表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/73

40.帰るべき場所と、不器用な守護者

 二人を送り出してからどれほど経っただろうか。未だに、その決断が正しかったのか分からない。もしかすると二人を死地へ送り出してしまっただけかもしれない。その考えが脳内をぐるぐると回っていた。


「ドミニクさん」


 見張り役の冒険者が話しかけてくる。たしかイーサンとかいったか。……何故か布に巻かれた大きな荷物を持って来ていたがあれはなんだったのだろうか。


「ドミニクさん! もうすぐ魔物が来ますよ!」

「そう叫ばなくてもわかっとるわ。皆配置につけ!」


 未だに二人のことが気がかりではあったが今はそれどころではない。二人どころか何百人もの命がかかっているのだ。気持ちを切り替えていかねば……


「!? ドミニクさん! 来ました!」

「おい! お前ら! ここを死守しろ! 何があっても抜かすな!」


 最初の前衛が魔物とぶつかるのが見える。基本は盾を持った者が魔物を抑え、その隙に後衛の冒険者が攻撃する。それを人員を入れ替えながら戦う。魔物はイノシシやオオカミ、たまにウサギモドキなどが混ざるが、集めた冒険者にとっては大した相手ではない。しっかりと対応すれば何も問題ないだろう。


『おらああああ!』

『受け止めた! 今だ!』

『へっ。こんなの余裕だぜ!』


 冒険者の声が聞こえる。問題なく善戦しているようだ。このまま行けば防衛は成功するだろう。


「……しかし、あの二人はどうやってこれを抜けていったんだか」


 目の前に広がる魔物の波を目の当たりにし、山へ入った二人のことを考える。あの二人に限ってやられるとは思えない。しかし、この魔物の量を見るに普通に山へ登ることすら困難だ。どうやって抜けていったのか分かるわけがない。その為、考えるだけ無駄だ。今は割り切って今目の前にいる冒険者達に指示を出すしかない。




     ◇ ◇ ◇




 そのまましばらく時間が経過し冒険者達の間に緩みが見られるようになった。決して油断していい相手じゃない。ここはひとつ叱咤するべきか……


「油断するな! 基本陣形を守って戦うんだ!」

「わかってますよ! そら! 押せ!」


 声をかけたが気の緩みは戻りそうもない。だが、危なそうに思えるところは今のところは見当たらない。


(考えすぎか……? 集めた冒険者ならこの程度問題はなさそうだが……なんだ? 何故か胸騒ぎがする)


 頭に何か引っかかりながら考えるが一見大丈夫そうにも見える。ただの杞憂だったか…………


『な、なんだアイツ!?』


 そう思ったのも束の間、混戦の中で突然声が上がった。その声に釣られて視線を向けると、ひとまわり大きなイノシシが山から現れ向かって来ている。


「はぁ!? なんだアイツ!?……チッ、他のやつと空気が違う! くそっ! 俺がいく!」


 あれはダメだ。盾じゃ防げるわけがない。あんなヤツがいるなんて今まで報告がなかった。いったいどこに隠れていたのか。だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「どけぇ!!」


 冒険者を掻い潜り、持っている斧で目の前の雑魚を一掃する。あの昇格試験では唯一ディアに傷を負わせることができた武器である。前回は初手で地面に置いていたが今回は最初から手に持って振っている。一振りすれば目の前の魔物が吹き飛び、大型イノシシの魔物への道が簡単に出来上がっていく。


(斧は重いのが難点だけどな。……あいつ、この斧を咄嗟に持ち上げて俺の攻撃を防いでいたな)


 あいつはなんなんだ。そう頭を過ぎるのは仕方のないことだった。しかし、今はそれどころではない。目の前に脅威が迫っている。


「あ!?」


 目の前の敵をひと振りした途端に道が開く。他の魔物も踏み潰されたくないからか大型のイノシシの魔物の動線から逃げるように避けている。つまり、ドミニクとイノシシの魔物との間に邪魔がいなくなった。そう思った矢先イノシシの魔物は速度を上げた。このままだと轢かれてしまう。


「おいおい……人間を舐めるなよ!!」


 その場に急停止し大きく斧を振り上げる。そして、タイミングを合わせて……振り下ろす!



ドゴォォオオオオオ!!!



 土煙が舞ってよく見えないが、身体が吹き飛ばされてないという事はあの巨体を止めることができたという事だろう。手応えはあった。思いっきり振り下ろした斧はその硬い感触を手に伝える。…………硬い感触?


「まさか!?」


 咄嗟に斧を手放し後ろに跳ねる。するとさっきまでいた場所にイノシシの牙があるじゃないか。危うく串刺しになるところだった。斧を振り下ろした場所を見れば少し頭に傷が付いてはいるが、斧も深くは刺さらず致命傷には至っていない。今まで対峙したどの魔物よりも頑丈なように思えた。


「くそっ! これならどうだ!」


 腰にさしていた短剣をイノシシの眼を狙って投げる。この距離ならいける!


ガキンッ!


「へ? はぁああああ!?」


 目を閉じただけで短剣の投擲を防いだ。短剣とはいえ刃物だ。この距離で力一杯投擲したにも関わらず瞼すら傷つけることができないだと。


『ブオオオオォォォォォォ!』

「くっ! ふんっ!」


 動揺してる隙をつかれて突進して来た。幸い腰にさしていた片手剣で思いっきり斬りつけた事で勢いが殺され、軽く吹き飛ばされる程度で済む。


「ったた……。あれで吹き飛ばされるってどういう状況だよ」

「サブマス!」

「ドミニクさん!」

「近づくな! あれはお前らじゃどうにもならん」


 助けに来ようとしていた他の冒険者を制す。その意気込みは評価するが、相手が悪すぎる。どう考えても最悪の未来が見える。


「くそっ……どうしたものか」


 イノシシの魔物は真っ直ぐにこちらを見つめて隙を窺っている。少しでも余所見をしたらまた突進されるだろう。手持ちの武器は……。


「……ねぇな」


 斧は手放した。短剣も投擲済み。腰の片手剣は吹き飛ばされた際に手放してしまった。いくらウェポンマスターと呼ばれているとはいえ、運べる武器の数には限りがある。持ち過ぎれば重い。重ければ動きが鈍る。それだけ戦いにくくなるのは当然だ。

 そうこうしているとイノシシの動きが変わる。こちらの考えを読み取ったのか心なしか邪悪な表情に見える。


「皆! ヤツの動線から逃げろ!」


 そう言った瞬間にヤツは駆け出した。対抗手段が今ない事を理解したようだ。


「くそっ! あいつ本当にイノシシかぁ!?」


 間一髪で横に飛び退く。すぐ後ろはイノシシが通り過ぎた。そのまま立っていたら今頃あの牙の餌食だっただろう。

 他の冒険者たちも叫んだ甲斐ありイノシシの動線から外れており無事だ。


「くそっ! 誰か武器をよこせ! なんでもいい! 武器を!」


 コイツに効く武器があるとは思えない。だが、なにもないよりマシだ。例え短剣でもあの牙を去なすくらいは出来る。素手よりマシなのは間違いない。

 しかし、周りを見るとどの冒険者も自分の戦いに必死であり武器を手放すなんて出来る状況ではない。武器なしであの突進を何回躱せるか分からない。武器を手放して多少機動力は上がったものの、もともと俊敏に動けるかと言われれば違う。今まで力で捩じ伏せて来た。逃げる事など考えられないほどに。


「くそっ……なにがウェポンマスターだ……」


 あらゆる武器を使いこなすことができる。しかし、裏を返せば武器なしでは何もできないようなものだ。それを今痛感した。

 万事休すか。そう思って周りを見渡した時、イーサンが何やら大きなものを持って走ってくるのが見える。荷台に入れて運んでいた何かだ。イーサンはまっすぐこちらに向かって来ている。


「イーサン! 危ないから下がってろ!」

「ドミニクさん! これを使って下さい! 俺の傑作です!」


 イーサンが叫ぶとそれを持ってその場でグルグル回り始め、こっちに思いっきり投げた。イーサンが投げたとは思えないほど見事に投擲されたそれは宙で布が解けその姿を露わにする。


「あれは……大剣!?」


 大剣が回転しながらこっちに飛んできている。


『ブォオオオオオオオオオオ!』

「!?」


 どう受け取るとか考えてる場合じゃない。気付けばイノシシが突進して来てる。このままじゃ躱せ……


「……いや」


 躱す?なんでそんなことを考えた?今までのスタンスは?自分自身を思い出せ!


「ありがとうよ! イーサン!」


 飛んできた大剣の柄をしっかり見定めて掴みそのまま回転の勢いを殺さず、むしろ力を込めてイノシシの頭に叩き込む。


「はあああああああああああああああ!!!」


ドオオオオォォォォォォン……


 辺りが土煙に包まれる。その衝撃は周りの地面を揺らすほどであった。


「くそ……何も見えねぇ」


 悪態をついて警戒しているとあたりの土埃が晴れてくる。そこには先ほどまでイノシシの魔物だったものが横たわっていた。


「…………おまえら! 厄介な奴がいたらこっち回せ! 俺がなんとかする!」

「「「おおおおおおおおおお!!!」」」


 なんとか倒せた。イーサンに感謝しなければならないな。ウェポンマスターと呼ばれるくらいには多くの武器を扱って来たが切れ味が段違いである。一振りしただけでそれがわかった。……あいつ、趣味が鍛治って言ってたが本職にした方がいい気がする。


「……さて、こっちはどうにかするから早く用事済ませて帰ってこい。馬鹿ども」


 柄にもなく山に入った二人の事を思ってしまった。こっちはせめて二人の帰る場所を守らなければ。ドミニクは自然とその視線を山へ向けるのであった。

面白いと思ったら評価・ブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ