37.打ち手、咄嗟の共犯
「な、何を言って……ヴァルは今関係ないでしょ……?」
「……俺が言えるのはここまでだ」
「ま、待ってよ!? なんで彼がでてくるの!?」
「ここまでだと言った。……あとはその意味をよく考えてくれ」
「っ……」
突然のことに言葉を失うディア。何故このタイミングでヴァラロスの名前が出たのか?答えはひとつしかない。命を狙われている対象がヴァラロスなのだ。その答えに辿り着かないほど現実から目を背けてはいない。
俯き唇を噛み締め、黙り込んでしまったディアに「店仕舞いだ」と言ってオーディーンは店から追い出す。いつもなら文句のひとつでも言うであろうディアはそんな余裕などなく、大人しく外に出される。
そんなディアを少し心配になるオーディーンは閉めようとしていた手を止めディアの後ろ姿を見る。しかし、思い直して、あとはディアの問題だと言わんばかりに扉を閉めるのであった。
その後少しの間店の前で佇んでいたディアであったが、ここに居ても仕方がないと考え宿に帰ることにした。
◇ ◇ ◇
宿の自分の部屋に着いたディアは回らなくなった頭で必死に考えていた。
(ヴァルが狙われてる。それはオーディーンの口ぶりからも間違いない。だから最初に依頼という形でヴァルに接触していた。……だけど、アタシが連れ出したからオーディーンの予定が狂ってしまった。……でも、どういう予定かは知らないけどヴァルを連れ出すのを協力してくれたようにも見える。それがヴァルにとって最善だったから? アタシの性格を考えてパーティを組めばヴァルを見捨てることはしないだろうと思った……?)
ごちゃごちゃになった頭で考える。全ては不確定要素である。
「…………」
考えてはみたものの考えがまとまらない。あまりにも情報が少な過ぎる。そうなっては原因には辿り着けないだろう。ならば、今出来ることを考えるしかない。
「よく分かんないけど……ヴァルが狙われてるなら助けるしかない。恐らく転移紋がまだあるならまずはそこを潰すか……あるいは」
ディアはベッドに後ろから倒れ込むとオーディーンの言葉を思い出す。魔物の発生源は空山であると言っていた。きっとそこに転移紋が繋がっているのだろう。しかし、誰がやったのかは不明だ。また、気がかりなことが他にもある。
(この前空山に登った時は転移紋は見当たらなかった。ううん。そもそもスタンピートを起こすほど沢山魔物は居なかったはず。……そうなると、更に登ったところに魔物がいるって事になる。……そんな事はある?……あとは、山中の魔物が一気に集まるとか? それこそどうして……?)
魔物とて元は動物。空山は山頂が雲に隠れるほどに大きい。この前登った中腹でもそこそこの標高はあった筈だ。当然酸素は薄く気温は低い。そんな所に普段森に棲むような魔物が棲息しているのだろうか?そんなことはないだろう。そうなると、空山にいる魔物が一気に集まってきた事になるが、相手は知能のない魔物の為、誘導など出来るわけない。そう、ディアは考えた。
(……それに、あそこは今ワイバーンの群れが居たはずだ。魔物の住処があったとしても逃げ出すに決まって……)
「あっ!?」
そこまで考えたところでディアは思わず声を上げてしまった。逃げ出してきた。それが正解なのではないかと。それが正解であるならば次の問題が生まれる。
「待った。もし、プロカル方面の転移紋を潰したら? もし、本当に魔物が逃げ出していたのなら?……魔物が出て来なくなるだけってわけにはいかない。出て来られなくなった魔物はどうなる? 当然、別の逃げ道を探す。……空山から魔物が降りてくる?」
それがディアが出した答えであった。そして、ディアの中で次の行動が決まる。
「でも、だからといって転移紋を潰さないと最悪挟撃される形になる。それなら、準備をしてプロカル側の転移紋を潰し、空山の魔物を迎え撃つ。……ついでにワイバーンも討伐できれば、ヴァルとの約束も守れるし」
約束も果たせて一石二鳥である。そうと決まれば即行動だ。そんな思いで気持ちを切り替え、ディアはまず明日に備えて寝る準備を進めるのであった。
◇ ◇ ◇
翌日、ディアとヴァラロスはドミニクに呼び出されていた。
「さて、ゆっくり休めただろうし報告してもらおうか」
ドミニクの言葉にヴァラロスが事の顛末を説明する。勿論、転移紋やディアの素性は伏せてだが。
……ひと通り説明が終わったところでドミニクが頭を抱えながら言葉を絞り出す。
「おまえら……よく生きて帰ってこれたな。素直に尊敬するぞ……」
ドミニクに話した内容を掻い摘むとこうだ。プロカルに向かう途中で二人はスタンピートに遭遇、回り込んでプロカルに危機を伝えた後、迫り来る魔物からプロカルを守りつつ発生源の山へ二人で乗り込み魔物の掃討した。その中にひときわ強い魔物が居た。話しているヴァラロス自身も途中で気付いたが、どう考えても、今ここにいることが奇跡といった内容になっている。
間違いではない。間違いではないのだが、そこには認識阻害の魔法であったり、転移紋での脱出や氷転がしがあったりとある程度の工夫があったからこそだ。それを知らないドミニクからしたら目の前の二人がどれだけ危険な目に遭ったのか計り知れないといった反応であった。
「そして、こちら側に戻ってくる際にも魔物を倒したと」
「急いだから最低限の魔物しか倒せてないけどな」
「門の前の数を最低限と言うか……」
正直、五百は下らなかったと思う。それだけの魔物がそこには居た。それを対処したディアとヴァラロスは十分規格外であった。
「ディアがおかしいのはわかるが、ヴァラロス。おまえまでそっち側とはな……」
「おい、アタシがおかしいとはどういう了見か」
ドミニクが素直な感想を述べるとディアが思わずツッコミを入れる。ヴァラロスも自分のしたことが規格外であることを理解しているのか、ただ苦笑いを浮かべる。しかし、ドミニクはそれを無視して話を続けた。
「はぁ……まぁ、そんな事はどうでもいい」
「ちょっ「それよりも、この後の対応が問題だ」
ディアが抗議しようとしたがドミニクに無視される。話題が話題であるためにディアも渋々引き下がる。このあとはディアが話す番だ。
「……昨日言ったけど、まだ終わってない。冒険者は空山からの襲撃に備えて」
「空山? プロカルじゃないのか?」
「あっちはアタシ達がどうにかする。その後空山からの魔物が出てくるはず」
ディアは得意げに昨日考えたプランを発表する。ヴァラロスも初耳であったためにディアの意図を汲み取りきれずにいた。
しかし、ドミニクは別の意味で考えている。
「……なぁ、プロカル側の魔物をどうにかした後に空山からの魔物が出てくるのか?」
「そう。だから今のうちに準備を……」
「何でそんなことわかるんだ?」
「…………」
しまった。それが素直な感想であった。昨日は色々なことがあったせいでまだ頭が完全に働いていないらしい。転移紋などドミニクには話せないことが多すぎる。
(ど、どどどどうしよう!? そうだよ。そんな事、転移紋を知らないと説明出来ないし……)
ディアは悩むフリをしている。表情を崩さなかったのは流石といえよう。ただ、内心焦っているのか無意識にヴァラロスを見る。そして、目が合ったヴァラロスは全てを察した。
◇ ◇ ◇
(こいつ……口を滑らせたな!!?)
昨日遅くに帰ってきたのは知っている。部屋が隣だから扉の音で分かる。何があったかは知らないが、きっと今回の騒動を調べていたのだろう。……きっとあの道具屋だ。ディアの事を旧知の仲と言っていた道具屋。つまりディアが魔王であることを知っている可能性がある。それはつまり、道具屋も関係者という事。
そこで結論を出したのだから間違いないだろう。正直、こう言う話は事前に話しておいてほしい。だが、今やるべき事は一つだ。
「魔物」
「っ!!?」
「魔物?」
「そう。魔物」
それっぽいことを言って誤魔化すことだ!
◇ ◇ ◇
「魔物なんてどこにもいるだろ」
「それが……いつもプロカル側の山にはいない魔物がいたんだ。そう、空山に登った時に見たやつだったな」
「ほぅ……それで?」
「ワイバーンの群れが来たことが確認できてる。きっとその影響で山から魔物が移動してきたんだと思う」
「…………」
あながち間違いではない説明にドキドキするディア。ヴァラロスも苦し紛れに話している為穴だらけの説明になってしまっている。だが、やるしかない。
「そして、今回プロカル側の魔物を討伐する時にディアなら派手にやらかす」
「…………はぁ!??」
「まぁ……やらかすだろうな」
「は、はぁぁああ!!?」
ディアが驚いていると何故かドミニクも賛同する。ヴァラロスは抗議したそうなディアを無視して話を続ける。
「それで空山に残っている魔物を刺激するだろうから準備して欲しいって事だ」
「お、おぅ…………」
「〜〜〜〜」
無理やり話を終わらせるヴァラロス。ドミニクはもはや訳がわからないといった様子であったが、何か話せない訳があるのだと察してそれ以上は聞いては来なかった。
正直、ドミニクはディアだけが主張するのであれば引き下がるつもりはなかった。正体不明で明らかにおかしい。ドミニクとタイマン張って勝てるような、こんな町娘いるわけが無い。正体を探るチャンスにもなると考えて聞いてみたのだ。しかし、その目論見は予想外のところから阻まれる。長らくギルドに貢献してきたヴァラロスもディアに協力しろと言うのだ。恐らくヴァラロスも何かを知っている。こんな見え透いた嘘で取り繕ってくるほどだ。きっと、問いただしても応えることはないだろう。ドミニクは今後のヴァラロスとの関係性を考えここは引く事にしたのだ。
一方で不本意な扱いを受けるディア。ただ、その場が丸く収まりそうであった為強く出れない。ディアとしてもヴァラロスが助けてくれたことは分かっているのだ。釈然としない表情であり頬を膨らませているがディアは黙るしかないのであった。
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