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As4.期待の航行、そして未来へ

「……ぃ………い!………おい! 起きろ! いつまで寝てるつもりだぁ?」


 心地よく寝ていたところを起こされる。


「わるいわるい。つい気持ち良くてな」


 船の甲板にいたところ、心地よい海風が全身を撫でるように吹き抜けていき、暖かな陽光に誘われてついつい寝入ってしまったようだ。

 オーディーンが船の検収を終えた後、早速出発することにしたのだ。実は、予め航行出発日を今日に決めてあったようで、職人達は連絡が取れないながらも注文を信じて準備をしていた模様。その中に食料の調達も含まれており、本当に出発するのかなど不安だったようだ。

 場当たり的に始まったように見えたこの旅だが、初めから決まっていたかのような用意周到さにヴァラロスは得体の知れないものを感じた。神とは一体どこまでを見通しているのだろうか。どこか、手のひらで踊らされているような気もしている。それでも、未だ消えることのない、胸の中にぽっかりと空いた穴を埋める手掛かりを得るためには仕方がない。手のひらの上でもなんでも踊ってやろう。そう考え、ヴァラロスは割り切ることにしたのだ。そうなれば今は考えても仕方がない。今はこの状況を楽しもうと考えた。出発してみたら思いの外、船が快適で、甲板に降り注ぐ陽気に当てられついつい寝入ってしまった。


「ったく。人がせっかく作った船を披露してやってるのに……」

「だから悪かったって。それに、作ったって言っても実際に手を動かしたのはあちらさんだろ?」


 ヴァラロスがそういうと、甲板でなにやら作業している職人に目をやる。

 船の最初の運転の為、何かあった時のために職人も付いてきているのだ。もし、船に不具合が発生してもすぐに修理をしてもらえるようになっている。初期不良でオーナーが行方不明にでもなったら造船所の名が地に落ちる。それは避けねばならない。ただ、それ以前に、自分たちが作ったこの豪華客船に乗ってみたいところもあった。

 また、積荷も規格外の量を積める。そう考えた時に、造船所の職人達もポルトゥスに行って部品など調達をしたいと考えたのだ。往復で二週間。片道でも二十日掛かっていたことからも異常な速度で帰ってこれる。きっと、この先貨物室は商人の荷物で溢れるだろう。自分たちの荷物を自由に積んで帰れるのは今しかない。そう考えた職人達は、この機会を逃す手はなかった。

 そんな職人達が作った船ではあるが、ヴァラロスの言葉に不満を感じたのかオーディーンが一言補足した。


「設計と技術提供は俺なんだがな」

「んー……設計者ってことなら作ったって言えなくもないのか」

「なんでそんな頑なに認めようとしない……」


 なかなか納得しないヴァラロスにオーディーンが問いかける。しかし、ヴァラロスの答えはとても主観的なものであった。


「だってこんな筋肉だるまがこんなすごいものを作るとは思えなくてな」

「筋肉は知恵の結晶だぞ? 考えて鍛えないとこうはならん」

「さいですか……」


 オーディーンの答えに呆れるヴァラロス。筋肉と知恵の関係性はヴァラロスには分からない。だが、そこをつっこんだら話が長くなりそうだと感じたヴァラロスは、オーディーンの本気かボケか分からない回答につっこむことをやめた。その代わりに少し気になっていたことを問いかける。


「そもそも、これはどうやって動くんだ? 魔法じゃないんだろ?」


 そう、この巨大な鉄の塊がどのように動いているのか不思議だったのだ。誰かが漕いでいるわけでもない。動力はオーディーンが全て提供したらしく、職人はそれを搭載したに過ぎないようで詳しいことは分からないようだった。

 意外そうにヴァラロスを見るオーディーン。船に興味など持たないと考えていたからだ。


「あぁ? なんだ興味が湧いたのか?……とある種族で作られた技術を使ってるとだけ言っておこう。お前ならそのうちそいつの正体がわかるんじゃないか?」

「なにを根拠に……さっぱりわからんのだが?」


 オーディーンは意味深なことを言い出す。当然、ヴァラロスは何を言っているのか分からない様子である。

 軽く話を流された気がしたヴァラロス。その様子を見たオーディーンは、仕方がないと噛み砕いてその仕組みを説明し始めた。


「簡単に原理を説明するとだな……船の天井にパネルがあるだろ? あの大きいやつな。あれがお日様のチカラを受け取って、そのチカラを溜め込んでるんだ。そんで、その溜め込んだチカラを使って動かしてるってわけ」

「ますますわからんが……その理屈だと雨の日はどうするんだ? 雨の日は太陽なんかでてないだろ?」


 詳しい原理など話されても分からないといった様子のヴァラロスは、パッと思いついた疑問をぶつけた。当然雨の日もある。そんな日はどうなるのか単純に不安に思ったのだ。


「雨の日は蓄えていたチカラで動かすんだが……溜め込む量が少ないと動かなくなっちまう。…………本当はバックアップで別の動力もつけたかったんだがな。それをしちまうと本末転倒だからなぁ」

「……? 結局のところどうなんだ?」

「晴れまで待てって事だ」


 途中、よく分からないことを言い出すオーディーン。だが、その出された結論にヴァラロスは不安になった。


「うぇ……航海中に止まって遭難とか勘弁してくれよ?」

「大丈夫だ。しっかりと蓄えれば二週間は補充なしで動かせる。それに、航海中もずっと雨や曇りってことはないだろ?」

「そんな設計で大丈夫なのか……?」


 ある程度の備えはあるようで少し安心するヴァラロス。ただ、完全に大丈夫とはいえないため、そんなことでいいのかとオーディーンを心配して言う。今後もこの船は商人を乗せて航行を続けるのだろう。航行不能で商人が行方不明になり、共に旅した仲間が糾弾されるようなことがないようにしてもらいたい。

 しかし、オーディーンはそんなことは気にしないとばかりに笑いながら答えるのであった。


「まずはやってみることが大事だ。記念すべき一人目のお客様の期待は裏切らないぜ。なぁ、()()()よ?」

「あんたに様つけで呼ばれるのもなんか変な感じだよなー。まぁ目的地までかなり時間短縮出来そうだし期待してるよ?」


 勇者様呼ばわりされるヴァラロスは、未だ慣れない様子であったが、どうやらオーディーンは当初の話通りヴァラロスを勇者として各地で活躍させたいようだ。その気なら乗ってやろう。手のひらで踊ってでもその状況を利用してやろうと考えた。

 有名になれば、きっと今は知らないそのパートナーに会える。それならば、今はこの状況を楽しもうじゃないか。そう意気込んでヴァラロスはオーディーンにそう答えるのであった。

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