48.思い出の味と、特別な甘さ
その後、ヴァラロスが落ち着き、仕切り直して夕食を食べに飲食店へと向かうと、いつもと違う様子に気づく。なにやら道や建物に装飾が施され始めていた。
「これは……? なにか始まるのか?」
「なんかお祭りみたいだね」
二人は辺りを見回して互いに感想を述べる。まるで祭りが始まるかのような街並みに驚いていると見知った顔が目に入ってきた。
「おぅ、ふたりとも。よく眠れたか? って言ってももう夜だな。昼夜逆転しちまう」
「そっちこそ元気そうでよかった。……で、これはなに?」
目の前に現れたのはドミニクであった。いつもの姿ではなく法被を着ていることからこの催しに関わっているのは間違いなさそうである。
ディアに質問をされて「ふっふっふ」と勿体振り意気揚々と説明を始めた。
「祝勝会に決まってるだろ。こんなに大きな戦いの後だ。みんなを労うのがギルドの務めよ。もちろんお前たち主役だからな」
いつの間にか主役になっていたディアとヴァラロス。お互いに顔を見合わせて、少し困惑したものの、お互いの困り顔に思わず吹き出してしまう二人なのであった。
準備が整うまでまだ少しあるように思える。そんな時、ディアがヴァラロスに言った。
「ねぇ、デートしようよ!」
「で、デート!?」
驚きのあまり声が裏返るヴァラロス。先程まであんな空気だった為、急に飛び出た話についていけなかったのだ。しかし、ディアはお構いなしに言葉を続ける。
「だって、好きって言ってくれたでしょ? アタシもヴァルが好き。なら、一緒に色々見て回りたいなって」
「お、おぅ」
「で、どうなの?」
「い、いくいく! 行こう!」
ディアに改めて言われると恥ずかしくなり赤面するヴァラロス。そんな彼は恥ずかしさから煮え切らない返事をし、痺れを切らしたディアに詰め寄られる。ようやく頭が話に追い付いたヴァラロスは快諾して街を見て回ることにする。早速尻に敷かれるヴァラロスであった。
「まず、どこ行こっか」
いざ見て回ると言ってもいろいろな場所がある。どこに行こうかと考えていると何やら音が聞こえてきた。
ぐぅ〜〜〜
「ッ!!!?」
ディアのお腹から可愛らしい音が鳴る。無理もない。昨日の空山移動中に軽く食べて以降何も食べずに夜通し戦っていたのだ。いうなれば身体からの悲鳴、ささやかな抵抗であった。
お腹の音を聞かれて俯き赤面するディア。ヴァラロスは笑いながら目的地を提案する。
「そういえば、夕食に行くところだったな。なんか食べに行くか。そうだな……食べたいものある?」
ヴァラロスの提案にディアがまだほんのり赤い顔をのぞかせる。その目は恥ずかしそうに潤んでいた。だが、お腹が減ったのは間違いない為、ディアはジト目になりながらも本能に従って答える。
「……クレープがいい」
「ん? あそこのクレープか?」
「そう」
それは、いつぞやヴァラロスが差し入れに持ってきてくれたクレープ屋であった。
「ん〜〜〜〜〜〜っ!」
幸せそうにクレープを頬張るディアと、それを正面の席に座って見るヴァラロス。ヴァラロスはクレープの量を見てドン引きしていた。
「これ、食べ切れるのか?」
テーブルにはクレープが何個も転がっている。そこに店員がいそいそと何かを持ってきた。
「残りの注文のツナコーンサラダ、ピザフランクです!……残りはもう少々お待ちくださいっ!!」
店員が泣いていた。そう、ディアは本能のままに注文をしたのだ。もはや何個注文したか本人も覚えていない。覚えているのは頑張ってメモを取り、泣きながらクレープを作っている店員だけだろう。……相変わらずワンオペのようで可哀想になってくる。だが、それを仕事として選んでしまったのだからやるしかない。
ヴァラロスは店員に向けて手を合わせてディアの代わりに密かに謝るのであった。
「んぐっんぐっ……ヴァルは食べないの?」
「……じゃあ、いただこうかな」
がんばれ店員。負けるな店員。その努力はきっと報われる。そう祈ることしか出来なかった。
「ふぅ〜〜」
「よく食べたな……」
見事にテーブルの上のクレープがなくなっていた。ヴァラロスも何個か食べ、まだ少しお腹に入るがそこそこお腹は膨れている。ディアに至っては食べたものがどこへ消えたのか不思議になるくらい体型に変化はなかった。
つい、気になってヴァラロスがディアを見ていると、それに気づいたディアが身体を隠すそぶりを見せる。
「な、なによ……。恥ずかしいじゃない」
「わ、悪い……」
お互い赤面し、顔を背けるヴァラロス。流石に人体の不思議についてこれ以上考えるのは危険と判断した。しかし、ディアはそこでスイッチが入り、ニシシと笑う。一度怒られたのに懲りないやつである。
「ねぇねぇ」
「な、なんだ?」
「そんなに気になる? アタシの身体?」
ディアがヴァラロスにちょっかいをかける。またヴァラロスで遊ぼうと思ったのだ。ニヤニヤしながら話しかけるディア。しかし、ここで奇跡が起こる。
(食べたものがどこにいくのか……まさかっ!? 魔族にはヒト族にない器官があるのか!?)
「……あぁ、すごく、気になる」
「っ!!?!??」
カウンターパンチをもろに受けるディア。まさかの反応に今度はディアが赤面し、耳の先まで真っ赤になり混乱する。ヴァラロスが慌てふためく様子を愉しもうと考えていたのになんという事だろうか。まさか、真剣な顔で、そんなことを言うなんて。
……自分から聞いてしまった手前、何か答えなければならないだろう。だが、当然このケースは想定していない。急にパニックになったディアは目をぐるぐるさせながら、回らない頭をぐるぐる回転させようとする。
(ちょっ! まっ! えっ!?)
当然考えられる余裕などなかった!ディアはまるで頭から煙が出ていそうな状態のまま口をパクパクさせる。その様子を不思議に思いながらヴァラロスが声をかける。
「……ディア?」
「ひゃいっ!?」
びっくりして変な反応をしてしまう。もう年貢の納め時。そう思った彼女はようやく頭を回し始めた。
(そう、だよね。ヴァルも男の子だし……そういうの興味あるんだよね……)
ディアが真っ赤な顔で俯き何やらクネクネしている。すると、厨房から店員がやってくるのが見えた。
「……お待たせしました。ぐすっ……最後の、プリンアラモードです……ごゆっくり……ひっく……」
この店員、辞めないだろうか。ちょっと心配になるヴァラロスだったが、ちょうどいいとディアに確認を取る。
「ディア」
「は、はいっ!」
再度声をかけられて覚悟を決めたディアはヴァラロスへと向き直る。覚悟を決めてしまえばどうということはない。むしろ、まんざらではないと思ってしまうディアがいた。ドキドキしながら彼の言葉を待つ。しかし、その覚悟は綺麗に裏切られる。
「さっきの確認だが……なんでそんなに食べてもそんな細いんだ?」
「…………あ?」
ディアの時が止まる。そういえば、さっきヴァラロスはどこを見ていた?それをよーく思い出してみる。……なるほど。腹部だ。
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!)
「魔族ってヒト族と違う器官とかあるのかなーって……あれ……? ディア……さん?」
顔を真っ赤にしてふるふる震えているディア。ヴァラロスがそれに気づいた時にはもう遅かった。これ、あかんやつや。
「ヴァルのバカっ!! もう知らないっ!!」
「………………」
今度はヴァラロスが困り果てる番であった。
「むぅっ」
未だ頬を膨らませ怒っているディア。怒りながらも最後のクレープを食べていた。
「あのー……」
「ふんっ!」
「……はぁ」
ヴァラロスはなぜディアが怒っているのか分からず途方に暮れる。話しかけようとしてもずっとこのザマなのだ。もう、仕方ないので別の話題を振ってみることにした。
「なんでクレープなんだ?」
「……なに?」
明らかに不機嫌なディア。だが、ヴァラロスはめげずに話を続ける。
「いや、他にも色々あるだろ? お腹すいてたはずだし、普通の食事でも良かっただろうに、なんでクレープだったのかなって思って」
「…………」
ヴァラロスがそう言うと黙ってしまうディア。これもダメだったかと思っていた矢先、ディアが口を開く。
「特別だから……」
「特別?」
ヴァラロスが繰り返すとディアが静かに頷く。そのディアの顔はどこか恥ずかしそうに、また、切なそうに見えた。
「ヴァルが持ってきてくれた差し入れのクレープ。本当に嬉しかったの。ここのクレープを食べれば……ヴァルのことを思い出して心が暖かくなるから」
「ディア……」
ディアの独白に密かに嬉しくなるヴァラロス。そんなにも自分のことを想ってくれていると考えるだけで愛おしくなった。
「……食べる?」
突然食べかけのクレープを差し出すディア。冷静になったのか、その顔は少し申し訳なさそうにも見えた。
「お腹いっぱいになったのか?」
あれだけ食べればそうなるか。そう思いヴァラロスはディアに確認を取る。しかし、もっと違う理由だった。
「ううん。甘いものは別腹だから食べれるけど……」
食べれるのか。それはそれで何か恐ろしくもあるがヴァラロスは何故と不思議に思う。その答えはすぐにディアの口から出てきた。
「これ、アタシのお気に入りだから。ヴァルにも知ってもらいたいな……って」
上目遣いでそんなことを言うディア。その頬は若干色づいて見えた。
「っ!? そ、そう言うことなら……ちょっと食べようかな」
ヴァラロスはディアの仕草に心をかき乱されるが、それを悟られまいと平静を装おうとした。
クレープを一口食べるヴァラロス。口の中ではプリンのぷるっとした食感と、甘さが控えめに抑えられた生クリーム、濃厚で存在感があるカスタードクリームが主張を始める。一緒に入っていたいちごの甘酸っぱさがいいアクセントとなり、甘いだけではなく、食べやすさもあった。
「これ、美味しいな」
「でしょ? これはアタシのお気に入りだから」
そう言うディアはどこか嬉しそうであった。すっかりディアの機嫌が戻り、笑い合う二人。泣いていた店員も仲睦まじい二人を遠目に見て少し微笑むのであった。
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