34.閃き、ゆれる心
その翌日は、朝から移動を開始してプロカルからもうひとつの冒険者ギルドがある隣町のカスースへ向けて出発した。カスースへ向かう道は山から降りて来た魔物が蔓延っており、道中も戦いながらカスース方面へと向かう。
ディアは魔力を温存する為に、門番から再度剣を借りている。その為、ヴァラロスとディアとで魔物を剣で切り伏せていた。普段から剣を使っているヴァラロスは勿論のこと、魔法をメインに使っているディアまでも流れるように魔物を倒して進む。その様子は、まるで舞踏会で優雅に踊っているかのようであった。
「いや、前から思ってたけど、普通に武器使えるのな」
一匹、また一匹と魔物を切り伏せながら話しかけるヴァラロス。普段魔法を使っているディアがここまで戦えるとは思っていなかった。ヴァラロスの言葉を受けてディアは得意げになる。
「伊達に魔王やってないからね! 魔法使えない場面なんて、たくさんあるし! ただ、体力的には、正直しんどい!」
ディアはそう言いながらもばっさばっさと魔物を倒す。ディアの持つその剣には淡い光が宿っていた。その魔力を帯びた剣はまるでバターを切るかのように魔物を切断する。よほどのことが無ければ、斬った時の衝撃はほぼない。その為、ディアとしては体力が温存できて助かっていた。だが、それでもしんどいと言うのは、普段から身体を動かしたくないと考えていたからであろう。普段と比べれば、確かに運動量は桁違いである。
そんなディアの言葉を聞き、ヴァラロスが気を遣う。
「辛くなったら言えよ? 少しくらいなら休む時間稼げるから!」
「そこは、『俺に全部任せておけ』でしょ?」
「いや、全部は無理だろ!?」
冗談を言い合いながらも次々に襲いかかる魔物を倒し進む二人。一人だと無理があっても、今、この二人ならなんでも出来る気がするのだった。
戦いながら向かっていたため移動が遅くなり、いつの間にか辺りが暗くなり始めたところでカスース側からも冒険者が魔物の討伐に来ていることが確認できた。
話を聞く限り、カスース側へ流れた魔物は冒険者ギルド指導のもと討伐されているらしい。それを聞いたヴァラロスとディアは残りの魔物はカスースの冒険者に任せることにしてプロカルへと戻ることにした。
「なんか、大丈夫だったな」
「少し心配したけど問題なさそう。カスースの冒険者は強い人が多い?」
「うーん……まぁ、ノヴィシムの冒険者ギルドよりはランクの高い冒険者が多いかな。そのまま進めば港町があるからね。海を渡って王都と行き来する人もいるから」
「王都……」
ヴァラロスの話を聞いてディアが呟く。そういえば魔王をやっておきながらヒト族の王と会話したことがない。そもそも接触する事を考えもしなかった。互いの種族の代表同士話し合いをすれば改善するだろうか。だが、よく考えれば商人たちの件もある。そんなに簡単にはいかない。ディアはそう思い直すのだった。
「ヴァルは王都に行った事は?」
「ないな。港町から出る船に乗ろうにもチケットが高いし、陸路で行こうにも遠すぎる。……まぁ、いつかは行ってみたいとは思ってるが」
「そうなんだ」
そんな他愛もない会話をしながら来た道を戻り、辺りに人がいなくなったところで予め地面に描いて用意していた転移紋でプロカル周辺へと戻る。そのまま宿に戻り食事をとり寝るまでの準備をする。現れた魔物をほとんど倒すことが出来た事から、ディアは久々になんの憂いもなく眠ることが出来たのだった。
◇ ◇ ◇
次の日、気分転換にディアとヴァラロスは自由行動することになった。ディアが町中を散策していると、大工が家の壁を修繕しているところに出くわす。ただ、その壁は何層にも重ねて作られているように見えた。
「これは何?」
職人に突然話しかけるディア。壁関係で少しでもヒントになるものがないかと声をかけたのだ。
「ん? あぁ英雄さんじゃないですか。こんなものに興味がおありで? これは熱を少しでも中に伝えないようにする工夫ですね。間にひとつ空気を多く含むような板を入れて、外からの温度が少しでも伝わりにくくしてるんです。……と言っても気休めかもしれませんがね。先代がそうしてたんで真似してるだけです」
そう言って笑う職人。町の住人からはすっかり英雄として有名になってしまったようだ。
職人の話を聞いて、ディアは理由もわからず真似していいのかと思う一方、ディアの頭の中にあるアイディアが浮かぶ。
(壁の中に別の素材……! なるほど! あれを使えば……どうにかなるかも!)
「おじさん!」
「お? なんだい?」
「ありがとう!」
満面の笑みで礼を言うディア。職人は急にお礼を言われきょとんとしたがすぐ笑いながらその笑顔に答える。
「こちらこそ、みんなの家が無事なのは英雄さん方のおかげです。本当にありがとうございます」
お礼を言い合い別れるディア。そんなところにヴァラロスが現れた。
「お、ディア。……なんかご機嫌だな」
「あ、ヴァル! やっと解決策が見つかったんだ!」
「解決策って……魔物からどうやって村を守るかってやつか?」
「そう!」
これでプルートに怒られないで済むとディアは喜んだ。無断で居なくなった事を怒られるなど考えもつかないかのように無邪気に喜ぶ。
その様子を見ていたヴァラロスは微笑ましくみている。
「具体的にどうやるんだ?」
「この前、ヴァルにお願いして紙にヒールしてもらったでしょ」
「あぁ、あれか。ん? あれでどうするんだ?」
「あの紙みたいなものに認識阻害の魔法をかけて、そして村の壁に混ぜ込めば……」
「なるほど。村の存在を知っているものしか辿り着けないってことか」
「そういうこと。壁全体に混ぜ込めば、たとえ薄く散りばめたとしても十分に魔力を蓄えられる」
自信満々に説明するディア。これで、ヒト族の領地にまで来た甲斐があったというものだ。
つまり、これでディアの用事は完全に済んだ事になる。
「あとは、村の壁を作れば目的達成だけど、アタシの次はヴァルの番だね」
「ありがとう」
うきうきするディアの言葉に素直に礼を言うヴァラロス。ただ、その表情は少し寂しげであった。ディアはその事には気づかない。
「じゃあ、ノヴィシムに戻ろうか。空山で材料の魔法石も集めたいし」
「だな、今から行くとまた夜になるから、明日出発か?」
「一応、ノヴィシム側の山の麓に転移紋の石を落としておいたからすぐに帰れるけど」
「なんか、用意周到だな……」
「できるだけ手段は用意しておきたいから。たかが移動でもね」
ディアの用意周到さは魔王としての職務を全うするためには必要な能力である。ひとつ準備していないだけで仲間が犠牲になる。そんな事が簡単に起きてしまう。だからこそ気がついた時に出来るだけの準備はするのだ。
「さすが魔王だな」
「ち、ちょっと! 町中でいわないでよ!」
ディアが慌ててヴァラロスに耳打ちする。近くに人などいないが、万が一バレた時を考えると気が気ではなかった。
そもそも転移紋の話をしている時点で聞かれてはまずいと思うヴァラロスだったが、周りに人がいない事を確認済みであった為気にしない事にしていた。
「悪い悪い。でも、それを理由にディアと敵対する奴がいたら、俺が説得するから」
「説得でどうにかなればいいけど」
「説得出来なかったらそれこそ逃げるか。他のみんなが敵だとしても、どんな事があっても俺はディアの味方をするからな」
「………………なに恥ずかしいこと言ってるんだか」
急な不意打ちに顔を逸らすディア。その顔は真っ赤になっていた。やり返された。そう思ったものの、今までこんな扱いは受けた事がない。魔王である為、敵が多かった。もちろん信頼できる部下はいたが、あくまで部下であり対等な関係とは少し違う。
それが、少し気になり始めているヴァラロスからの言葉であった為に余計に嬉しく、そして恥ずかしくなってしまったのだ。その証拠に逸らした顔の口元がニヤけている。
ちょっとくさいことを言った自覚のあるヴァラロスはディアが顔を背けた事にちょっと失敗したかと勘違いをする。先程の会話に戻ろうと話題を戻すのであった。
「まぁ、なんにせよ明日でいいんじゃないか? 麓からノヴィシムに行くにしても馬車はあそこにはないだろう。歩いてノヴィシムまで行くとなると丸一日かかるだろ」
「……まぁ、そうか。うん、明日にする」
ヴァラロスの提案にディアが賛成する。その後は二人で再度町を巡るのだが、楽しそうに笑うディアの顔はずっとほんのり赤く見えた。
そんな二人がその時を満喫する中、ノヴィシムがどんな状況にあるのかを二人は想像すら出来ないのであった。
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