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32.二人の機転と、ディアの告白

「あれ?」

「どうかしたか? もうすぐ次の氷が来るぞ?」

「ちょ、ちょっと待って」


 ディアが地面に描かれた転移紋を手直しする。そして魔力を込めてみるが転移紋が光ることはなかった。


「……山頂の転移紋壊れたっぽい」

「……なに?」


 お互い顔を見合わせる二人。ひと呼吸遅れてヴァラロスが慌て出す。


「まてまてまてまて!? あれどうするんだ!? はっ! さっきまでのは想定通りだったなら止める方法も考えてるはずだよな!?」


 ちゃんと考えてるんだろうなとディアを問い詰めるヴァラロス。しかし、ディアは冷や汗をかきながらこちらも焦っていた。


「待って待って! 今考えてる! 最初は少しずつ溶かそうと思ってたけどそうは出来ないから……」

「わあああああ! もうすぐ来る! はやく! 氷の球を反射させるとかなんとかできないのか!?」

「あんな巨大なもの反射なんて出来ないでしょ!?」

「だよな!? くそっ! せめて軌道を逸らすことができれば……」

「軌道を逸らす……反射……っ! ヴァル! 剣かして!」

 

 ディアはそのヴァラロスの言葉で閃いた。そうだ、恐らくこれなら簡単に出来る。ディアは急いでヴァラロスから剣を奪い、横に少し離れた地面に転移紋を描き始めた。その転移紋はもともと描かれていたものを上下()に描いたものである。

 気付けば氷の球の直線上にいたヴァラロスもディアのそばに来ていた。


「おい! きたぞ!」

「わかってる! お願い!……これで、動いて!!」


 プロカルの町に迫る氷塊を前にディアが転移紋へ魔力を込める。すると、先程まで何も反応がなかった転移紋に光が宿る。次の瞬間目の前に迫っていた氷の球が転移紋前で忽然と消え、ディア達の目の前に現れる。すると、ディア達から離れ、勢いをそのままに山の方へと転がって行った。


「……転移紋って、向き、関係あったんだ……」

「お、お、お……おおおお!」


 ディアはいつも転移紋を使った時にどちらを向いていたかを思い出した。普段、部下のプルートが転移紋を置く時に上を向いた方が正面を向いていたような気がしていたのだ。ディアは転移紋を数えるくらいしか描いておらず、普段は転移紋の描かれた石を放り投げていた為、その向きに無頓着であった。ヴァラロスの一言で向きが関係するのではと閃いたのだった。


 一難去りその場に立ち尽くすディアとヴァラロス。いつまでも惚けてるわけにはいかない。


「……はっ! ほら、まだ魔物残ってるでしょ。まずは山の方に行こう?」

「あ、あぁ。そうだな……わるい」


 ヴァラロスはディアから剣を受け取り歩き始める。しばらくその場で立っていただけのはずなのにその顔はどっと疲れていた。





     ◇ ◇ ◇




 その後に山に入ったが、ほとんどは魔物の亡骸が道を埋め尽くしていた。流石にそのままにして去るのは物理面でも精神面でも衛生的に良くない。ディアは魔物の亡骸を燃やしながら登ることに決めた。勿論、帰りは転移紋ですぐに戻れるようにしてある。念には念をと、違う模様の転移紋を少し離れた位置にもうひとつ用意する徹底っぷりである。

 途中、倒し損ねた魔物もチラホラみられたが、ヴァラロスは自分の出番とばかりに頑張っていた。……もっとも、魔物が現れた時に露骨に嫌そうな表情をディアが向けてきた為、ヴァラロスに選択権はなかったわけだが。今までの行動を振り返ると、ヴァラロスはほぼ付いてきて叫んでいただけだ。流石のヴァラロスもこれには罪悪感を覚えていた。


 そんなこんなしているうちに転移紋が描かれていた岩のところへ到着した。辺りを見回すとすっかり暗くなっている。


「結構かかったな」

「まぁ、道中ずっと火葬しながらだったからね。あのまま放置は衛生的に良くない……」

「まぁ、あんなんの上を歩くのは気分良くないわな」


 とりあえずひと通りの仕事はしただろう。そう考えたディアとヴァラロスは町へと戻ることにした。その際に山のふもとの転移紋は忘れないように消しておく。放置するといつ事故が起きるか分かったものではない。



     ◇ ◇ ◇



「おぉ……おふたりとも、ご無事でしたか……」


 町の中に入ると町長が待ち構えていた。


「正直、何回も、もうダメだと思ったけど……なんとか」

「……まぁ、ね」


 みなまで語るまい。疲れた様子のふたりを見て感謝の意を表す町長。それは山を見ればよく分かることであった。


「山道が赤く輝いていますが、あれはお二人が?」

「あ、はい。魔物を倒したはいいものの、酷い有様だったんで燃やしてました」

「なんと、後処理までありがとうございます」


 実際は放置するのは気が引けたからだが、実際にやったんだから変なことは言わないようにする。

 その後綺麗に直線上に燃えている火が他に燃え移らないか心配になったが、ディアが言うに制御しているからその心配はないとのことだった。山の下の方はすでに火が消えており、確かに延焼の心配はなさそうである。

 

 その後、ヴァラロスが代表して町長に今日は休みたいと話したため、その日はすぐに解放されることとなった。



「ぷはぁ〜〜! ありがとヴァル。もう動けない……」

「当然のようにベッドに倒れ込んだが、ここ俺の部屋だからな? ちゃんと自分の部屋に行きなさい」


 何故かヴァラロスの部屋についてきたディアはヴァラロスのベッドに倒れ込む。もう一歩も動きたくないという意志を感じた。

 それでも邪魔だと言わんばかりにヴァラロスは自分の部屋に行くように促す。


「うーん……もう少し休みたかったのに……」

「自分の部屋で休めよ……」

「休む前に食事に行きたいけど……よっと。……話せるうちに話しておきたい」

「……例の件か?」

「そう」


 ディアがベッドの上で姿勢を正すと真面目な表情でヴァラロスに向き合う。それを見たヴァラロスは茶化すことはせず、近くの椅子に座り話を聞くことにした。


「まず……。アタシの事なんだけど……」


 話始めようとしたディアだったが、いざ話そうとすると勇気が出ない。正体を知られるのが怖いわけではない。それはディアの中で意志を固めた事だ。だが後一歩が踏み出せない。それは何故か?ディアの中で恐れているもの。それがこの場になってはっきりと分かったのだ。


「……あ、アタシ……実は……」


 それでも頑張って伝えようとするディア。よく見るとその身体は少し震えているようにも見える。葛藤している様子が見て取れた。

 すると、突然ヴァラロスが話しかける。


「なぁ、ディア」

「な、なに……?」

「……お前、魔族だろ」

「……………ぇ?」


 突きつけられた言葉はディアを狼狽させるのに十分だった。その為か、問いかける彼の瞳の奥にある感情を読み取ることは出来なかった。


「…………は、はぁぁああああ!? え、いつから!? っていうか、なんで??……いや、そうなんだけどさ……」


 急に言葉が尻萎みになるディア。驚き声を上げてしまったが、魔族であることがバレており、それを黙っていてくれたヴァラロスに申し訳なく思ったからだ。

 すぐしおらしくなったディアを見てヴァラロスはいつもの仕返しとばかりにイタズラ顔で話す。


「はっきり分かったのは向こうの山でスタンピートを見た時だな。きっかけはディアの昇級試験の時。あの時全力でヒールした時に一瞬耳が見えた気がしたんだ」

「あぁ……あの時かぁ……」


 ディアがしまったと手を頭にあて天を仰ぐ。確かにギリギリまで生命力を使った。でも、認識阻害の魔法が切れるとは思わなかったのだ。


「それに、考えてもみろ。ノヴィシムはプロカルしか隣接する町はない。ノヴィシムにいたのにプロカルに行った事がないっておかしいだろ?」

「…………ぁ」


 盲点。ディアはそこまで考えていなかった。ちょっと町をどう守っているのか確認するくらいのつもりであったため、考えが及ばなかったのだ。ディアがポカンとしているのをいいことに、ヴァラロスは推理を続ける。


「じゃあ、どこからきたのかと言われたら空山の向こう。魔族が住むって噂があるところしかない。実際そんな尖った耳は噂でしか聞いた事なかったからな。認識阻害の魔法について聞いた時、もしかしてと思ったらもう尖った耳が見えてた」

「ぅ……」


 詳しく説明しようとして墓穴を掘っていたことに気づき恥ずかしくなるディア。バレていないと思い込んで今までどんな事を話しただろうか。何か変なことは言ってなかっただろうか。ディアの頭の中はそんな考えでいっぱいになっていた。

 しかし、ふとディアの中に疑問が生まれる。それは至極真っ当な疑問であった。


「え? 待って、それじゃあ私が魔族だって知ってたのに転移紋の事を問いたださなかったの?」

「そうだな。ついでに、あの猿の魔物も何か知ってるだろ?」

「うっ……」


 バレてた。プルートの名前を出しただけだったから有耶無耶に出来るかと思っていたがそんな甘くはないようだ。魔族であり、襲撃していた魔物のことを知っていて転移紋まで知ってる。そんな怪しさ満点、いや、このタイミングに現れるとなると確定で黒と言われても仕方がない状況にも関わらず、彼の様子を見ると疑っているようには見えない。ただ、今まで隠し事をしていた子供を諭すような態度である。

 そんなヴァラロスの様子を見て不思議に思いながらも、ディアはディアなりに誠意をもって応えることに決めた。


「……うん。知ってる。アレは部下の予備体。予備体っていうのは、部下の魂? 意識? を移し替える先の入れ物みたいな物で……」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……」


 説明し始めたディアにヴァラロスがこめかみに指を当てながら言われたことを整理しようと試みる。だが、当然ヴァラロスの理解の範疇を超えていた。いきなり魔物が部下とか魂の入れ物とか言われても到底理解出来るはずがなかった。


「ディア」

「な、なに……?」


 ヴァラロスの真面目な表情にディアがビクッとする。先ほどから時折追い詰められた小動物のような表情をするディア。そんなディアをみてヴァラロスは本来抱くべきはずの警戒心が全くといっていいほど生まれない。


「はぁ……。ディアは何者なんだ?」


 ヴァラロスが苦し紛れに出した質問。だが、全てを理解するためにはこれ以上ないほどの適切な質問。そして、ディアは何も隠すことなくそれに応える。


「アタシは……この時代の魔王だよ」

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