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As1.筋肉ダルマと、馬車の旅

本編完結後、サイドストーリー後のヴァラロスsideの話です。魔が差して始めてしまいました。後悔はしていない。

 馬車に揺られて海の見える街道を進む二人の男がいた。一人は無造作な焦茶色の髪型で、その瞳は曇りのない紺青色をしている。そして、もう一人は髪がなくツルツルとした頭皮を持ち、その身体は筋肉で服がはち切れそうである。背も高いため威圧感がすごい。その正体は、最近勇者として覚醒したヴァラロスと、その勇者を支える神オーディーンであった。


「海が綺麗だな……」

「……そうなんだが、状況がな」


 ロマンチックなセリフを吐くオーディーンに対し、微妙な表情を浮かべながら文句を言うヴァラロス。なにが悲しくてこんな筋肉の塊のような男と一緒に海沿いを馬車で揺られているのか。どうせなら異性と二人きりならいいムードにもなったであろうに。


 どうしてこのような状況になっているかというと、事態は数日前に遡る。



     ◇ ◇ ◇



 神をカマにかけてから、しばらくしたある日。ヴァラロスは道具屋を訪れていた。


「なぁ、もっと俺の記憶に関して知ってることあるんじゃないのか?」

「前にも言っただろ。もう話せることはないって」


 ヴァラロスは自分の中にぽっかりと空いた穴を探してオーディーンに詰め寄る。クレープ屋の時もそうだ。どこか感じたことのない感情が湧き起こるのだ。記憶はない。だが、確かにそこにあった何かをこの身体が、心が覚えている。そうでなければ、クレープを食べただけであんなに涙をこぼすことはないだろう。

 しかし、オーディーンは断固として話そうとしない。オーディーンが話したことといえば、ヴァラロスが勇者であることと、力が覚醒した副作用で記憶を失ってしまったということだけだ。日記に書かれた魔法使いについてもなにも教えてはくれない。まるで、その人物については関わるなと言われているようであった。


(いったい何者なんだ……。新米冒険者だったのがこの短期間でBランクになってるなんて。しかも、俺がパーティを組むとか考えられないんだが……)


 以前のトラウマからパーティを組む気が起きず、ずっと一人で依頼をこなしてきた。それを覆してまでパーティを組んでいたようだ。そのことが信じられなかった。だが、今は違う。何故か憑き物が落ちたかのように気持ちが軽いのだ。前は親しい人の死が怖く感じた。だが、今は守ればいいと考えられるようになっている。それはきっと、消えてしまった記憶が心を変えたのだろう。今は消えてしまったなにかが。


 ヴァラロスが真面目な顔をして考えるそぶりを見せると、オーディーンが頭をかいてどうするか悩む。オーディーンとて、もどかしいのだ。教えてやりたいのは山々なのだが、約束した手前話すのは気が引ける。ヴァラロスから何回も同じ質問を受けており、オーディーンが口を滑らすのも時間の問題だろう。

 自分でそれが分かっているオーディーンは別の話題をすることにした。もともと計画していたこと。予定外の来訪者が来るよりも前から計画していたことだ。


「よし、ヴァラロス」

「ん? 教えてくれる気になったのか!?」


 オーディーンが声をかけると期待した目でヴァラロスがオーディーンを見る。それをみたオーディーンに少し罪悪感が芽生えたが、その心を無視して言葉を続けた。


「いや、そうじゃない。だが、勇者として世界を救いに回らないか?」

「……は?」


 なにを言ってるんだこのオッサンは。そんな顔をしてしまうヴァラロス。それはそうだろう。いきなり勇者だの記憶喪失だのなった挙句、目の前にいるのが創造神とか。しかも、その高位の存在が世界を救えと言ってくる始末。正直、ヴァラロスの理解を超えていた。


「いや、世界を救うってなにを言ってるんだ? そもそも俺が勇者ってのもよく分かってないし」

「それはまだ戦闘してないからだろう。戦ってみれば自然とその力がわかる」

「とは言ってもなぁ……まず、戦う理由がわからない」


 そんなことを言うヴァラロス。それを聞いたオーディーンは少し驚いた表情でヴァラロスを見ていた。


(おかしい……。こいつは竜種撲滅を掲げていたはずだ。何故忘れる……?…………いや、それがどうでも良くなるほどの何かがあったということか)


 なるほど。オーディーンは少し納得したような表情になる。ヴァラロスにとって、そこまで大きな存在になっていたのかと。ならば切り口を変えよう。それならもっと容易に話は進むだろう。


「理由なら、探せばいいだろ。その魔法使いを追って」

「っ!?」


 ヴァラロスもなんとなくは分かっていた。どこかで探していたのだ。この日記に書かれている何者かを。街の人達からどれだけ励ましの言葉を貰ったのか。クレープを食べた時に涙に滲んで一瞬見えた気がしたその姿。きっとその姿をここのところずっと追っていたのだ。


「人を探すなら王都に行けばいい。ここは端っこの街ノヴィシムだ。そこから人の多いところへ行けばヒントも見つかるだろう」


 オーディーンは心苦しいが精一杯の嘘をつく。探し人は真逆の位置にいる。しかし、それを伝えることはできない。その残酷な嘘は、ヴァラロスにとっては希望の嘘となる。


「そうか……。わかった。俺、旅に出て世界を回ってみるよ」

「最初は分からないことだらけだろう。俺も同行する」

「あんたも……?」


 オーディーンも同行するといい訝しむヴァラロス。それもそうだろう。いくら創造神を自称しているとはいえただの道具屋店主だ。確かに見た目は筋肉の塊のような見た目だが、旅に出るとなると戦闘になる。果たして連れて行って大丈夫なのかと心配になったのだ。

 それを感じてか、オーディーンが一言だけ告げる。


「神を侮るな。ドラゴンだろうと槍で葬ってくれるわ」



     ◇ ◇ ◇



 ……そんなこんなで旅に出たのだ。まずは山を二つ越えてプロカルヘ行き、プロカルからさらに東のカスースへ着くと、そこから北の街道を進むことになる。北に進むと港町パエニンスラがあり、そこから海路で北上して王都の港町であるポルトゥスへと着く。そこからさらに北の街道を進めば晴れて王都へと辿り着く。

 今はカスースから最初の港町、パエニンスラへと向かう途中であった。


「……同行者がなぁ」

「文句を言うな」


 まだ始まったばかりの旅だが、ヴァラロスは少しめげそうであった。

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