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7.初めての依頼

「却下だ」

「なんでよ!」


 依頼掲示板の前で言い争う男女がいた。……ヴァラロスとディアである。どの依頼を受けるのか?という内容に対して二人の主張がぶつかっていたのだ。


「絶対まとめて依頼受けるべき!」


 ディアの主張はウルフ討伐とまぼろし茸の採集、山菜ときのこの採集を一回でまとめて受けて達成させようといったもの。あわよくば常設された薬草の依頼も出来ればと考えている。上手くいけば一回の外出で複数の依頼をまとめてこなせる為一石二鳥三鳥と言うのがディアの主張である。


「絶対ダメだ。それぞれに集中しないと、どれも中途半端になる。それは俺の方針に反する。まずは一つだけ受けるべきだ」


 一方でヴァラロスは受けるなら各依頼をひとつずつ受注すべきと主張する。ヴァラロスは今まで全ての依頼を達成している。しかも、ただ達成するわけではなく、ひとつひとつの依頼に対して誠意を持って対応していたようだ。その為、複数の依頼をまとめて受ける事は、どっちつかずになる可能性があるため、ヴァラロスとしては受け入れられない内容であった。


「そんなの時間の無駄だよ。同じ方向に行くならまとめて対応すればいい」

「ウルフを1匹討伐して報告するか? まぼろし茸も1本だけ納品しておしまいか? 山菜も100gで十分か?……違うだろ。依頼の背景を考えてみろ。依頼人はウルフの群れをどうにかしたい。ここらでウルフが増えると行商人が困るからな。できる限り減らしたいんだ。そうなると複数の群れを相手にする必要がある。たまたま見つけたウルフを狩って終わりじゃないんだ。だから、この依頼は絶対に時間がかかる。まぼろし茸の依頼と山菜きのこの依頼の依頼者は商人だ。つまり販売するつもりだろう。集めた食材を抱えたまま戦闘になったらどうする? 間違いなく食材が傷むぞ。時間が経てば味も落ちる。いいことなんて何もないぞ」

「うっ……」


 正論で捲し立てるヴァラロス。冒険者としてベテランであるヴァラロスは、ただ書かれた通りに依頼をこなすのではなく、依頼者の背景も考えてから依頼を受注する。直接依頼者と会話できる依頼もあるが、詳しい説明をギルドに任せている依頼も多いため、説明不足な依頼書が多々ある。依頼を達成したはずなのに、説明書きが追加されてまた同じ依頼が掲載されるなんてこともよくあるのだ。

 そして、その言葉はディアに刺さっていた。過去に全く同じ事を感じていたのだ。


(……そうだ、確かに依頼の根本を理解しないとよくない。前に部下に村に魔物が入れないような壁とか作って欲しいってお願いした時、あいつ……薄っぺらい木の板で村を囲ってたっけ……。いや、明確に指示しなかったのも悪かったよ? でも、魔物の被害で何度も壁壊されてるじゃん? そんな薄っぺらい板使うか?)


 ディアはその事を思い出して少し反省する。効率を重視しすぎて本質を見誤ってしまった。


「……そうだね。ごめん。見誤った。今日はまずウルフの討伐に集中しよう」

「お、おぅ。やけに素直だな。もっと反論でもしてくるかと思ったわ」

「別に……あなたが正しいって理解しただけ。ありがとうヴァル」

「おぅ……って、ヴァル?」

「うん。ヴァル。ヴァラロスってなんか舌がもつれそうだからヴァル」

「そ、そうか……まぁいいけどさ。じゃあ、依頼受けに行くか」


 ヴァラロスの言葉に素直に首を縦に振るディア。2人は依頼掲示板からウルフ討伐の依頼書を剥がして受付へ持っていくのだった。

 ディアがヴァルと呼んだ瞬間にヴァラロスが驚いた表情を浮かべ、その後一瞬寂しそうに変わる。しかし、ディアはその変化に気づけずにいた。


     ◇ ◇ ◇


 幸いウルフ討伐の依頼は依頼者による対面での受注報告は不要との事で、ヴァラロスとディアの2人は軽い準備をして街の外へと向かった。

 街の出入り口に着いた2人の前には馬車を貸し出している人がいる。


「さて、目撃情報が多いのは東の街道だ。山の入り口まで行こうとすると1日かかっちまう。だから途中まで馬車で行くぞ。襲われてるのも馬車の場合が多いしな」

「えっと……馬車? 借りるって言ってもお金は……?」

「無論、先行投資。自腹だ」

「」


 ディアが停止する。それもそのはず、馬車の貸し出しの看板を見ると馬込みで1日金貨1枚と書かれていた。馬の食事や世話は自分たちでやらなければならない上、無理をさせて馬が使い物にならなくなった場合は弁償として、借用費用とは別に金貨10枚も支払わなければならないらしい。事故という場合もあるが、いずれにせよ弁償は必須との事。


 これからウルフの討伐へ向かうというのに、これではウルフに餌を持っていくようなものである。しかも食べられてしまったら金貨10枚の出費。ウルフが1匹銀貨1枚なのを考えると、もし馬が食べられたらウルフ110匹討伐しないと赤字になる。


 ディアはやっと理解した。この依頼が1日経ってもずっと残っていた理由を……。討伐自体は問題ない。しかし、討伐対象を探すのに時間がかかるのだ。また、活動場所が遠方になることから馬車での移動が推奨される。だが、馬車で行くと馬がウルフに食べられてしまう恐れがある。それをみんな分かっていたため、敬遠していたのだろう。


 道具屋の依頼のことも考えるとこういった誰も受けないであろう依頼をヴァラロスはこなしているのだろう。それを全て完遂させるのだ。ギルドからの信頼が厚いのも頷ける。


(今更分かったところで後の祭りだ……依頼受けちゃったしやるしかない!……でも)


 ディアはやるしかないと腹を括るが別の問題があった。


「馬車の費用は……?」

「折半が普通だろ」

「」


 そこばかりはどうしようもなかった。





「いらっしゃい。ん?馬車で彼女と2人旅かい?」


 馬車を借りようと近づくと馬車貸し屋が話しかけてきた。


「いや、冒険者だ。ウルフの群れを討伐しに行く」


 それをバッサリと切り捨てるヴァラロス。このパーティは一時的なものであり、すぐにまたひとりになるのだ。

 それはいいとして、ヴァラロスがウルフの討伐に行くと言った途端馬車貸し屋が目を輝かせて迫ってきた。


「本当か!? いやーそいつは助かる! 馬車に乗ると狙われるとか噂になってて誰も借りにこなくなったんだよ。ギルドに討伐を依頼しても一向に受けてくれないから正直困ってたんだ。頼んだよ!……うまくいったら今回の費用はタダでいいぜ。そっちの嬢ちゃん田舎の出だろ? 冒険者やってるくらいだから生活大変だろうしな」


 そういうとディアの服を眺める店の主人とヴァラロス。その服は依然、田舎の町娘のそれであった。


「……」


 微妙な表情になるディア。魔族領では一般的な服装であるため、馬鹿にされたことに少し腹を立てているものの、街の女性の服を見てるとその評価も否めない。さらに言うと向こうが情けで馬車の費用をタダにすると言うのだ。プライド的には突き返したいところだが背に腹は変えられない状況のため、黙って微妙な表情を浮かべることしかできなかった。


(ぐぬぬ……この服がいけないのか! この服がいけないのかぁ!?……他に服なんて……あ)


 ディアが密かに怒りに震えているとある考えが浮かんだ。今日はもう遅いが明日からはあっちでいこう。そう考えたディアは一旦怒りを鎮め、むしろタダになったことを幸運に思うように自分に言い聞かせた。


(そう、これも路銀を稼ぐため。まずは依頼に集中しないと……!…………そんなにひどい格好かぁ!?)


 少し不安定ではあった。

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