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after story 4. 15年後の君と、いつかの街並み

「うーん……こっちだと思う」


 シーナの案内で夜の森を進むヴァラロス。途中で魔物に遭遇しないかとも思ったが幸い魔物は現れていない。

 シーナによると普段からこの森は滅多なことでは魔物は現れないらしい。だからこそひとりで森に入り探し物をしていたのだとか。


「そういえば、森に入って何をしてたんだ?」

「えっと、薬になる植物を探してたの。街を守ってくれている人がいるんだけど、その人が魔物に噛まれて大変で……治すためには、ヒトツバハギって植物の葉っぱが必要みたいなの。……本当は、見つからなかったら暗くなる前に帰って来いって言われてたんだよね……」

「……結構大変な状況だったんだな。ちなみに、その人はどういった症状なんだ?」


 ヴァラロスはシーナの言っている葉がどういう効力のある葉なのかが分からない為、どういう症状が出ているのかを確認した。薬になる植物は分からなくとも手荷物に使えるものがあるんじゃないかと考えたのだ。


「うーん……全身が痺れて力が入らないとか言ってた気が……」

「……ん? もしかして、その噛んだ魔物ってコウモリか?」

「え? よく分かったね。そうそう、コウモリの魔物」


 ダンジョンの近くということもあり、もしかするとと思ったことが的中した。それならば対処が出来そうだ。


「それだったら薬を持ってる。これを飲ませてやればいい」


 そう言うとヴァラロスは自分の荷物から薬の入った瓶を取り出してシーナに渡した。


「え!? いいの!?……なんかお世話になってばっかりでなにもお返しが……ううん。こういう時は違ったね。ありがとね! ヴァラロス!」

「おうよ!」


 先ほどの繰り返しになりそうな所、シーナはヴァラロスの言葉を思い出した。それが正解とばかりにニカっと笑いながらヴァラロスは満足そうな顔をする。

 子供は難しいことを考えなくていい。純粋に育ってくれればいい。そうヴァラロスは考えていた。そう、この後に出会うであろう魔族の大人たちとどう話をするべきか。それを考えると少し怖く感じるのであった。


(もし、拒絶されたら行く宛は無いが……無理に言って寝首をかかれるよりはマシか。そうなると一回帰った方がいいかもしれんな)


 そんなことを考えていると程なくして森を抜けることができた。そして、森を抜けるとすぐ目の前に大きな門が目に入る。


「大きい門だな。俺の住んでた村より立派だぞ」

「えへへ。これ町のみんなで作ったんだって。昔、魔物が集団で襲ってきたことがあるみたいで、魔物から町を守る為にあるって聞いたよ」

「魔物から守る……か」


 どこまでも同じだ。そんな感想が頭をよぎる。ヴァラロスのいた村も魔物の被害から守る為に門が作られ、村を守る力自慢の冒険者がいた。怪我をすれば薬の材料となる植物を採取し、互いに助け合う。

 何も変わらないのだ。一体何が違うと言うのだろうか。その考えがヴァラロスの頭から離れずにいた。


「ちょっと待っててね。今開けてもらうから」


 シーナはそう言うと門の前にてこてこと小走りに向かって行った。毒を受けたとは思えないほど回復している様を見てホッとするヴァラロス。町に入るための最初の交渉はシーナに任せるのであった。


 シーナが門の近くで何か叫ぶと門の小窓から声が聞こえる。


「シーナちゃん!? 無事だったか! 今みんなで捜索隊作って探しに行こうとしてたんだよ!」


 離れててもはっきり聞こえてくるその声からは、声の主がどれだけシーナのことを心配していたかがよくわかった。

 離れてみているとシーナは今まであったことを話している様だ。チラチラとこちらを見ながら話しているのが見える。


 それから少しして門が開いた。近づいていいものなのかヴァラロスが思案しているとシーナが手招きをする。交渉がうまく行ったのか、これから説明するのか、ヴァラロスは内心ドキドキしながら門へ近づくのだった。


「きたきた。おじさん、この人が私を助けてくれたヴァラロス。道に迷ったらしくて、中に入れてあげたいんだ」

「……ヴァラロスだ。聞いてるかもしれないが……その……」


 シーナがどこまで説明したのかが分からず言葉に詰まるヴァラロス。もし、ヒト族である事を説明していない場合は一悶着あるだろう。そもそも、耳を見れば一発でバレるため隠そうとする事自体が悪手である。それは分かっているがそれでも言葉が詰まってしまった。

 その様子を見た門兵は複雑な顔をして離し始めた。


「まぁ……なんにせよ、シーナちゃんを助けてくれた事に変わりはない。ありがとうよ。今町長に掛け合ってるからここでちょっとだけ待っててくれ」

「わ、わかった。……お前は俺の事を……その……怪しいとは思わないのか?」


 ヴァラロスが不安そうにそう話すと門兵はキョトンとした後に笑いながら答えた。


「わっはっは……いやー、自分でそれを聞くか。確かにシーナちゃんの言う通りだ」


 いったいシーナは何を話したのだろうか。当のシーナはニコニコしながら2人のやり取りを見ている。


「いやなに、あんたがひとりでふらっと来てたら怪しいと思ったと思う。だが、シーナちゃんから、助けてもらった上に薬までくれたって聞いてるしな。……それに、悪いやつがそんな不安そうな顔で自分から怪しくないか聞くと思うか? 町長次第だが、町には入れると思うぞ。だから少しだけ待っててくれ」

「あ、ありがとう……」


 肩透かしを食らったヴァラロスは一気に肩の力が抜ける。緊張していたのがバカのようだ。それも全てはここが敵地と考えていたからであろう。話してみれば普通の人の町となんら変わらないのだ。


 町長が来るまでに門兵はこの町の事を話し始めた。どうやらこの町は普通に来ようとしてもたどり着けないようになっているとのこと。普段は魔法で視覚の認識を阻害してたどり着けないようにしているらしい。なので、町の住人に連れてきてもらうか魔法を解くことでしか町に辿り着けない。一部の魔物は視覚に頼らずに移動するため稀に町に侵入することがあるとの事だった。



 門兵の話を聞いていると町長らしき人が到着した。らしき、というのは見た目が若く見える為町長とは思えないのだが、近づいてきた際に門兵が手を挙げてこちらだと呼んでいた為、その人が町長だろうという推測である。


「あなたがシーナを助けてくれた人ですね。この町の町長を務めているヴィルと申します。……改めて娘を助けていただき感謝致します」


 ヴィルが深々と頭を下げてお礼を言う。町長にそこまで頭を下げられると困惑してしまうが娘を助けたと言う事であれば分からなくもない。


(……というかシーナは町長の娘だったのか)


 シーナが町長の娘であることをもっと早く教えて欲しかったと思うヴァラロスであった。


「いただきました薬も既に使わせてもらいました。すぐに効果が現れ、本人も痺れはまだ残るものの動くことができると喜んでおります。重ね重ねとはなりますが感謝致します」


「それなら良かった……だが、良かったのか? 見ず知らずの……その、()()()からの薬を信じて……?」

「それは、ご自分で言うことではないですよ?……シーナがあなたに懐いている事が全ての証明です」


 ヴィルはそう言うと、いつの間にか横に立っていたシーナの頭に手を置く。


「それに……過去のしがらみは確かにあります。ですが、それがヴァラロスさん。あなたを否定する理由にはなりません。私はね、ヒト族を信じたわけじゃありません。ヴァラロスさん、()()()()信じたのです」

「っ!!?」


 ヴィルの言葉を聞いたヴァラロスは衝撃を受けた。過去にヒト族、魔族とこだわっていた自分が恥ずかしくなるほど純粋な言葉であった。ヒト族の中にも信頼できる人、出来ない人がいる。それはきっと魔族でも変わらないだろう。……そして、その概念自体は種族の違いなど関係ない。つまり、種族など関係なくヴァラロス個人を信頼してくれたのだ。それを理解したヴァラロスは驚き、また感動していたのだった。


 ヴァラロスが呆けているのを見てヴィルは少し困った顔をしつつ話を続ける。


「そんなところに立っていないで、どうぞ中へお入りください」


 ヴァラロスはその好意に甘え、ヴィルたちについて行くのだった。




 しばらく町中を歩いていた。その町並みはヒト族の町そのものと言っても過言ではないほど違いが見つからなかった。それどころか、地面にはゴミなど見当たらず、むしろこちらの方が綺麗にも見える。どこかで見たような、可愛らしい服が売っている店や、クレープの売店まである。

 道ゆく人々も、耳の形状はヴァラロスのそれとは異なるが、それ以外は普通で特に不審な点が見当たらない。本当に一般市民という印象である。


「何か気になるところでもありましたかな」


 ヴァラロスはキョロキョロとしているとヴィルが話しかけてきた。あまりにもキョロキョロとしていた為か、町長であるヴィルが何かあれば説明しようと思ったのだ。

 ただ、それを聞いたヴァラロスは自分がそこまで挙動不審でいたかと気付き少し照れくさそうに話し始める。


「いや、珍しいとかではなく……本当に何も変わらないなと。俺の住んでいた町もこんな感じで、逆に驚いてた。……あと、町にゴミも落ちてなくてとても綺麗だなと」

「そうでしたか。ヒト族の町もこの町と何も変わらないんですね……。実は、この町並みは魔王様が考案されたのです」

「魔王が……?」

「えぇ」


 ヴァラロスの中の魔王像は魔物を操ってヒト族を蹂躙するものであり、こんな人々の生活に関わるなんて想像もできなかった。


(いや、そもそも魔族自体が人と変わらないことがわかったばかりだ。魔王もヒトの王様となんら変わらないのかもしれない……)


 ヴァラロスがそんな考えを巡らせているとヴィルが話を続ける。


「……あれは15年ほど前でしょうか。魔王様が突然行方不明になられたのです。ほんの一ヶ月ほどでしたが周りは魔王様の行方を探ろうと必死になっていました。ですが、突然帰ってきて、その時は村の規模でしたが、村の視察に来られたのです。……当時はちょうど、魔物の被害が大きい時だったので村の半分は崩壊していました。その視察の時に、折角なら新しい町を作ってみないかと言われ、今の形となりました。今思えば、その時にヒト族の町に行っていたのかもしれませんね」

「そんなことが……この景色……まるで、その時の足跡を辿ってるようだ。一度話してみたいものだな」


 ふと言葉が出た。ヴァラロスとしては全く意識せずに出た言葉。自分自身驚いている。

 自分は勇者として魔王を討伐しようと考えていたはずである。それなのに、魔王のことを()()()()()だと思ってしまった。敵対する種族の中に紛れて生活し、ヒト族となんら変わらない町を作り出したであろう魔王のことが気になったのだ。

 ……そして、その言葉は運命の歯車を大きく動かすこととなる。


「それであれば、明日お城へ行ってみてはいかがですかな?」

「えっ」

「魔王様は会おうという人がいればご自身の予定を極力調整しお会いになられます。明日会えるかは分かりませんが試してみるのもありかと思います。私も付き添いますので明日行ってみましょう」

「えっ、えっ?」


 困惑したヴァラロスは宿へ連れて行かれ、翌日に魔王と会うことになるのだった。……それこそが全ての始まりであるとは誰も知らない。

※この話は「ジェミニ 〜魂の契約者達〜」の176話を元に微修正した話です。


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