42.守るべきもの
「どうした? 穴だらけの羽じゃ満足に飛ぶこともできないのか?」
ヴァラロスはワイバーンを挑発し誘導する。できるだけワイバーンをディアから遠ざけたかったのだ。すると、ワイバーンは目の前の仇とばかりにこちらに向き直り息を大きく吸った。
(やっぱり特殊個体か!?)
すぐさま横に飛び退くヴァラロス。すると、今まで彼がいた場所はワイバーンのブレスで赤黒く焼かれていた。少しでも反応が遅れていれば丸焼けになっていただろう。
(冗談じゃない! あんなの喰らったらおしまいじゃないか! どう手を打つか……)
そこで、ふとあることに気づいた。以前、自分の剣で刃が立たなかったワイバーンを氷の矢なら射抜けたことを。ディアはもともと魔法で攻撃をしていた。だからワイバーンを圧倒することができたのだとすると……そこから考えられることは一つだ。
「……いっちょ試してみますか!」
ヴァラロスはそういうと、ディアからもらった氷の矢を構えて、ワイバーンの眉間目掛けて放った。
『グァッ!?』
何か不穏な気配を感じ取ったのか、ワイバーンは急いで背を向け、尻尾で矢を弾こうとした。しかし……
パンッ!
『グアアアアアアアアアアアアアアっ!??』
当たった尻尾の先端部分を矢が貫通する。貫通した事でその尻尾は切断され、勢いを殺しきれなかった矢は翼膜を貫通し、ワイバーンの身体に刺さって停止した。仕留められなかったが、眉間を守る為に避けられず、その弱点を露呈したのだ。
「よしっ!……なんか思ったより凄いことになったけど……これならいける!」
ワイバーンが怒りと憎しみの表情をしてこちらを睨むと突然二本足で立ち上がり翼を大きく広げた。
(!? まずい!)
ヴァラロスは直感でこのままでは危ないと感じ取り横へ飛び退いた。すると先ほどまでいたところにはズタズタに裂かれたような痕が残っていた。
(あっぶな! これは魔法か!? えっ、無詠唱!? そんな芸当まで出来るのかよ!!?)
ワイバーンは避けられたことに驚いたようで狼狽しているようにも見える。ヴァラロスも彼自身、なぜ避けられたのか分かってはいなかったが、今はそれどころではない。目の前の相手をどうにかする必要があるのだ。先ほどの矢で攻撃を続ければ勝機はある。しかし、気付けばディアからもらった矢は残り1本になっていた。
(おいおいおいおい……っ! これで仕留められなきゃ詰むぞ)
慎重に相手を観察するヴァラロス。どこに矢を放てば一撃で倒せるか考える。やはり頭か?だが簡単に避けられてしまう。ならば接近するか?いや、今度はあの爪や尻尾の餌食になるだろう。ではどうするか?
様々な考えがヴァラロスの頭を巡る。そんなことをしているとワイバーンがそっぽを向いた。
(なんだ? 逃げるわけでは……なっ!?)
ワイバーンの向く先を見るとそこはディアを隠していた岩がある。何かを感じ取ったのかそちらに顔を向けたのだ。
それを見た途端、ヴァラロスの身体は勝手に動いていた。
「どこ見てんだトカゲ! お前の相手はこっちだろ!」
矢を構え、急いで弓を引く。ただ気を逸らすことを考えて矢を放った。ワイバーンがそれに気付くと、いとも簡単に避けられ、矢は明後日の方向へ飛んでいった。
(くそっ! 最後の一本を無駄にした……! ここからどうすれば……)
これで有効な攻撃手段は無くなってしまった。ここからどうするかとヴァラロスが考えていると予想外のことが起こる。
「なっ! お、おい!」
なんとワイバーンは再びディアが隠されている岩場へと向き直り、なにやら興味深そうにしている。どうすればもう一度気を逸らすことができるか。そう考えているとワイバーンが一度こちらを振り返った。
「っ!?」
その顔が邪悪に笑ったように見え悪寒が走る。その瞬間ワイバーンはディアの方を向き大きく息を吸った。
「ばっ!? やめろ!!」
(どうする! ディアは動けない……直撃は避けられたとしても自分を守ることなんて出来るわけがない! 何か大きな盾があれば……なにか大きな……あ!?)
ヴァラロスはディアを守ろうと必死になって頭を巡らせる。そして、気づいた。ワイバーンの炎を防ぐ一撃。それは、かつてディアがヴァラロスを守る為に使った魔法だ。今の自分なら不思議と出来る気がした。そう思った瞬間にはそれを口にしていた。
「アイスボール!!」
ヴァラロスが叫ぶ。ワイバーンの吐いたブレスが岩へ届くと思えた矢先、岩の目の前に巨大な氷の塊が現れた。その形は歪であったがこの際形などどうでもよかった。その氷は炎を防ぎディアが隠れる岩を守る。
ディアに特訓してもらいある程度形になった氷の矢。氷の矢が作れるなら氷の塊など造作もない。問題は生命力量と魔力変換効率だが、幸いヴァラロスはその両面において優れていた。
『グァッ!?』
目の前に現れた大きな氷の塊にワイバーンが驚く。ヴァラロスはその隙を見逃さなかった。
「アイスアロー!」
手元に一本の氷の矢が現れる。その形は歪であったが、ワイバーンを確実に仕留める為に生み出された矢である。
そして、ヴァラロスは渾身の叫びをワイバーンにぶつける。
「俺の……ディアに手ぇ出すんじゃねぇ!!」
ヴァラロスはその矢を弓に構え素早く矢を放つ。その動きは自分でも驚くほど滑らかで無駄がなかった。
ワイバーンが迫り来る矢に気付いた頃には矢が首元まで迫っていた。目の前の脅威を脅威と思えず、岩陰で感じた気配を優先した事が仇となった。
実際ヴァラロスの持ちうる手段は少なかった。しかし、ディアと直前に特訓していた事でその手段が広がっていることに、彼女が狙われたことで気付いたのだ。結果論ではあるが、ワイバーンがディアを攻撃対象とした事は致命的な間違いであった。
パンっ!!!!!
矢がワイバーンの首を貫通する。貫通した際に矢に込められた魔力が暴走して爆ぜた。それはきっとヴァラロスが矢を生成する際に込めた想いが偶然にも具現化されたものだろう。
爆発により切り離されたワイバーンの首は高く宙に浮き、そして地面へと落下した。
ドサッ
同時に司令塔を失った身体も地に伏せる。少しの間警戒を緩めずにいたが流石に杞憂だったようだ。
「…………はぁ〜〜〜。なんとかなった〜〜〜……」
戦いが終わった事に安堵しその場にへたり込むヴァラロス。強大な敵だったことを思い返していまさらながら手が震えていた。
もともとヴァラロスにとってワイバーンは恐怖の象徴のようなものであった。その証拠に、前回は見ただけで体がすくんでしまうほどだ。しかし、ディアと出会い彼女の勇姿を隣で見て、共に戦えるようになったと思ったことで、ヴァラロスもワイバーンに立ち向かう勇気が湧いてきたのだ。
それに、ディアは『任せた、相棒』と言ってくれた。今までのディアを考えると出来ない事は言わないだろう。ヴァラロスですらワイバーンの近づく気配を感じ取っていた。ディアが気付いていないわけがない。その状況下で『任せた』と言ったのだ。その言葉はヴァラロスにとって何よりも勇気を奮い立たせる原動力となる。
さらにディアが窮地に陥った事も関係した。絶対に守る。そんな強い意志が魔力に反映されワイバーンを討伐するに至ったのだ。
「……これで、前に進めるかな」
ヴァラロスがボソッとつぶやく。その言葉は自分にかかった呪いを解く呪文のようでもあった。今までは常に故郷のことが頭をよぎり、復讐心が頭のどこかにあった。それがワイバーンを倒したことにより軽減されたのだ。やっと肩の荷が下りた。そんな気持ちであった。
「さて、ねぼすけを担いで帰りますか……」
ヴァラロスがしばらく休んだ後にそう思い立ち上がると、急に背後から声をかけられ肩を叩かれた。
「よっ」
「うわああああああああっ!??」
叫び声と共にその場から飛び退いたヴァラロスが声の主を探す。すると、そこには岩陰に寝かせていたはずのディアが立っていた。あまりの驚きようにキョトンとするディア。その反応が面白すぎて吹き出してしまった。
「ぷっ、あはははははははははは……驚きすぎぃ……ひぃ……」
「……暗闇の中、気配もなく肩を叩かれた側の身にもなってみろ」
ヴァラロスの反応にお腹を抱えて笑うディア。ヴァラロスは不可抗力だとばかりに文句を言う。
「ごめんごめん……。そっか、意識が戻ってすぐに認識阻害の魔法をかけたんだった」
「意識が戻ってすぐって……まさか!?」
ワイバーンがふと視線を逸らしたのはなぜか。当然何かに気づいたからだ。では何に気づいた?きっと魔法を使ったことに気がついたのだろう。だからこそどうとでもなりそうな目の前の相手よりも、未知の相手へ奇襲をかけようと思ったのだ。ヴァラロスが慌てていることからもそれが弱点と思えたのだろう。結果的には悪手ではあったが。
だが今問題なのはそこではない。無我夢中だったが何か叫んだ気がする。自分は何を言ったのか。ヴァラロスは思い出してしまい顔を引きつらせ口をパクパクさせる。ディアはにんまりと怪しげな笑みを浮かべながらしっかりと聞いていたアピールをした。
「んふふ……守ってくれてありがと! すっごくかっこよかったよ♪」
「ああああああああああああああああああああ」
ヴァラロスは恥ずかしさのあまり頭を抱えて雄叫びをあげてしまうのであった。
43話も22:00頃に投稿します!!
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