表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/72

33.理解、そして真実の笑い

 歴史上で御伽噺のように語り継がれてきた存在。それが勇者と魔王。魔王は人類の敵であり、人類を滅ぼすために魔物を使役する。それがヒト族の常識だった。

 だからこそ信じられなかった。目の前にいる華奢な女性が、思いやりがあり、見ず知らずの町の人の為に危険を冒すことのできる彼女が人類の敵、その象徴であるなど。


 ディアの言葉を聞きヴァラロスは固まった。理解できないのではない。理解したくないのだ。そんなヴァラロスの様子を見たディアは少し悲しそうな表情を浮かべる。ディアは理解しているのだヒト族にとって魔族がどんな物であるかを。いつの時代でもヒト族は魔族を目の敵にしている。出会えば戦争となるだろう。だからこそ容易に接触ができない空山の向こう側が今の領地となっている。ヴァラロスにディアが魔族であることがバレた。それだけでも胸が締め付けられる想いをしたのに魔王であることを伝えた時のヴァラロスの反応はどうだろうか。驚いて声も出せないではないか。ヴァラロスが急に剣を持って切りかかってきても不思議ではない。それだけ魔王という物はヒト族にとって絶対悪であることをディアは理解していた。だからこそ、ヴァラロスとの関係が終わりを迎えたと思った。そう思い悲しくなったのだ。しかし、今は悲しみに暮れるところではない。ヴァラロスに説明を続けなければならない。ディアは悲しみを堪えて話を続ける。


「騙しててごめん。でも、今まで話してたことは全部本当。空山の向こう側、魔族が住む村でも魔物の被害が増えてる。だから、それをどうにかしたくて、何かヒントになればいいなと思ってここにきたの」

「ぇ……」


 ディアの言葉にヴァラロスの驚きの声が漏れる。今なんて言ったのか?魔族の村で魔物の被害が出ている?なぜ?魔物は魔族が使役する物ではないのか?今まで常識と思っていたことに疑問が生まれる。何が正しいのか?ヒト族として魔物や魔族は敵であり撲滅するべき対象。だから魔物を討伐することは正義であり、魔族に対してもそのはずであった。しかし、ヴァラロスの中の正義が揺らいだ。だからこそヴァラロスの頭は回転を始め、知りたいと強く思い始めた。


「……教えてくれ。魔族ってなんだ? 魔族にとって魔物ってなんだ? そして……魔族にとってヒト族ってなんなんだ?」

「っ!」


 それは小さな心の変化であった。しかし、互いに本当の意味で分かり合うためには十分すぎる変化である。

 ディアもヴァラロスの反応に驚いた。そして最初に曇らせた表情はもうそこにはなかった。


 ディアはヴァラロスが疑問に思ったことを答えた。魔族には寿命がないこと。子供が産まれにくいこと。その割に病気や魔物に襲われるなどして簡単に命を落とすこと。ヒト族と対して大して変わらないのだと。

 魔物についても答える。もともとは普通の動物であること。動物が魔力に当てられてしまうと魔物になること。そして、魔族が魔物を使役しているわけではない事を。一部魔物は家畜として育てる事は可能だ。しかし、それは家畜であり使役とは異なる。魔王の配下の魔物はただ意思疎通ができ、自分の意思で魔王の配下になっている。ヒト族の考えるように、魔物を操るようなことは出来ない。


「だから、村が襲われてるのをなんとかしたくて来たってわけか……」


 ヴァラロスがディアの話を聞いて少しだけ納得したような素振りを見せる。魔物が使役できないのであればただの脅威でしかない。全ての話を鵜呑みにして良いのかという問題はあるが、ディアに限って嘘をつくとは思えない。魔力が尽きかけて数日寝込んでいる姿も見ている。それこそヒト族が考えているような魔王像とはかけ離れたものであった。


 ヴァラロスがある程度納得できたところでディアが話を続ける。それは、ヴァラロスにとって、とても重要な問いである。


「それで、魔族にとってヒト族ってなんだ?」

「ヒト族は……厄介な隣人?」

「……へ? なんだそれ?」


 ディアの言葉に気が抜けるヴァラロス。それもそうである。ヒト族にとって魔族は絶対悪であり、明確な敵である。その敵が隣人と言うのだ。あまりの意識の差に身構えていた事がバカらしくなる。


「そのままの意味だよ。こっちとしては仲良くしたいのに、変に突っかかってくるから、一部の魔族からの印象も最悪。でも、積極的に敵対しようって人はいない」

「それは、なんでだ?」


 純粋に疑問に思ったことを質問する。敵対して欲しいと思うわけではないが、普通そこまで迷惑してるなら敵対しようと思う人も出てくるはずだ。だが、そうはしないらしい。現に魔族との争いは起きていない。ヒト族が勝手に魔物の襲撃を魔族の所為にしているだけだ。

 しかし、ヴァラロスの質問にディアは簡潔に答えた。


「何もいいことがないから」

「……? どういうことだ?」


 ディアの言葉が簡潔すぎて分からずヴァラロスは質問をする。それを分かっていたのか、ディアは話を続けた。


「もし、敵対するような事があれば、きっとヒト族と魔族との戦争になる。そうなったら戦いを望まない人も巻き込まれてしまう。それに、魔族は寿命がないし子供も生まれにくい。わざわざ死ぬようなリスクを負ってまで敵対しようなんて誰も思わない。それならこのまま穏便に過ごしたいと思うのが魔族側の想い。……正直、寿命がないから良くも悪くも隣人との関係を大事にするから、争い事は起こさないようにみんな気をつけてる。……例えそれが一方的に悪役にされることでもね」

「!?」


 ヴァラロスに衝撃が走った。今まで正義と信じていた事が全くの出鱈目であり、むしろ話を聞く限り悪いのはヒト族の方である。どうして今まで誰も疑問に思わなかったのだろうと考えたがすぐに理解した。


「……なるほど。誰も本当の魔族を知らないから、か」

「正解」


 何が正解なのか。言わなくてもディアはヴァラロスの言わんとする事が分かった。だからその回答であった。


「ヒト族は魔族が悪きものだと信じ込んでいる。だけど、魔族はそれを積極的に否定しようとしない。……そもそも姿を表せば殺されちゃうから普通は出て行かない。だから誰も何も知らないまま……何もしないまま今の状態になってる」

「じ、じゃあ! 俺がみんなに教えればいいんじゃないか? 魔族は実は怖くない。実は優しい種族なんだって」


 ヴァラロスの言葉にディアは首を振る。その顔は少し嬉しくもあり、寂しくもあった。


「それはダメだよ。ヴァラロスが孤立しちゃう。……それに、聞いた事ない? 魔族に協力すると異端者とか反逆罪で処刑されるとか」

「あ、あんなのただの噂だろ……。実際に魔族と交流のあるやつなんて……」

「いたの。過去に確かにいた。空山の地下洞窟に潜って魔族領に到達した商人がちらほら出てくるんだけど、みんなヴァラロスと同じ事を言ってくれた。ヒト族を説得してみせるって。だけど、それから誰ひとりとして二度と来てくれなかった。噂で魔族に洗脳された人を処刑したって話が出てきて、多分その商人たちのことだと思う」

「そんな……」


 言葉を失うヴァラロス。自分がそうなる事を想像したようだ。しかし、それは長くは続かなかった。


「でも、過去に何人かはどうにかしようとしたんだよな? これからまたそういった人が増えて、協力したら無視できなくなるんじゃないか? 数が多くなれば暴力は悪手になる。知らなかった国民も不審に思って知ろうとする。そうなれば少しずつでも改善すると思うんだ」

「あんたね……」


 呆れて言葉が続かないディア。額に手を当て俯くその顔はヴァラロスからは見えない。だが、その顔はとても嬉しそうであった。どこまでも前向きで、魔族とヒト族の共存を本気で考えてくれている。そんなヴァラロスのことをディアはとても好ましく思った。しかし、だからこそディアも引くわけにはいかない。


「もし、そんなことが出来たとしても、発起人のヴァルはただでは済まないはず。だから辞めてほしい。……ヴァルには生きていてほしいから」

「っ!?」


 不意打ちだった。いつもからかわれるのとはベクトルが違う。本心からの言葉。そう分かったヴァラロスはディアの言葉に驚き、戸惑ってしまった。


「ま、まぁ、俺がもっと強くなって、闇討ちもできないくらいになれば安心だろ」

「……ふふ。氷の塊で叫んでる人が何を言うのやら」

「なにおぅ!?」


 部屋に笑い声が響く。それはとても平和な、魔族とヒト族の歩み寄りの大切な瞬間だった。

第四章完です。ここまで読んでいただきありがとうございます!次はとうとう最終章。最後まで読んでいただけると嬉しいです!評価・ブックマークいただけると喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ