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As3.信頼の証、あるいはただの丸投げ

 翌日、ヴァラロスは支度を済ませてからオーディーンと合流する。流石、港町というべきか、食事は新鮮な魚介を食べることができた。


「よく眠れたか?」


 開口一番に気遣うような言葉を掛けてくる。普段、一人で活動していたヴァラロスにとってあまり馴染みのない挨拶。しかし、どこか安心する自分がいるとヴァラロスは自覚していた。また、何がそう思わせているのかも分かっている。


「あぁ。あと、ここの料理は美味しいな。魚が新鮮だ」

「ま、港町だからな」


 他愛もない会話が心地よい。自分がそう感じられるようになるなんて思ってもいなかった。今はこの心地よさを感じながら、想い馳せる何かを探すために前へと進むのだった。








「それで、ここからどうするんだ? 陸路からなら来たことあるが、海路となると高価だったはずだ」


 以前、王都から来た時は陸路を通って一ヶ月くらいかけて移動してきた。海路も考えたのだが、費用と時間を天秤にかけた時に割に合わなかったのだ。結局のところ陸路に沿って移動し、何回も休憩を挟む。それぞれ休憩場所で食料など必要なものを補給する必要があるため、出費はさらにかさむ。それなのに、船の利用代だけで金貨20枚はしたはずだ。二十日前後で到着できると聞いており、陸路に比べて十日くらいは短く到着はできるらしい。だが、それでも金貨20枚は高く感じた。

 オーディーンからの回答を待っているヴァラロス。すると、オーディーンから不敵な笑みが溢れた。


「まぁ、黙ってついてきな。勇者様を最初のお客様にしてやろう」


 そう言うと、オーディーンは目的地へと真っ直ぐ歩き出す。ヴァラロスは不思議に思いながらも後についていくのだった。






「ここだ」


 連れてこられた場所は港の端っこにある造船所だった。……ヴァラロスは今まで意識していなかったが、結構立派な設備が町の端っこにあったようだ。


「ここって船を作るところだよな……? なんでそんなとこ……」


 ヴァラロスが疑問をぶつけていると遠くから声が聞こえてきた。


「オーナー? オーナーじゃないですかっ!? 今までどこに行ってたんですかっ!?」


「あー……でも、基本のところは終わってたし、あとは任せるって言っただろ」

「任せるのは良いですが、突然いなくなられるのは困ります! 終わった後に残りの代金を支払うってなっていたので!」

「悪かったって」

「えっと……あれか? 自分たちで船を作って、海を渡ろうってこと……なのか?」


 事態を飲み込めないヴァラロスはつい口を挟んでしまう。すると、オーディーンは自慢げに語り始めた。


「その通り。俺の船ならパエニンスラからポルトゥスまで理論上は約一週間! 大浴場もあり、食事もついて快適海遊生活だ」

「一週間……しかも、風呂に食事付きっ!?」


 ヴァラロスは驚く。そもそも一週間でポルトゥスに着くことが信じられないのに、食事や風呂も付くというのだ。そうなると、気になるのはその値段だ。どう考えても高価になるのは間違いない。


「いや、それ、乗るのにいくらかかるんだ……?」

「一人当たり金貨150枚を考えてる」

「ひゃっ……150!?」


 法外に高く感じた。だが、食事を気にしなくて良いこと、風呂が付いていて、船に乗っているだけで一週間後にはポルトゥスだ。そう考えるとその高価な値段も一定の納得感はある。


「でも、高すぎないか? 冒険者はそんなの払えないぞ?」

「そうか……なら、冒険者はランクに応じて割引でも入れるか。もともと商人を相手にしようとしてたんだよ。こっちに物資を運ぼうにも時間がかかる。もし、追加料金を払うことで一ヶ月かかるところを一週間に出来たら? もちろんタイミングはあるから航行日に合わせて傾斜をつけてやる必要はある。だが、一番タイミング良く発注できれば……」

「……最短納期で運べるから高価でも依頼してくるってわけか」

「そういうこった」

「…………商売の神様だったか」

「お前もかよっ!?」


 オーディーンがツッコミを入れるが気にしない。なるほど。商人ならば高額でも使うかもしれない。事実陸路では険しい道もあり、安心して物資を運べるかと言われれば疑問が残る。今までの海路を使う場合も船はそこまで大きくはない。商売で物資を運ぶには大きさが足りないだろう。話を聞く限り、大浴場がついていると豪語する時点である程度の大きさは期待できる。


「まぁ、ちょっと見てみろ。度肝を抜かれるぞ?」

「……オーナーも初見なはずだが。というか、確認できたら、まず未払い分を払ってくれ」

「わかったわかった」


 そう言って職人を軽くあしらいながらオーディーンはヴァラロスを造船所の中へと誘導する。少し不憫だと思ったヴァラロスであったが、職人も何故か慣れたような反応でついてくる為、ここでは案外普通なのかもしれない。そんな錯覚に陥りながらもヴァラロスはオーディーンについて行く。







「おぉ! これこれ! これだ!」

「これこれって…………はぁぁぁああああああああっ!?」


 ヴァラロスが度肝を抜かされた。造船所が巨大であった為、ある程度の大きさは想像していたが、想像をはるかに上回る大きさであった。見たところ、材料は金属だろう。こんな巨大な金属の塊が水に浮いているのだ。それはヴァラロスの常識から外れた代物であった。


「外観は完璧だ! あとは内装も見せてもらおう」

「パエニンスラ造船所の力を結集した船だ。内装も完璧に決まっているだろ」

「…………………」


 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。驚きを通り越して頭が理解を拒んでいる。ヴァラロスは考えることを放棄して、ただただオーディーン達について行くのだった。




「ここが客室だ」

「流石、広いな。……部屋はちゃんと依頼した数作れたのか?」

「誰に依頼したと思ってるんだ。きっちり客室100室作ってある。大部屋や単身用の部屋も含めてだがな」

「上出来だ」


 圧巻であった。見せてもらった部屋はどうやら単身用の部屋だったらしい。普通の宿の部屋より大きく見える。大部屋だと一体どうなってしまうのか……。そんなことを考えながらヴァラロスはみんなと後をついて行った。




 …………結論、オーディーンの希望した通りに作られており、大きな厨房には大きな食糧庫があり、商人用と言っていただけあって貨物を置く巨大な空間もあった。大浴場もキチンと男女で分かれており、中を見たら色々な種類の風呂が楽しめる内容となっている。

 この船のどれもが見たことも聞いたこともないものであり、正直別の世界にいるような感覚に陥った。





「良い仕事だった。昨日、前に教えてもらった口座に残りの金額を振り込んでおいたから確認してくれ」

「なんだよ。もう振り込んでたのか。確認もせず振り込むのもどうなんだ?」


 職人が眉をひそめながら詰め寄る。今回は確認して問題がなかったから良かったものの、何か欠陥があったら一悶着あっただろう。それを危惧して職人が今後のためと思い、心配からわざと詰め寄るそぶりをみせる。しかし、オーディーンはそれを鼻で笑い、はっきりと言い放った。


「ふん。バカやろう。信頼できないところになんか最初から頼まねぇよ。……安心して任せられる相手だからこそ、全部任せたんだ」

「オーナー……」


 オーディーンの言葉に職人が感動していた。信頼しているからこそ頼まれた。信頼しているからこそ任された。そのことが職人の心を満たす。やりがいのある仕事を任せてくれたオーディーンへ感謝の念すら感じていた。

 しかし、その様子をジト目で見ていたヴァラロスは余計なひと言を発する。


「……いや、それ、ただの丸投げだから」


 全てが台無しであった。

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