの間に、少しばかり沈黙が流れた。

先に口を開いたのは、マリアだった。


「ですが、私は貴方に会えてよかったです」

「貴方は私を真っ先に心配してくれた、その心が嬉しかったです」

「私は、貴方のことをもっと知りたい」

「ゲームの中のカミーユ様ではなく、今のカミーユ様を」

「聖女様‥」

「ええ、私も、今の貴方を知りたいです」


私たちはふわりと笑い合った。

この世界の転生者同士、仲間意識もあるだろう。

それから、私たちは魔術実習や学園行事などを経て良好な…良き友となった。

私とマリアはよく話すようになり、授業でも隣同士、ゲームで得た知識を共有しつつ、互いに勉学に励んでいた。

学食でもいつも一緒だった。

時には王子殿下も一緒に昼食をとっていた。

王子殿下は王家ということで、聖女であるマリアと仲良くなりたかったようだ。

ある時「聖女とは、普通に仲良くなりたいと思った」と言った王子殿下が少し可愛い少年に見えた。

そのことをマリアに話すと、マリアも同じことを思っていたらしく、2人で笑ってしまった。

最初はどこかオーラが怖いと感じていたが、今ではもうそんなことは思わなくなっていた。

いや、極稀に何かに怒るときは怖いが…。

いつしか私の隣に、マリアがいることが当たり前だと感じるようになっていた。

そうして入学から1年が経った。


…


ある日の放課後、私とマリアの前に立ちはだかる者がいた。

私の幼馴染である、シオン・オルレイアである。

…学園に入学してからめっきり会っていなかったので忘れていた。


「やっと会えたわねカミーユ」

「…久しぶりだな、シオン」

「まったく、貴方から挨拶に来るべきでしょう!」

「この学園の華である、シオン・オルレイアに!」

「…シオン、様ですか?」


髪をサラッとなびかせながらシオンはポーズを決めていた。

ああ、あのポーズよくやってたな。いつものシオンだ。

マリアはシオンを見て驚いていた。

なぜ、驚いているのだろう?


「そう、私はシオン・オルレイア!」

「貴方は…聖女マリア・マレーナね?」

「…そうです」

「話は聞いているわ、歴代の聖女の中でも類を見ない強さを持つと…」

「…そんなことは、ありませんわ」

「あら、謙遜なんていいのに!そんなところも可愛いわね」

「シオン、聖女様が困っているだろう?」


どこかぎこちないマリアを庇うために、私はシオンを止めた。

すると、マリアが驚くことを聞いてきた。


「シオン様は、カミーユ様の婚約者…なのですか?」

「…はぁ!?あ、すみません!違います!幼馴染です!」

「なるほど…そうでしたか」

「あら、マリア様はカミーユが好きなの?」

「え!?」


マリアは顔を赤くして、ごにょごにょと俯いてしまった。

そんなマリアを見て、私も顔が熱くなった。


「あらあら、うふふ」

「仲良きことはいいことよ!」

「それでは!邪魔者は退散しましょう!」

「ただし!カミーユ?今度私の屋敷に新しい本を持ってきなさいな!」

「では!ご機嫌よう!」


そういってシオンは嵐のように去ってしまった。

なんだったんだ…。


「カミーユ様、あのシオン様は」

「あぁ、あれは、気にしないでください…」

「いえ、あの、もしやゲームでは女たらしと有名だった攻略対象のシオン・オルレイアではないかと…」

「あ…言われてみれば!!本当だ!!」

「気付かなかったのですね」


そうだ、ずっと幼馴染として共に過ごし、まったく違和感を抱いていなかった!

シオン・オルレイア!ゲームでは男!この世界では…女だ!!

私と逆ではないか!!

シオンの容姿は、たしかにゲームのシオンから少し変わってはいるが、なぜ!気付かなかったのか!!


「まあ、そんなこともありますよ」

「そうでしょうか…」

「ええ、私は…シオン様がカミーユ様の婚約者でなくて安心しました」

「え…それは…そうですか」

「はい」


マリアは微笑み、何かを訴えるような目をしていたが、思わず私は、それを見て見ぬふりをした。

その後、後悔するとも知らずに。


…


その日の夜、私は自室のベッドで横になりながら、今日のことを考えていた。

マリアは、なぜシオンが婚約者でないことを安心したのか。

私は…マリアをどう思っているのだろう。

彼女と過ごした日々を思い出す。

入学式のあの素晴らしいカーテシー。

歴戦の覇者のようなオーラ。

真剣に勉学に励む横顔。

転生者だと教え合ったあの時の笑顔。

そして、真っ赤になった彼女の顔。


「あ――――――!!!」

「坊ちゃま!どうされました!?」

「セバーヌ!な、なんでもない!」


飛んできたセバーヌに驚くが、そこじゃない。

私が驚いたのは、そこではなかった。

私は…いつの間にか彼女のことが好きになっていた。

当たり前のように隣にいてくれる彼女を、好きになってしまった。


「カミーユ・アルフォレート嬢では、こうはならなかっただろうなぁ」


私は、赤くなっているであろう顔を手で覆いながら、自虐のように呟いた。

そうして、自分の思いを自覚した。

明日、彼女にこの思いを告げよう。

そうして、目を閉じ、眠りについた。


…


いや、まったく眠れなかった。

さらに悪いことに、急なことだが聖女としての仕事で彼女はこの周辺の教会の巡礼に行くことになってしまった。

さらに運悪く、私が教室に着いた頃には、もう出発した後だった。


「はぁああああ」

「どうした、ため息などついて。聖女マリアのことか?」

「ブッ!…いや、ええそうですね。挨拶もできませんでしたから」

「フッ…そうか」


王子殿下は含み笑いをしながら私を見ていた。

あの日、すぐに自分の思いに気付き、マリアに伝えていれば…そう思わずにはいられなかった。

そして次の日、シオンには私のおすすめの本を持って行った。

「いいコンビだったわ」と茶化された。

それから彼女が巡礼から帰って来たのは、その半年後だった。

私は、気が付くとつい彼女を探してしまっていた。

彼女は、まだ巡礼中で、ここにはいないのに。

そんな寂しさが、胸の中で募っていった。


…


薄暗く寒くなって来た空気に、手がかじかむ。

私は、そんな寒空の下、マリアの帰りを待った。

今日、マリアが巡礼を終え、学園に帰ってくるのだ。

もう日も暮れるところなので、待っているのは、私1人だ。

ガタガタと馬車の音がする。

マリアだ!

馬車の扉が開くと同時に、私の胸にマリアが飛び込んできた。


「聖女様、巡礼お疲れ様です」

「カミーユ様!私!カミーユ様に会えなくて寂しかったです!」

「…私もです、聖女様」


私は彼女を優しく抱きとめた。

そして、彼女の目をじっと見つめる。

ずっと言いたかった。

ようやく言える。


「聖女様…いや、マリア様、私の話を聞いてくれますか?」

「…はい」

「私、カミーユ・アルフォレートは、マリア・マレーナ様のことが好きです」

「どうか私と、お付き合いいただけませんか?」

「…はい!っ!はい!!!」


マリアは大輪の花が咲いたような美しい笑顔で答えてくれた。

それからしばらく、私たちはお互いの存在を確かめるように抱き合っていた。

そしてお互いの顔を見つめ合い「カミーユ様」とマリアが私の名を呼んだ。


「カミーユ様!私!嬉しいです!!!」

「ああ!嬉しすぎて、今なら魔王を倒せそうです!!」

「…え?」

「カミーユ様!魔王です!魔王!」

「実はもう復活しているのです!私!このゲームのRTA走者でしたので知っています!」

「えぇ!?」


私も転生前ゲームをやりこんでいたとは言え、このゲームにRTA部門があったことは知らなかった。

聞くとどうやらマリアは転生前、やりこみだけでは飽き足らずRTAもやりこみ、記録に挑戦していたらしい。


「今ならまだ魔王は復活して日も浅く、力も戻っていません!もう行っちゃいましょう!」

「いや、どうやって倒すんです!?」

「聖女砲です!私!この時のため学園入学前から練習していました!」

「聖女砲!?」


マリアの圧倒的聖女パワーは前世の記憶から、育成の最適解を実行したことで手に入れたそうだ。

道理で入学時には完成された聖女になっていたはずだ。

そしてマリアは聖女砲について教えてくれた。

腰を落とし、両手を合わせ腰の位置へ持っていく。

手に魔力をありったけ込め、ハァ――――!!と放つ。


「…なるほど?」

「ええ!善は急げです!私たちの明るい未来のために行きましょうカミーユ様!」

「お、おぉう?」


こうして私たちは旅に出た。

さすがはRTA走者、裏道を難なく通り、あっという間に魔王城、そして、魔王の目の前までやって来た。

…聖女マリアは、とんでもなく強かった。


「くっくっく、人間風情がよくぞここまで…」

「御託は結構!行きますわぁあああ…」

「おい、なにを―――」

「ハァ―――――――!!!!」


ズゴォオオオオオオオオオオオン!!!!


マリアの放った聖女砲は見事に魔王、そして魔王の玉座と壁をぶち破った。

見事に穴が開いたそこからは、陽の光がキラキラと差し込み、マリアを照らした。


「さあ、帰りましょう!カミーユ様!」

「そうですね、マリア様…」


かくして、この世界の平和は守られ、カミーユとマリアは学園生活を十分に謳歌し、卒業と同時に婚約したのであった。


卒業式後、最後の帰り道、2人は手を繋ぎながらゆっくりと歩いている。


「前世の記憶が戻った時は、終わったって思ったけど」

「私はこのおかしな世界でも、幸せになれた」

「マリア…君がいてくれてよかった。ありがとう」

「カミーユ様…私も、カミーユ様がカミーユ様でよかった」

「私も、とっても幸せですわ」


2人の左手の薬指に、同じ指輪が輝いていた。


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