39.急成長と、すがるその手
「アイスアロー!」
「もっと真っ直ぐなイメージで」
「う……アイスアロー!」
「うーん……もうちょっとかな」
街に帰ったディアとヴァラロスは山であった出来事をドミニクに報告し、ディアに連れられてギルドが持つ訓練所へと足を運んでいた。ドミニクに報告したところで「あの爆発はなんだ!?」と言われたがワイバーンを倒したとだけいうとドミニクは固まってしまった。ディア達は固まっているドミニクを置いて早々に立ち去ったのだ。
訓練所で鍛えると言ってもプロカル側の転移紋を潰した手前時間がない。その中で手っ取り早く戦略アップが臨めるものを選ぶ必要がある。
ディアから見ればヴァラロスの剣術は近接で戦う分には申し分ない。そうなった時に、今回の時のために遠距離攻撃が出来ないのはまずいと考え、弓を与えてみたのだ。すると、驚く事に放つ矢が面白いほど狙った場所へ刺さる。それは、まるで矢を当てる対象へ矢が吸い込まれていくようであった。
その事実にヴァラロス自身が驚いていたが、ディアが彼の腕前を見て子供のようにはしゃぎながら褒めた為、驚きよりも気恥ずかしさが勝っていた。
ただ、弓を使うにも問題があった。弓を使うという事は矢を持ち運ぶ必要があり、攻撃回数も有限となる。そこで、ディアは自身が得意とする氷の魔法に矢を精製する魔法があった事を思い出す。最初はディアが矢の提供をすると申し出たが、いざという時に自分でどうにか出来ないと困るという。では、どうするか?ヴァラロスの主な武器は剣であったため弓だけでなく矢も運ぶとなると荷物がかさばる。せめて矢だけでも魔法でどうにかできるのならとヴァラロスはディアから魔法の指導を受けていたのだ。
「アイスアロー!……なかなか上手くいかないもんだな」
「……言っとくけど、たった数時間でここまで出来てるほうが異常だからね」
最初は氷の塊を生み出す必要があったが、それ自体に高度な技術が要求される。水を魔法で生み出し、生み出した水を氷点下まで下げなければならない。ろくに魔法を使ったことがない人であれば普通は習得までに時間を要するだろう。
しかし、ヴァラロスはディアの言う通りに練習したところ、すぐに氷の球を生み出したのだ。これには流石のディアも驚くが、その後も教えた事をドンドン会得するヴァラロスをみてディアは久しぶりに教えることの楽しさを実感するのだった。
◇ ◇ ◇
「今日のところはおしまい。そろそろ空山に行かないと……」
「まだ掴みきれてないんだけどな……」
結局、ヴァラロスはアイスアローをモノにする前に時間が来てしまった。しかし、その精度は着実に上がっている。キチンと時間をかけて教え込めば魔法使いとしても活躍できるかもしれない。
ヴァラロスの成長を楽しみにしながらディアとヴァラロスの二人は空山へと急ぐのだった。
空山へはすでにギルドが集めた冒険者が入っており下手に転移紋は使えない為、他の冒険者と共に乗り合い馬車で移動することとなった。
その際にヴァラロスが相乗りした冒険者に話を聞いたところ先発隊にはドミニクが含まれていたようだ。通りで出発前に何も言ってこなかったわけだ。いればワイバーンが何故いたのかなど質問が待っていただろう。
ヴァラロスが冒険者と仲良さげに話し、ディアがそれを黙ってみている。ほっとかれたディアが少し顔を膨らませていると、それに気付いたヴァラロスが話しかけてくれた。ディアはツンツンしていたが、内心嬉しく思うのであった。そんな構図のまま馬車に揺られている後発隊は、いつのまにか空山の馬車小屋へ到着する。
「おぅ、お前ら遅かったな」
姿を見付けたと思ったらすぐドミニクに声をかけられた。その様子を見るにまだ魔物の群れは来ていないようだ。周りにはどこから集まってきたのかというくらいに冒険者が集まっている。
「よくこんな集まったな」
「街を囲まれてた時の魔物の量を考えれば全然足りんが、報酬を増やしてるからな。そこそこの数は集まってくれている。…………これで何もない。なんて事になったら無駄になるがな」
ドミニクはチラリとディアを見る。ディアはその視線に気づき思ったままのことを言う。
「正直、何もないなら、ない方がいい」
「っ!……はっはっは! 違いない。まぁ何もなかったら黒紙でもバンバンやってもらうか」
ドミニクの言葉に顔が引き攣るヴァラロス。黒紙とは報酬が少ない、労力に見合わないなど条件が悪く誰も受注しない依頼の事だ。ギルドも依頼を受ける時にある程度は気をつけて依頼を受け付けてはいる。あまりにも条件が悪い場合は職員から適正な報酬や条件をアドバイスしたりするのだ。ただ、稀に職員の怠慢で言われたままに受け付けてしまう事があるのだ。基本、ギルドは一度受け付けたものはそのまま掲示する事にしている。稀に黒紙でも受けてくれる冒険者がいるからだ。それを期待してそのままにした結果、案の定溜まりに溜まっている。そんな訳アリの依頼をやらされると考えたヴァラロスは想像するだけで嫌になっていた。
しかし、そうはならなかった。
「ドミニクさん! 空山の方から何か来ます!」
談笑していたドミニクに山を見張っていた冒険者が報告する。どうやらヴァラロス達の到着はギリギリだったようだ。
「ちっ。本当に来やがった。おまえら! 魔物が来たぞ! 全員でここを守るんだ!」
ドミニクの声に冒険者達が応える。今まで休んでいた冒険者達はすぐ体制を整え臨戦体制に入る。その切り替えようは流石といえよう。
「お前達はどうするんだ?」
ドミニクがヴァラロスとディアに話しかける。ドミニクもこの二人が大人しく指示に従って戦うとは思っていない。自由にさせた方がいいと分かっているからこその質問だ。むしろ邪魔をしないようにと動向を探る目的もある。
「俺たちは空山の中腹に向かう」
「もう陽が落ちるぞ?」
「なら、さっさと終わらせて帰ればいい」
ドミニクの心配にディアが答える。その表情は真剣で冗談を言っているようには見えなかった。
ドミニクも夜の山の恐怖は知っている。辺りが暗くなり方角がわからない中で、どこから魔物が襲ってくるか分からないのだ。魔物が溢れ出ている今、視界の悪い山の中へ入る事は自殺行為でしかない。ドミニクとしては防戦をし、陽が登った時に空山へ進行しようと考えていた。だからこそ山に入らず麓で待機していたのだ。
しかし、ヴァラロス達はそんな事は気にも止めず空山へ入ろうとしている。しかも、中腹といえばワイバーンがいると思われる場所である。この二人が何をしようとしているかは想像に難くなかった。
「……早く戻ってこい。主役がいないと酒が不味くなる」
「わかった」
「ディア、お前もだぞ」
「アタシも?」
ドミニクが不器用に二人の無事を祈る。ディアは名前を呼ばれると思わなかった為驚いた。そんなディアにドミニクはため息混じりに言葉を続ける。
「はぁ~。いいか、一回しか言わないぞ。俺はそこのヴァラロスだけじゃなく、ディア、お前さんも仲間だと思ってる。仲間の無事を祈るのは変か?」
「……ボコボコにしちゃったけど?」
「おまっ! それは昇級の……ええい! もういいわ! さっさと行ってこい!」
ドミニクの言葉に冗談で返すディア。ドミニクは少し怒ってしまったがディアの口元は少し緩んでいた。
「ごめん冗談。ありがと。さっさと終わらせてくるからお酒用意しておいて」
「さっさと行け。んで、すぐに帰ってこい」
ディアが笑顔で素直に謝罪とお礼を言うと、予想外の反応にドミニクは気恥ずかしくなり目線を合わせられずに背を向ける。お互いに顔は見えないが、ドミニクも笑顔になっているのは分かるのであった。
冒険者が山の麓で防衛線を作っている横をヴァラロスとディアが素通りする。何名かには奇異な目で見られたが指示を出して統率している冒険者は当然のように道を譲ってくれた。どうやらドミニクが冒険者を統率する人員には何か話しているようだ。ドミニクとの会話後すぐにこれだ。きっとドミニクはヴァラロス達の行動を予測して予め伝えていたのだろう。
「全部お見通しだったってわけか」
「だね。あれだけは敵に回しちゃいけない……」
二人はドミニクのことを高く評価しつつ空山へと入るのだった。
◇ ◇ ◇
ディアが認識阻害の魔法をかける。そのまま手を繋ぎ山を登る二人は、しばらく進むと予想通り魔物の群れが山を下っているところに遭遇する。その正確な数は不明だが、山の上の方まで魔物の気配があることから、以前にノヴィシムを襲っていた時くらいの数はいるだろう。
しかし、認識阻害の魔法が効いているおかげで魔物が自然と二人を避けていく。ディアはその様子に慣れたようであるが、ヴァラロスはまだ慣れないのか不安そうにディアの手をしっかりと握り歩いている。魔物が辺りを埋め尽くしているのだ。一歩間違えれば認識阻害の魔法は解け、あっという間に袋叩きであろう。そうならないように祈りながらヴァラロスは必要以上に気配を消して歩いくのだった。
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