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41.相棒

 そのままどれほど歩き続けただろうか。次第に魔物の数が減り、気付けば魔物はいなくなっていた。総量を考えた時にノヴィシムを助けた時と同じかそれ以上はいたように思える。

 このままでは街を守っている冒険者達が危ない。ディアとヴァラロスは早く目的を達成し山を降りないと。そう考えながら歩いていると、以前にワイバーンと遭遇した山の中腹の開けた場所に出た。


「前はここまで来たな」

「そうね」


 警戒しているからか短く言葉を返すディア。魔物が山を降りた原因がここにあるに違いない。そう考えたディアは辺りを見回しながら進む。すると、以前よりも進んだところに大きな岩があり、そこには転移紋が描かれていた。


「こんな所に……間違いない。プロカル側の山にあった転移紋と同じ紋様だ」

「そんなこと分かるのか? 俺には同じように見えるんだが……」

「転移紋共通の紋様が基本になってるんだけど、一部任意に描ける部分があってそこで対応する転移先が決まるの。つまり同じ紋様を描いたところが繋がるってわけ」

「そうなのか……俺でも描けるのか?」

「誰でも出来る。むしろ、なんでこれが広まってないのか不思議なくらいよ……ライトニング!」


 ヴァラロスは質問しながら不思議そうに転移紋を眺める。対になっていたプロカル側の転移紋は破壊済みのため動くことはない。しかし、残しておけばまた誰かが悪用するかもしれない。そうなればまたどこかで被害が出てしまう。だからディアは当然のように転移紋を目掛けて雷の魔法を放つ。雷撃が当たった岩は描かれた紋様がわからなくなるほどに破壊されるのだった。


「ふぅ。次、ノヴィシム側の転移紋も探さなきゃ」

「ここまで見当たらなかったから、もう少し登ったところにあるかもしれないな」


 二人はさらに空山を登る。しばらくして、また同じような転移紋が書かれた岩を見つける。


「あったあった。ライトニング!」


 速やかに転移紋を破壊するディア。これでプロカル側、ノヴィシム側ともに魔物が溢れることは無くなるだろう。二人はまず転移紋を潰せたことに喜び拳を突き合わせる。自然と行われたその動作はお互いに信頼していることを現していた。しかし、そのあとすぐ、水を差すかのように騒がしくなる。


キエエェェェェェェ!


「さて、目的の半分は達成したようなものだけど」

「……そう簡単には終わらないよな!」


 ディアが魔法で転移紋を破壊した音を聞いたからか、けたたましい声が聞こえてくる。声の方を見ると無数のワイバーンが向かってくるのが見えた。以前より山を登ったことでワイバーンのナワバリに近づいたのだろう。迫る脅威にディアが確認をとる。


「ヴァル! 行ける?」

「当たり前だ! その為に特訓したんだからな!」


 ヴァラロスはディアの質問に威勢よく答えた。しかしその顔には緊張が見て取れる。過去のトラウマを乗り越えようというのだ。普通なら出会うことすら避けたいと思うだろう。それでも戦うことを選んだ。ディアはその決断を尊重し共に戦う覚悟を決める。


(ちょっと数が多いけど……ヴァルと一緒ならきっと大丈夫!)

「アイスアロー! これ使って」

「助かる!」


 ディアはヴァラロスに氷の矢の束を渡した。ヴァラロスもあと少しで物にできるところまではきているものの、まだ実戦で使うには心許ない。その為、ディアに矢を生成してもらったのだ。

 また、本人は気づいていないがディア自身心境の変化もある。以前ならどうやってヴァラロスを守って戦おうと考えたはずだ。しかし、今となっては共に戦うことを選ぶほどにはヴァラロスの実力を信頼していた。


 敵の接近を待つ二人。ヴァラロスは弓を引きディアから貰った矢を番える。ディアも両手を前に突き出し魔法を使う態勢になっている。それを見たワイバーンが急停止し息を大きく吸い込もうとした。ワイバーンはブレスを吐こうとしたのだろうがその瞬間動きが止まり無防備となる。その瞬間を二人は見逃さなかった。


「アイスランス!」

ヒュッ!


ディアが氷の槍を生み出し投擲した。それに合わせてヴァラロスも矢を放った。飛んでいく矢と槍は真っ直ぐワイバーンへと向かいそれぞれ両翼を貫く。


『グァ!?』

 

翼を傷つけられ飛ぶことができなくなったワイバーンは地面へと落下する。


「よしっ!」

「まだ、次来てる!」


 ヴァラロスが喜ぶのも束の間、次々とワイバーンが飛来している。それらも対応すべく二人は一心不乱に攻撃を加えるのだった。







「チッ、数が多い……!」


 しばらく戦っていたが一向に数が減らない。一匹倒した途端に別の個体が大きく鳴き叫び、背後から一層数が増えた。ディア達を脅威と感じ仲間を呼んだようだ。気付けば辺りはすっかり暗くなっている。その暗さは何故攻撃が当てられているのかと不思議になるほどであった。

 ディアが悪態をつくとヴァラロスがこの状況を打開すべく、ある提案をした。


「なぁ、前に使った花火の魔法、あれって広範囲で使えないのか?」

「うーん……使えなくはないけど……」

「なら! あれを頼む!」


 ヴァラロスは真っ直ぐにこちらをみてお願いをしてくる。これはヴァラロスの村のみんなを想う弔い合戦でもある。ディアが好き勝手やっていい場面ではない。ディア自身、意識して自制していたわけではないが、なんとなくそれはダメだと思っていたのだ。しかし、ヴァラロスから依頼され、ディアは気づいてしまった。


(目の前の敵より、ヴァルの事を考えてた……?)


 それは、魔王としてはあってはならない事である。常に最善を選択し、最小限の被害に抑える。それが()()である。しかし、()()()は違ったようだ。ディア個人としてはそれが当たり前になり始めていたのだ。


「……いいの?」


 唐突に漏れる確認の言葉。何がとは言わずともヴァラロスは理解し、はっきりと答えた。


「頼む。俺のことよりもノヴィシムのみんなが大事だ。すぐに加勢に行けるならそれに越したことはない」


 潔い。ヴァラロスも戦う力を手に入れた。それならそのまま戦うことも考えていたことだろう。実際、このまま戦っていればどうにかなりそうではあった。しかし、ヴァラロスは街の皆のことを考え短期で終わらせようというのだ。それならば応えるしかない。……だが、ディアがエクスプロージョンを使う事を躊躇っていたのは別の理由があった。……それでも、きっとヴァラロスがどうにかしてくれる。今のディアにとってヴァラロスは頼れる人なのだ。何も躊躇う理由などない。そう思い直し、彼からの依頼を実行に移すことにした。


「分かった。この前ほどとは言わないけど、アタシ、気絶するから。後はよろしく」

「おう! 任せてお……えっ!? なんだって!?」

「じゃあ、いくよ! エクスプロージョン!!!」

「まっ! ちょっと!?」


 ディアが魔法を唱えると、瞬時に空一面に魔力の球が無数に生まれる。そしてワイバーン達を取り囲むと一斉に爆発した。




ドドドドドドドドォォォォォォォォォォォォォン…………




 以前に放った魔法よりも格段に威力が上がっていた。広範囲の獲物を確実に仕留める思いで放った魔法は確かにワイバーン達を仕留めていく。高威力の爆発により、あるものは四散し、あるものは飛んできた仲間の死骸にぶつかり命を落とす。それらがそのまま落下するのだ。先に落ちていたものは下敷きになり手を下すまでもなくなるだろう。


「……はは。やっぱりすごいなディアは」

「当たり前で……ぁっ……」

「おっと」


 倒れそうになるディアをヴァラロスが支える。辛うじて意識を保っていたものの、もう限界のようだ。


「あとのことは任せて」

「うん……任せた、相棒」


 ヴァラロスの言葉に満面の笑みでそう答えるディア。そしてディアは安らかな顔で気を失った。




 さて、ここからが正念場である。ヴァラロスはディアを近くの岩陰に隠して横たわらせ、

ワイバーンが飛来していた方角に向き直る。


 すると、一匹のワイバーンが落ちた場所からこちらに飛んできているのが見える。翼は少し傷ついているものの飛ぶには十分である。一見しただけで再生していることがわかった。それは、通常の個体ではないことを意味する。


「相棒……か」


 ヴァラロスはこの絶体絶命の状況にも関わらず笑みを浮かべる。それはきっと初めてディアと対等になれた気がしたからであろう。ずっと助けられていた。守りたくても守られてしまっていた。そんな不甲斐ない自分に心底嫌気がした。だが、今は違う。ディアに相棒と呼んでもらい、彼女に認められたと感じたのだ。そう思ったヴァラロスからは不思議と恐怖が薄れる。力が溢れ、今ならなんでも出来てしまいそうだった。


「ノロノロ飛びやがって。さっさと来やがれってんだ! このトカゲ!」


 絶好調のヴァラロスは威勢よく吐き捨てるのであった。

21:00に42話投稿します!


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