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離婚は前提条件なので。  作者: cheeery


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8/19

まさかの再開


パーティーでの一件から数週間が過ぎた。

私と彼の生活はなにごともなく進んでいっている。


四宮くんも前より私に頼みたいことを告げることが多くなった気がする。


そっちの方が利害関係って感じでしっくりきて居心地がいい。


借金も今はなんとかコツコツ返しているし……。

といってとこのままこのペースで返していくとあと20年かかってしまうのよね。


20年も彼と一緒に過ごすなんて、それこそ老夫婦みたいになってしまう。

もっと早く返せるように仕事を頑張らないと!


「桐谷課長……始業前にすみません、チェックをお願いします」

「ええ」


部下が恐る恐る企画書を提出する。

私の日常は仕事に埋め尽くされている。


「ここ、ミスがあるのと、これじゃあコンセプトが弱すぎる。再度案をちょうだい」

「は、はい……!」


課長という立場は常に判断と決断の連続だ。


「また怒られちゃったよ」

「まじで怖すぎ」


別に怒ってるわけじゃないのだけど。

ダメなものはダメだと言わないと彼らが苦労することになる。


そう思って言っているが、この感じなので伝わらない。


私も四宮くんのように上手く笑顔を作ったらいいのかしら……。

でもそんなことしたらもっと部下たちは怯えてしまうだろう。


私はパソコンの画面に映る膨大なデータに視線を向けた。


「桐谷」

「はい」


すると部長が話しかけてきた。


「今日から営業企画部に新しい人が入る。中途採用だ」


そういえば、抜け落ちてたけど、前にやんわり言われたっけ……。


「ついてはキミに新人教育を任せたい」


また仕事が増えるな……。

でもこれは私の役目だ。


「承知しました」

「頼んだぞ」


私が淡々とそう答えると、部長はほっとしたように息をついた。

やがて始業のベルが鳴り響く。


「おはようございます」


さっそく朝会が始まるなり部長が告げる。


「みんな、今日から新しく入る方を紹介する」


それと同時にドアが開き、人が入ってきた。


「……っ」


私はその男の顔を見て息をのんだ。


どうして彼がここに……。


「佐伯俊です。前職も同じ業界で働いていました。経験を活かしつつ、みなさんと一緒に成果を上げられればと思っています。よろしくお願いします」


ウソ、でしょ……。


その顔は昔見たことのある顔。

忘れもしない。


『だってお前、可愛げないんだもん』


私にそう吐き捨てた元カレであった。


あの爽やかな笑顔。

変わっていない……。


社員のみんなは温かい拍手を送った。


「経験あるなら頼りになりそうだね」

「カッコイイ~」


そんな声まで聞こえる。


私は声を出せなかった。


「それじゃあ桐島さん、彼を頼んだよ」

「わ、分かりました」


佐伯くんは私をみると目を大きく見開く。


今気づいたのか……。

私の会社……覚えてなかったということか。


そりゃそうか。

前付き合った……いや、前に手を出した程度の女がどこへ就職したのかなんて覚えているわけないか。


そして私を見てなにごともなかったように、柔らかな笑みを浮かべる。


「桐谷さん……よろしくお願いします」


彼はすっと手を差し出した。


私はその手を取る。


「ええ、よろしく」


最悪。

どうして、よりによって同じ会社に……。


もう二度と会いたくないと思っていた人とこの会社で再会するなんて、本当に最悪だ。


それからすぐに私は、会社のルールや業務の流れについて彼に説明をすることになった。


私はあくまで上司として、淡々と言葉を紡ぐ。


会いたくない人間を前にして仕事を教えるなんて、正直やっていられないけど、投げ出すほど無責任に仕事をしていない。


一通り会社の場所の説明を終え、私は廊下で尋ねた。


「なにか質問は?」


すると彼は言った。


「……久しぶりだな、美和」


昔呼ばれていた名前に、私はぴくりと反応する。


「その名前で呼ばないでください。ここは会社です」


「冷たいな。そんな冷たい人間じゃなかっただろう?」


彼は自然な仕草で歩み寄ってくる。


なんで平気で話せるんだろう。

きっとなんとも思っていないんだろうな。


ちょっと遊んでぽいっと捨てて、自分がヒドイことをしたなんてこれっぽっちも思っていない。


「課長になってたなんてすごいな。昔から真面目で頑張り屋だったけど、ここまで出世してるなんて思わなかったよ」


その口調は懐かしい友人にでも話すみたいに軽かった。


「俺さ……前の会社でさ、上司にコキ使われるようになったからダルいなと思って転職したんだ。そしたらまさか美和のいる会社だとは思わなかったよ」


ペラペラと聞いてもいないことを話す彼が煩わしかった。


「そんなこと聞いてないです」


「まぁまぁ、これから美和と一緒に働けるなんて楽しみだよ」


彼は嬉しそうにそんなことを言い放った。


なにが楽しみ?

頭おかしいんじゃないの?


言ってやりたかった。

でも言わない。


きっと言っても伝わらないから。


「いいから戻りましょう」


私がそう促そうとすると、彼は言った。


「俺さ……離婚したんだ」


その言葉に私の足が止まる。


「結婚生活、あの子とは長くは続かなかったな~」


そう、この男は私に手を出したクセに奥さんという存在がいた最低野郎だった。

奥さんがいる時に私とばったり会ってしまった時、私をストーカーだとののしった。


「その時によく考えたよ。あの時美和と結婚していたら今頃どうなっていただろうって」


なにを言っているの。

ありえない。


裏切られ、踏みにじったクセにまるで自分のことしか考えていない彼に怒りが湧いた。


「たぶん俺たちなら上手く行ってと思うんだ」


心臓が強く脈打ち、呼吸が浅くなる。

でも、私は言葉を押し殺した。


ここで感情を見せてもなににもならない。


「そう……そういう話、興味ないから」


ただ冷たく返す。

私はすぐに背を向けた。


足早にその場を離れようとしたとき、背後からぐいと手を掴まれた。


「……っ!」


「なんか雰囲気変わった?美和は今……彼氏いるの?」


佐伯くんは一歩近づき、声を低く落とした。


気持ち悪い。

まるで、自分にまだ選ばれる余地があるとでも言いたげな声だ。


「……佐伯さんに言う必要なんてないでしょう。業務以外のことは出来るだけ話しかけてこないで」


声がかすれた。

彼の瞳がわずかに細められ、私の反応を探るように光を宿す。


「なぁ……もしいないんだったら俺たち……」


そこまで言った瞬間。


「そこでなにをしているんですか」


背後から地を這うような低い声が響いた。


その声に佐伯くんの肩がびくりと大きく跳ねる。

私もはっとして振り返った。

そこには四宮くんが冷たい瞳でこちらを見ていた。


「しゃ、社長……!いえ、これはその……むかし話をですね……俺たち前から付き合いがあって」


佐伯くんが慌ててしどろもどろに言い訳を始める。

だが四宮くんはそんな彼のことなどまるで目に入っていない。 ただ真っ直ぐに私だけを見ていた。


「業務の話が終わっているなら、早く持ち場に戻りなさい」


有無を言わささぬ命令。


「は、はい!」


当然私たちがなにか言うことなんて出来るわけもなく、佐伯くんは慌ててその場を立ち去っていった。

彼の後を追うように私もその場を後にする。


すると四宮くんが私の手を掴んだ。


「……っ!」


驚いて振り返る。

しかし四宮くんがどんな表情をしているか分からなかった。


「えっと……社長……なんでしょうか?」


驚いてそう尋ねると、彼ははっとしたようにつぶやく。


「いえ……」


彼の手は離れていき、私はオフィスに戻った。


……なんだったんだろう。

なにかを言いたげな目をしていた。


あの感じで文句を言おうとしていたわけじゃなさそうだし……。


その夜。

私は先に家に帰った。


四宮くんはまだ帰ってきてないようだ。


はぁ……疲れた。

佐伯くんとの一件でひどく疲れてしまった。


また毎日顔を合わせないといけないのか……。

そう考えるだけで疲れが増していく。


それから食事をして、しばらくソファーでゆっくりしていると、玄関のドアが開く音がした。


「おかえりなさい」

「ただいま」


いつもの会話をする。

彼はリビングにやってくるとジャケットを脱ぎ、ハンガーにかける。


そして横目で私を見てから告げた。


「ずいぶんお疲れですね」


「ええ、今日から新しい人が来たから……」


ネクタイを緩めながらなにかを考える四宮くん。


「佐伯俊……」


彼はポツリと名前をつぶやきながら、静かに私に尋ねた。


「彼とはなにか関係が?」


驚いた。

そんなこと興味もないと思っていたから。


彼の方から聞いてくるなんて。


「昔ちょっとね……」

「ふぅん」


しかし、簡単な返事をするだけでそれ以上なにも聞いてこなかった。


なによ、ただ会話を埋めただけか。

興味ないなら聞いてこなきゃいいのに。


彼もまだ夫としてのカタチを意識しているのか、ふたりでいる間は会話をしようと勤めていた。


私は、四宮くんがずっと私を無視していても構わないんだけど……。


そんなことを思っていると、いつの間にやってきたのか背後からふわりと包み込まれた。


「ちょっ……!」


驚いて身を固くする私。

耳元で、彼が低く囁く。


「……元カレ、だったり?」


その全てを見透かしたような問い。


「……だったら、どうするの」


私がそう返すと私を抱きしめる彼の腕にぎゅっと、力が込められた。


「……妬けますね」


なにが妬けるだ。

そんなこと思ってもないクセに。


「そういうサービストークはいらないから」


そう言って彼の腕の中から逃れようともがく。

だが私を抱きしめる彼の腕に一層力がこもった。


「ちょっ……はな」

「作られた関係でもこういうコミュニケーションは必要だ」


耳元で彼の声が響く。

それはどこか怒っているような声であった。


「あなたは僕の妻なんですから」


そう言うと彼は私のあごをすくい上げた。

そして私の首筋に顔をうずめる。


抵抗する間もなく鎖骨の柔らかなところに唇を寄せた。


「なに、して……」


ちゅ、とリップ音が聞こえたと思ったら、ちくりと小さな痛みが走った。


「んっ……!」


彼がゆっくりと顔を離す。

するとそこには赤い痕が刻まれていた。


「な……に、するの……!」


それは自分の所有物であることをアピールするかのようだった。


「別に。ただの夫婦のコミュニケーションですよ。ちゃんと隠せるところに付けましたし……」


彼は悪びれもせず、にこりと笑う。


「くれぐれも気持ちが盛り上がって朝帰りなんてしないでくださいね」


彼はそれだけ残して去っていった。


なん、なのよ……。

朝帰りなんてするわけないでしょ!


洗面台に向かうと、くっきりと赤い痕がついていた。


時々する彼のサービストーク。

こうやって興味があるフリをしているんだろうけど、過剰な時がある。


まるで本当に私を好きだと伝えているような目。

そこまでしなくていいのに。


なんか、あの時の四宮くん……かなり怒ってたと思う。

なにか気に障ること言った?


私はいつもの調子で言っただけじゃない。


『作られた関係でもこういうコミュニケーションは必要だ』


でも、なんだろう……。


さっきの四宮くん……ちょっと怒っているように見えたかも。



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