after story 5. 15年後の君と、はじまりの約束
ここからは外伝用に新規書き下ろしとなります。
翌日になり、ヴィルに連れられて魔王城へと向かうヴァラロス。どうやら昨晩にヴィルが魔王城へ連絡を入れてくれていたようだ。
……恐らく、報告の意味合いも含まれているのだろう。当然だ。敷地内にヒト族が入り込んだのだ。それこそ緊急事態と言っても過言ではないだろう。それなのにも関わらず、周りの人を見てもいつも通りに過ごしている。まるで、ヒト族など気にしないといったようにも見えた。
「どうしたの?」
何故かついてきたシーナがヴァラロスへ問いかける。ヴァラロスの考えを察したのか気遣って話しかけてくれたのだ。
「あぁ……、周りの人が案外気にしないんだなって思って」
それを聞いたシーナがヴァラロスの疑問に答える。
「当たり前だよ。だって、ヴァラロスは何も悪いことしてないでしょ? ただ、私たちと一緒に歩いてるだけ。それなのに騒ぐのはおかしいし、魔王様も言ってたから」
「ん? なんて言ってたんだ?……いや待て、きっと、迷惑な隣人だけど、話せばわかる人もいる。みたいなことを言ったのかな」
魔王の言葉。何故か頭の奥底で引っかかった気がした。そして、聞いてみたものの、何故か魔王の思考が分かったように言葉に出てきた。その言葉を聞いたシーナと前を歩いていたヴィルは驚きヴァラロスを見る。
「すごい、合ってるよ! ……ヴァラロスって魔王様と会ったことある?」
「……会ったことは……ない……たぶん」
自信なく言うヴァラロス。ちょうど15年前に空白の時間があるのだ。そこで会っていた可能性は捨てきれない。
「驚きましたな……。一語一句そのままです。当時はまだヒト族を警戒していた者も多かったのですが、その言葉をよく使うのです。だから、最初こそは警戒はしますが、一度相手を知ったあとに問題がなさそうであれば、みんな受け入れてくれるようになったのです」
「そ、そうなのか……」
心に浮かんだ言葉を言っただけだったが、正解だったようだ。一ヶ月もヒト族の生活に触れた魔王だ。きっとさまざまな経験をしたのであろう。それは、きっと相互理解に大きく寄与したものと考えられた。
「きっと魔王様も喜びます。その言葉が出てくる人であれば、良い話が出来るでしょう」
「魔王様とっても優しいからね」
そう言って嬉しそうに話すヴィルとシーナ。ヴァラロスはその様子をみて、異種族の町にいることなど忘れて肩の力が抜けるのであった。
「こちらが、魔王様のお城です」
「……なんか、思ったより、その、こぢんまりとしてるな」
「あまり大きいと掃除が大変とか、そんな大きいのいらないとか言ってたよ?」
ヴァラロスはヒト族の王都ウルブスにあるヒト族の王城を思い浮かべていた。それは王都で一番大きく、まるで権威の象徴と言わんばかりである。
だが、目の前にあるそれは、周りと比べれば大きいが、周りに馴染むようにひっそりと佇んでいた。
そこでも魔王の庶民的な性格がみてとれた。
「さぁ、行きましょう」
ヴィルに連れられて歩みを進めるヴァラロス。少し緊張した面持ちで魔王城へと向かうのであった。
ヴィルが前日に話を通してくれていたおかげですんなり城に入ることが出来た。客間に通されている間にいくつか視線を感じる。きっと使用人の視線だ。ヒト族が珍しいのだろう。そう考えているとすぐに客室へとついた。
付き添いで来てくれたシーナとヴィルも客室に招かれる。ヴァラロスが緊張していると二人が大丈夫だと言って安心させようとする。しかし、もともと討伐しようとしていた対象なだけに変な緊張感が残っていた。
しばらく待っていると客室がノックされる。いよいよ対面か。そう考えたところで予想外のことが起きた。
「……魔王様からのご指名で、ヴァラロス様と二人で会話したいとのことです」
「えっ!?」
使用人の言葉に驚く三人。しかし、魔王直々の指名のため断るわけにはいかない。ヴィルとシーナがいてくれたらどんなに心強いか。そう思いながらも、ここまで付いてきてくれたことに感謝すべきところだろう。
腹を括ったヴァラロスは残される二人に「行ってくる」とだけ言い、使用人に案内されて魔王のいる部屋へと向かうのであった。
魔王のいる執務室の前に到着したヴァラロスはとても緊張していた。この部屋の中に魔王が、そんな考えが頭を巡る。自分自身が勇者であることから、本来は相容れない存在だ。互いに戦い、どちらかが滅びるまで殺し合う。そういうものだと思っていた。だが、気付けば対話する流れとなっている。何故かわからないが、ヴァラロスが感じていた自分の中の常識の崩壊と相まって、何かを期待している自分がいた。それこそ、役割に縛られず、自分で自分の道を切り拓いている気がしたのだ。
そんなことを感じていると使用人が執務室のドアをノックする。
コンッコンッ
「魔王様、お連れしました」
「……ご苦労、入れ」
(…………ん?)
部屋の中から声が聞こえる。声を聞いた時、何やら違和感を感じた。どこか懐かしいような、妙に愛おしいような。しかし、何故そう思ったのかは分からない。今はただただ案内されるがままに歩くしかない。
部屋の中に入ると目の前に何やら威厳のある面持ちの人物が立っていた。誰にも逆らうことを許さない。そんな印象を受ける。
遂に魔王の前にいる。そんな事を思っていたヴァラロスであったが、今回は客人として招かれた身だ。最低限の礼儀は尽くすべきだろう。そう考えたヴァラロスは魔王へ挨拶をする。
「この度はお会いいただきありがとうございます。お初にお目にかかります、ヒト族で勇者をしております、ヴァラロスと申します」
「っ!…………よい。さっさと座るがいい。あと、普段通り話せ」
っ!?挨拶をしただけなのに急に不機嫌になった気がする。挨拶が失敗したことからヴァラロスの中で緊張が走る。ただ、普段通り話せと言われたのだから、ここは素直に従うのがいいだろう。そう考えたヴァラロスは普段通り話すことに決めた。
「……そういうことなら、一応、勇者をやっているヴァラロスだ。今日は時間を作ってくれてありがとう。魔王のことを色々聞きたいんだ。教えてくれないか?」
出来るだけ普段通りに話そうとするヴァラロス。若干の緊張は拭えないのは仕方ないことだろう。魔王もそれは分かっているのか気にしないそぶりで話を進める。
「良かろう。……だが、タダで話すわけにはいかん」
「えっと……俺、何すればいい?」
(あれっ!?)
突然の注文に困惑するヴァラロス。自分でも驚いたが、自然とタメ口になっていた。内心焦るヴァラロスであったが、魔王は何故か嬉しそうに注文を続けた。
「素のままでよい。腹を割って話そうというのだ。勇者と魔王、対等ではないか?……聞きたいことは、そなたのヒト族での活躍だ」
「お、俺の活躍……?」
「そうだ」
ヴァラロスは混乱した。何故魔王が敵対する相手の英雄譚を聞きたがるのか。魔族の邪魔をしていたのではないか?…………いや、違う。シーナと出会った時に分かっていたではないか。魔族は魔物を使役していない。つまり、魔物は共通の敵である可能性が出てくる。魔王が勇者の冒険譚を聞きたがるなんて前代未聞だが、そう考えるとあながちおかしな話でもないように思えた。
「そうだな……まずは、とある町を竜種の攻撃から守った話からするか」
一部、自身が記憶喪失であること、その後に竜種を討伐した時に自然と力が溢れたことなど、魔王が質問を繰り返すため事細かに話した。
それこそ、各地のダンジョンを巡り、仲間になったガレスと共に冒険をしたり、竜種を討伐したことでAランクの冒険者になったことなど、様々なことを話した。
話を聞いている魔王がいろいろな表情をしていたように感じられた。それこそ、Aランクになった話では嬉しそうな反応でやけに褒めちぎるのだ。本当に魔王なのか?そんな疑問が生まれながらも楽しそうに話を聞く魔王に完全に毒気が抜かれていた。
「俺ばっかり話しちゃったな……。魔王に聞きたかったんだ。町長に聞いたんだが、15年前にヒト族の町に行ったって聞いたけど、どうしてそんなことを?」
「っ!?…………やむを得ない事情があったのだ。当時は魔物が暴れて村の被害が甚大だった。そこをどうにか出来ないかと、ヒントを得るためにヒト族の町に視察に行ったのだ」
「なるほど……だから、どこかで見たような風景だったのか……上手くいったみたいでよかったな」
「っ!?」
魔王が急に俯く。よく見ればどこか震えているようにも見えた。しまった。今の発言は上から目線だったか!?そう思ったヴァラロスが謝ろうとした時、魔王が突然語り出した。
「……ヒト族と……魔族の共存は、できると思うか?」
「えっ……?」
突然、魔王が真剣な声色でそんな事を言い出した。当然ヴァラロスは困惑する。今までヒト族の敵と教えられてきた。それが、まさかヒト族との共存を言い出すなんて夢にも思わなかったのだ。問われたからには真剣に応えるのが礼儀というものだろう。ヴァラロスは魔王の質問にしっかりと向き合って応える。
「正直、難しいだろうな」
「っ…………そう……か」
「だが、難しいだけだ」
「……? どういうこと?」
落胆した魔王だったが、ヴァラロスの意味深な言葉に反応する。かつて、同じような事を話したことがあるように思えた。
「今は、特にヒト族の間で凝り固まった考えがある。それを取り払う何かがあれば……お互いを理解するきっかけがあればきっと、同じ道を歩めると思う」
「……っ!?」
それはヴァラロスの本心だった。シーナと出会い、町の魔族と出会い、魔王と出会った。その誰もが優しく、話せば理解出来る人々である。だからこそ、何かきっかけさえあれば、不可能ではないと思ったのだ。
そんなヴァラロスの言葉を受け魔王がボソッと呟く。
「…………変わらないね」
「ん? なんだ?」
魔王の言葉を聞き取れなかったヴァラロスが聞き返す。しかし、魔王は覚悟を決めたように立ち上がりヴァラロスに向けて語りかける。
「ヒト族にとっての脅威とはなんだ?」
「え? ま、魔王?」
「そうだ。その魔王の何が脅威だ?」
「うーん……その力? あとは、そう、死ぬことがないって言われてるところとか」
「それだ」
魔王がヴァラロスの答えを聞いて、それが正解とばかりに言う。
「ヒト族にとって、魔王の使う魔法は脅威となろう。ならば、魔法を無くせばいい。また、寿命のない魔族自身も、いつ終わるかも分からない脅威に映るだろう。もし、もしもその命が有限になったら? もしもその引き金をヒト族が握ったらどうだ?」
「……確かに、自分からそんな制約を課すくらいなら少しは話を聞いてくれるかも…….いや、でも、そんなことしたらすぐに殺されるだろ?」
「それが勇者の死と連動すると言ったら?」
「なっ!?」
衝撃を受けるヴァラロス。勇者として、魔王と差し違える覚悟はできていたつもりであった。しかし、これは予想外だ。もし、ヴァラロスが自分で命を断とうものなら、簡単に道連れに出来てしまうことになる。それだけ、魔王は真剣にこの問題に向き合っていることが伝わってきた。
だが、どうやって?そんな考えがヴァラロスの頭をよぎる。それが分かっていたかのように魔王は話を続けた。
「勇者の魔法だ」
「勇者の魔法……?」
魔王の言葉にヴァラロスが首を傾げる。それを見た魔王は信じられないと言った反応を示す。
「……いや、神から話を聞いていないのか?」
「……あんたもあの筋肉だるまと知り合いだったか。いや、残念ながら」
「……あいつ、次会ったらぶん殴る」
「えっ」
「勇者の魔法はかつて12星座魔法と呼ばれたものだ」
一瞬何か雰囲気が違った気がしたが気のせいだろうか。魔王は何事もなかったかのように説明を続ける。
「そのうちのジェミニの魔法。さっきも説明した通り一蓮托生、二人の魂を繋ぎ、二人の生命力を一にする。片方の肉体が滅びれば、もう片方の肉体も滅びる。互いの合意がなくては発動しない魔法だ」
「ほ、ほぅ……そんなものが……」
「……お前は勇者である自覚はあるのか?」
急に呆れ始める魔王。だが、知らんものは知らん。それこそ神に文句を言ってほしいところである。そんな態度を取るヴァラロス。
(しかし、こちらとしても願ったりだ。魔王がそこまで譲歩した事を知れば、ヒト族も話を聞く人が出てくるだろう。ヒト族の間で顔が知られている俺ならきっと話を聞いてくれる。魔族は怖くないんだって教えれば、きっと魔族との架け橋になれる。…………ん? 昔、どこかで同じことを考えていたような)
『ヴァルには生きていてほしいから』
その時、何故か、鼻の奥がツンとした。
「っ!!?」
「えっ? はっ!? ヴァ……ど、どうしたんだ?」
急にヴァラロスから涙が溢れる。それは消え去ってしまった記憶。だが、確かに存在した記憶。一瞬だけ蘇り、その感情だけを置き去りにして、再び闇に消えたその記憶。
魔王も突然ヴァラロスが涙を流したことで困惑する。しかし、魔王の心配を他所にヴァラロスは何か決意したかのような表情でいた。
「やろう。俺たちが共に同じ道を歩むんだ」
「っ!!……いいのか? 魔王に誑かされたという輩も出てくるやも知れんぞ?」
「そうはならないさ」
「っ!?」
それは、どこかで聞いた、甘い言葉だった。
「魔王がこんなに優しい人なんだ。ぜったいみんな分かってくれるさ」
「〜〜〜〜っ!!?」
「……ん? 魔王?」
「うるさいっ!! さっさと契約するぞ!!」
「うぉっ!? お、おう!!」
そのまま契約を進める二人。未だ時がすれ違ったままではあるが、いつか、魔王の歩いたその道に、二つの足跡が並ぶ時を夢見て、物語は前に進むのであった。
ここから1000年後の話、アリスとエイシェルの話へ繋がります。
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