As7.新たな出会い、既視の一矢
お待たせしました! 長くなったので分けてます。
ポルトゥスの港に着いたヴァラロスは街を散策していた。オーディーンは今入港の手続きをしている為、別行動だ。どうやら、あまりにも巨大な船であったために港の船着場に船をつけることができず、仕方なく非常用のボートで陸に上がることとなった。
あまりの大きさにポルトゥスの港にいた皆が驚き、色々な思惑が錯綜している。職人達も質問攻めにあっているようだ。唯一造船に関与していないヴァラロスはその騒動から逃れることができ、今、自由な時間を謳歌するのであった。
「逃げることができたとは言っても……どうすっかな……」
普段、そんなにぶらぶらすることのないヴァラロスは手持ち無沙汰になる。いつもは依頼をこなして休み、また依頼をこなしては休みを繰り返してきた。急に自由な時間ができたと言われても困ってしまうのだ。
オーディーンが解放されるまでまだまだかかるだろう。役人まで駆けつけてきたように見えた。あの商人の神様のことだ。きっと、港の改築工事の話とか持ちかけるのだろう。あの船を直接つけられる専用の乗り場を作る気だと思われる。そうすれば荷下ろしを考慮した乗り場にもできるし、何より船の宣伝にもなる。港街にとってこの船の存在はあまりにも大きい。
「……店でもみて回るか」
もはや、やることがないヴァラロスは、時間を潰すため店を見て回ることにした。
しばらく歩いていると北にある街の出入り口まで来てしまった。その近くに武器屋と防具屋があるのが見える。
「あれ……、真っ直ぐ歩いたのが悪かったか? もう出入り口だ。……折角だし、武器屋見ていくか」
ヴァラロスはまず武器屋を覗くことにした。
「いらっしゃいませ。よければ見てってください」
店に入るなり控えめな声が聞こえてきた。店主は背は高くほっそりとした青年といった印象だ。目がダークブルーの髪で隠れており、その表情を窺うのが難しい。辺りを見ると様々な武器が並んでいる。そのどれもが艶がありきちんと手入れされているのがわかる。恐らく、武器としての性能も申し分ないだろう。
そんなことを思いながら武器を見て回ると、とある武器が目に留まった。
「これは……」
「お客さん、弓も使うんです?」
そこには一つの弓が飾られていた。そこそこな価格ではあったが、見るからに品質が違う。普段は剣を使うヴァラロスであったが、何故かその弓のことが気になったのだ。
「いや、俺は弓は使わない……はずだ」
「はず……? まぁ、ものは試しに使ってみますか? 裏手に武器を試せる広場があるんで」
「じゃあ、ちょっとやってみようかな」
ヴァラロスは何故か弓を使ってみようと考えた。普段は剣で戦い、弓を使うことなどない。だが、身体が、心が弓を使ってみろという。まるで、それが正解と言わんばかりに、そうしなければならないという衝動に襲われるのだ。最近のヴァラロスはその衝動に従うようにしている。それが、求めている正解へと近付くと信じているのだ。
弓を持って店の裏手に移動したヴァラロス達。用意された的を弓で射るようにと矢を渡される。言われるがまま弓を構えたヴァラロスは弓を引き矢を放った。
パシュッ!……トンッ!
心地よい音と共に矢が的に当たる。それも、ど真ん中に。
「……お客さんすごいですね。本当に普段弓使わないんですか……?」
「…………俺も、驚いてる」
矢を放った瞬間、どこか懐かしく感じた。過去に、何か大切な人のために矢を放った気がした。
そのあとも数回試させてもらったが、どれも矢が的のど真ん中に刺さり、狙ったところに狂いなく矢の軌道が描かれる。流石に、その様子に武器屋店主だけでなくヴァラロスも言葉を失っていた。
(どういうことだ……。弓なんてまともに使ったことはないのに……あ)
その時、オーディーンの言葉が思い出された。
『戦ってみれば自然とその力がわかる』
なるほど。剣だけではなく弓まで強化されるのか。ヴァラロスはそう考えることにした。それ以外に原因が思いつかないからだ。必死に訓練して弓を極めた人々に申し訳なさを感じつつも、ヴァラロスは弓を今後使うことを検討するのであった。
「……す、すごいですね」
やっとの思いで言葉を捻り出した武器屋の店主。だが、そこから先の言葉がなかなか出てこないようだった。そんな時、横から声が聞こえてくる。
「あ、タシット! お客さん来たんだったら教えてよ!」
「ご、ごめん……。弓を試した後に呼ぼうと思ってたんだよ」
「ふーん……なら、いいか。……ってなにあれ!? 全部ど真ん中じゃんっ!? お客さん! 絶対うちの店も見てってね! タシット! あとで案内よろしくー」
「わ、分かったよ……」
圧の強いその女性は、タシットと呼ばれた武器屋の店主ほどではないがそこそこに背が高い。発色の良い赤い髪を上にまとめており、その発言に似合うようにハツラツとした印象を受ける。そんな彼女は隣の防具屋へと戻っていった。
「……すみません。隣で防具屋をやってる娘なんですが、幼馴染でして、お客が来たら紹介してほしいと言ってくるんです……」
「別に、気にしていないから問題ない。むしろ、時間を持て余してるから後であっちも見てみるよ」
「そうですか? なら、よかったです」
顔が綻びどこか嬉しそうな表情をするタシット。喜ぶ幼馴染の顔を思い浮かべているのだろうか。どうやら、一方的な要求に迷惑しているわけではないようでヴァラロスは少し安心した。
「この弓、買うことにするよ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
先ほどと比べてあからさまに元気よく返事をするタシット。その様子を見てヴァラロスは微笑ましく思うものの、どこか淋しさも感じるのであった。
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※本編完結してるので完結フラグつけてますが、続き書いてます




