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after story fin. 15年後のアタシと、はじまりの約束

ディア視点のはじまりの約束です

 その日は全然眠れなかった。どこぞの馬鹿がダンジョンを攻略したのだ。


「あぁ……せっかく育てたダンジョンスライムがぁ……」


 我ながら上手い配置にコアを隠せたと思っていたのだが、まさか、攻略されるなんて……。誤算があったとすれば、転移紋の魔力に惹かれて蜘蛛の魔物が巣食ってしまった事だろう。日に日に大きくなり手を付けられなくなっていたのだ。


「というか、数年前からなんで急に魔王討伐とか言い出すのよ!? こっちに来た冒険者を送り返すの大変だから出入り口を塞いだのにっ!!」


 現代の魔王、ディアは度重なる冒険者の侵攻にうんざりして、出入り口をスライムを使って塞いでいたのだ。来てしまった冒険者は一人ずつ意識を刈り取り、転移紋を使ってヒト族側の空山の麓へ返していた。


 せっかく塞いだものを壊され憤慨するディア。しかし、突破されたものは仕方がない。どうせドミニクがその馬鹿力でゴリ押したに違いない。それよりも、問題は今迫っている何者かである。


「昨日の夜に急に町長さんから連絡があったけど……まさかこのタイミングでヒト族が町に入り込むなんて……」


 間違いなく今回の騒動の一味だ。気になっているのは町長が「ヒト族の方が会いたがっている」と言ったことだ。魔族のみんなには話せばわかる人もいるとは言ってはいたものの、今回は明らかに魔王を討伐しにきている。話を聞くやつがいるとは思えなかった。しかし、町長が連れてきて良いと判断した人物には興味があった。


「……まぁ、話だけならしてもいいけどね。向こうの様子も知りたいし」


 主に、物語の主人公になっているであろう人物を思い描きながら、そんなことを言う。

 すると、呼び鈴が鳴るのが聞こえた。件の人物が現れたようだ。


「折角だし、どんな物好きかこの目で見てみましょうかね」


 ディアはそう言って立ち上がると部屋を後にするのであった。






 何者かが客室に案内されるのが聞こえる。町長と、その娘もいるようだ。


(シーナちゃんもきてるんだ。シーナちゃんかわいいんだよなぁ……)


 自然と顔が緩む魔王。とある事情があり、シーナとは仲が良い。しかし、その思考は瞬時に吹き飛ぶことになる。


(どれどれ……どんな奴が来てるかな……って!!!?? えっ、ちょっ、まっ、はぁぁぁぁあああああああっ!!??)


 いつかのように思考が崩壊した。通路の角から盗み見た先には、とても懐かしい姿があったのだ。忘れようがない。全てをそこに置いてきたはずの存在。だが、ディアに限って見間違えるはずがなかった。


(なんでヴァルがいるのよっ!?……しかし、老けたなぁ……でも、かっこいい。…………じゃなくてっ!)


 まともな思考に戻れないディア。混乱しているとヴァラロスが気配を感じてこちらを見るそぶりをみせた。


「っ!?」


 つい、反射的に隠れてしまうディア。この城の主なのだから隠れる必要はないはずだ。それでも、今対面するわけにはいかない。急いで部屋に戻り扉を閉めるディア。するとまもなく使用人がディアの執務室をノックした。


「魔王様。お客様が到着しました」


 到着した。それは分かっている。実際に見たのだから。だが、今は気持ちの整理がつかない為、会えるような状態ではなかった。


「ちょっと待って……今すぐは、会えそうにない……」


 ディアは顔が熱くなるのを感じ、ひとまず呼吸を落ち着かせるために、しばらく引きこもるのであった。






     ◇ ◇ ◇





 しばらくして、流石にこれ以上待たせるのは失礼だろうと思ったディアは、使用人にヴァラロスだけを連れてくるように命じた。折角だ、二人だけで話したい。考えるまでもなく、自然とそう思ったのだった。


 そして、少しすると足音が近づいてくる。


コンッコンッ


「魔王様、お連れしました」

(きたっ!?)


 ディアの顔に緊張が走る。ヴァラロスは記憶を失っているはず。だから、今は素性を明かすわけにはいかない。念のため認識阻害の魔法を必要以上にかけるディア。それは、まるでおまじないのようであった。


「……ご苦労、入れ」


 いつもお世話をしてくれている使用人を労い、ヴァラロスへ入るように促す。


 部屋に入ってきたヴァラロスはどこか緊張しているのか、一瞬不思議な表情をしていた。しかし、すぐにこちらへと向き直る。きっと、今は威厳のある姿というイメージが彼の目に映っていることだろう。緊張するのも仕方のないことであった。

 そんな事を考えていると、ヴァラロスが自己紹介を始める。


「この度はお会いいただきありがとうございます。お初にお目にかかります、ヒト族で勇者をしております、ヴァラロスと申します」


「っ!」


 分かっていたはずだった。だけど、心にくるものがある。昔はあんなに仲良く話していたのに、こうも距離を感じるとは思わなかった。


(確かに記憶は消したけど……ちょっとあんまりでは……?)


 自分でヴァラロスの記憶を消す事を選択したにも関わらず、ディアは理不尽に怒っていた。


「よい。さっさと座るがいい。あと、普段通り話せ」


 つい、不機嫌になり、それがヴァラロスへと伝わる。少しビクッとしたヴァラロスを見てディアは、思い直した。


(ダメダメ、折角なんだからちゃんと話さないと)


 椅子に座りどうにか持ち直した様子のヴァラロスの反応を待つことにした。すると、少し緊張しているようではあったが、ヴァラロスが話し始めた。


「……そういうことなら、一応、勇者をやっているヴァラロスだ。今日は時間を作ってくれてありがとう。魔王のことを色々聞きたいんだ。教えてくれないか?」


 記憶は無くなっているはずだ。そして、勇者として色々と経験を積んできたはず。数年前から魔王討伐の流れも起きていた。まさか、この流れでそのような事を言ってくるとは。ディアは不思議に思ったが、ヴァラロスだからと納得する。どこまでいってもヴァラロスはヴァラロスなのだ。


(やっぱり、根っこは変わらないよね……。さて、どうしてくれようか。アタシだって色々聞きたいんだから、先に聞いてもいいよね)


 我慢できなくなったディアは少し意地悪なことを言い出した。


「良かろう。……だが、タダで話すわけにはいかん」

「えっと……俺、何すればいい?」


 驚いたのか急にいつもの反応になるヴァラロス。その言葉が、いつものヴァラロスでちょっと嬉しくなった。一瞬、いつものおふざけで「私の配下になれ」とか邪な考えがよぎったが、いくら一緒にいたくてもそれはダメだろう。冷静に考え直したディアは元々考えていたお願いをすることにした。


「素のままでよい。腹を割って話そうというのだ。勇者と魔王、対等ではないか?……聞きたいことは、そなたのヒト族での活躍だ」

「お、俺の活躍……?」

「そうだ」


 よし。言えた。これで話を聞けるだろう。密かにワクワクしながら待つディア。一方でヴァラロスはなんの話をするべきか迷ってる様子であった。


(いろいろ活躍したんだろうな……あの後のヴァルがどんな活躍をしたのか楽しみ)


 ディアがそんな事を思っていると、ヴァラロスが話す内容を決めたのか、考えながら話し始めた。


「そうだな……まずは、とある町を竜種の攻撃から守った話からするか。と、その前に。……実は、俺、15年くらい前に記憶喪失になってて、一ヶ月だけ記憶がないんだ」


(うん……ごめんね)


 心の中で謝るディア。しかし、ヴァラロスはそんなことは知らない為、そのまま話を続けた。


「どうやら、その一ヶ月間で勇者として目覚めたらしく、気づけばワイバーンを倒してBランク冒険者になってたんだ。あっ冒険者にはランクがあって、EからAまであるんだ。だからその時に上から2番目になった。と言っても、実は相棒がいたらしいんだけどな」

「っ……」


 昔の記憶が蘇る。あの特別な日々、あの甘さ。ディアの目頭に熱いものが込み上げてきたが、どうにか抑え込んでいた。


「……というわけで、気付けば勇者としての力が発現してたみたい。それからは各町を巡っていたんだが、ある町で竜種の被害が出ていたんだ。それから……」


 ヴァラロスが自分の英雄譚を話す。少し恥ずかしそうにしながらも、当時のことを思い出しながら丁寧に教えてくれる。ディアはヴァラロスの話に耳を傾け、どこか心地よさを感じていた。


「その竜種はどうやって倒したのだ?」

「その時は剣に魔力を纏わせて、一気に首を断ち切った」

「流石は勇者だな。それだけの活躍だ、ランクアップもあったのではないか?」

「よく分かったな。そう、その時に昇級が認められて、晴れてAランク冒険者になった」

「すごいじゃないか! 国に認められる功績を出すことが条件だったはずだ。そうそうできることではない。おめでとう!」


(きゃあああ! すごい! すごいよヴァル!!)


 心の中でも喜ぶディア。まるで自分ごとのように喜んだ。


「あ、ありがとう……」


 あまりにディアが褒めちぎるものだからヴァラロスは少し恥ずかしそうな反応をする。そして、続けて今まであったことを語り聞かせるのであった。





 しばらく話を聞いていると、ヴァラロスがふと気づいた様子でこちらに向き直る。


「俺ばっかり話しちゃったな……。魔王に聞きたかったんだ。町長に聞いたんだが、15年前にヒト族の町に行ったって聞いたけど、どうしてそんなことを?」

「っ!?」


 共に過ごした日々。この15年間、片時も忘れたことなどなかった。


(あなたも一緒にいたんだよって、伝えられたらどんなに嬉しいか……)


 しかし、そんなことは言えない。ディアはヴァラロスの言葉に出来るだけ平静を装って答える。


「やむを得ない事情があったのだ。当時は魔物が暴れて村の被害が甚大だった。そこをどうにか出来ないかと、ヒントを得るためにヒト族の町に視察に行ったのだ」


 どうにか答えた。そう、その為にヒト族の町に行き、夢のようなひと時を過ごしたのだ。


「なるほど……だから、どこかで見たような風景だったのか……上手くいったみたいでよかったな」

「っ!?」


 ヴァラロスがいい笑顔でそう言う。ヴァラロスの一言で、ディアはこの15年間が肯定された気がした。それは、とても嬉しかった。だが、同時に寂しさが込み上がる。自ら手放してしまった、甘い日々の幻影が目の前にチラつきディアの感情を揺さぶる。


(ずるい……そんなこと言うなんてずるいよ…………もし、もしも叶うなら、今からでも……)


 その様子はまるで、叶わぬ願いに想いを馳せる少女のようであった。


「……ヒト族と……魔族の共存は、できると思うか?」

「えっ……?」


 共にいたい。叶うならば、共に生き、共に朽ちたい。()()()()()()()()()()()()()


 しかし、それには相手の同意がなければ成り立たない。身勝手に決められる話ではなかった。


 問いかけたディアはヴァラロスの返事を待つ。昔の彼ならきっと期待する答えをくれただろう。しかし、月日が過ぎ、あまりにも互いに違う道を歩み過ぎた。どのような答えが返ってくるのか不安で仕方なかった。


「正直、難しいだろうな」

「っ……」


 ダメだ。もう泣きそうだ。……なぜ、自分は15年前にその手を取らなかったのだろう。そんな考えがディアの頭を埋め尽くす。

 絶望。その言葉が相応しいだろう。もう一度やり直したかった。だが、とうの昔に自分でその権利を放棄していたのだ。今更都合よく手に入るなんてありえない。


「そう……か」


(嫌……せっかく、また会えたのに……そんなのは……ぃゃ……)


 何か返事をしなければ、そう思い絞り出した言葉。だが、ディアの心は後悔で押しつぶされそうになっていた。

 今にも泣きそうになっているディア。しかし、ヴァラロスから思いもよらぬ言葉が続いた。


「だが、難しいだけだ」

「……? どういうこと?」


 思わず素で反応してしまうディア。もはやディアの頭は考えるだけの余裕はない。それを知ってか知らずかヴァラロスが言葉をさらに続けた。


「今は、特にヒト族の間で凝り固まった考えがある。それを取り払う何かがあれば……お互いを理解するきっかけがあればきっと、同じ道を歩めると思う」

「……っ!?」


(あぁ……ヴァルはどこまでいってもヴァルなんだ。一緒にいて安心できる……アタシの大好きな人)


 そう思うと自然と言葉が漏れていた。


「…………変わらないね」

「ん? なんだ?」


 ヴァラロスが聞き返す。だが、ディアはそれを無視してなにやら覚悟を決めた表情した。


(なに弱気になってたんだろう。アタシは魔王。そう、魔王()()()なんだ!)


 決意と共にディアはヴァラロスに語りかける。


「ヒト族にとっての脅威とはなんだ?」

「え? ま、魔王?」

「そうだ。その魔王の何が脅威だ?」

「うーん……その力? あとは、そう、死ぬことがないって言われてるところとか」

「それだ」


(なんでもいい。こじつけだろうがこの際どうでもいい。……そうだ、これなら本当にどうにかなるかも!!)


 最初は見切り発車でも、走り出してしまえば自然とレールの上を走り出す。そう、今なら進む先のレールは自分で自由に置けるのだ。


「ヒト族にとって、魔王の使う魔法は脅威となろう。ならば、魔法を無くせばいい。また、寿命のない魔族自身も、いつ終わるかも分からない脅威に映るだろう。もし、もしもその命が有限になったら? もしもその引き金をヒト族が握ったらどうだ?」

「……確かに、自分からそんな制約を課すくらいなら少しは話を聞いてくれるかも…….いや、でも、そんなことしたらすぐに殺されるだろ?」

「それが勇者の死と連動すると言ったら?」

「なっ!?」


 そんなことになれば当然ヒト族とて無視はできない。何千年も君臨し続けた脅威に終わりが訪れるのだから。

 ヴァラロスがどうやって、そんなことが出来るのか?という表情をしている。それを見たディアは得意げに教えることにした。きっと、勇者であるヴァラロスなら聞いたことくらいはあるだろう。


「勇者の魔法だ」

「勇者の魔法……?」


(……あ、あれ? なにその反応……えっ、まさか知らないなんてこと……ないよね?)


 あまりの衝撃につい口走ってしまった。


「……いや、神から話を聞いていないのか?」

「……あんたもあの筋肉だるまと知り合いだったか」


(あ、口が滑った)


 神との繋がりは出来るだけ言わない事になっている。いくらヴァラロスのことを頼んでいたとはいえ、魔王が神と繋がっていることは本来教えるべきではなかった。しかし、どうやら今回は気にする必要すらなかったようだ。


「いや、残念ながら」


 いや、何故だ。そんな考えがディアの思考を支配する。


(いやいやいやっ!? 任せるって言ったよね!? ヴァルのこと任せるって言ったよねっ!?……あいつ、次会ったらぶん殴る)


「……あいつ、次会ったらぶん殴る」

「えっ」


 思わず心の声がそのまま漏れ出る。それ程までに衝撃を受けていたのだ。なにも教えていないではないか。このままでは話が通じない。そう考えたディアは仕方なく説明をする事にした。


「勇者の魔法はかつて12星座魔法と呼ばれたものだ。そのうちの()()()()の魔法。さっきも説明した通り一蓮托生、二人の魂を繋ぎ、二人の生命力を一にする。片方の肉体が滅びれば、もう片方の肉体も滅びる。互いの合意がなくては発動しない魔法だ」

「ほ、ほぅ……そんなものが……」

「……お前は勇者である自覚はあるのか?」


 あまりにも緊張感がないため、思わず突っ込んでしまった。そのまま何かを考えているヴァラロス。すると、ふとヴァラロスの目から光るものが溢れ出ていた。


「っ!!?」

「えっ? はっ!? ヴァ……ど、どうしたんだ?」


 危うく名前を呼びそうになるディア。突然涙するヴァラロスが心配になったのだ。しかし、ディアの心配を他所にどこか決意した表情のヴァラロスが言い放った。


「やろう。俺たちが共に同じ道を歩むんだ」

「っ!!」


 共に同じ道を歩む。その言葉はディアが望んでいた未来そのものであった。


「いいのか? 魔王に誑かされたという輩も出てくるやも知れんぞ?」


 照れ隠しで、つい意地悪な言葉を言ってしまう。


(でも、君ならきっと……)


「そうはならないさ」

「っ!?」


 どこか期待していたディアは、予想通りの言葉に嬉しくなる。しかし、その後までは予想できなかった。


「魔王がこんなに優しい人なんだ。ぜったいみんな分かってくれるさ」

「〜〜〜〜っ!!?」


(そういうとこ!! そういうとこがズルいんだって!!?)


「……ん? 魔王?」

「うるさいっ!! さっさと契約するぞ!!」

「うぉっ!? お、おう!!」


 願わくば、今度こそ二人で共に同じ道を歩けますように。それぞれ違う道につけたその足跡が、再び交わろうとしているのだから……


(いつか、ぜったい思い出させてやるんだからっ! 覚悟してよね!!)


Fin

最後まで読んでいただきありがとうございました!

これにて完全に完結です。ここから先はジェミニを読んでいただけると嬉しいです!


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※おまけ話追加しました。イラストも追加しています。もしよければ見て下さい

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