28話 アルフォスの追放
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王家から下された辞令は、あまりにも無慈悲で一方的なものだった。
『アルフォス・ファーメンテッドの勇者候補生の資格を剥奪する。同時に、当主命令による最果てのラビット村への追放処分を執行する』
罪を犯したわけでもないのに、実家の借金を連帯保証人として背負わされ、最悪の流刑地へと送られる。
前世の営業マン脳でどれほど不服申し立てのロジックを組み立てようとも、国家と実家の決定を覆す手立ては、今の俺には何一つ残されていなかった。
数日後、俺が荷物をまとめて王立学園の寮から出る日がやってきた。
覚悟を決めて学園の正門をくぐった俺は、そこに広がる光景に息を呑んだ。
門から街道までを埋め尽くす、かつてないほどの大勢の群衆が俺を待っていたのだ。
「アルフォス様! なぜあなたが勇者候補を剥奪されなければならないのですか!」
「罪も犯していないのに追放なんて理不尽だ! しかも、生きては戻れないラビット村だなんて!」
大勢の学友たちが涙を流し、国家の決定に激しい怒りの声を上げていた。
見送りに来ていたのは学友だけではなかった。
「アルフォス様! 俺はあんたのマヨネーズのファンなんだ! 行かないでくれ!」
「あのリバーシという素晴らしい遊戯を教えてくれた天才を、なぜ国は手放すんだ!」
王都の平民や、マヨネーズ・リバーシの熱狂的なファンたちも大勢駆けつけていた。その中には、あのマヨネーズを最初に作らせたオヤジや、あのチラシを作った商会長たちの姿まであった。
彼らですら「俺たちのマヨネーズの神様が……っ!」と、ボロボロと涙を流して別れを惜しんでいる。
ハッタリと営業スマイル、そして生き残るための下調べ(リサーチ)だけで築き上げてきた学園生活だったが──
どうやら、俺がここで残した足跡は、決して無駄ではなかったらしい。
囚人馬車の鉄格子に手をかけ、俺は集まってくれた人々に、前世の営業マン時代にもしたことのない、心からの爽やかな笑みを向けた。
ガタガタと音を立てて、馬車が走り出す。
遠ざかっていく王都の街並みと、いつまでも俺の名を呼び続ける人々の声を背に受けながら、俺は馬車の隅に深く腰掛け、どこか悟ったような気持ちで静かに目を閉じた。
(──やっぱり、自分の保守に回って、あの夜リュカを見捨てちまったのが間違いだったか)
思えば、すべてはあの授与式の夜から始まっていた。悪役転生おじさんとして、破滅フラグを回避することばかりに必死になり、恐怖のあまり藁をも掴む思いで扉を叩いていた十歳の弟の手を振り払ってしまった。
あの選択のツケが、巡り巡って、今のこの最悪な結末(借金とラビット村)として俺の元に返ってきたのだ。自業自得だな。
今回の決定には周りには理不尽に見えるだろうが俺とリュカは真実を知っている。
まぁ、納得だな。
実はちょっと前にリュカから手紙を渡された。直接渡しに来たのは強面の狼の獣人だった。
内容は至ってシンプルだった。
リバーシとマヨネーズで俺が転生者だったと分かったこと。
そして、あの夜、何故、ネットショップのスキルについて教えてくれなかったのかと。
許せないと。
だから、追放先は本当は違う貧しい村の予定だったがラビット村へ変更したと書いてあった。
そして最後に、
追放先をラビット村から変更してくれた事に対しての感謝。
シンプルな手紙には涙の跡があった。どうやら、リュカには辛い思いをさせてたみたいだ。
(悪役はやっぱり、最後は最悪の地に追放されるのがお約束だよな……)
自嘲気味に笑う。
だが、不思議と胸の中に絶望はなかった。
むしろ、俺を縛り付けていたドス黒いプレッシャーから、ようやく解放されたような奇妙な軽やかさすら感じていた。
(まあ、これで……もうリュカのネットショップの覚醒に、怯えなくていいんだな)
いつあいつがチート武器で攻めてくるか、いつ暗殺されるかと夜も眠れなかったあの日々は、もう終わりだ。
すべてを失い、どん底まで落ちきったからこそ、なんだか逆に気が晴れた気がする。
借金?
踏み倒してやるさ。
ラビット村?
本当の地獄だって言うなら、前世の泥臭いド根性営業マンの生き残りスキルを、これでもかってくらい見せつけてやる。
「よし──。ちょっくら、死に物狂いで生き延びてやるか!」
これで一旦、完結になります。
第三章はアルフォスの奮闘編になります。
構想は前に短編(削除済み)として出したものが元になります。
リュカのスキルは本来ならもっと苦労するのですが端折ってしまったのが心残り……。




