おまけ1.魔王のその後と、仕える者
おまけの新規話追加です。
3つ目のイメージ画像を元にしたエピソードです。時系列は本編終了後、アフターストーリー前となります。
「はぁ……なんか、吐き気が……」
執務室で項垂れる黒髪ロングの女性がいた。その目は澄んだ薄紫色をしていて、肌は色白で、お気に入りの黒いワンピースを着ている。その女性とは、魔王をしているディアである。
ヒト族の街を視察してから十ヶ月とちょっと。村の復興が進み、いつかの街並みを再現するために奔走している中、ディアは体調を崩していた。
「気を張って頑張ってたけど、流石にしんどい……。なに……星の守護者は病気に罹らないって話じゃなかったの……あの、ヤブ神め……」
部屋で一人文句を垂れる。星の守護者に選ばれてからは病気にかかることがなかったディアは心底特定の人物を恨めしく思う。しかし、なってしまったものは仕方がないと考えを巡らせることにした。
「はぁ……。医者を呼ぶか? でも、そんなことをしたらアタシの正体がバレる……うぷっ……そんなこと言ってる場合じゃないか……」
背に腹は代えられない。現在進行形で吐き気が襲いかかってくるのだ。苦肉の策ではあったが、たしか復興中の村に医者がいたはずだ。その医者に相談してみるとしよう。そう考えたディアは医者を呼び出すため、プルートを呼び出すことに決めた。
◇ ◇ ◇
「オヨビデスカ? マオウサマ」
部屋にあるベルを鳴らして呼び出してからまもなく、部屋に入ってきた猿の魔物、プルート。ヒト族の町を視察に行った時に戦ったあの姿そのもの。いや、こちらの方が年老いて見えるか。そんな魔物の配下であるプルートはディアの右腕として働いている。
その知能は高く、人語を理解し話すこともできる。少し話し方が独特なのが玉に瑕である。恐らく、やろうと思えばもっと流暢に話せるようになるだろう。しかし、プルートもディアに負けず劣らず効率主義なのだ。コミュニケーションが取れるならばそれ以上は望まない。他のことに時間を使うタイプである。もっとも、ディアが無茶な話題をふっかける為時間がないのも原因だろう。
「悪いが、隣の村、アルティマにいる医者を連れてきてくれ」
「イシャ、デスカ? イツモノ、フクノシタテヤデハナク?」
「いや、服の方は頑張ってくれたおかげでだいぶ広まってきている」
ディアは村人の衣類にもテコ入れしていた。ヒト族の服はどれも可愛かったり、カッコよかったりと、うまく表現が出来ないが、そこには時の流れの違いを感じさせたのだ。それは、短い時を忙しなく生きるヒト族だからこそ、より良いものを生み出そうと考えているからであろう。日進月歩、その進歩は目まぐるしく、暫くしたらまた置いていかれるかもしれない。しかし、最低限、今のヒト族のファッションには追いつこうと必死になっていたのだ。それは、ひとえに、あの時ディアが感じた敗北感と、領民を馬鹿にされないようにと心に誓ったからに違いない。
しかし、今はそのことではない。ディアが個人的に困っているのだ。
「だが、今はそっちではない。村に有名な医者がいただろう。その医者を連れてきてくれないか?」
「ワカリマシタ。ガ、ドコカワルイノデ……?」
ディアの頼みを快く受けるプルート。しかし、彼もまたディアを心配して気遣う。今までディアが体調を崩したことがない。医者を呼ぶことなんてなかった。だからこそ、普段と違うその様子に心配したのは仕方のないことであろう。
ディアもそのことは分かっており、あらかじめ考えていた言い訳を話す。
「いや、復興中の村で流行病など起きていないか確認したくてな。詳細に話を聞きたいから医者を呼んできて欲しいのだ」
「ソウイウコトナラ、スグニイッテマイリマス」
ディアの言葉を信じて部屋を後にするプルート。扉が閉まり、足音が遠ざかるのを確認してからディアは机に突っ伏した。
「きもちわるい……」
いつかの夜は介抱してくれる人がいた。しかし、今はそんな人はいない。頼れる人がこんなにもありがたい存在だったと、ディアは今更ながらに痛感するのであった。
◇ ◇ ◇
しばらく休んでいると、複数人の足音が聞こえてきた。ディアはなけなしの体力で気を張り、来訪者を出迎える。
「マオウサマ、ツレテキマシタ」
「ご苦労。プルートは下がってよい」
「ハイ」
プルートを執務室の扉で下げさせ、連れてきた人物だけを部屋に招き入れる。しかし、その人物は予想とは異なる人物であった。
「あの……、先生の助手をしていたミニスと申します……」
「ん? 医者はどうしたのだ?」
何故医者が来ないのか?そんなことを考えて目の前にいる女性に問いかける。すると予想外の答えが返ってきた。
「先生は先日亡くなりました……」
「……は?」
「村の復興作業中に転んでしまい……そのまま……」
「…………」
なんということか。頼みの綱が無くなってしまった。ただ転んだだけというが、きっと打ちどころが悪かったのであろう。いくら寿命がない魔族とはいえ、その命は簡単に消える。日々気をつけて生活をしなければならないのだが……。
(なんてこった……! これは……想定外すぎる……)
ディアの体力はもはや限界に近かった。そんな彼女は机に項垂れてしまったのだ。
「ま、魔王様っ!!…………えっ!?」
ミニスの前には机に突っ伏して苦しそうにする女性が映っていた。ディアは日頃の疲労からも限界がきていたのだ。今まで認識阻害の魔法をしっかりと維持できたのは流石といえよう。ヒト族の領地へ視察に行った時は耳だけ認識阻害の魔法をかければよかったが、ここでは全身を映す必要がある。それはつまり、魔法を維持する魔力量、ひいては生命力が大きく必要となることを意味していた。だから、今限界を迎えたディアはその正体を目の前の助手に晒してしまった。
「……ちょっと、悪いんだけど……肩貸してくれない? あそこの自室に連れてってもらえると助かるんだけど……」
「えっ、あ、はい!!」
ディアはもう諦めた様子で普段の口調になる。その様子を見ていたミニスは驚いたものの素直に肩を貸すのであった。医者がいなくなっても助手であった彼女は慣れた手つきでディアを自室へと運ぶ。そこは、誰一人と立ち入ることが許されなかったディアだけの空間であった。
「ここは……?」
部屋をキョロキョロと見てしまうミニス。それは仕方のないことだろう。魔王の自室が可愛らしい部屋となっているのだから。全体的にシンプルな家具で揃えられているが、その色合いが薄いピンク調であったり、部屋の隅に星空を模したドレスがかけてあったりと、普段の魔王の印象からかけ離れたものとなっていた。
「ちょっと……あまりジロジロ見ないで欲しいんだけど……」
「あ、すみません……」
失礼な態度をとってしまったと謝るミニス。まずはディアをベッドまで運ばなくては。そう考えて彼女はディアをベッドまで運ぶのであった。
おまけ2へ続く
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