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38.屈辱の先に、君への懇願

 その後、軽い打ち合わせをして解散した。空山側はドミニクの計らいで空山の魔物退治を冒険者ギルド発注で冒険者達に依頼をかける事になった。ヴァラロスが街を魔物から守った分の報酬で依頼してみたところすんなり通ったのだ。ヴァラロス達の街への貢献を考えるとそれも当然かもしれない。そもそも街が崩壊するところだったのだ。ドミニクもそう考えたのか、やると決まってからはやけに協力的であった。翌日朝に空山ふもとに冒険者が集まる算段となっている。


 プロカル側はヴァラロスとディアが対応すると言ったので二人に任せてもらえている。正直、誰かについてこられるとそれはそれで問題である。転移紋の事を教えなければならないし、そもそも移動手段として転移紋が使えない。それは、二人にとっては不都合しかなかった。




 二人は準備を終えると早速プロカル側の問題を対処しようと街を出る事にした。そのまましばらく歩き、街が見えなくなった頃ヴァラロスが口を開く。


「で、実際どうなんだ? なんで空山が怪しいと思った?……あの道具屋から何か言われたのか?」

「ぁっ……」


 道具屋。その言葉がヴァラロスから出るとは予想外であった。しかし、考えれば分かることだ。ディアのことを旧知の中と紹介していたオーディーン。ディアが魔王と分かってしまった今となっては無関係とはいかないだろう。あの胡散臭い創造神の事を説明してもいいがディアの頭にオーディーンの言葉がよぎる。『ヴァラロスだ』……その言葉を思い出してしまい言葉に詰まる。その反応にヴァラロスは肩をすくめながら言葉を続けた。


「言えないならそれでもいいが……」

「ち、違う! あっ……」


 思わず声が大きくなるディア。自分でも何故そんな声が出たのか分からず驚いている。驚いた様子のディアを見てヴァラロスもまた驚く。少しだけ静寂に包まれる中、ディアが静かに語り始めた。


「……今回の騒動。あいつに聞いたけど誰かが意図的に仕掛けたものだって」

「……まぁ、そうだろうな? いや、そこはもう分かってたんじゃないか?」


 ディアの言葉に困惑するヴァラロス。転移紋が置かれていた時点で自然発生ではない。何故今更そんな事を言うのか不思議に思っているとディアが小さく言葉を続けた。


「……目的」

「ん? 目的? 誰が何のためにやったのか分かったのか!?」

「ううん。誰がやったのかは分からない。でも目的は特定の一人を消そうとしたからだって言われた」


 明言する事を躊躇するディア。そのまま伝えればいいのだがディアの気持ちの整理がつかず伝えられずにいた。当然ヴァラロスは何のことだか分からずにいる。


「誰かが狙われてるのか……そいつ、なんか恨みを買うようなことしたのか? 街そのものを壊滅させる程に消したいやつってどんなやつだよ…………狙われてるのが誰かは分かってるのか?」

「っ?!」


 ディアは息を呑む。当然確認される。そんなことは分かっていた。それでも中途半端に話し始めたのはディアの中で整理がついていなかったからである。

 再び言葉に詰まるディア。その様子を見てヴァラロスが少し勘違いをする。


「あ、いや。別に責めてるわけじゃないんだ。これから一緒に行くわけだし、少しでも聞いて思うかなと思っただけで。……だって、あんなヘマをするもんだから心配になってな……」

「ヘマって……ううん。ありがとう。正直助かった」


 ディアはヘマと言われ少しムッとしたが、どう考えてもディアがやらかしている。それを分かっていたディアは素直にお礼を言う事にした。


「良いって事よ。ただ、護衛対象は秘密なのか」

「違う……ヴァル……」

「ん? なんだ?」

「ヴァル……」

「お、おぅ。なんだ?」

「だから、ヴァル!」


 ディアは頑張って伝えようとしているようだが伝わらず、ヴァラロスはひたすら名前を呼ばれる事に少し恥ずかしそうにしながらも困惑していた。

 痺れを切らしたディアが語気を強める。


「ヴァルなんだって! 狙われてるの!」

「……は? なんで?」

「知らない! あいつもそこまでは教えてくれなかった。でも、狙われてるのはヴァル。それは間違いない」

「…………」


 言い切った。顔を真っ赤にして事実を伝えたディア。それを聞いたヴァラロスは少し呆けた後に少し考えて伝える。


「んー……? 理由はわからないけど、とりあえず自分の身を守ればいいのか? いや、街のみんなも守らなきゃいけないか……。俺のことは分からないから置いとくとして、今行動を起こしているってことは何かしら目処がついてるってことだよな? 俺も手伝うから教えてくれないか?」


 ヴァラロスは自分の事を少し考えた後、原因について考える事を諦めた。当然心当たりなどなく、ディアも知らないと言うのだ。そうなると考えても仕方がない。それよりも、それを受けてこれからどうするか。それが一番大切だと頭を切り替えてディアに質問をする。

 そんなヴァラロスの様子を見てディアは疑問に思った。


「怖くないの?」

「んー正直わからない。怖い……のかな? 今まで感じた事ない種類の怖さだし。でも、考えても何にもならないってのも分かるから、それなら、今は俺が今できる事をやるべきだと思う」

「!? そう……わかった。今の状況を説明する」


 ディアはヴァラロスの答えに少し驚くものの、ヴァラロスならそうかと不思議と納得をする。ヴァラロスが今やれる最善を考えた結果、ディアの方針に従ってくれているのだ。ならばディアもディアが今できる最善を尽くすべき。そう考えたディアは急に頭が冷え、冷静になれた。まずすることは情報共有だと、ヴァラロスへ状況を説明し始めるのだった。






「………….なるほど。空山に転移紋が繋がってる可能性があると。だから向こうからも魔物が降りてくるから魔物に備える必要がある……か」

「可能性としてはあると思ってる」

「そうか…………。わかった。まずはその転移紋を潰しに行こう」


 ディアも確信はない。ただ、オーディーンの持ってきた情報である。今まで確信を持って言われた事は当たっていた。つまり今回も信用して良いだろう。

 ディアの説明が終わりヴァラロスは少し考えたが、彼女の案を全面的に受け入れるのだった。



     ◇ ◇ ◇



 その後は特に何事もなく移動できた。転移紋で山の麓まで行き、そこから山を登る。山を登っている最中に多少魔物と遭遇したが、通常より少し多いかな?くらいである。大した量ではない。そのまま山を登って進むとプロカルの時同様に岩肌に何やら光るものが見えてきた。


「……あれか」


 ヴァラロスが近づくと、そこには先日同様に転移紋が光っていた。ただ、異なる点といえば周りに魔物がいない事である。


「出尽くしたか……?」

「何にせよ開いていて良いものじゃないし、壊しておかないと……えっ!?」


 ディアがそう言い、手を前に出した途端、転移紋が急に強く光り始めた。それを見たディアは慌てて自身の生命力を魔力へと変換し、手に魔力を込める。


「サンダー!」


バチンッ!


 ディアは魔法を唱えて転移紋を破壊した。しかし、一歩間に合わず魔物が一体飛び出してしまった。


グアアアァァァァ!


「あれは……?!!」

「ワイバーン?!」


 ワイバーン。その性格は獰猛で目の前の生き物を獲物としか考えられないと言われるほどである。そのワイバーンが突然目の前に現れたのだ。


「空山……アイツはどうしていつも正しいんだか!」


 よく考えれば想定できた事である。何故転移紋で送られてくる魔物が地を這う魔物だけだと思った?オーディーンは空山に繋がっているといった。ならば、今空山にいる脅威とは?当然ワイバーンの群れである。そのワイバーンが転移紋を使って移動する事も十分考慮できた筈だ。


 悔やんでいても仕方がない。今は一体だけで済んだことを幸運に思うべきだろう。そして今するべきことは目の前の敵を排除することだ。


「ヴァル!?」

「やるしかないよな!?」


 戦う意志を明確に確認するディア。ヴァラロスのことを考え確認をとったが杞憂であった。二人はすぐに体勢を整えワイバーンへと向き直る。それを見たワイバーンは思い切り息を吸う素振りを見せた。


「ブレスか!?」

「ライト!」


 ヴァラロスが身構えた瞬間にすかさずディアが魔法を唱える。ディアが放った魔法は瞬時にワイバーンの目の前で発動し辺りは光に包まれた。それに驚いたワイバーンは体制を崩しブレスをはるか上空へ放ち地面へと落ちていく。


「アイスランス!」


 そんなワイバーンに容赦なく魔法を打ち込む。打ち込まれた攻撃は体制を整えようとするワイバーンの翼膜を貫き飛行性能を奪った。


「っ!?……くっ、俺だって!」


 あまりにも手慣れた様子のディアに驚きつつも何も出来ていない現状にヴァラロスは口惜しく思う。ヴァラロスはそのままワイバーンが落ちる場所へ走り出し、ワイバーンが落ちると同時にワイバーンへと斬り掛かる。


ガキンッ!


「んなっ!?」

「ヴァル!」


 しかし、その剣はワイバーンの硬い鱗に弾かれる。その隙を見て落ちたばかりのワイバーンが尻尾でヴァラロスを薙ぎ払おうとした。しかし、それを見ていたディアがすでに次の行動に移る。


「アースニードル! 伏せて!」


 ディアが放った魔法は地面から突起を生み出しワイバーンの尻尾の軌道を上に逸らす。それに合わせてヴァラロスを体勢を低くしたことによりかろうじて攻撃を免れることができた。


「……くそっ!」


 無力な自分に憤りを感じる。しかし、そのままそこにいても足手纏いにしかならないと理解出来ないヴァラロスではない。ディアのおかげでワイバーンからの攻撃を免れたヴァラロスはすぐに彼女の元へ戻り、ワイバーンからの距離を取るのだった。


「いい判断。あれにはその剣は届かない」

「悪い。助かった。」


 ヴァラロスが戻るまで下手に攻撃できないディアは、そうヴァラロスに言いながら次の手を考える。


ぐ…グオオォォォォォ!


 両翼をダメにされ地に落とされたワイバーンは怒りの咆哮を上げる。そして、そのまま再度息を大きく吸い込んだ。


「させない! アイスボール!」


 ディアがそういうとワイバーンの目の前に巨大な氷の塊が現れる。それはワイバーンの口から炎が吐かれるのとほぼ同時であった。


グ、グアアァァアア!?


 目の前の氷で炎が遮られディアとヴァラロスには届かない。それどころかワイバーンは自信が吐いた炎が跳ね返り口元が少し焼けたようだ。

 自分の炎に焼かれ怯むワイバーン。その隙を逃すディアではなかった。


「伏せて! 一気に仕留める!……エクスプロージョン!」


 すかさず攻撃を叩き込むディア。その攻撃はワイバーンを飲み込み鮮やかな光と共に爆散した。


ドオオオオオオオオオォォォォォォン…………


 色鮮やかな火柱が天高くへと立ち昇る。ディアの一撃でワイバーンは跡形もなく消し飛ぶのだった。






「ふぅ……ケガはない?」

「……あぁ、俺まで吹き飛ぶかと思ったけど……あれって、空に放つものじゃなかったのか?」

「……意地を張っていい状況じゃないから」

「そ、そうか……悪い」


 ディアの攻撃に驚きながらも、放った魔法について指摘するヴァラロス。それもそのはず、過去にヴァラロスが地面にいる魔物に放てないかと提案した時は拒否されたのだ。それなのにも関わらず、今回は躊躇なくその魔法を放った。どんな心境の変化かと気になるのは仕方のないことだ。

 しかし、ディアはその問いに短く答える。相手はワイバーンだ。手加減していい相手ではない。……だが、実はそれだけではない。ディアはヴァラロスが攻撃され、彼を危険な目に合わせた相手に怒っていたのだ。絶対に許さない。そう思ったらあの魔法を放っていた。自分の意地よりも大切なものがあるのだ。


 ディアの回答を聞いたヴァラロスは少し気まずそうな反応をする。それもそのはず、ワイバーン相手に手も足も出なかったのだ。結局ディアがいたからどうにかなったものの、一人では太刀打ちが出来なかった。その事実にヴァラロスは、自分を足手纏いと思ってしまったのだ。

 そんなヴァラロスをみかねて、ディアは肩をすくめながら彼に声をかける。


「ねぇ、あれは普通のワイバーンじゃないから、太刀打ち出来ないのが普通なの」

「普通じゃない?」


 ディアの言葉にヴァラロスが反応する。何を言っているのかわからない様子のヴァラロスにディアが言葉を続ける。


「さっきブレスを吐いたでしょ。ワイバーンの多くはブレスなんか吐かない。稀にそういう個体がいて、ものすごく強い。今回がそれだっただけ」

「…………」


 ディアの言葉に考え込むヴァラロス。少し考えた後に静かに話し始めた。


「前に、俺の故郷がワイバーンに襲われた話はしただろ。村が焼き払われていたんだ。つまり、俺の故郷を襲ったワイバーンは今のやつと同じだったって事か……」


 長年の謎が解けたという顔をするヴァラロス。ヴァラロスの故郷には魔物討伐に長けた人が何人もいたと記憶している。それなのにも関わらず一方的に蹂躙されたと聞いている。それはなぜか。相手が悪かったのだ。実際に対峙して理解した。アレは出会ってはいけないものだ。天災に近く、一度遭遇すればなす術もない。

 しかし、その天災に対して対抗できる者がいた。絶対的な強者なのは間違いない。間違いないが、その強者は話してみると普通の女の子であった。普通に笑い、相手を気遣い、何処にでもいるような優しい女の子。そんな彼女が圧倒的な力で災厄を圧倒してみせた。それは、ヴァラロスにとって自身を変えるに十分な刺激であった。


「なぁ、ディア」

「な、なに?」


 神妙な面持ちのヴァラロスから急に声をかけられたディアは、少し驚いたもののなんとか反応する。ヴァラロスがもっと落ち込むと思っていたのだ。しかし、その予想は外れ事態はディアの想定外の展開へと進む。


「ディアは魔王として部下へ鍛錬することはあるのか?」

「うーん……最近はないかな、昔はよくやってたけど……ってヴァル、まさか……」


 ディアの表情が引き攣る。オーディーンの話を聞いてからヴァラロスのことを護衛対象と考えていた節があった。その為、今予想していることは今の彼女の方針と真逆の行為となる。だが、ディアはその事態を少し嬉しくも思っていた。


「俺を鍛えてくれ。こいつに負けないくらいに、強く」


 額に手を当て天を仰ぐディア。しかし、頼られた事が嬉しくその口元は少し緩んでいたのだった。

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