おまけ2.魔王のその後と、お相手は誰ですか?
ミニスがディアをベッドまで運ぶとディアはそのままベッドに横たわる。その様子を見てミニスは戸惑いを隠せずにいた。
(え、この人って魔王様……なのかな? でも、さっきまではいつもの姿だったし……。でも、ここにいたってことは……どういうこと? それに、この部屋……魔王様の自室?)
情報が多すぎて頭の整理が追いつかない。まず、魔王が女性であることに驚きを受ける。それも、華奢で、肩を貸していたはずなのに軽くてあまり肩を貸している実感が湧かないほどである。次にこの部屋である。魔王の執務室を経由しなければ入れない部屋であることから魔王の自室であるのは間違いなさそうだ。だが、その内装が全体的に可愛らしいものとなっており、普段の威厳のあるイメージからかけ離れている。
状況から間違いがないのは理解できるが、あまりのことに頭が理解を拒んでいるようだった。
それが分かっているからか、横になり額に腕を乗せてだるそうにしているディアが話しかけた。
「幻滅した……?」
「えっ!?」
「だって、いつもは威厳のある魔王様がこんな小娘なんだもの。そりゃ幻滅もするよね……」
いつになく弱気になるディア。こんな醜態を晒すのは初めてである。普段は病気とは無縁の彼女だが、今この時は誰かを頼りたいと思う普通の女の人なのだ。
それを聞いてミニスはさらに混乱していたが、問いかけられている手前、何か答えないとと思い慌てて思ったことを口にした。
「い、いえ! 全然! むしろ可愛いといいますか、うちは好きです!」
「か、可愛いって……まぁ、その、あ、ありがとう……」
いきなりそんなことを言われて顔が赤くなるディア。そんなことを言われたのはいつぶりだろうか。自然と彼のことが思い出される。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。この娘なら任せても大丈夫だろう。助手ということもあり、きっと医学の知識もある。これならどうにかしてくれそうだ。そう思ったディアは、自身の症状を伝えることにした。
「実は……医者を呼んだのは、ちょっとアタシを診てもらいたくて……最近、特に今日吐き気がすごくて仕事にならないの。熱はないんだけど、お腹も調子悪くて……なにかの病気だと思うんだけど、原因わかるかしら……?」
「そうですね……」
今度はミニスが考える。自分を信じて話してくれた目の前の患者に真摯に向き合う為、今は目の前にいる人が魔王だとか考えないようにした。目の前にいるのは患者の女性なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「なにか変なもの食べました? 例えば道に落ちているものとか?」
「…………そんなものは食べません」
「そうか……」
その質問の意図にディアは勘繰った。もしや、村民はそういう状態なのかと。食べるものに困らないようにと気を付けてはいたが、もしかすると十分ではなかったのかもしれない。これは要改善だとディアはまた一つやることを決めた。
一方でミニスはそんなディアの決意など知らない。一般的な食あたりの原因について聞いただけだ。特に食料が足りないとかそんなことはなく、ディアが無駄に深掘って考えてしまっただけであった。
ミニスは他の要因を探るため、ディアに確認を取る。
「少し触診しますが、よろしいですか?」
「ええ……こちらは患者なのだし、任せるわ」
一応、相手は魔王。あまり気にしないとはしたものの、不敬があってはならないと思いミニスは確認を取った。しかし、相手はディアである。その心配は杞憂であった。
「では、失礼します…………んんっ!?」
ミニスがお腹周りの触診を始めた途端、何かに気づいた。黒いワンピースとディアが前屈みになって移動していたために気付かなかったが、若干お腹が膨らんでいるように見える。その膨らみはお腹が張ってるとか、食べ過ぎて膨らんでるとかでもそう言えそうな判断に迷う大きさである。疑惑を確かめる為にミニスが膨らんでいるお腹に手を当てていると、中から何かが動くのを感じた。
「えっ!? あっ、ウソ!!?」
「なに……?」
訝しむディア。なんでこの状況でわからないのかと、彼女を信じられないという表情で見つめるミニス。この状態で本当に気付いていないのか?そうであれば目の前にいる人物は余程ポンコツと言えよう。……というか、相手は誰なのだろうか。とても気になる。気にはなるがプライベートなことを聞くのは良くないだろう。そう考えたミニスはこの事実を伝える為に、ディアにまずは事実の確認を取ろうとした。
「お相手は誰ですか?」
「…………ん?」
(ちゃうちゃうちゃう! ウチ、何言うてんねんっ!!?)
理性より本能が勝ったミニスはつい聞いてしまった。心の中でつい故郷の言葉遣いが出る。
一方で、相手は誰かと聞かれてもディアはまだ分かっていないのか、ただただ困惑している。
「えっと……状況がよく分からないのだけど……」
「なんでやねんっ!? こんな、分かりやすくお腹出てんねんからっ!!?」
ダメだこの人。ハッキリ言ってあげないといけないらしい。ミニスは相手が魔王だとか、もはや考えられなくなり、思わず普段の彼女が前面に出てしまいツッコミを入れてしまう。
「……おめでたですよ! お め で た! っていうか、もういつ産まれてもおかしないねん! なんでわからんのっ!? いつ、誰と、何したんや……いや、やっぱり何したかはええわ……」
「ち、ちょっと待ってっ!!? えっ!? 魔族って全然子供できないんじゃないのっ???」
ミニスの変貌に驚きつつも、今度はディアが慌て始める。想定外。そんな事は頭の片隅にもなかった事態。そこで、ディアの頭の中にミニスの言葉がリフレインされる。「お相手は誰ですか?」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
まさか、全てを置いてきたつもりが、輝かしい一ヶ月間の証が、今ここにきて判明するとは。ディアは彼との思い出が次々と頭に浮かび顔が熱くなるのを感じた。
「確かに魔族は子供ができにくいです。ただ、できにくいだけで、できる時はできますよ。……えーっと……これは……? あれ!? おめでとうございますっ!!?」
ミニスが冷静になったかと思った瞬間、再び冷静さを失った。それはそうであろう。魔王の子供が産まれるのだ。それは全ての魔族にとって祝うべき出来事である。
だが、そんな祝うべき状態なのに、手放しで祝えない状態にあった。
「うっ……お腹が……」
「えっ!? もう!? じ、準備しなきゃ!?」
「必要なものは……プルートを呼んで集めて……机の上に……ベルがあるから、鳴らせば来る……」
「わ、わかった!」
ミニスは急いでプルートを呼び出し、必要となるものを用意させる。状況が飲み込めないままのプルートではあったが、魔王のためと信じて必要となるものを言われるがままにかき集めるのであった。
おまけ3へ続く
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