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正しい持ち主

掲載日:2026/07/07

 わしの番やね。わし、ちょいとした会社で長いこと社長やっとるんやけど、ツウぶりたくて古道具に手ぇ出しとった時期があってやね。それをやめたきっかけになる話をやね、こうやって語らしてもらおかっちゅうことでね。ここに来たんや。


 うん? おお、ええで。わしの言葉やったら、録音しても問題あらへんし。


 なんやな。わしが古道具を買うとった理由か? ンまあ、さっきも言うたようにツウぶりたいっちゅうンもあったし、家内がそういうもんを好きやったっちゅうのもあるわ。そうは言うても、アンティークやブロカントやっちゅうもんでも()ぉて、近くにある古道具屋でいろいろ見繕って、それを部屋やら応接室に置いてやね。ただ……どこから買うてきたんか分からんモンを部屋に置いとった家内が、急にガンになって逝ってしもてなあ。古道具っちゅうてもやっぱりあれや、アカンもん……呪物っちゅう言い方やったか? そういうもんがあるんやろなと思て、坊さんとあの古道具屋のコンビで引き取りに来てもろたんや。


 そこで縁ができて、まあまだ懲りとらんかったンもあってな、あそこの店に出入りするようになったんや。そんでな、「曰くつき」を……紹介されるんやけど、買うよりかは冷やかしに行っとるばっかしやったなあ。まあアレや、茶飲み友達みたいなもんや。うちの会社と取引があるとこにも紹介したったし、そこそこ間接的に儲けになっとったみたいやから、許されとったんや。


 まあアレやな、古道具屋で曰くつきのモンの話を聞いて、カウンターでふたり玉露と茶菓子やっとる。小説かなんかやったら、えらいオモロい話やったかもしれへんなァ。中にはシャレにならん話もあったけど、坊さんが供養したりどっかの博物館に行ったりで、ちょっとずつ弱めとるっちゅう話やったわ。せやけど、ホンマにシャレにならんやつもあってな。いやまあ……いきさつからして罰当たりなモンやから、そらせやろと思ったけどな。




 ある日、あれはけっこう秋やったかな。わしもチョッキ着とったし、店主もけっこう厚着しとったような憶えがあるわ。十五時になったら、いつもは鳩時計が鳴るんやけど……その日はなんやおかしい、幽霊が演奏しとるんかっちゅうくらい物寂しい笛の音が聞こえてな。そんでや、前に話を聞いとった「コップが入った瓶」……いやまあ、そうなるいきさつがあるねん。いちいち突っ込まんといてくれや、話が進まへんやろ。あれがな、カタカタ震え出しとったんや。


「ひとりでに鳴る笛の話なんぞ聞いとらへんで」っちゅうたらやね、首振って「あれです」とばかりに指さして……それがな、オルゴールやったんや。たしかにオルゴールがこう、くるくる回っとってな、それやのに笛の音が聞こえてきとんねん。確かになんか変な色で、材質は……後で言うわ、まあおかしなもんやったけど、そんな仕組みは作れへん。明らかにおかしいシロモノやったんやね。


 その日は店じまいで、次の営業日に行ってオルゴールの話を聞くことになったんやけどな。よぉやるわ、っちゅうくらいアホな、曰くつきっちゅうか、曰く“付け”やった。わしもまあまあ小金持ちなんやけど、ほんまもんの大金持ちは、たまにとんでもないことをしよるもんでなあ。何人も斬った妖刀やら、(※聞き取り不能)やら……まあとんでもないモンをいくつも集めて鋳溶(いと)かして、ほんまもんを作らせようとしたんや。職人もまたアホで、悪趣味なモンばっかり作っとるイカレやったから、頭痛ぉなっても痩せても、それがホンマにあかんことになっとるとは思わんかったみたいでなあ。


 中になんかの指輪が入ってるらしい、っちゅうンも聞いたわ。あれやな、有名な話やと「ブルーホープ」の同類らしいわ。あんなもんが世界にいくつもあるんが、怖ァてしゃあないんやけど、まあ現実にあるもんはしゃあないわな。宝石も因縁を集めるもんやからなあ、その富豪はやる気バリバリやったんやろな。……名前は聞いたけど、言わへんで。調べたらだいたい分かるて、イジワルしとるんとちゃう。


 何百何千何万、数えきれへんほどの念が籠っとるモンやからな、人によって聞こえる音が()ゃうらしいんや。ラジオの音、時計の音、断続する悲鳴やら事故の音、サイレンの音。それに、あれが鳴ると近くにある曰くつきのなんかが動き出すっちゅうことでな。あの店主は「目覚まし」て呼んどったわ。うん、まあ話がここで終わっとってもじゅうぶん怖かったんやろけど、まだあんねんな。長ぁなってすまんけど、聞いたってや。


 その「目覚まし」がな、ある日に買われていったんや。二回くらい鳴っとるところに出くわしたもんやから、いつ鳴り出すか戦々恐々としとったんやけども、ちらと見たらないねん。誰ぞ買っていきよったんか、っちゅうたら「変わり者の人が」て。まあええねんけど、変わり者て言うても種類がいろいろおるやろ? 案の定や。わしよりカネも持ってへん、家も大したことないところで、好事家っちゅうてもド素人や。審美眼もクソもあらへん……まあわしもそうやから、人のこと言えたもんちゃうけれども。


 で、あれや……若いのが何人かで押し入り強盗するやつ。せや、それ、闇バイト! あれがその爺さんの家に入りよって、殺してまいよったんや。新聞にも載っとったわ、家にタンス貯金で一千万くらい貯めとって、資産価値のありそうなモンもコレクションしとったから、億近い被害額やったらしいな。


 そんでな、爺さんの家にあった古道具は、やっぱり近くの古道具屋で買い取ってもらうことになるやろ。あの店で売ったモンもいくつかあって、よそから仕入れたモンも当然入っとったらしいんやけどな。あのオルゴールは入ってへんかったんやと、そういう話やねん。一か月くらい経って、闇バイトやったか、闇バイトで合っとるんやな。あれの上役も逮捕されたんやけど、どこぞに売ってしもて返ってきてへんらしいわ。




 あの件以降、古道具屋に通うんはやめたわ。なんかな、分かるようになってしもてんや。こいつは起きる、こいつは起きひん。中になんかおるンが、なんとなく分かんねん。そういうとき、どこにあるか……それこそ国内にあるやも知れへん、分からへんあのオルゴールの、あの音がな。あの音に乗って、なんか言うてるような気がすんねん。


 坊さんに言うて、あの店主がこっそり録音しとったやつを聞いてもろたらな。「聞こえるか」って言うとるんやと。聞こえるわいな、てわしがついつい言うたらやな、周りに人が何十人もいるような「きゃはははは!」て大笑いが聞こえてやね。満員電車におるような、人にぎっしり囲まれた感覚がしてな、気絶した。お寺さんの広い広い部屋で、一対一でおったとは思われへんような出来事やった。悪鬼や心霊やのたぐいはお寺さんやら神社には入れへんもんやと思とったけど、違うんやな。


 それでやな。そこにあったんや。来とった……オルゴールが。サンゴが挟まっとって、なんや海藻みたいなモンも付いとった。どこにあるやら分からんと思とったら、海の底にあったんやな。しかも、来た。


 新しい家建てて、新しい家具入れて、何もあらへんものに囲まれて……味もそっけもない生活を送っとるとやね、また聞きたぁなるんや。いつの間にか寝とって、夢の中であの音楽を聴くたびに、思うんや――わしが正しい持ち主に違いない、誰にも渡せへん、て。わしももう七十やから、いつポックリ逝くやら分からん身ィや。せやから、弁護士に遺言状作らせて、ちゃんと書いといたわ。


 カネも土地も好きにせえ、あれだけ骨壺に入れろ、て。


 せやな。あれさえあればええ、他のモンはいらん。せやから通わんようになったんや。新しいモンにわくわくする歳やない、隠居決め込んだら大金はよう使われへん。工場長やっとる息子も、家にはよう来んしな……“ふたり”の時間が増えようっちゅうもんや。


 作ったやつの名前か? ああ、裏側に

(録音はここで終わっている)

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